温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯田川温泉 正面湯 2013年夏 再訪

2013年10月31日 | 山形県

先日湯田川温泉へ訪れた際には、未湯だった共同浴場「田の湯」を訪問したかったのですが、時間帯を調べずに赴いた結果、運悪く清掃時間帯にかち合ってしまったためにその願いは叶いませんでした。でも捨てる神あれば拾う神ありと言うべきか、もうひとつの共同浴場である「正面湯」は清掃が終わったばかりで一番湯に入れる好機であったため、このチャンスを逃すなんて勿体無いですから、以前入浴している「正面湯」を再訪問することにしました。なお前回訪問時の様子は、拙ブログの初期に取り上げております(その際の記事はこちらです)。


 

前回取り上げた記事でも紹介しておりますが、外来者が湯田川温泉の共同浴場を利用する際には、指定の商店で入浴券を購入の上、お店の方に浴場入口のカギを開けてもらいます。この日も前回同様、温泉街の入口付近にある船見商店で券を購入し、上記の手続きをお願いしました。


 

お店の方と一緒に「正面湯」へ向かいます。私が入口の入浴券入れに券を投入すると、お店の方は男湯の扉の電磁ロックを開錠してくれました。



清掃直後ですので脱衣室にはどなたもいらっしゃいませんでした。よし!期待通りに一番風呂に入れるぞ! この脱衣室は共同浴場の一般的なレイアウトであり、室内には棚がたくさん並んでいますが、下足場は狭いので、靴はちゃんと下足入れへ収めましょう。


 
こちらのお風呂はいつ訪問しても綺麗に維持されていますね。管理なさっている方々のご苦労には頭が下がります。
入室時はまだお湯が溜まりきっておらず、嵩は7分目くらいでしたが…


 
かけ湯をしながら15分ほど待っていたら、大きな浴槽に湛々とお湯が張られて、縁の全辺からふんだんにオーバーフローするようになり、浴室隅の排水溝へ流れ落ちるお湯の音が絶えず室内に響きつづけました。


 
黒光りする石の湯口から、マーライオン状態でお湯がドバドバ注がれており、その顎にあたる部分には硫酸塩の白い析出が付着していました。こちらに引かれているお湯は前回取り上げた「甚内旅館」と同じく1号源泉であり、清らかに澄んだ無色透明で、芒硝と石膏の味や匂いが半々に感じられ、トロミのあるお湯に浸かると肌に引っかかる浴感が得られました。共同浴場は時間帯によってかなり混雑し、それに伴ってお湯も鈍ってしまうことがありますが、この時は清掃直後の一番風呂でしたから、お湯の鮮度は抜群でしたし、何しろ誰にも触れていない、まっさらなお湯を独り占めできるという事実がこの上なく最高じゃありませんか。そんな喜びに満たされてニヤニヤしながら、調子に乗って何度も何度も湯船に浸かっていたら、体が茹で上がって逆上せてしまい、湯上がりには脱衣室に備え付けられていた団扇を仰いで、自分の体をクールダウンさせました。

なお洗い場にはお湯と水の水栓が3組設けられており、お湯のカランからは温泉が出てきますが、備え付けられている桶は3つしかありませんので、もし自家用車で訪問の際は、桶を持参なさった方がよいかもしれません。


湯田川1号源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 42.6℃ pH8.4 蒸発残留物1256mg/kg 溶存物質1287mg/kg
Na+:224.1mg, Ca++:176.3mg,
Cl-:56.4mg, SO4--:737.7mg,
H2SiO3:52.6mg,
加水加温循環なし
衛生管理のため源泉貯湯タンクに次亜塩素酸薬剤を注入

鶴岡駅より庄内交通バスの湯田川温泉・坂の下・越沢行で「湯田川温泉」バス停下車、徒歩1分
山形県鶴岡市湯田川乙46 地図
0235-35-4111(湯田川温泉観光協会)
湯田川温泉観光協会ホームページ

8:00~9:00、11:00~19:00 無休
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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湯田川温泉 甚内旅館

2013年10月29日 | 山形県
※残念ながら2019年に閉館しました。

 
庄内・鶴岡の有名な温泉地といえば、海岸沿いの湯野浜温泉と内陸部の湯田川温泉の2湯を思い浮かべますが、私個人としては田園地帯の静かな環境に囲まれた湯田川温泉の方が肌が合っています。今回はそんな湯田川温泉の中心部に位置する「甚内旅館」で立ち寄り入浴してまいりました。温泉街のメインストリート沿いに建っており、当地では標準的な中規模旅館と言えましょう。


 
館内は和風な趣きながら、どこかアットホームな空気感も漂っています。玄関の三和土で日帰り入浴を乞いますと、奥から年配の男性スタッフが2人やってきて、対応してくださいました。玄関からまっすぐ進んだ右側に男女別の内湯が一室ずつあり、手前側が男湯です。
脱衣室には竹を模した内装材が貼られており、和テイストが全面に表されています。棚は市松模様のような造りになっているのですが、これはおそらく壁の向こう側の女湯と互い違いになっているのでしょうね。


 
暖色系の脱衣室とは打って変わって、浴室はモノトーンの色調で占められており、室内の上半分はモルタル壁に白ペンキ塗り、下半分は紺地に黒や白の縦ラインが入ったタイルで統一されています。床の石タイルは昭和30~40年代に流行った懐かしいタイプの意匠です。そんなこぢんまりとした空間に、蹄鉄型の浴槽がひとつ、そして洗い場にシャワー付き混合水栓が2基用意されています。



窓の外は坪庭が誂えられ、控えめに和の趣を醸しだしていました。


 
浴槽はおおよそ4人サイズ。美しい曲線を描く縁にはコバルトブルーの細かなタイルが、そして槽内にはターコイズブルーのタイルが敷き詰められています。また槽内にはコンクリのブロックが沈められており、これがステップ代わりに用いられています。
丸い石の湯口は女湯側と半々になっているものと思われ、そこには純白の析出がこびりついており、湯船へ滔々と注がれている無色透明で綺麗に澄んだお湯は湯船を満たした後、縁からしっかりと溢れ出て、洗い場の床を洗うように流れ去っていました。こちらに引かれているのは1号源泉であり、放流式の湯使いを実践しています。

湯口に置かれた竹筒で飲泉してみますと、芒硝と石膏の味および匂いが半分ずつバランスよく感じられ、石膏的な甘さが後味として口の中に残りました。また湯船に入って腕を掻くとトロミがあり、肌を擦ると引っ掛かりのある浴感が得られました。そして湯上がりには実力のある硫酸塩泉らしく、しっかりとした温浴効果が持続しました。
決して大きくないお風呂ですが、それゆえ一人で入った時のホールド感や安心感が優れており、鮮度感のある掛け流しのお湯に浸かりながら、レトロな雰囲気の中で落ち着いたひと時をすごすことができました。


湯田川1号源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 42.6℃ pH8.4 蒸発残留物1256mg/kg 溶存物質1287mg/kg
Na+:224.1mg, Ca++:176.3mg,
Cl-:56.4mg, SO4--:737.7mg,
H2SiO3:52.6mg,

鶴岡駅より庄内交通バスの湯田川温泉・坂の下・越沢行で「湯田川温泉」バス停下車、徒歩1分
山形県鶴岡市湯田川乙16  地図
0235-35-2151
ホームページ

※残念ながら2019年に閉館しました。
日帰り入浴9:00~17:00
400円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
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長寿温泉

2013年10月27日 | 山形県
 
日本全国に「長寿」と称する温泉浴場は一体いくつあるのでしょう。施設名ではなく、浴室名を含めたら、それこそ星の数に匹敵するかもしれません。その中でも今回は庄内地方の中心都市である鶴岡で市民から熱い支持を得ている「長寿温泉」を取り上げます。大雑把に表現するとこの温泉は鶴岡ドリームスタジアムのバックネット裏あたりに位置している民営の公衆浴場であり、周囲には閑静な住宅街が広がっています。私が訪れたのは閉館間近の夜8時過ぎでしたが、広い駐車場には多くの車が止まっており、人気の高さが窺えました。


 
玄関ドアは入口と出口で分けられており、入口は外側から向かって左側です。館内に入って下足箱に靴を収め、帳場で直接料金を支払います。ロビーには、二代目の四股名を継ぐ前の貴花田、旭富士、貴ノ浪、曙、貴闘力、舞の海など、相撲が大人気を博していた平成初期の力士のサインがたくさん並べられていました。あの頃の相撲は本当に面白かったなぁ…。また帳場の前には流し台が設置されているのですが、これは温泉の飲泉所でして、ちゃんと保健所から飲泉許可を受けているのであります。


 
浴室はいかにも公衆浴場らしく、全面タイル貼りの実用本位なものであり、左右に洗い場がシンメトリに分かれ、奥に大きな浴槽がデンと据えられています。洗い場には左右合わせて計10基のシャワー付き混合水栓が取り付けられており、カランから出てくるお湯は源泉使用です。



室内の壁には源泉がどこから汲み上げられ、どのような経路を辿って浴槽へ供給されるのか、そのプロセスをイラストでわかりやすく説明したプレートが掲示されていました。それによれば、地下888mという、何とも縁起の良い(末広がりの)八並びの地中より54℃の温泉を汲み上げ、一旦高架式の貯湯タンクにストックされてから、浴槽へ注がれているんだそうです。



決して新しい施設ではないのに、浴室は綺麗な状態が維持されているのですが、それもそのはず、常連さんのマナーがとても良いようでして、どなたもご自身が使用した腰掛けや桶は、きちんと元の場所へ戻して整理整頓に務めていらっしゃいました。気持ちのよいお風呂というのは、施設側のみならずお客さんの心がけがあってこそ、保たれてゆくのですね。


 
浴槽は大小に二分割されており、それぞれに対して湯口から源泉が供給されています。まずは左側の大きな湯船から見てゆきますと、白い析出が線状に付着した石の投入口から50℃近いアツアツのお湯が10~12人サイズの湯船へ落とされており、44℃近い熱めの湯加減となっていました。


 

一方、小さな方は4~5人サイズで、2つの蛇口から源泉と冷水が投入されており、加水のおかげで大きな浴槽よりも入りやすい湯加減となっていました。源泉が出てくる蛇口には白い析出がビッシリとこびりついていますね。

さて肝心のお湯についてですが、見た目は無色透明ながら僅かに霞んでいるようにも見えます。口に含むと弱石膏味と弱芒硝味が、そして弱芒硝臭が感じられました。グリーンタフ系の温泉なのかな。入浴すると硫酸塩泉らしいトロミと引っ掛かりのある浴感が得られ、近所の湯田川温泉に似ているフィーリングが感じ取れました。加温循環消毒は行われておらず、特に左側の大きな浴槽は加水も行われていない完全掛け流しであり、浴槽の縁からふんだんに溢れ出ていました。鮮度感が高くて熱めのお湯に体を沈めると、その熱さで全身の毛穴がきゅっと引き締まり、体の内部から元気が漲ってくるようでした。こんな温泉に毎日入れる近所の方が羨ましくてなりません。


長寿源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 55.6℃ pH8.6 蒸発残留物1887mg/kg 溶存物質1832mg/kg
Na+:349.5mg, Ca++:233.6mg,
Cl-:161.2mg, SO4--:1001mg,
H2SiO3:42.0mg,

鶴岡駅前より庄内交通バスの新山鉱泉行で美原団地バス停下車・徒歩5分、もしくは机行で小真木原運動公園前下車・徒歩8分(700m)
山形県鶴岡市小真木原町5-11  地図
0235-23-2614

6:00~21:30(入館は21:00まで) 第2・4木曜定休
350円
ロッカー(無料)あり、基本的な入浴道具の販売あり

私の好み:★★★
コメント (2)
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小林温泉

2013年10月26日 | 山形県

茅葺屋根の農家が残る山形県酒田市郊外の小林地区へとやってまいりました。この長閑で寓話的な景色を眺めていると、どこからともなく市原悦子や常田富士男のナレーションが聞こえてきそうです。


 
集落の中心には鄙びきった集落の公民館が建ち、そしてその後背には長らく使われていないような滑り台や錆びたブランコが草に埋もれていました。この広場に子供の歓声が響いていたのは、一体いつのことでしょうか。夕刻近くに訪れたためか、周囲の景色から醸しだされる哀愁がより際立っているようでした。


 
そんな集落の一角にひっそりと佇む「小林温泉」は、その外観から想像するに集落のための共同浴場かとおもいきや、実は宿泊もできちゃう、本格的な温泉施設なのであります。



玄関を入ってすぐ左に開かれている窓口で、明るく朗らかなおばちゃんに料金を支払います。この玄関ホールではカラフルな手編みの籠がたくさん販売されていたのですが、この地域では有名な工芸品なのでしょうか。



窓口で料金と引き換えに受け取った入浴料領収書です。財布に入れて数日経た後に撮影したため、真ん中が折れ線が残ってしまいました。



公民館のような雰囲気の館内には、地元の小学生による小林温泉への応援メッセージが掲示されていました。その寄せ書きのひとつひとつに目を通していたら、何だかとってもほのぼのしちゃいました。


 
コンパクトな造りの脱衣室は辛うじて2~3人が同時に利用できるかどうかという狭さですが、室内は非常によく手入れされており、とっても綺麗で清潔、腰掛けやドライヤーも用意されていますので、使い勝手も良好です。そして流し台に活けられているお花が温かい印象を与えてくれました。なお脱衣室前の廊下にはロッカーも設置されていますが、もし使用の際は受付でカギを借りることになります。
旅行をしていると、一丁前の金額をとるくせにお掃除が中途半端なお宿がありますが、そういう残念な旅館は是非この小林温泉を見倣っていただきたいものです。


 
脱衣室のコンパクトさに呼応する感じで、浴室も民宿やジモ専クラスの小ぶりな空間ですが、改修されてまだ間もないためか、非常に明るくて清潔感が漲っており、快適な環境が保たれていました。室内にうっすらとたゆたうタマゴ臭は、お湯から香っているのでしょう。
室内には長方形の浴槽がひとつ据えられ、洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。カランから出るお湯はごく普通の真湯ですが、350円の施設ながらボディーソープ・シャンプー・リンス(いずれもイオングループのPV)が完備されている点は大いに評価したいところです。


 

窓の外には一面緑が広がっています。緑を構成するのは山の木々と手前の水田や畑なのですが、手前の耕地は半分近くが耕作放棄地のようであり、野放図に伸びた深緑の雑草を見つめていると、手放しで「長閑」と表現できない物悲しさが伝わってきます。なお浴室の裏手に立っているのは貯湯タンクでしょうね。


 
浴槽は3人サイズで、縁には御影石のプレートが用いられ、槽内はタイル貼りです。湯船のお湯はライトグレーに弱く濁っています。こちらの源泉は湧出時の温度が10度しかないため、浴用には加温したお湯が張られており、循環や消毒こそ行われていないものの溜め湯式の湯使いとなっていて、利用者が好みに合わせて各自でコックを開き、加温されたお湯や生の冷鉱泉を湯船に投入します。訪問時はどなたもいらっしゃらなかったので、私もこのコックを開けて自分好みの湯加減に調整してみました。

2つ並んでいるコックのうち、注目すべきは「源泉」と書かれた左側の水栓であり、これを開けると非加温の冷たい鉱泉がドバドバと吐出されるのですが、これが非常に魅力的でして、そばに置かれているコップで飲泉してみますと、明瞭なタマゴ味と弱い苦味、そして微かな砂消しゴム的硫黄味とアルカリ性泉的な微収斂が感じられました。また吐出と同時にふんわりと芳しいタマゴ臭も室内に放たれました。

できるならば湯船をこの冷鉱泉だけで満たしたいのですが、他のお客さんも利用するお風呂ではさすがにそうもいきませんから、すぐに加温湯でリカバリーできる範囲内で冷鉱泉を投入し、とってもぬるい状態でじっくりと全身浴させていただきました。いかにもアルカリ性に傾いているタマゴ水らしい、心地の良いツルスベ浴感がしっとりと肌に馴染み、あたかも化粧水の中に浸かっているような沖融感を堪能することが出来ました。そして湯上がりの爽快感も実に素晴らしく、強く印象に残る浴感でした。なお入浴後はお湯で元の湯加減まで戻しておきましたが、この沸かし湯が非常に熱く、直に触って火傷しそうになったので、もし今後こちらで入浴される方はその点にご注意を(ハンドルで温度調節可能)。


村上源泉
アルカリ性単純冷鉱泉 10.9℃ pH9.1 蒸発残留物342mg/kg 溶存物質453.8mg/kg
Na+:117.1mg,
Cl-:13.4mg, HS-:0.3mg, SO4--:18.0mg, HCO3-:259.3mg, CO3--:16.2mg,
H2SiO3:18.2mg,
供給量の不足を補うため加水
入浴に適した温度に保つため加温
放流式・消毒なし

羽越本線・砂越駅より庄内交通バスの小林行で「小林温泉」バス停下車、徒歩1~2分
山形県酒田市小林杉沢117-1  地図
0234-54-2130
酒田市公式サイト内の紹介ページ

10:00~19:00 火曜および年末年始定休
350円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー使用の際は番台で鍵を借りる

私の好み;★★+0.5
コメント (6)
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象潟温泉 サン・ねむの木

2013年10月25日 | 秋田県
 
松尾芭蕉ゆかりの地である秋田県象潟や隣接する金浦には塩辛い食塩泉と硫黄の冷鉱泉という全く性質が異なる2種類の温泉(鉱泉)が湧いています。前者のお湯に入れるのは道の駅「ねむの丘」など大規模施設が目立ちますが、冷鉱泉を使用している施設は金浦の「学校の栖(すみか)」や象潟の「サン・ねむの木」など、ちょっとわかりにくい場所に位置している比較的マイナーな施設が多いようです。美的感覚のみならず、キャラクターや境遇などに対しても陰翳礼讃である私としては、どうしても後者の方に心が惹かれますので、今回は冷鉱泉の使用施設のひとつである「サン・ねむの木」へ立ち寄って入浴利用してまいりました。海岸沿いの松が生えた小高い丘の上に建つこちらのお宿は、いかにも昭和の公共宿泊施設らしい、ちょっと古めかしい建物でして、ここで本当に立ち寄り入浴できるのか不安になってしまいそうな、あまりに地味で物静かな佇まいでした。


 
フロントで料金を支払ったら、目の前にある階段の下でスリッパに履き替え、階段で3階まで上がります。


 
ウッディな内装の脱衣室はよく手入れされていて綺麗です。室内には貴重品用ロッカーが備え付けられており、洗面台は2台設置。扇風機も回っているので、湯上がりのクールダウン対策もバッチリですね。


 
洗い場以外の3方向がガラス窓になっている浴室は、特に浴槽が面している2方向は下辺まで窓なので、内湯らしくない開放感と展望が得られます。
なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が7基設置されています。


 
窓からは民家越しに日本海が、反対側からはなだらかに広がる由利高原が望めました。付近では羽越本線の線路が横切っているので、たまに踏切の音や列車のジョイント音が響いてきます。この日は盛夏の真っ只中だったのですが、その暑さゆえか、アブラゼミが大量発生しており、網戸や庇にしがみつきながらジージー唸って、その大音響が室内に木霊していました。


 

浴槽は10人サイズで、縁は黒い御影石のような石材が用いられており、槽内は十和田石のような緑色凝灰岩が敷き詰められています。多孔質の石材は肌触りが心地よいですから、浴槽におしりを付けたときの柔らかな感触は実にコンフォータブルでした。

湯口から吐出されるお湯は加温循環消毒がなされたものでして、無色透明でほぼ無味、硫黄が劣化したような匂いの残骸が微かに漂っています。冷鉱泉ですから加温は当然として、消毒に関しても積極的に実施されていることが窺われ、脱衣室内には「レジオネラ症対策に真剣に取り組み、徹底した衛生管理を行っていますので安心して入浴をお楽しみください」と記された貼り紙が掲示されていました。温泉ファンとしてはあまりお目にかかりたくない文言ではありますが、お年寄りの利用者が多い温泉施設にとって、塩素消毒による病原菌の感染回避は切実な問題であり、万一問題が起きた時は施設が責任を負わなきゃいけないわけですから、中途半端に掛け流すより循環消毒を採用する施設側の事情を、一介の利用者としては斟酌しなければなりませんね。とはいえ、塩素臭は殆ど気になりませんでしたし、縁からはお湯が静々と溢れ出ていましたから、薬剤使用量はできるだけ抑えられているとともに、循環しつつ一定量の新鮮源泉も追加投入しているのでしょうね。


 
でも加温循環消毒のお湯のみならず、冷鉱泉の生源泉を直接湯船に投入できるのが、このお風呂の非常に良いところであります。縁からニョキっと突き出た源泉の水栓を開けると、ドバドバと勢い良く冷たい源泉が吐出され、その瞬間、プーンと芳しいタマゴ臭が放たれます。またその鉱泉水を口にすると芳醇なタマゴ味が口腔内を駆け巡りました。総硫黄4.5mgという立派な硫黄泉なのであります。まるで埼玉県秩父地方でよくみられるタマゴ水のような、実に明瞭なタマゴ感を有する冷鉱泉に触れ、私は俄然興奮してしまいました。この鉱泉水を張った水風呂に入ってみたいなぁ…。この時は後から入る他のお客さんへ迷惑が及ばない程度に、この源泉を湯船にたっぷり入れ、できるだけ冷鉱泉の濃度を高くした状態で湯浴みを楽しみました(使用後は源泉の蛇口をきちっと締めましょう)。

国道沿いの道の駅「ねむの丘」はこの日大混雑でしたが、こちらは終始私一人の独占状態でした。穴場的存在と言えましょう。


単純硫黄冷鉱泉(硫化水素型) 14.5℃ pH8.4 溶存物質599.5mg/kg 成分総計599.5mg/kg
Na+:126.2mg,
Cl-:147.2mg, HS-:2.2mg, S2O3--:2.3mg, HCO3-:228.3mg,
H2SiO3:40.4mg, H2S:0.1mg未満,
入浴に適した温度に保つため加温
衛生管理のため循環ろ過装置を使用
秋田県公衆浴場条例の基準を満たすため塩素を使用

象潟駅・金浦駅・羽後本荘駅より羽後交通バスの本荘・象潟線で「蚶満寺前」バス停下車徒歩3~4分(約300m)、あるいは羽越本線・象潟駅より徒歩20分(1.5km)
秋田県にかほ市象潟町字才の神31  地図
0184-43-4960
ホームページ

日帰り入浴9:00~17:00 火曜定休
300円
貴重品用ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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