温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

伊東温泉 山喜旅館

2015年10月31日 | 静岡県
 
県道12号線の角から海浜の方へ向かった路地沿いにある、老舗旅館「山喜旅館」で日帰り入浴してまいりました。なまこ壁と破風の玄関という外観が和の情緒たっぷり。昔ながらの木戸に手をかけた瞬間は昭和へタイムスリップしたかのような錯覚に陥りました。


 
こちらのお宿は昭和15年創業とのこと。いかにも老舗らしい板張りの廊下はピカピカに磨かれており、建物の重厚感も相まって歴史の風格を感じさせます。日帰り入浴をお願いしたところ、快く受け入れてくださいました。訪問したのは梅の花が咲く早春の頃(半年以上前のネタで恐縮です)。帳場の斜前には立派なお雛様が飾られていました。


 
モダン和風に改装されたラウンジを右手に見ながら、廊下を進んで奥にある浴室へと向かいます。奥の方は改装されておらず、昔ながらのタイルの洗面台がいい味を醸し出していました。


 
棚に籐の籠が並ぶ脱衣室は多少年季が感じられるものの、洗面台まわりをはじめ隅々まで綺麗に維持されており、使い勝手には問題ありません。


 
中庭に面して窓が連なる浴室には外光がたっぷり降り注いでおり、その明るさゆえ実際の室内面積以上に広く感じられます。浴室内は、浴槽部分の四角い空間と、洗い場部分の扇型の空間をくっつけたような構造になっており、洗い場ではシャワー付きカランが円弧を描きながら4基並んでいて、腰掛けや桶など備え付けのものはきちんとセッティングされていました。整理整頓が行き届いているところに老舗旅館の心意気が伝わってきます。


 
浴槽は奥の窓下でやや曲線を描いていたり、右手に柱の出っ張りがあったりと、形容の難しい形状をしていますが、ザックリ言えば台形のようなスタイルであり、最も長い辺で奥行きは3.5m、幅は2.5mほど。キャパは7~8人といったところです。2方向が窓に面しているため、私が利用した日中はとても明るく、槽内に貼られた水色のタイルがお湯の清らかさを際立たせていました。そして石材が用いられた縁からは絶え間なくお湯が溢れ出ていました。


 
お湯は壁の上から斜面を這って流下しながら投入されています。上述のようにお湯は縁からオーバーフローしているほか、槽内にあく2つの穴からも吸引されており、館内表示によれば循環および濾過を実施しているとのこと。ということは、循環と掛け流しを併用しているのでしょう。

こちらのお湯は自家源泉で、見た目は無色透明。濾過されているためか湯の花などの存在は確認できません。とろみの中にツルスベの浴感があり、少々の引っ掛かりも混在してます。口に含んでみると塩辛さと苦汁の味がはっきりと感じられます。伊東のお湯は一般的に無色透明の単純温泉である場合が多いのですが、こちらの自家源泉は目の前に相模灘が広がっている立地ゆえ、海水の影響を多分に受けているのでしょう。伊東というより熱海(特に伊豆山エリア)のお湯に近いタイプです。前々回記事の「梅屋旅館」でも伊東のしょっぱい塩温泉を紹介しましたが、梅屋さんの塩温泉よりは塩分が若干マイルドかもしれません。いずれにせよ伊東温泉では、当地の主流である無色透明無味無臭の単純温泉に紛れて、こうした塩辛いお湯がところどころで湧いているのですね。

海の影響を思わせるもう一つのものが温度の低さです。伊東温泉の各源泉はえてして高温ですが、こちらの源泉は40.0℃と辛うじて入浴できる程度の温度しかなく、それゆえ冬季には加温されるのですが、お湯のクオリティを大切にするためか、加温の程度は必要最低限に抑えられています。入浴の受付時、帳場の方は「ぬるいお湯ですから、どうぞ時間をお気になさらず、ごゆっくりお入りください」と言ってくださり、実際に入ってみたところ体感で40℃あるかないかといった湯加減だったのですが、おかげで湯あたりを気にせずじっくり長湯することができました。実はこの低めの湯加減こそ湯使いの妙であり、日本人が好む42~3℃まで上げてしまうと、塩辛いお湯ですから湯あたりを起こしやすく、長湯もできないのです。こちらと同じく塩辛い熱海の伊豆山の湯は、その塩分の濃さと熱さが相まって、決して長湯できず、湯上りには発汗が止まらず、下手をすれば湯あたりを起こして意識が朦朧としかねません。しかしこちらの場合はぬるいからこそ、塩辛いお湯でもその凶暴さは鳴りを潜め、じっくり長湯することで体の芯までしっかりと温まり、温浴効果も持続するのであります。しかも濃い食塩泉にありがちな変な発汗は少なく、むしろ不思議なことに爽快感を覚えたほどです。これもぬる湯の妙。実に考え抜かれている湯加減なのでした。


 
浴室の窓を開けると、トタンの蓋が被せられたコンクリの構造物を発見。これって自家源泉の井戸なのでしょうか。

戦前に開業した老舗旅館ですが、今では時代のニーズに合わせるべく、個人旅行はもちろん、ビジネスや研修・合宿など多目的に応えられる宿として、古風な外観を保ちつつも現代的な設備を導入し、利用しやすい料金設定に抑えて、間口を広くしていろんなお客さんを受け入れています。利用しやすいお宿であることはもちろん、伊東では珍しいしょっぱいお湯も注目したいお宿です。


松原温泉松原14号
ナトリウム-塩化物温泉 40.0℃ pH7.4 55.9L/min(動力揚湯) 溶存物質11.71g/kg 成分総計11.72g/kg
Na+:2906mg(62.69mval%), Mg++:446.0mg(18.20mval%), Ca++:723.6mg(17.91mval%),
Cl-:6414mg(89.29mval%), Br-:2.1mg, SO4--:973.0mg(10.00mval%),
H2SiO3;65.7mg,
加水・加温あり(温度調整のため)
循環・濾過あり(浴槽を衛生的に維持し温度を一定に保つため)
塩素系薬剤使用(静岡県条例等の基準を満たすため)
(平成20年3月18日分析)

伊東駅より徒歩10分弱(約800m)
静岡県伊東市東松原町4-7  地図
0557-37-4123
ホームページ

日帰り入浴時間要確認
600円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は帳場預かり

私の好み:★★

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伊東温泉 小川布袋の湯

2015年10月29日 | 静岡県
 
引き続き伊東の温泉を巡ります。次なる目的地は、前回記事で取り上げた「梅屋旅館」からさらに南へ進んで末広町へ入ってすぐのところにある共同浴場「小川布袋の湯」です。路地に沿って建つ安アパートのような2階建ての細長い建物は、一見すると浴場らしくありませんが、れっきとした天然温泉の共同浴場であります。


 
入口は男女別に分かれており、それらに挟まれる形で布袋様が祀られていました。ふっくらしたお腹をさすると福にあやかれるんだそうですよ。この浴場のオープン時間は16時なのですが、番台を担当する人によって時間が繰り上がるらしく、私が訪れた日の場合は、15時で既に「営業中」の札がさがっていました。番台のおじさん曰く、当番によって違うけど、いつも15:30には開いているよ、とのことです。



細長い建物には、男女別浴場の他、貸切風呂も設けられており、番台で申込めば利用が可能です。上画像がその貸切風呂の入口で、男女別入口の右側へちょっと離れた場所にあります。


 
玄関の引き戸を開けると、男女双方に挟まれた位置に番台があり、そこで直接湯銭を納めます。昔ながらの銭湯スタイルですね。
脱衣室に貼ってある「小川湯はぬるいけんども温まる。ぬる湯だけんど長湯は無用」という言葉は、このお風呂に入る際に、最も心しておかなければなりません。もちろん意味は読んだ通りであり、この手のセリフはどの温泉でも見られますので、はじめ目にした時には軽く受け流していたのですが、私のようにこの言葉を侮っていると後で面食らうかもしれません。詳しくは後述にて。


 
古い木製の棚といい、バネで目盛りを指す体重計といい、脱衣室には古き良き昭和の温泉風情が残されていました。なお棚の一部は施錠可能です。この室内でも布袋様が微笑んでいらっしゃいました。普通の人間でこれだけ下腹が出ていたら、間違いなく医者から脂肪肝などの診断を受けて厳しい摂生を指示されますが、己の不健康を顧みずお腹をぷっくりさせたまま、にっこり笑って他人様に福を授けているのですから、その尊い自己犠牲の精神には恐れ入ります。


 
伊東の共同浴場は浴室の中央に四角い浴槽が据えられていることが多いのですが、こちらのお風呂の場合は窓下にセットされており、しかも台形を斜めに歪めたような形状をしていて、他浴場とは一線を画す独特のスタイルです。この浴槽の左右に洗い場が二手に分かれており、計6つのカランが設けられていました(うちシャワー付きが5ヶ所)。共同浴場なのにボディーソープが備え付けられている点は特筆すべきでしょう。


 
むき出しの配管から各カラン及びシャワーへと接続されており、浴槽へお湯を供給する配管とカランへ供給する配管は同一でしたから、カランのお湯は温泉で間違いありません。
このお風呂でちょっとユニークなのが、備え付けの腰掛け。腰掛け自体は市販の一般的なものなのですが、その上にお尻サイズに切り取ったバスマットを載せており、クッション性や防滑性を高めていました。


 
浴槽は上述したように台形を歪めたような形状をしており、小学校の算数で習った台形の面積を求める際の呼び名で表現すれば、目測で上底1.2m・下底1.6m・高さ3m、大体4~5人サイズといったところでしょうか。縁は黒御影石で槽内は淡いターコイズブルーのタイル貼り。こちらの浴槽は一般的なものよりも造りが深く、館内の説明によれば78cmもあるんだそうです。
浴槽のお湯は底面より供給されており、縁よりしっかりオーバーフローしていました。分析書に記載された源泉温度(というか貯湯槽の温度)は43~4℃なのですが、供給の過程で冷めてしまうのか、館内表示によればボイラーで若干加温しているらしく、供給口での湯温は体感で42~3℃前後が維持されており、また湯船に備え付けの温度計は40℃ちょうどを指していました。

この浴場で使われているお湯は大東館・坪の内・静山荘という3つの源泉を混合させています。無色透明でほぼ無味無臭ながら、じっくりテイスティングすると弱芒硝感と弱石膏感が得られました。まだ口開け間もないタイミングだったためか、お湯がとてもクリアで澄み切っており、光を受けた槽内のタイル目地がレインボーカラーに輝いていました。スルスルスベスベの中に弱い引っ掛かりが混在する浴感であるとともに、ふわふわでエアリーな軽やかさも有しており、ぬるめの湯加減も相まっていつまでも長湯していたくなるような、実に優しい入り心地なのです、はじめのうちは…。と申しますのも、この優しさについ心を許して長湯をしていると、やがてボディーブローのように温まりがじわじわと効いてきて、気づけば力強く火照っており、ぬるいお湯なのに湯上りは汗が止まらず、まるで体の芯に熱源を埋め込まれたかのようなパワフルな熱さを覚えるのです。脱衣室の貼り紙に書かれていた「長湯は無用」という言葉は、決して誇張表現ではなかったんですね。布袋様もこのお湯に入り続けたら、きっと痩身できると思うのですが、人々に福を与えるため、敢えて入らず見守っているのでしょうね。
一見大人しく優しそうに感じられるお湯ですが、うちに秘めたるパワーはさすが本物の温泉。伊東のお湯の良さを実感できる共同浴場でした。


混合泉(岡147号・岡149号・岡191号)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 43.6℃ pH7.9 溶存物質1.299g/kg 成分総計1.299g/kg
Na+:233.8mg(52.64mval%), Ca++:175.8mg(45.39mval%),
Cl-:399.6mg(56.52mval%), Br-:1.7mg, SO4--:361.7mg(37.76mval%), HCO3-:34.3mg(2.81mval%),
H2SiO3:48.0mg,  

伊東駅から徒歩10分(約900m)
静岡県伊東市末広町2-17  地図

16:00~21:00 木曜定休
250円
ボディーソープあり、棚の一部は施錠可能

私の好み:★★+0.5
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伊東温泉 梅屋旅館

2015年10月27日 | 静岡県
今回記事より通常の温泉記事に戻ります。まずは静岡県伊豆の温泉から取り上げてまいります。とはいえ8ヶ月前の早春の頃に訪問した時の内容です。季節感に欠ける記事で恐縮です。

 
伊豆の伊東駅から南へのんびり歩いて、狭い路地が複雑に入り組む猪戸地区の住宅街を彷徨っていると、今回の目的地である「梅屋旅館」へたどり着きました。一見すると民家のような佇まいですが、路地に出ている袖看板が旅館であることをアピールしていました。玄関の引き戸を開けて、渋い館内で日帰り入浴をお願いしますと、女将さんは快く丁寧に対応してくださいました。見るからに年季のある建物ですが、聞くところによれば大正時代に建てられたものなんだとか。玄関ホールには「旭日双光章 」をはじめとする勲章や褒章の類が飾られていたのですが、お宿のオーナーさんは伊東の名士でいらっしゃるのでしょうか。


●浴室(小)
 
お風呂は大小それぞれ一室ずつあり、普段は小さな方を女湯、大きな方を男湯として使っているそうなのですが、幸いなことに訪問時は両方とも空いており、しかも小さな浴室ではお宿自慢の自家源泉を体験できるとのことなので、今回は小さな浴室を利用させていただくことにしました。花火が描かれた牛乳石鹸の暖簾をくぐった先にある脱衣室は、2畳ほどのコンパクトな空間ながら、ユニットタイプの洗面台が設置され、各種アメニティーも用意されており、扇風機も取り付けられていて、棚の上のタオルを使っても構わないとのこと。室内は狭さをはるかに凌駕するおもてなしの心に満ち溢れていました。


 
脱衣室の壁には、小浴室で使われている自家源泉の「塩温泉」に関する説明とその入浴方法に関して、イラスト付きでわかりやすく解説されていました。またそれと並んで繁体字中国語で表記された温泉入浴説明が掲示されていたのですが、後ほど伺ったところ、お家族が台湾にいらっしゃり、また台湾からのお客さんもお見えになるとのことで、何かと台湾と縁があるため、このような張り紙も掲示しているんだとか。


 
青い浴槽と黄色い壁という補色関係のカラーコーディネートが明るい印象をもたらしてくれる浴室。窓にはさりげなく花が生けられ、季節感を品良く演出していました。洗い場にはシャワー付きカランが1基取り付けられており、シャンプー類も備え付けられていました。



タイル張りの浴槽は2人サイズなのですが、一人で入るとどっしりとした入り応えがあり、ちょっとした贅沢な気分に浸れます。後述する水栓からお湯が常時投入されており、縁からお湯が絶え間なく溢れ出ていました。完全掛け流しの湯使いです。この浴槽には2種類のお湯が注がれており、ひとつは組合から供給されるお湯、もうひとつはお宿自慢の自家源泉である「塩温泉」です。


 
浴槽用の水栓は3つ並んでおり、最奧は水道、真ん中は組合から配湯される温泉、そして手前側の水栓金具が赤茶けているのが、自家源泉の「塩温泉」です。組合の温泉(女将さんは「水落組合」と仰っていました)はいかにも伊東のお湯らしい無色透明無味無臭なのですが、よくよく味わってみると弱いながらも芒硝や石膏の各感覚があり、芒硝の方が先に知覚を伝わってくるような感じです。湯口にて50℃弱はあり、湯船も体感で45℃前後でしたが、シャキッ&サッパリの浴感が気持ち良く、鮮度感も良好です。

一方、自家源泉の「塩温泉」は温度が35℃くらいしかないため、湯船をぬるくさせないよう普段はホースで外に排出しており、入浴するときだけ客の好みに応じてホースを湯船に入れるというスタイルを採っています。この「塩温泉」も組合のお湯と同じく無色透明なのですが、その名の通りしょっぱく、単に塩味を帯びているというレベルではなく、まるで海水を口に含んでいるかのような塩辛さ及び苦汁味、そして仄かなタマゴ感が得られるのです。東伊豆エリアの他温泉地で例えるならば、熱海東部の伊豆山温泉に近い質感です。女将さん曰く、このお湯が供給されているのは伊東では3軒しかなく、しかもうち2軒は民家なので、外来者が入れるのはこのお宿だけ。実に貴重なお風呂なのです。


 
もちろん私は「塩温泉」のホースを浴槽へ突っ込みましたよ。いままで熱めだけれどもサッパリあっさりしていた湯船が、この「塩温泉」のブレンドによって徐々にトロミや滑らかさが増し、浴感に深みが加わって、湯船から出られなくなってしまうほど、魅惑的なお湯へと変貌していきました。あくまで個人的な見解にすぎませんが、伊東屈指の出色なお湯かもしれません。
湯船に入るのも良いですが、ホースのお湯を直接体に浴びせかけるのも、これまた非常に気持ち良い。伊東の地でこんな濃厚な食塩泉に出会えるとはおもわず、全身をしょっぱいお湯まみれにしながら、一人で興奮してしまいました。
なお右(下)画像に写っている水栓は組合から配湯されている温泉です。吐出口には硫酸塩の白い析出が付着していますね。



塩温泉に関して伺ったお話によれば、元々は伊東の他の源泉と同じく無色透明無味無臭のお湯だったそうですが、一旦枯れかかったために深くボーリングし直したところ、この塩辛いお湯が湧いたんだそうです。実際に窓を開けて源泉の揚湯ポンプがある場所を見せてくださいました。ちょうど小浴室の裏手に当たる場所で、ジージーとポンプ音が響いていました。


●浴室(大)
 
せっかくなので、普段は男湯となっている大きな浴室を見学させていただくことに。こちらにも牛乳石鹸の暖簾がかかっていました。


 

脱衣室は小浴室の倍近い床面積があり、古いけれども綺麗に維持されていて、さりげない飾りが上品な空気感を漂わせていました。湯上がりの水分補給のため、お水のサービスも用意されていました。


 
浴室内も小浴室より2まわり大きく、煉瓦色の壁タイルや床の豆タイルがレトロで温もりのある印象を与えてくれます。部屋の構造の関係なのか、こちらの室内は湯気が朦々と篭っていました。洗い場に設けられたシャワーは3基あり、複数人数の利用も問題ありません。


 
浴槽のサイズは3~4人サイズで、槽内はお湯の清らかさを際立たせるスカイブルー。隅っこの石積みからお湯がトポトポと注がれていますが、こちらの浴室に引かれているのは無色透明で弱い硫酸塩泉感を有する組合のお湯オンリー。もちろん完全掛け流しです。

しょっぱくてお肌がツルツルになる塩温泉はもちろん、趣のある渋い大正建築、そして品性が伝わるお宿の方の心遣いなど、すべてにおいて大満足。わざわざ足を運んで一浴する価値がある素晴らしいお湯でした。次回訪問時は絶対に宿泊しなきゃ!!


温泉分析書見当たらず

伊東駅より徒歩4~5分
静岡県伊東市猪戸1-6-5  地図
0557-37-2112

日帰り入浴10:00~15:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (6)
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栗駒山麓 駒の湯温泉 2015年10月復活

2015年10月25日 | 宮城県
※2017年の営業に関してはこちら(2017年4月20日付の拙ブログ記事)をご覧ください。
※2016年の営業に関してはこちら(2016年4月21日付の拙ブログ記事)をご覧ください。

 
拙ブログでは珍しくタイムリーな記事を取り上げてみます。2008年に発生した岩手宮城内陸地震で甚大な被害を受けてしまった栗駒山麓の駒の湯温泉が、日帰り入浴施設として今年(2015年)10月に復活したという報を受け、仙台で所用があった翌日の今月中旬、現地へ向かうことにしました。
東北道の若柳金成インターから一般道へ下り、栗駒・岩ヶ崎(※)の市街地を抜け、県道42号線を栗駒山へ向かって走行します。途中の山々では紅葉がすでに色づきはじめていました。
(※)余談ですが、私の体の4分の1は栗駒・岩ヶ崎の血が流れています。


 
県道42号の終点であるいわかがみ平の手前には、上画像のような標識が立つ十字路があり、この角に駒の湯温泉の道標となる立て看板が設けられていましたので、これに従い十字路を右折します。


 
「くりこま荘」を通り過ぎてS字カーブを曲がり、谷の底へ坂を下ってゆきます。その途中で見晴らしの良いところがあったので、車を止めて栗駒山の方を眺めてみると、山は紅や黄色に染まっていました。しかし、その手前に広がる荒々しい更地が、地震による土石流の恐ろしさを物語っており、紅葉の美しさを素直に喜んでよいものか、複雑な心境に苛まれました。


 
罹災地跡の更地奥の山裾にたたずむ小屋が今回の目的地です。


 
途中で振り返ると、山が大規模に崩れて牙をむいた生々しい傷跡が露わになっていました。濁流に飲み込まれてしまった旧駒の湯温泉のニュース映像を思い出さずにはいられません。胸が痛みます。


 
道は途中から砂利道となり、その突き当たりに駐車場、そして受付小屋などが並んでいます。ネーム入りの法被を着たご主人と女性のお二人で来客を出迎えていらっしゃいました。


 
日帰り入浴営業は今年(2015年)の10月からですが、それ以前から土日祝に限って足湯が開設されており、この足湯は現在でも利用が可能です。


 
受付小屋の先には男女別の湯小屋が並んでおり、小屋の前には、2種類の幟がはためいていました。これらの幟はいずれも温泉ファンからの寄贈されたもの。ちなみに緑地の幟は拙ブログでもリンクさせていただいているTさんが作成なさったものです。



平成27年9月29日の日付が記されている保健所の「温泉利用許可済証」。営業開始のギリギリのタイミングで発行されたんですね。湯上がり後にいろいろとお話を伺いましたが、この許可を得るまで、ものすごい苦労が重ねられてきたんだそうです。


 
今回営業を復活させた湯小屋は旅館復活へ前進するための第一歩であり、まだ完成形には遠く及んでいないため、湯小屋は小ぢんまりとした仮設然としたものですが、それでも湯浴み客に景色を楽しんでもらいたいというご主人のお考えにより、浴室には大きな窓が設けられ、湯船に入りながらブナの美しい木立を眺めることができました。ご覧のようにお風呂場のキャパシティーが小さいため、週末などの混雑時には、入浴まで待ち時間が発生することがありますので、あらかじめご承知おきを。


 
総木造の湯船は4人サイズで、造りもしっかりしており、入り心地は抜群です。木工の湯口からはお湯が滔々と注がれており、惜しげもなくオーバーフローしていました。かつての駒の湯温泉をご存知の方ならこの湯口に見覚えがあるかもしれませんが、それもそのはず、今回の復活に際して、温泉ファンが保管していた旧浴室の画像を参考にし、大工さんに旧浴場と同形状のものを作ってもらったんだそうです。温泉ファンならではの視線や記録って、こんなところで役に立つんですね。


 

浴室内にはお湯&冷水の水栓が2組ある洗い場が設けられており、お湯のコックを開けると源泉のお湯が出てきます。一方、冷水は水道の水です。山ですから近くを流れる沢水を引けば良さそうなものですが、水質管理の都合や保健所の指導などにより、公共の水道を引かざるを得ず、その工事費用のため、予算が当初よりも大幅に膨れ上がってしまったそうです。保健所の指導でもう一つ大きな問題として営業再開の前に立ちはだかったのが、浴室内の硫化水素ガス濃度の問題。浴室内では換気扇が複数台回っており、また浴槽脇の低い位置にはルーバーが取り付けられ、山の緑を眺める大きなガラス窓も出窓になっていて、出っ張り部分には通風孔が設けられているのですが、これらは全て室内の硫化水素ガス濃度を規定以下に抑えるための措置です。それゆえ外気が入ってきやすく、ただでさえぬるいお湯が余計に冷めてしまうのですが、でもこうしないと営業の許可が下りないので、こればかりは致し方ありません。



お湯は加温加水循環消毒一切なしの完全掛け流し。源泉のお湯をそのまま浴槽へ注いでいます。ただ源泉における湧出温度が低く、湯船においては36~38℃であるため、熱いお風呂がお好きな方にはちょっと物足りないかもしれません。また上述のように常に換気しなければならないため、湯温はなおさら下がってしまいます。でもそんなぬる湯でも、じっくりと長湯をすれば不思議と体の芯までポカポカ温まり、実際に長湯した私は、湯上り後しばらく汗が止まりませんでした。ですから、このお風呂では是非時間を忘れてじっくりと浸かり続けることをお勧めします(ただし混雑時には適度な長湯でとどめておきましょう)。熱い風呂に短時間入るより、ぬるめのお湯に長い時間浸かった方が温浴効果が高まりますし、このくらいの温度の方が健康促進のためにははるかに良いのです。

お湯は無色透明ですが白い湯の花がチラホラと浮遊しています。湯面からはタマゴ臭と軟式テニスボール的ゴム臭を足して2で割ったような硫化水素臭がはっきりと漂っているほか、クレゾールを思わせるような刺激臭も混じって湯口から放たれていました。お湯を口に含むと明瞭なタマゴ味と石膏味、そして渋みを伴う苦味がしっかりと感じられ、特に苦さに関しては口腔内の粘膜にしばらく残ります。湯中ではサラスベと石膏由来の引っ掛かり浴感が混在して肌に伝わり、鮮度感は抜群です。ぬるいお湯ですので体への負担を気にすることなくじっくりと浸かっていられますし、硫黄による血管拡張効果のため、長湯すれば40℃未満のお湯とは思えないほどのしっかりとした温まりを実感できます。文句なしの名湯復活です。



上画像はオリジナルタオル(販売品)や、「駒の湯通信」、そして入浴客すべてに手渡される入湯証明書です(タオルの上に載っている小さなカードです)。

上述のように、湯上り後には営業再開に至るまでのお話をいろいろと伺い、資料類も見せてくださいました。おしゃべりの中で、この駒の湯の復活を心待ちにしながらも、その姿を見ることなくあの世へ旅立たれたブログ「づれづれ草」のぽちさんの話題に及んだのですが、実のところ、ぽちさんは今回の復活のはるか前に、生前になんと足湯で入浴を果たされていますから(ブログの記事でも固有名詞こそ出していませんが、そのことを記録なさっています)、私なんかよりもとっくの前に駒の湯のプリミティヴな姿をご存知だったわけです。彼女はいまごろきっと天国で今回の営業復活を喜んでいることでしょう。
お客さんが次々といらっしゃる中、受付小屋のお二人は、そんな思い出話や温泉談義などで私との長話にお付き合いくださいました。本当にありがとうございました。



最後に、土石流に飲み込まれた現場を見下ろす高台に設けられた慰霊碑で合掌。


 
せっかく栗駒までやってきたので、ついでにいわかがみ平の駐車場まで上がったのですが、その途中の道中で右の車窓を眺めたところ、ちょうど駒の湯温泉の真上に虹がかかっているのを発見。前途はまだまだ長いかと思いますが、来年もきっと着実に前進することでしょう。この虹がそんな幸先を予言しているかのようでした。

なお本年の駒の湯温泉の営業は11月3日まで。あと1週間ばかりしかありません(冬季はクローズします)。
この名湯に入りたい方は急いで栗駒の地へGO!!


駒の湯4号泉・5号泉混合泉
含硫黄-カルシウム-硫酸塩温泉(硫化水素型) 使用位置37.5℃ pH4.4 溶存物質1665.8mg/kg
Na+:29.4mg(5.26mval%), Mg++:27.2mg(9.21mval%), Ca++:405.2mg(83.14mval%),
Cl-:11.2mg(1.32mval%), S2O3--:0.1mg, HSO4-:1.5mg, SO4--:1142mg(98.39mval%),
H2SiO3:31.2mg, CO2:136.3mg, H2S:7.0mg,

宮城県栗原市栗駒沼倉耕英東88  地図
2015年の営業は10月1日から11月3日まで。営業状況や今後の予定等に関してはブログ「森の温泉~駒の湯温泉通信」でご確認ください。なお、いまのところ来年は4月末のオープンを予定しているそうです。
10:00~17:00(状況によってはこれより早く閉めることもあります) 水曜定休
400円
備品類なし(オリジナルタオルの販売あり)
※私が受付小屋で長話をしていた時間に訪れたお客さんの中には、湯銭支払いの際に万札を差し出す方が複数名いらっしゃいました。ご主人は嫌な顔を一つせず、柔和な接客でお釣りを返していらっしゃいましたが、そのやりとりを見ていた私は、手持ちの金庫から釣り銭用の1000円札や小銭がなくなってしまうのではないかと、ヒヤヒヤしてしまいました。私のような部外者が申し上げるのは大きなお世話かもしれませんが、こういう山奥の仮設小屋ですので、釣り銭の用意には限界があります。駒の湯をご利用の際には是非小銭のご用意をお願いします。


私の好み:★★★
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中国の目次

2015年10月24日 | 中国
2019.10.6更新


当ブログで取り上げてきた中国(一部に香港・マカオを含む)に関する記事を一覧にしました。

マカオタワーでバンジージャンプ
福建・広東の旅 その1 厦門ぶらり街歩き
福建・広東の旅 その2 完全アウェーの福建土楼ツアー 前編
福建・広東の旅 その3 完全アウェーの福建土楼ツアー 後編
福建・広東の旅 その4 高速鉄道の一等車と在来線の硬座を乗り継ぐ
福建・広東の旅 その5 五華熱鉱泥温泉への苦難の道
福建・広東の旅 その6 五華熱鉱泥温泉 前編(部屋・温泉プール・露天)
福建・広東の旅 その7 五華熱鉱泥温泉 後編(泥湯・食事)
福建・広東の旅 その8 従化温泉への道程
福建・広東の旅 その9 従化温泉 北渓松林酒店
福建・広東の旅 その10 従化温泉街を逍遥
福建・広東の旅 その11 従化温泉から広州へ(7年前を振り返りつつ)
福建・広東の旅 その12 広州から香港経由で帰国へ

重慶南温泉 南泉公園温泉会所
 その1(現地までのアクセス)
 その2(入浴)
重慶市沙坪覇区 融匯温泉
 その1(アクセスと入館)
 その2(多彩なお風呂とお湯)
重慶市南岸区 海棠暁月温泉
 その1(宿泊)
 その2(入浴)
マンションに突っ込む重慶のモノレール


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