十津川村の第三セクターが運営するリゾート施設「昴の郷」には、村で最大規模の宿泊施設である「ホテル昴」の他にレストラン・日帰り温泉施設・温泉プール・野外劇場などがあり、温泉入浴施設では村の「源泉掛け流し宣言」に則って完全放流式の湯使いを実践しているそうですので、どんなお風呂なのか行ってみることにしました。酷道として悪名高い国道425号の新西川トンネルを抜けたすぐ左手に、山間部を大胆に開拓した敷地が広がっており、広場の真ん中に周辺環境との調和を図ったと思しきブラウン系の建物がどっしりと構えています。運営会社には奈良交通も出資しているためか、日本最長の路線バスである奈良交通の八木新宮線は、わざわざこの建物前まで乗り入れてきます。
山間の奥地とは思えないほど広い芝生広場には野外ステージが設けられており、駐車場の傍らには温泉スタンドも設置されていました。
「日帰り入浴」の立て看板に従ってコリドーを進み、後述するホテルのエントランスを通り過ぎますと、十津川温泉の豊かな温泉資源を活かして、無料で利用できる飲泉所や足湯が設けられていました。足湯ももちろん掛け流しです。
飲泉所や足湯の更に奥には、ご当地ならではの乗り物である「野猿」があり、これも無料で自由に使えるようです。「野猿」とは野生の猿のことではなく、人力で動かすロープウェイのこと。谷や川の両岸から張ったワイヤーロープに「やかた」と呼ばれる小さなゴンドラが吊り下げられており、これに乗って自分の腕力で引き綱をグイグイたぐり寄せて、対岸へと渡るんですね。現在のように橋があちこちに掛けられる以前は、このようなアナログな設備で川を渡っていたんですね。
両岸からテンションを掛けてワイヤーを張っていますけど、両端が高くて中央部分が低くなっているのは仕方の無いことであり、乗ってスタートさせるとはじめのうちはスイスイ進んでくれるのですが、真ん中を過ぎて上り勾配に差し掛かると、それこそ結構な力仕事になり、腕力が無い方は息が切れちゃうかもしれません。でもこういう場所こそ父子で訪れるべきであり、はじめ子供一人で載せていかに大変かを実感させた後、父子で一緒に乗って男の腕力を振るって引綱を手繰り寄せれば、翌日以降に苦しめられる筋肉痛と引き換えに、普段は地の底に落ちきっている父の威厳をきっと回復できるでしょう(たぶんね)。
足湯等がある場所から歩道をちょっと戻って、「ホテル昴」のエントランスへ。
広々としているホテルのロビー。
「昴の郷温泉保養館」の下足場には、「源泉かけ流し温泉」と大きく記された扁額が誇らしげに掲げられており、その下には温泉の沿革や源泉掛け流しの取り組みに関する説明パネルが展示されていました。現在では他の温泉地でも全施設掛け流しに取り組むところが増えてきましたが、全村でそれを宣言したのは十津川村が日本初なんだそうですから、このように積極的にアピールしているのでしょうね(宣言せずとも昔から掛け流しであるところは存在しているでしょうけど)。
さすがにリゾート的なホテルのお風呂だけあって、脱衣室は広くて清潔感に溢れています。棚には籠がたくさん並べられており、洗面台は5台、ドライヤーは2台設けられています。しかしながら、こんなにゆとりのある空間があるのに、なぜか室内にはロッカーがありません(貴重品類は受付時にホテルのフロントへ預けます)。
大きな窓から陽光が降り注ぐ明るい浴室は、木材を多用することにより落ち着きとぬくもりに満ちています。メンテナンスも行き届いており、実に気持ちよく利用できました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が6基並んでおり、用意されているアメニティはシャンプーとコンディショナーがちゃんと分かれていました(温泉によくあるリンス・イン・シャンプーって、ちっともリンスしてくれずに髪がゴワゴワしちゃいますよね…)
多くのお客さんが大好きなサウナ(と水風呂)も完備。洗い場の手前には上がり湯もあります。
内湯の浴槽は10~11人サイズの長方形で、その長辺は大きな窓に接しており、木箱状の湯口から結構熱くて混じりっけのない源泉が湯船に注がれて、窓下の溝へ溢れ出るような造りになっていました。湯口のお湯は熱いものの、投入量の問題か、あるいは表面積が広いためか、湯船では41℃くらいの誰しもが入りやすい湯加減となっています。湯船のお湯は笹濁りを呈しており、槽のまわりは全体的に薄っすらと橙色に染まっていました。
露天風呂ゾーンには内湯に近い方から、飲泉所・主浴槽・打たせ湯・寝湯の順に各設備が配置されており、そばには足湯や野猿そして遊歩道などがあるために、周囲に目隠しの塀が立てられていますが、日本庭園のような風情ある造りであり、この「昴の郷」以外に周囲に建物がないため、塀を気にせずに緑の山々を眺めることができ、実に開放的な環境です。
露天風呂の主浴槽は縁が木で槽内は石板貼りの12~3人サイズ、手前半分ほどに東屋の屋根がかかっていますから、降雨時はこの下に入って湯浴みすることができますね。
内湯同様に露天風呂も完全掛け流しであり、奥の湯口からこんこんと温泉が注がれ、浴槽縁の左右双方にある切り欠けからふんだんに溢れ出ています。この時の投入量は内湯よりも多く、これに伴い湯加減も内湯よりはるかに熱い43℃くらいでした。お湯は薄っすらと赤みを帯びた黄土色に弱く濁っており、入浴中に肌をさすると、サラスベ浴感に弱い引っ掛かりが混在しているようでした。
飲泉所は施設外の足湯の傍にもありますが、この露天風呂ゾーンにも設けられているんですから、これって即ち温泉に対する自信の現れなのでしょう。飲泉所のつくばいは温泉成分によって橙色に染まっており、実際にお湯を飲んでみますと金気臭と弱いタマゴ臭がふんわりと漂い、弱いタマゴ味と弱い金気味、そして土気味とほろ苦みが感じられました。端的に表現すると、重炭酸土類泉を薄くしたような感じの味と匂いと言え、とりわけこの飲泉所では金気が明瞭でした。
一方、主浴槽を挟んで反対側にある打たせ湯は2本あり、うち1本は座りながら利用できるように石の腰掛けが設置されているのですが、その腰掛けにお湯が落ちて辺りに飛沫が飛ぶことにより、壁が赤銅色に濃く染まっていました。お湯の濃さがビジュアル的に伝わってくるので、誰しもその色合いには目をひかれることでしょう。
最も谷(川)に近い場所に設けられている寝湯は2人用で、他浴槽と同じく熱い源泉が注がれているのですが、浴槽(表面積)が小さくて冷めにくいためか湯加減はかなり熱く、しかもやや浅い造りである上に槽内の石がゴツゴツするので、正直な所あまり寛げそうにありません。でも日没後にこの寝湯で湯浴みすると、きっと満天の星空を仰げるのでしょうね。
広くて綺麗で多様な浴槽があり、お湯も完全掛け流し。
お湯の質にこだわる方も家族連れでも、多くの方が満足できる施設と言えそうです。
2号源泉・7号源泉混合
ナトリウム-炭酸水素塩温泉 pH不明(2号泉pH6.8、7号泉pH7.2) 75.6℃ 溶存物質1733mg/kg 成分総計1838mg/kg
Na+:441.7mg, Ca++:16.6mg,
Cl-:125.1mg, HS-:0.2mg, S2O3--:0.2mg, HCO3-:1008mg, CO3--:1.5mg,
H2SiO3:89.1mg, HBO2:21.3mg, CO2:104.6mg, H2S:0.1mg,
加水あり、供給量200L/min(湧出量:2号泉610L/min・7号泉290L/min)、引湯距離2.2km、
(平成17年3月25日)
7号源泉
ナトリウム-炭酸水素塩温泉 pH7.2 71.0℃ 溶存物質1563mg/kg 成分総計1668mg/kg
Na+:393.9mg(93.10mval%), Ca++:10.8mg(2.93mval%),
Cl-:103.0mg(15.89mval%), HS-:0.4mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:920.3mg(82.36mval%), CO3--:1.0mg,
H2SiO3:95.6mg, HBO2:17.3mg, CO2:104.4mg, H2S:0.3mg,
(平成18年1月23日)
奈良交通バスの八木新宮線で「ホテル昴」、もしくは十津川村営バス「昴の郷」下車すぐ
奈良県吉野郡十津川村大字平谷909-4 地図
0746-64-1111
ホームページ
日帰り入浴12:00~17:00(年末年始・5月連休・お盆は除く)
800円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカーなし(貴重品はフロント預かり)
私の好み:★★★