世紀がかわるころ、一軒の住宅の建設に没頭していました。それは両親のための家でした。
両親が祖父母から受け継いだ土地には、半世紀にわたって建つ家がありました。
古い家で過ごした時間。
遠い記憶。
身近な想い出。
これから。
老朽化した家を建て替えるにあたり、過去のすべてを消し去ってしまうのではなく、新しい生活の時間と共に等価なものとして扱いたい。そんなようなことを漠然を考えながら、新しい家の設計に思いを馳せ始めたのは、僕がまだ建築科の学生の頃でした。
東京・自由が丘に敷地があることから「自由が丘の家」と名付けられたこの住宅は、竣工してから、すでに5年という月日が経っています。この住宅の設計を始めた頃はまだ成人するかしないかだった僕は三十路を過ぎ、その一室で日々設計活動を続けています。
「自由が丘の家」と題したこの断章では、一軒の住宅が建つ前のこと、そして建った後のこと、そのなかに流れてきた時間のことを、古今をいったりきたりしながら綴っていきたいと思っています。