
前回に引き続き神奈川県湯河原温泉を巡ります。
今度は千歳川を遡って温泉街へと入り、特に温泉街の中でも老舗が集まる細い路地へ入り込んでみました。今回お邪魔したのは、その路地の最奥にある「源泉上野屋」です。今回は日帰り入浴で利用しました。


創業300年以上という湯河原きっての老舗旅館。なんと徳川光圀も訪れたことがあるんだそうです。
まず訪問者を出迎える昭和11年建築の玄関棟が実に美しく、私はこの唐破風の前で、まるで黄門さまの印籠を見せつけられた悪人の如く、しばし立ち尽くして見惚れてしまいました。なお、この玄関棟につながる本館は昭和5年築。傾斜地形に合わせる感じで建てられた4階層の建築なんだとか。

この他大正12年築の別館と合わせて、大正から昭和にかけて建てられたこれらの総木造の建物は、国に有形文化財に登録されています。

さて、こちらのお宿には貸切露天風呂など複数のお風呂があるのですが、日帰り入浴で利用できるのは1階の内湯のみ。受付開始の午後2時に合わせて日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。帳場の斜め前に暖簾が下げられています。内湯は「六瓢の湯」と名付けられており、「檜風呂」と「御影石風呂」の2室があります。訪問時は「檜風呂」に男湯の暖簾が掛かっていましたので、ここから先は「檜風呂」に関して述べてまいります。なお男女入れ替え制ですから、宿泊すれば両方に入れますよ。

和室然とした脱衣室はコンパクトですが、綺麗にお手入れされており、ドライヤーやアメニティなども備え付けられているので、大人数で押し寄せなければ気持ち良く使えるはず。また扇風機も取り付けられていますから、湯上がり後にはクールダウンも可能です。

内湯もあまり風呂敷を拡げることなく、温泉浴場の要素を凝縮したようなコンパクトな造りです。後述するように自家源泉を完全掛け流しで浴槽へ供給しているため、そのお湯の良さが損なわれないサイズとしてこの浴室の大きさが考えられたのではないかと思われます。

洗い場にはシャワー付きカランが3つあり、アメニティもそろっています。

内湯の浴槽は1つのみ。浴槽の大きさは(目測で)1.8m×3.6mでしょうか。「檜風呂」という名前の通り、縁には檜材が用いられている一方、浴槽内部は丸い豆タイルが用いられています。余計な装置や装飾など一切設けられていませんから、シンプルながら重厚感と温かみを兼ね備えた四角形の浴槽で、湯あみ客は自家源泉100%掛け流しのお湯と正面からじっくり対峙するわけです。
上画像を見るとわかりますが、浴槽向かって左側には湯口が2つあり・・・

窓側は「源泉 冷し湯」。その名の通り、40℃前半まで冷まされた源泉が石の樋を流れて出てきます。コップが置かれていたので飲泉してみますと、まず石膏臭と芒硝臭がコップの中でふんわり香り、その後甘い塩味と石膏味、そして芒硝味がしっかり合わさって舌に伝わってきました。

一方、手前側は源泉そのままのお湯が、石の瓢箪から注がれています。分析表によれば源泉の湧出温度は80℃以上もありますから、そのお湯がストレートに出ているこの湯口のお湯は激熱。直に触ると火傷するかも。なお湯口の形状に関しては上述のように内湯は「六瓢(むびょう)の湯」と称されていますから、その瓢箪を湯口に採用したのでしょう。なぜ六瓢なのかといえば、瓢箪は縁起物であり、かつ「六瓢」と書けば無病に通じるからなんだそうです。
瓢箪のまわりには硫酸塩の白い析出がビッシリ且つコンモリとこびりついており、温泉マニアとしてはその様子を目にするだけでも興奮間違いなし。お湯の見た目は無色透明で一見クセが無さそうですが、この迫力ある析出がすべてを物語っています。すなわち硫酸塩泉ならではのパワーがすごいのです。肩まで湯船に浸かると、ツルツルにトロトロが混在したような滑らか系が優勢な浴感が肌に伝わり、その後に硫酸塩泉的なキシキシ浴感も遅れて感じられるのですが、基本的にはツルツルが優勢。これはpH8.5というアルカリ性に傾いている特徴がもたらす感覚でしょう。滑らかな浴感だからといって迂闊に長湯すると、硫酸塩泉ならではの温浴効果がいかんなく発揮され、体が十分すぎるほど良く温まり、そしてポカポカ火照ります。こちらのお宿の隣にある「ままねの湯」は熱い湯船だから強烈に火照るのですが、こちらは適温にもかかわらず火照るわけですから、これぞ温泉の力以外何ものでもありません。大変パワフルなお湯です。
なお湯使いに関しては既に申し上げているように自家源泉の掛け流しであり、湧出温度がとても高い為、お湯張り時のみ最低限の加水をしているほかは、循環消毒など一切なし。私の入浴時、湯口から落とされるお湯の量は一定せずに増減を繰り返していたのですが、もしかしたら浴槽の水位によって供給量を調整しているのかもしれません。もちろん湯温の調整が目的かと思われますが、湧出量が毎分64リットルと限られているため、その範囲内で掛け流しを実践するための工夫なのかもしれません。
趣きあるお風呂で、鮮度抜群の極上なお湯に浸かれる幸せ。日帰り入浴だけでは却って欲求不満になってしまうかも。一度宿泊してじっくりと堪能したい、実に素晴らしいお湯でした。
台帳番号 湯河原第22号
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 81.5℃ pH8.5 64L/min(動力揚湯・掘削深度363m) 溶存物質1.832g/kg 成分総計1.832g/kg
Na+:425mg(69.54mval%), Ca++:148mg(27.78mval%),
Cl-:582mg(60.34mval%), Br-:1.74mg, SO4--:458mg(35.06mval%), HCO3-:61.6mg,
H2SiO3:114mg, HBO2:9.54mg,
(平成30年11月13日)
加水あり(湯温調整の為、湯張り時のみ最低限の加水)
加温・循環・消毒なし
神奈川県足柄下郡湯河原町宮上61
0465-62-2155
ホームページ
日帰り入浴1000円
14:00~
ロッカー見当たらず(貴重品帳場預かり?)、シャンプー類。ドライヤーあり
私の好み:★★★