建築に写真はつきものです。本来は実際に建物を訪れることによって、そこにある雰囲気がようやく感ぜられるものだとは思います。が、なかなかそういうわけにはいかない。そこで写真に撮って紹介することになります。
このブログでも、写真をつかっていろいろなものを伝えたいと思い、これまで撮りためてきた写真を整理していると、やはりひとつの疑問が湧いてきます。
その場の雰囲気が伝わる写真とは何か。
姿かたちを紹介しようとすれば、なるべく広い範囲が一枚の画面におさまっているほうがわかりやすい。が、僕にはこれはどうもしっくりきませんでした。できあがった写真を見ると、どうもよそよそしいのです。それは、カメラの力を利用して無理に広い範囲を撮るので、実際の距離感やスケール感から逸脱してしまうからかもしれません。
少なくとも、住宅という最も人間に身近な環境を映すのに、これでは意味がないと思うことがあります。
そこで僕は、いわゆる「標準レンズ」と呼ばれるものをつかって建築の写真を撮ることにしています。このレンズは、人間の目の距離感と近似していて、つまり、目の前にある光景の雰囲気をもっとも忠実に再現するものなのです。その代わり、建物の空間全体の姿かたちを撮るには、あまりにも画面の範囲がせまい。あくまで建築写真としては不適切なのです。
それでも、僕はそれでいいと思っています。目の前にある雰囲気をきちんと映し込むこと。そしてそれが素晴らしいものであること。たとえ全体のかたちがわからずとも、その限られた断片のなかに、場所の雰囲気の質は切々と宿ると考えているからです。