温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

十和田大湯温泉 荒瀬共同浴場

2013年07月31日 | 秋田県
 
久しぶりに十和田大湯温泉で湯めぐりしてみることにしました。1湯目は足元湧出で有名な「荒瀬共同浴場」です。入口の手前に置かれているカラフルな腰掛けは、元々観光バスのシートなのかな?


 
小さな券売機で料金を支払い、座敷の右側のこれまたコンパクトな窓口で座っているおばちゃんに券を手渡します。



窓口の傍には料金値上がりのお知らせが掲示されていました。値上げといっても150円から180円へ30円アップする程度なのですが、利用回数の多い方には影響が大きいのでしょう。なお値上げの理由は「利用者の著しい減少等」とのこと。御多分にもれず高齢化が進んで常連は次々にお星様となり、数少ない若年層は家風呂を使うため、共同浴場を使う人は年々減っているんでしょうね。利用者が減るということは、料金面で苦しくなるのは当然のこと、どの共同浴場も当番制で管理しているわけですから、その当番を担う人間も減少してしまうとなれば、管理運営面でも浴場そのものの存亡に関わる大きな問題となってしまいますね。



浴室のドアのガラスには「風呂場でねるな」とストレートな表現の注意書きが貼りだされていました。トド好きの皆さん、要注意です。脱衣室は棚と洗面台があるだけの、実用本位な造りですが、うちわが5個くらい用意されていて、湯上りにはこれがとても重宝します。


 
脱衣室からステップを数段下りて浴室へ。この日も利用客減少という現象が信じられないほど多くの入浴客で賑わっていました。室内の床や浴槽の底には十和田石と思しき緑色の凝灰岩系石材が敷き詰められており、多孔質ゆえに滑りにくく、歩いた時に足裏に伝わる柔らかなフィーリングも快適です。室内の洗い場には水道の蛇口が2~3箇所あるだけですから、お湯は湯船から直接桶で汲むことになります。なお浴槽内側面の一部には細長い貫通穴があいているので、湯船のお湯は女湯とつながっています。

浴槽底に敷かれている石材の隙間からは、当浴場名物である足元湧出のお湯が気泡と共にポコポコと上がってきます。一応、足元からの自然湧出ということになっていますが、実際には湯船の手前にある湯溜まりに一旦源泉が落とされ、それから浴槽の底へと供給されているようです。とはいえ、湯使いはお客さんにより加水されますが、純然たる放流式であり、縁からしっかりとオーバーフローしています。加水されているとはいえ湯加減は44~7℃という高温でセッティングされていることが多く、全身入浴ですとせいぜい1~2分がいいところ。前回訪問時は47℃くらいでして、頑張って30秒でしたが、今回は先客がしっかり加水してくれたため(体感で)45℃まで下がっており、2分は入り続けることができました。とはいえ熱いことには変わらず、あっという間に全身が真っ赤っ赤になっちゃいます。とにかくここの風呂はいつ入っても熱い。もしかしたらこの熱湯風呂が地元の年寄りの寿命を縮めているんじゃないかと疑いたくなります。

さて肝心のお湯に関してですが、見た目は無色澄明、弱い芒硝味と薄い食塩味を有し、芒硝系の香りがわずかに感じられました。大湯温泉は源泉によって特徴が微妙に異なり、特に硫黄感に関しては源泉による差異が大きいのですが、荒瀬の湯源泉の場合は、硫黄的知覚にかかわる物質の量がいずれも0.1mg以下であることから明らかなように、硫黄的な味や匂いがあまり感じられません。でも無駄な個性や主張が無いため後腐れなくスッキリサッパリ入れるのが良いところ。熱さといい浴感といい、秋田県なのになぜか江戸っ子気質に近いものを感じるお風呂であります。


荒瀬の湯
ナトリウム-塩化物温泉 53.8℃ pH7.9 湧出量不明(自然湧出) 溶存物質1.31g/kg 成分総計1.31g/kg
Na+:382.3mg(85.28mval%), Ca++:46.7mg(11.95mval%),
Cl-:617.2mg(91.30mval%), SO4--:75.3mg(8.23mval%),
H2SiO3:94.4mg, HBO2:70.4mg,
(Cf, HS-:<0.1mg, S-:0.1mg, S2O3--:<0.1mg, H2S:<0.1mg)

花輪線・鹿角花輪駅より秋北バスの大湯温泉行で「大湯温泉」バス停下車、徒歩10分(850m)
(期間運行ですが鹿角花輪駅および十和田南駅から<a href="http://www.oodate.or.jp/shuhoku/bus/">秋北バスの十和田湖行、もしくは鹿角花輪駅から十和田タクシーが運行する路線バス(といってもハイエースで運行)の十和田湖行を利用すれば、「新橋」バス停下車徒歩1~2分)
秋田県鹿角市十和田大湯字荒瀬25  地図
大湯温泉観光協会HP

6:00~21:00
180円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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大滝温泉 ホテル仙波

2013年07月29日 | 秋田県
 
前回に引き続き秋田県の大滝温泉を湯めぐりします。今回は温泉街の東端に位置している「ホテル仙波」で日帰り入浴をお願いしました。ホテルと銘打っているものの、道路に面している間口は狭く、トタン屋根の建物も相当年季が入っており、その渋く鄙びた風情は、どちらかと言えばマニア向けかもしれません。



鄙びた外観からはちょっと不安を抱いてしまいますが、館内はしっかりとお手入れされており、床にはコバルトブルーのカーペットが敷かれていました。玄関で呼び鈴を何度押しても応答無く、大声でいくら叫んでみても無反応。もしや留守かと覚悟の上で勝手に館内へ入り込んでいったら、女将さんは奥の方の客室でどこかのお客さんとお喋りに夢中で、私の存在に気づいてくれなかったようです。普段はあまり来客の無い時間帯だったのかな。とっても長閑な時間が流れる館内の空気にこちらまでほのぼのしてしまい、お二方に挨拶の上で女将さんに料金を支払ってから、浴室へとおじゃましました。


 
おお! 懐かしい! 帳場近くの壁には国鉄特急の路線網やヘッドマークが羅列されたポスターが貼られていました。そのラインナップから判断するに、東北・上越新幹線の開業以前のものです。私も子供の頃に同じものを持っていましたっけ。


 
館内には展望デッキがあって、トタン屋根越しには、すぐ目の前を右から左へ流れる米代川を眺めることができました。玄関の間口こそ狭かったものの、館内の奥行きはかなり懐深く、川に沿って左右に広がっていて、ややもすれば迷子になりそうでした。



浴室へ行く途中の廊下には、顔面蒼白の女性二人が描かれた大きな絵が飾られており、その不気味な顔色と容貌を目にした刹那は、あまりの怖さに思わず怯んでしまいました。夜中に見たらオシッコちびっちゃいそう…。


 
浴室入口の手前には数段下るステップがあるのですが、各段とも中央部分が曲線を描いて膨らんだ形状となっており、細やかなタイルの装飾が施されていました。先述の絵といい、このステップといい、今でこそ古びて哀愁漂う鄙びの宿ですが、この建物がオープンした当時には昭和のモダンアートをふんだんに盛り込んだとってもオシャレな内装だったのでしょう。


 
浴室入口前に設置されている共用洗面台にはお湯が出る蛇口が2つあり、コックを捻ると熱い温泉が吐出されました。いかにも大滝温泉のお湯らしく、蛇口には白い析出が付着しています。


●浴室(小)
 
浴室は大小がひとつずつあり、小浴室には紅色の女湯の暖簾、大浴室には藍染の男湯の暖簾がかかっていましたが、女将曰く「両方とも入って良いですよ」とのことでしたので、お言葉に甘えて両方入浴させていただくことにしました。
浴室内には2~3人サイズの扇型をした浴槽がひとつ据えられています。


 
洗い場にシャワーは無く、水と湯の蛇口ペアが2組設けられているだけで、とてもシンプル。
壁には2羽の白鳥が水面に浮かぶ夕暮れの湖畔を描いたと思しき瀟洒なタイル絵が飾られていました。


 
湯船のお湯はその隅っこにある源泉溜まりから注がれており、曲線を描く浴槽縁から洗い場へ向かって静々とオーバーフローしています。投入量が絞られているためか、この日の小浴槽はややぬるめの湯加減でした。また源泉溜まりの内側にはトゲトゲした白い析出がビッシリこびりついていました。


●浴室(大)
 
続いて男湯の暖簾がかかっている大浴室へ。
女湯の倍以上はありそうな広さの浴室中央には、8~10人サイズの小判型浴槽が据えられています。天井は緩やかな曲線を描いており、見た目にやさしい印象を受けました。



洗い場に用意されている水栓は、女湯と同様に水と湯の蛇口ペアが2組設けられているのみ。


 
小判型の浴槽には無色透明のお湯が湛えられています。ややぬるめな女湯とは対照的に、こちらはやや熱めでした。その熱さと硫酸塩泉の性質ゆえに、湯船に入りしなは脛にピリっとした刺激が走りますが、肩までしっかり浸かるとトロミのあるベールで全身を包み込まれるような心地良い感覚が楽しめます。委細は後述しますが、底にあけられた穴から源泉が供給され、紺色の小さな丸いタイルが貼り詰められた縁の上を、静々ながらもしっかりとした量のお湯が溢れ出ていました。


 
露天風呂はありませんが、川を臨む展望テラスが浴室に隣接しており、目の前を悠然と流れる米代川を裸のままで眺めることができます。川縁のギリギリの位置にこのお風呂が建てられているんですね。京都鴨川の納涼床っぽい感じです。あまり使う人がいないのか、窓際にクモの巣が張られていたり、はげた塗装の破片などが散乱していたりと、やや荒れかかっているのが残念なのですが、湯船で火照った体をここへ吹き込む川風でクールダウンさせたらとっても爽快でした。


 
小浴室と同様に湯船のお湯は一旦源泉溜まりに落とされてから浴槽へと供給されているのですが、源泉溜まりから直接浴槽へ注がれる小浴室と異なり、こちらは大分県別府の各温泉施設でよく見られるような、湯溜まりから床の下を潜る配管を流れてから浴槽へと注がれるスタイルが採られていました。浴槽の縁には一見すると下手くそなコーキングの跡らしき白いラインがあったのですが、よく見ますとコーキングによる補修ではなく、亀裂に硫酸塩の白い析出が付着していたのでした。


 
源泉溜まりの縁に置かれていたコップでお湯を掬って飲んでみますと、弱芒硝味+薄石膏味+薄塩味が感じられ、芒硝臭がふんわりと鼻へ抜けていきます。大館周辺のお湯はその多くが無色透明の硫酸塩泉ですが、大滝温泉はその典型例ですね。こちらのお湯は鮮度感も良好です。

入浴中はトロミが全身を纏い、湯上りは熱がいつまでも体内に篭り続けて、なかなか汗が引きませんでした。無色透明と侮るなかれ、なかなかパワフルなお湯であります。
館内随所に見られるレトロな装飾の数々は、きっと元々はモダンでおしゃれなものだったのでしょうが、それらが経年を経て劣化してゆくと、却って哀愁が強く漂ってしまい、時の経過の残酷性を痛感せざるを得ませんでした。しかしながら、日帰り入浴のハードルが高めな大滝温泉にあって、こちらは入浴のみの利用もウエルカムであり、しかも入浴料も近隣他宿より安く設定されていますし、お湯もれっきとした掛け流しですから、利用する価値は大きいかとおもいます。


ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉
詳しいデータ不明

花輪線・大滝温泉駅より徒歩9分(750m)
秋田県大館市十二所桑原1  地図
0186-52-3508

入浴可能時間不明
300円
シャンプー類あり、ロッカーおよびドライヤーは見当たらず

私の好み:★★
コメント (2)
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大滝温泉 富士屋ホテル

2013年07月28日 | 秋田県
 
失礼ながらも温泉界の昼行灯と称したくなるほど年々寂れる一方の秋田県大滝温泉。そんな温泉街にあって「やる気」が伝わってくるお宿「富士屋ホテル」で、日帰り入浴を楽しんでまいりました。こちらは積極的に日帰り入浴を受け入れている、大滝温泉ではありがたいお宿であります。


 
東北の温泉施設を巡っていると、館内で明らかにお婆ちゃん向けと思しき渋い色合いの衣服を販売してるお宿に出くわすことが多々ありますが、こちらのロビーでもやはり婆ちゃん好みの洋服がハンガーに吊られて陳列されていました。温泉では高齢者向け衣類(アパレルという語句はここでは似合いませんね)の需要が一定数あるということなんでしょうけど、まだ不惑に至らぬ私のような若輩者にはいまいち理解できないマーケットであります。受付にてスタッフの方に直接料金を支払い、館内説明を受けて奥へと進みます。フロントの向かいには冷たい水のサービスが用意されていました。


 
奥へ奥へと長く伸びる通路を進んで、その突き当りにある浴室へ。結構な距離を歩きましたが、裏路地に面した地味な正面玄関とは裏腹に、構内はかなり広いんですね。この日は私が初めての日帰り客だったらしく、この通路をのんびり歩いていたら、後ろからスタッフの方が駆け足で私を追い越し、浴室照明のスイッチをONにしてくれました。旅館の建物自体は結構年季が入っているようですが、一見した感じですと、脱衣室を含めたお風呂エリアは近年改装されたようでして、広い脱衣室は明るく綺麗で、籠も多くて洗面台のアメニティ類もそれなりに揃っており、使い勝手は良好でした。



浴室も広々としており、古い建物ゆえに低い天井は残念ですが、内装はすっかり綺麗に改修されており、2方向が大きなガラス窓となっているため、天井の低さを補って余りあるほどの開放感が得られ、昼間でしたら照明が無くても十分に明るい環境が創りだされていました。
床や浴槽の底などには十和田石と思しき青緑色の凝灰岩系石材が敷き詰められており、その性質上、濡れていても滑りにくいのは勿論のこと、独特の柔らかな質感が足裏に伝わってとても快適です。


 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が計9基設置されている他、立って使うシャワーも1基取り付けられています。もしかしたらシャワーから出てくるお湯って源泉かも…(間違っていたらゴメンナサイ)。


 
浴槽は大小2つに分かれたものが窓に面してL字形をなしており、奥の小さな浴槽は7~8人サイズで44℃近い熱めの湯加減である一方、大きな浴槽はその2~3倍はありそうな容量で万人受けする丁度良い温度がキープされていました。大小両浴槽にはそれぞれ湯口があって、そのまわりには硫酸塩の白い析出がこびりついています。館内表示によれば源泉温度が高いために加水されているそうですが、加温循環濾過消毒は実施されていない放流式の湯使いでして、御影石の縁より静々と常時オーバーフローしていました。

大小両浴槽とも湯口から出てくるお湯は共通して、加水されているとはいえ直に触るのが憚られるほど熱いのですが、にもかかわらず大小の湯船で湯加減が異なるということは、浴槽の表面積の違いによって温度調整ができているということなのかもしれません。なお大きな浴槽に関しては、奥の湯口だけでは湯船に温度ムラが発生してしまうため、湯口から離れた槽内の穴からも源泉が投入されていました。


 
露天風呂は日本庭園風で、木材で縁取られた四角い浴槽がひとつ据えられており、立派な造りの東屋が湯船の頭上を覆っていて、周囲には庭園を構成する岩や灌木が配置されています。私が訪問した日はツツジの花が終盤を迎えつつも、辛うじて鮮やかな赤紫色の花を咲かせていました。露天エリアの足元は天然石敷きですが、縁の木の上は滑りやすいので、私のようなマヌケな人間は足元注意。


 
お湯は二段のつくばいを落ちながら湯船へと注がれています。傍のモミジが美しいですね。内湯同様に湯口のお湯は熱いのですが、投入量が絞られているため、湯船では丁度良い温度となっていました。湯船を満たしたお湯は縁の浅い切り欠けから溢れ出ています。もちろん内湯と同じく放流式野湯使いです。なお槽内投入などは未確認。

お湯に関するインプレッションですが、いかにも大館界隈の温泉らしい典型的な無色透明の硫酸塩泉的特徴を有しています。内湯では浮遊物の無い澄み切ったお湯であるのに対し、露天の湯中では繊維質の浮遊物が見られたのですが、これは浴槽縁に用いられている木材の繊維が溶け出たものかと思われます。浴室内には石膏泉らしい匂いがふんわりと漂っており、お湯を口にすると石膏味と薄い塩味、そして弱い芒硝味が感じられました。お湯に浸かると硫酸塩泉らしいトロミとともにキシキシとした引っかかる浴感があり、ややぬるめの小さな浴槽でも入りしなはピリっとくる弱い刺激が肌を走りました。なお分析表には「わずかに硫化水素臭があり」と記載されているのですが、私の鼻が鈍感なのか、イオウ感に関しては実感できませんでした。お湯から上がった後は、まるで体内に熱した石炭を抱えているかのようなホコホコ感がいつまでも続き、なかなか汗が引きませんでした。無色透明とはいえなかなかパワーのあるお湯なんですね。


新5号井
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 64.6℃ pH8.2 1100L/min(動力揚湯) 溶存物質2196.1mg/kg 成分総計2196.1mg/kg
Na+:534.9mg(70.37mval%), Ca++:190.0mg(28.67mval%),
Cl-:551.9mg(47.24mval%), HS-:0.3mg(0.03mval%), SO4--:794.9mg(50.21mval%),
H2SiO3:55.9mg,
(平成11年7月23日)
源泉温度が高いため加水あり。加温循環濾過消毒なし。

花輪線・大滝温泉駅より徒歩5分(450m)
秋田県大館市十二所町頭22  地図
0186-52-3270

10:00~19:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず

私の好み:★★
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秩父鉄道の鉱石列車 三輪鉱山編

2013年07月27日 | 東京都・埼玉県・千葉県
※前回同様、今回も拙ブログの記事に温泉は登場しませんのであしからず。今度温泉が登場する記事は7月28日にアップする予定ですので、温泉ファンの方は恐れ入りますがそれまでお待ちください

「貨物時刻表」を定期購読しているほど、小さな頃から貨物列車が好きな私。駅のホームで電車を待っている時、貨物列車が目の前を通過すると小さな幸福に満たされます。今も昔も、華やかな新幹線や特急より、地味でも力強くしっかり仕事している貨物列車に魅力を感じます。かつて日本全国に敷設された鉄道路線は、その多くが貨物輸送を目的にしたものであり、旅客輸送はそのついでと言っても過言ではなかったのですが、トラック輸送全盛の今となっては、鉄道貨物はすっかり斜陽、国交省が口先だけで「モーダルシフト」と叫んでみても、次々に鉄道貨物が廃止されています。
JR各線やJR貨物が出資している各地の臨海鉄道を別とすれば、現在私鉄で定期貨物列車を走らせているのは、埼玉県の秩父鉄道と三重県の三岐鉄道の2社のみ。両社とも太平洋セメントを株主としている共通点があり、前者は石灰石と石炭を、後者はセメント・炭カル・フライアッシュをそれぞれ貨物輸送していまして、両社とも取扱量こそ年々減っているものの、いまだに結構な本数の貨物列車が走っています。初夏の某日、貨物列車が活躍する光景を目にしたく、自宅から日帰り可能な圏内にある秩父鉄道沿線へと出かけました。



画像左(上)は長瀞駅下りホームで普通列車三峰口行を退避する鉱石列車の返空(工場から積荷を下ろして、積み込み場所へ戻ってゆく列車)。画像右(下)は石灰石の産地である武甲山を背景にしながら、和銅黒谷駅へやってきた鉱石列車です。
秩父鉄道における貨物列車は、秩父山地で採掘される石灰石を熊谷市の太平洋セメント熊谷工場へ輸送する列車と、そのセメント工場で用いる石炭を鶴見線扇町駅からJR線を経由して運んでくる列車の2種類があるのですが、輸送量や運行本数ともに前者が圧倒しており、前者に関して秩父鉄道では「鉱石列車」と称して、他の貨物列車と区別しています。他私鉄の貨物列車が次々と姿を消してゆく中で、なぜ秩父で生き残っているのかは良くわかりませんが、少なくとも自社グループ内で完結する輸送形態ゆえに他社との調整などややこしい問題が生まれにくい点は大きな要因と言えそうです。



秩父鉄道における石灰石輸送の現状を図にしてみました。同鉄道で運ぶ石灰石の産地には叶山鉱山と三輪鉱山(武甲山の鉱山のひとつ)の2箇所があり、叶山鉱山で採掘されたものは地下のベルトコンベアで武州原谷駅まで運ばれ、そこから貨車に積み込まれますが、三輪鉱山では直接ホッパーから貨車に積み込まれます。両者とも武川までは旅客列車と一緒に秩父鉄道本線を走行し、武川からは貨物線(三ヶ尻線)に入って、太平洋セメントの熊谷工場で積荷を全ておろします。

年間200万トンを産出する叶山鉱山(昭和59年操業開始)に対して、古くから採掘されている武甲山の石灰石産出量は年々減少しており、三輪鉱山の年間産出量は叶山の半分にも満たない85万トンです。この生産量に鉱石列車の運行本数も比例しており、叶山鉱山の石灰石を運ぶ武州原谷駅発着の鉱石列車は平日・土休日を問わず運転されているのに対し、三輪鉱山発着の鉱石列車は平日の午前中に出発する3~4本のみです(不定期運行を除く)。せっかく見学しに行くのならば、メジャーなものよりレア度の高い方が楽しめますので、今回は三輪鉱山を発着する鉱石列車の様子を追跡してみることにしました。


●影森構外側線と三輪鉱山(事業所)
三輪鉱山を発着する鉱石列車は、影森駅から盲腸のようにちょこんと数百メートルだけ伸びている専用線「影森構外側線」を走って鉱山に出入りします。この影森構外側線は、秩父鉄道の旅客用路線図に載っていないのはもちろんのこと、ネット上の地図を見ても思いっきり拡大しないと表示されないほど知る人ぞ知るマニアックな存在であり、市街地から外れた山麓の森の中へ隠れてゆくように伸びる秘密基地的な雰囲気もより一層興味を引き立てます。


 
影森駅の三峰口寄りにある踏切から、下り方面(三峰口方向)を臨んだ様子。奥へ延びている3本の線路は、左が影森構外側線、中は廃線になった武甲線跡、右は秩父鉄道の本線です。ポイントの脇に佇む小さな廃屋はかつて使われていた転轍小屋でしょうね。


 
影森構外側線は影森駅を出発するといきなり20パーミルの登り勾配となります。鉱山へ戻る鉱石列車は、いくら空っぽとはいえ牽引する機関車には重荷となるらしく、線路の周りにはスリップを防ぐために機関車が撒いた砂がたくさん散らばっていました。


 
雑草が生い茂る線路と20パーミルの勾配標。


 
勾配標の近くで影森構外側線を横切る第4種踏切。「あぶない 左右見てから」の標識は何年前のものでしょうか。霊場巡りの地秩父らしく、この踏切道の傍に立つ木の架線柱には「巡礼道」の札がくくりつけられていました。


 
第4種踏切を渡るとそのまま秩父鉄道本線を超える跨線橋となります。親柱には大正二年と彫られていました。


 
跨線橋の下を三峰口行の普通電車(旧東急8500系)が車輪を軋ませながら走り去っていきます。本線の右側は武甲線の線路敷跡。いまだに線路が残っていますね。


 
古くから石灰石の産地として有名な武甲山には現在3つの鉱山が稼働しており、その中のひとつが秩父太平洋セメントの三輪鉱山であります。



構外側線と線路沿いの路地のとの境界には、かつての秩父セメントの社紋が入った境界石が立てられていました。


●空っぽの列車が鉱山へ返ってきた

セメント工場から戻ってきた返空(空っぽ)の7303列車が10:40頃に影森駅を通過し、構外側線を登って三輪鉱山へとやってきました。


 
10:42。石灰石を貨車に積み込むホッパーには架線(電線)が張れませんから、荷役線へ入る手前でここまで牽引してきた電気機関車が切り離され、そのかわり入換用のディーゼル機関車"D502"が貨車をホッパーへと導きます。


 
10:44。ブレーキを緩めた瞬間、貨車の重さに引っ張られて一瞬後退(流転)しますが、D502が白い排気ガスを上げながら懸命に踏ん張り、ゆっくりとホッパーの下へ入って行きます。



ここまでの様子を動画でまとめました。



●石灰石を積み込んだ鉱石列車が出発

11:18。石灰石が積み込まれた貨車に電気機関車が連結されました。



11:20。ホイッスルを鳴らして7304列車が三ヶ尻(太平洋セメント熊谷工場)へ向けて出発です。ブレーキ試験のため、初めはちょこっと動いてすぐに止まりますが、その後再びホイッスルを鳴らして動き出し、構外側線を影森駅方向へと下ってゆきます。



出発の様子を動画にまとめました。


 
ちなみに上画像は2枚とも一本前の7204列車です。この列車は茶色の機関車が牽引していました。最後尾に連結されている車両(ヲキフ)の後ろ姿は、ホラー映画「13日の金曜日」のジェイソンが被っていたマスクを彷彿とさせる、何か不気味な顔立ちをしていますね。真夜中に遭遇したら怖くて失禁しちゃいそうだ…。



参考までに叶山鉱山で採掘された石灰石を積む鉱石列車(波久礼~樋口)の様子も載せておきます。影森構外側線の鉱石列車の画像と比較すれば一目瞭然なのですが、叶山鉱山の石灰石は真っ白であるのに対し、ちょっと赤っぽいのが三輪鉱山で採掘される石灰石の特徴です。

かつてはこのような貨物列車の荷役や機関車の入換なんて、日本各地で当たり前のように見られたのですが、気がつけばこの三輪鉱山などごく一部にしか残っていない、とても珍しい光景となってしまいました。前回取り上げた「宝登山ロープウェイ」と同様、秩父を代表する現役の昭和の光景です。
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カワイイ&懐かしい 宝登山ロープウェイ

2013年07月26日 | 東京都・埼玉県・千葉県
※今回から2回連続で、温泉とは無関係の記事が続きますのであしからず。今度拙ブログに温泉が登場するのは7月28日の予定ですので、恐れ入りますがそれまでお待ちください

秩父の鉱泉巡りをしていた某日、そのついでに昔懐かしい乗り物と触れ合いたくなり、現役のロープウェイでは関東最古(※)といわれている「宝登山ロープウェイ」に乗ってまいりました。
(※)某フリー百科事典では「関東最古の搬器」と記されていますが、実際には箱根・宮ノ下の大和屋ホテルで稼働している自家用ロープウェイ「夢のゴンドラ」が関東最古だと思われます。大和屋ホテルはれっきとした索道事業者ですからね。でも「夢のゴンドラ」は宿の利用客以外は乗れませんから、公共交通機関としては「宝登山ロープウェイ」が最古と言えるのかもしれませんね…。


 
秩父鉄道・長瀞駅からダラダラ坂を15分ほど歩いて、宝登山ロープウェイの山麓駅へとやってまいりました。駅には実際に使われている索条(ケーブル類)などのサンプルが展示されています。


 
まずは窓口にて乗車券を購入します。西武鉄道や秩父鉄道などで発行しているフリーパス(きっぷ)を提示すると、通常は往復で800円のところ、720円になる割引料金が適用されます。窓口にて発行されるきっぷは硬券(A型硬券)なんですね。もう既にレトロな雰囲気です。同駅では入場券も販売しているので、実際に購入してみました。乗車券同様に硬券(こちらはB型硬券)であり、そのレイアウトは親会社である秩父鉄道各駅で発行される入場券と同様です。ダッチングなどは無いらしく、日付は入りませんでした。



宝登山ロープウェイってどんなロープウェイなのでしょうか。
公式サイトに掲載されている説明文をそのまま引用しますと…
標高497メートルの宝登山(ほどさん)に架設されている宝登山ロープウェイは、 山麓駅から山頂駅までの全長832mを約5分間で結び、2台のゴンドラ(50名様乗り)が、山頂駅と山麓駅をつるべ式に往復する四線交走式システムで運転を行っています。また、ゴンドラにつけられた「ばんび号」と「もんきー号」の名前の由来は、宝登山小動物公園の人気者、ニホンザルとシカにちなんだ名前です。
つまり、山麓駅と山頂駅の間を「ばんび号」と「もんきー号」という2台の搬器がつるべ式(片方が上がれば他方は下る方式)により昇り降りしているわけです。

では、のりばへ向かいましょう。


●ばんび号
 
やばい! 超カワイイ!
のりばで待っていたのは「ばんび号」でした。かわいいキャラクターがあふれている現代において、「ばんび」という昭和臭いワードから放たれる響きはあまりに懐かしく、むしろ新鮮味すら感じられます。
ネーミングのみならず、ズングリムックリとした丸っこい搬器のスタイルが、とっても昭和的です。名前といいボディーといい、昭和30年代から時が止まっているかのようであり、かつての少年たちが夢に抱いた未来の乗り物のようです。「ばんび」という字の丸っこくてポップな感じのレタリングも、高度成長期っぽい匂いがしますね。観光地はもちろん、当時はどのデパートにもあった屋上遊園地的なセンスが強く匂います。ジャイアンツのキャップを被り、ヨレヨレのシャツに半ズボンという格好の男の子が、メンコやビー玉などと一緒に自分の「宝箱」にしまっていた、表紙が厚紙の「のりもの絵本」に登場していそうなデザインです。



カラーリングはかつて秩父鉄道を走っていた車両の塗装に準じているのですが、丸っこいボディに黄色と茶色の配色を見ているうちに、ふと或るウルトラ怪獣、いや快獣を思い出さずにはいられなくなりました。「快獣ブースカ」に似ていませんか。まさかロープウェイの搬器デザインに円谷プロダクションが一枚かんでいたりして。
(上画像の「ブースカ」フィギュアは私個人の所有物です)



つるべ式の運行ですから、必ず真ん中の位置で反対側と行き違います。上画像は山麓駅へ下ってゆく「もんきー号」です。



折り返し、山頂駅を出発して山麓駅へ下ってゆく「ばんび号」。上から見下ろすと、搬器の丸っこさがより判然としますね。なお搬器こそ開業当時のままですが、懸垂機は2002年頃に更新されているそうです(某無料百科事典より)。


 
5分の乗車で山頂駅に到着。標高453m。ほとんどのお客さんは往復の乗車券を購入するのですが、歩いて宝登山へ登ることもできますから、そのような客のために片道券も販売しており、山頂駅の窓口では山麓駅同様に入場券も販売していました。



こちらは山頂駅での出発直前、「ばんび号」の前に立ってお客さんを迎えるスタッフのお姉さんの様子です。車体に描かれたバンビちゃんのイラストの、何とも言えない懐かしさと可愛らしさに思わず感涙しそうになりました。スタッフのお姉さんは今時珍しくお姉さんは三つ編みをしていますが、失礼と語弊を承知の上、あくまで私の第一印象だけで申し上げれば、そのお姉さんの日常を推測するに、通勤時の愛車は改造済の黒いタントカスタム、キティーちゃんとヒョウ柄が大好きで、日没後には水商売でロープウェイの安い給料を穴埋めしていそうな風貌でしたので、おそらくレトロなロープウェイに合わせた髪型規定のようなものが存在していて、無理やり三つ編みにしているんじゃないかと、下らぬ想像をしてしまいました。ゴンドラ車内ではお姉さんが、これまた昭和の観光バスのガイドさん的な古風な口調で宝登山の観光案内をアナウンスしてくれます。その無理矢理感がまた何とも言えず良いのです。


●もんきー号
 
こちらは「もんきー号」です。「ばんび号」とスタイルは同一ながら、懸垂機は対称に取り付けられています。「もんきー」のレタリングは、元気ハツラツなちびっ子のイメージによく合いますね。



乗降口の両側に描かれたおサルさんの絵。
ドアはもちろん手動式です。扉のガラス窓はグレーのHゴムによる固定で、いわゆる鉄道車両で言うところのバス窓を上下逆さにしたような大小2段窓です。かつて電車のはめ殺し窓といえばHゴム(※)が当たり前でしたが、今や(少なくとも東日本では)その姿を見る機会も減りましたね。
(※)薬局で売っているHなゴムのことではありません。窓枠などに用いられるゴムのことであり、断面がH字型をしているのでそのような名称となっています。


 
平手でペシっと叩きたくなるような曲線を描くデコッパチ。このおでこにおける黄色と茶色の塗り分け方を見ますと、今はなき元パ・リーグ広報部長のパンチョ伊東氏の頭髪の生え際(というかズラ際)を連想してしまいました。車体表面のボコボコしたリベット接合も今ではあまり見られないものですね。

下部で出っ張っているライト類も当時のデザインセンスを象徴しています。この当時の鉄道車両はヘッドライトとテールランプを一体化させて出っ張らせるデザインが流行しており、具体的には国鉄の特急車両(181系などのボンネットタイプ・キハ82等)、東武DRC(1720系)・小田急NSE(3100形)・名鉄パノラマカー(7000系)・南海デラックスズームカー(20000系)などなど、枚挙に暇がありません。この搬器の設計者も当時の流行に沿ったのでしょう。


●車内
 
乗客に宝登山や長瀞の眺望を提供する大きなパノラマ窓。
国鉄の通勤電車を思い出させる青いシート。コーナーなど部分的に擦れて薄くなっていました。



車内銘板には「日本車輌 昭和36年 東京」と記されていました。てことは、今年でちょうど御年50歳を迎えるわけです。東京と記されていますが、当時の日本車輌の東京支社(蕨工場)は埼玉県川口市にありましたから(※)、つまり県内産の車体なのであります。
(※)蕨工場は昭和40年代に撤退し、その跡地は川口芝園団地となっています。


 
画像左は車内の操作スイッチ。一方、画像右の分度器のようなものは、おそらく水平器でしょうね。すっごくアナログな仕組みだこと…。


 
ペンキが厚く塗られた車内。空調なんてものはありませんから、暑い時には上の窓を全開にします。



バランスをとるため「車内では両側に平均に」乗ってくださいとのお願いが貼ってありました。
定員は50人で、宝登山で蝋梅が咲く頃には毎年満員の乗客を乗せるため、立客のための手すりは欠かせません。これまた私の勝手な想像ですが、この手すりの支持金物は、キューポラのある街川口で造られた鋳物かもしれません。もしそうなら、県内調達率が高い車体と言えそうです。今でこそタワーマンションが林立している川口の街ですが、そうしたマンションが立地している場所にはかつて鋳物工場が存在していたのであり、私も幼い頃、赤羽の荒川の土手で遊んでいると、川の対岸から北風にのって、キューポラから吐き出される煙とともに独特の臭いが漂ってきたことを思い出します。

懐かしさと可愛らしさを兼ね備えた搬器「空飛ぶブースカ」に乗って長瀞のパノラマを楽しむ5分の空中散歩。
宝登山の山頂には小動物園や宝登山神社の奥宮、そして蝋梅園がありますから、それらを目的に訪問するのも良し、あえて単純往復だけにして懐かしい搬器を堪能するも良し。観光地としての秩父の奥深さを実感させてくれる施設ですね。


秩父鉄道・長瀞駅より徒歩15分
往復800円(割引適用で720円)
宝登山ロープウェイのホームページ
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