かたあしの母すずめ/榁鳩十・作 大島妙子・絵/理論社/2018年
”わたし”の家のかやぶきのひさしに、すずめが 巣を作っていました。
毎日眺めているうちに、下宿人の区別がつくようになりました。西のはしに住んでいるすずめは、ひとめで わかりました。それは一本足だったからです。
ある日、いつものように、かたあしさんの巣をのぞいてみると、中には小指くらいの小さな卵が一つ。ところが次の日の夕方、黒っぽいものが穴からはいだしてきました。割合に体の細いくろずんだ蛇でした。うつくしいたまごは、影も形もありませんでした。
やがて、かたあしすずめが かえってきますが、穴の入り口から身をひるがえして、屋根も上にまい上がり、首をかしげて たっていました。
三日目の朝、かたあしすずめは、空き家の煙突に巣をつくりました。日に十度も二十度も煙突にではいりしています。
ところが、空き家に新しい人がうつってきて、そこから煙が。けむりに巻かれて煙突からとびだしたかたあしすずめは、そのまま高く高く飛びあがり、夕べの空に消えて行ってしまいます。
それだけではおわりません。二、三日、みえなかったかたあしすずめが、戸袋とひさしの隙間からかわいらしい頭をのぞかせていました。また新しく巣を作りつくりはじめていたのです。今度は三つのたまご。
やがてひながかえり、ひなたちはジュクジュクジュクと、さわぎたてながら、お母さんにえさを ねだっています。
ある朝、けたたましいすずめの声で、外に出てみると、あの黒い蛇が また かま首を もたげていたのでした。
こんどは、蛇の匂いをかいだだけでふるえあがるような かたあしすずめではありませんでした。火の玉となって、蛇の頭めがけて、全身を ぶっつけます。かたあしすずめは戦い続けます。
このシーンは圧巻です。
かなしみが なんどもおとずれようと、最後に蛇に立ち向かう母親の強さをえがいていて、思わずジーンとします。
書かれたのが昭和16年。この前から中国大陸では戦争がつづいていましたが、このあと日本はもっと大規模な戦争になだれこんでいきます。