桜坂の家ができてから、道行く人からは、「茶室がある家だ」と噂が流れていたようです。道から垣間見える、左官壁に開けられた濡れ縁が、茶室のにじり口のようなイメージで見えるから、という話も聞きました。
桜坂界隈は、古色ある魅力的な雰囲気をもっています。街並みを覆う建物の多くは現代住宅に建て変わり、新建材を多用した外観が多いので、昔ながらの光景がひろがっているというわけではありません。それでも不思議なもので、ずっと昔から流れてきた時間の厚みが、なにかこう、体の奥深いところで直感的に感得できるような気がします。それは僕自身だけの気持ちであるというよりも、この場所に訪れた多くの人が、同じような感想をもつようです。
そんな街並みの雰囲気が生活のなかでも感ぜられるように、この住宅は、街との距離感を慎重に図りながら設計されました。濡れ縁は、道路のそばに位置していながら、少し囲い込まれた配置と、植栽によって、街と近からず遠からずの落ち着いた場所になりました。