パン屋のネコ/しずくの首飾り/ジョーン・エイキン・作 猪熊葉子・訳/岩波少年文庫/2019年
ふたつの山の間にある谷底の小さい町で、今日も朝早くから食パンや菓子パン、ジャムのパイにケーキをやいていたパン屋さんのジョーンズさん。
モグというネコといっしょにすんでいましたが、パン作りのためには、ネコはちょっとじゃま。
モグは、どしゃぶりの雨のなか、川で魚をさがしました。魚はみつからず、びしょぬれ。何度もくしゃみをするモグのために、ジョーンズさんはタオルでモグをふいてやり、イーストを入れたあたたかいミルクをのませました。
パイをかまどに入れてジョーンズさんは買い物にでかけました。
その間に、イーストはねむっているモグをふくらませはじめます。ヒツジの大きさから、ロバ、馬、次にはカバぐらいの大きさになりました。
台所に入りきれなくなって、ドアから出るには大きすぎました。
買い物袋をさげもどってきたジョーンズさんが「これは にゃん としたことだい?」と、おどろいていると、ひるねから目をさましたネコのモグが、せのびをすると家が、がらがらとこわれてしまいました。
ジョ-ンズさんは、町役場にすまわせてもらうことになりました。
「はらをへらしたらどうなるね? あいつはなにをたべるかな? だれかの上にすわっちまったらどうなるかね?」と心配した町長さんは、町の外でくらしたほうがいいといい、みんなも「そうだ、そうだ、おいだせ!おいだせ!」とさけびました。
モグはやさしいネコで、だれにもけがなんかさせやしませんよというジョーンズさんでしたが、モグは町の門からおいだされてしまいました。
モグはふたつの山の間にある谷を歩いていきました。そのころにはモグはもうクジラほどのおおきさになっていました。
モグは川の魚をさがし、たくさんの魚を見つけます。そのとき、谷に大きな水音がうなり、大きな水の壁が近づいてきます。あまりの雨に、山から水がたくさん川に流れ込んできたのです。
水をとめないと、魚がみんな流れると、モグは谷のまんなかに丸くなってすわりこみました。
川の水が町に流れ込んで、みんなおぼれてしまうと心配した町の人が、あわてて山にのぼります。
山からは、モグが谷のまんなかにすわりこんで、その向こう側に、大きな湖ができているのがみえました。
谷にダムをつくるまで、モグにすわってもらおうと、町中の人が交代でモグのあごの下を三日間くすぐり、その間に、腕利きの職人が谷におおきなダムをきずきました。
モグのおかげで町はすくわれました。おいしい食べ物をモグのところへ運びますが、モグはたくさんの魚をたべて、おなかはすいていませんでした。
「モグ、われらの町をまもる」とかいた銀のくさりのバッチを首にかけるようになったモグは町役場でジョーンズさんと幸せにくらします。
モグのしっぽは、家々の屋根の上につきでて、ひげは2階の窓をこすって、かたかたいわせますが、人々はモグがわるいことをしない、やさしいネコとしっていました。
結局もとにもどることのなかったモグですが、大きくても小さくてもきわめてマイペース。
大きくなったネコがダムの役割を果たすというのも、説得力があります。
イーストいりのミルクが、大きさの原因というのは、作者のパン作りがヒントになったのでしょうか。