温泉ファンの間では名湯の誉れが高い「小屋原温泉・熊谷旅館」へ宿泊してきました。
こちらは日帰り入浴も可能ですが、後述するように利用に制限があるため、制限無く自由に入浴できる宿泊で利用することにしたのです。電話で予約を入れた際にはこちらを不安にさせる無愛想な対応でしたが、実際に訪れてみると不安を覆す親切な接客だったので、そのギャップに「本当に同じ宿なのかしら」と驚いちゃいました。
「熊谷旅館」は三瓶山の麓に位置する小屋原集落からちょっと離れた谷あいに建つ一軒宿です。小屋原集落から小さい看板を見落とさないよう注意して、その看板が指し示す方へ進んでいきます。池田・小屋原集落側から行けば狭い道を進む距離は短くて済みますが、逆から来ると路面が悪くて離合も困難な狭隘道を延々と走らねばならないので要注意です(それでも県道なんですけどね)。
鄙びた外観で、旅館というより僻地の診療所や土木事務所のような佇まいです。
通されたお部屋は玄関隣の和室。谷あいの古い一軒宿と聞いていたので、大変失礼ながら手入れが行き届いていないのではないかという先入観があったのですが、そんな予想を良い意味で裏切る綺麗なお部屋です。テレビは地デジ対応、部屋にはトイレと洗面台が付帯しており、トイレは洋式、というように設備面も完璧。
1泊2食付でお願いしましたが、出てくるお料理もボリューム満点でとっても豪華。無芸大食の私でも十分お腹いっぱいになりました。
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さて肝心のお風呂です。こちらのお風呂は個室風呂が4室あって、宿泊者は全てを貸切で利用することが出来ます(もちろん他のお客さんが入っているときは空くまで待たねばなりませんが)。日帰り入浴の場合は4室のうち1室しか使ってはならず、しかも1時間の制限まで設けられているため、すべての浴室をゆっくり制覇するなら宿泊するのがいいのです。
各室で投入されているお湯は同じ源泉が用いられているのですが、浴槽の構造が部屋によって微妙に異なるためか、お湯も部屋によって若干違うように感じられるのが面白いところです。
各浴室は廊下に沿ってまっすぐ並んでいるので、ここでは一番奥をAとして、奥から手前へ順々に取り上げていきます。
なお各室共通の特徴としては、
・浴槽がポツンと一つあるだけの質素な造り。キャパシティは浴室によるが2~3人。
・創業した明治時代からそのままの姿を残しているので、かなり年季が入っている。
・各室ともカランあり(シャワー無し)。ただしお湯の栓を開け、給湯器が立ち上がってから暫くしないとお湯は出ない。
・源泉温度がぬるいため、浴槽には熱いお湯を入れる栓があり、これで湯温を調整する。
などが挙げられますので、それを念頭に置いた上で、各浴室のお風呂について述べさせていただきます。
・A(一番奥)
浴槽は厚さ1~2cmの木板造り。何らの装飾は無い。洗い場はカルシウムの析出で見事な千枚田状態。鉄分の付着により赤茶色に染まっている。お湯は薄い赤茶色の笹濁りで、濁っているものの底は見える。
口腔内にジュワっと刺戟を与える明瞭な炭酸味+出汁味+塩味+金気味。出汁のいい香り+金気の匂い+油のような匂い(タマゴ臭に似て非なるもの)。湯口に鼻を近づけると炭酸ガスに咽て咳き込んでしまった。
湯面に油の薄い膜が浮く。食塩泉だが、金気やカルシウム分のためにギシギシとした浴感。赤茶色の細かな浮遊物が湯中で沢山舞っており、体に付着する。この浮遊物はコンディションによって状態が異なるらしく、夜に入ったときには浮遊物としてしっかり目視できたが、朝にはまとまって固形化せず、コロイド状になって細かく分散していた。
また炭酸ガスの気泡もびっしり付着し、特に湯口から落ちてくるお湯に直接腕を当てると、大粒の泡で覆われてしまう。
・B(奥から2番目)
Aと同じく四角形の浴槽。一見するとコンクリ造のようだが、実はAと同じく桧の板であり、コンモリとした析出に覆われているため木の肌がすっかり隠れてしまっているのである。味・匂い・泡つきはAと同様。浮遊物はあまり見られず、コロイド上の微細な粒子が湯中を舞っていた。洗い場の千枚田状態は、4室の中ではこのBが一番立派。お湯に足を入れた途端、泡がはじけて肌にプチプチと刺激を与える。
・C(奥から3番目)
一番小さな浴槽で、一人サイズ。対角線上に体を入れれば足を伸ばせる。2人も入れないことはないが、かなり窮屈だろう。丸みを帯びた浴槽で、槽のまわりには排水のための溝が彫ってあるため、オーバーフローしたお湯は洗い場へ流れていきにくい。このため洗い場には千枚田が形成されず、元々の模様が残されている。
・D(最も手前)
4室の中で最も大きな浴槽。大人2人は余裕、更に子供も1人は入れそう。人が浴槽に入ってお湯がオーバーフローすると、洗い場はちょっとした洪水状態になる。ということは洗い場の千枚田もかなり凄い。他の浴槽に比べて油っぽさやタマゴ感が若干強めかもしれない。気泡の着き方も多い。湯口からはお湯と共に微弱な風が出ており、これを意識的に吸うと咽てしまう。おそらく炭酸ガス濃度が高いのだろう。カランは2基設置。
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いずれにしてもとにかく濃いお湯で、ミカンを食べたわけじゃないのに、お湯に入っているうちに爪の間が黄色くなっちゃいました。
また人体の不感温度に近いぬる湯なので、いつまでも長湯でき、じっくりとお湯を堪能することができるのです。炭酸ガスの温浴効果でぬるくても体の芯からポカポカします。
歓楽的要素は一切無く、宿の周りも何にも無い。ただひたすらお湯に浸かるためだけのお宿。でもお風呂のあちらこちらから歴史を感じることができ、昔ながらの湯治ってこんな風なんだろうなと、温泉の歴史を追体験することができました。静謐の中でじっくりお湯に専念できる、素晴らしいお宿でした。
ナトリウム-塩化物温泉 37.8℃ pH6.0 30.8L/min(自噴) 溶存物質6.59g/kg 成分総計7.35g/kg
(遊離二酸化炭素759.0mg/kg)
島根県大田市三瓶町小屋原1014-1 地図
(↑地図では小屋原温泉以北の県道286号線が太く描かれていますが、これはとんでもない嘘。実際には地元の人ですら敬遠するほど狭隘で険しい道ですので、南側の池田集落方面からアプローチすることをおすすめします)
0854-83-2101
日帰り入浴9:00~19:00
500円/1時間
ボディーソープあり、他の備品類は無し
私の好み:★★★
こちらは日帰り入浴も可能ですが、後述するように利用に制限があるため、制限無く自由に入浴できる宿泊で利用することにしたのです。電話で予約を入れた際にはこちらを不安にさせる無愛想な対応でしたが、実際に訪れてみると不安を覆す親切な接客だったので、そのギャップに「本当に同じ宿なのかしら」と驚いちゃいました。
「熊谷旅館」は三瓶山の麓に位置する小屋原集落からちょっと離れた谷あいに建つ一軒宿です。小屋原集落から小さい看板を見落とさないよう注意して、その看板が指し示す方へ進んでいきます。池田・小屋原集落側から行けば狭い道を進む距離は短くて済みますが、逆から来ると路面が悪くて離合も困難な狭隘道を延々と走らねばならないので要注意です(それでも県道なんですけどね)。
鄙びた外観で、旅館というより僻地の診療所や土木事務所のような佇まいです。
通されたお部屋は玄関隣の和室。谷あいの古い一軒宿と聞いていたので、大変失礼ながら手入れが行き届いていないのではないかという先入観があったのですが、そんな予想を良い意味で裏切る綺麗なお部屋です。テレビは地デジ対応、部屋にはトイレと洗面台が付帯しており、トイレは洋式、というように設備面も完璧。
1泊2食付でお願いしましたが、出てくるお料理もボリューム満点でとっても豪華。無芸大食の私でも十分お腹いっぱいになりました。
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さて肝心のお風呂です。こちらのお風呂は個室風呂が4室あって、宿泊者は全てを貸切で利用することが出来ます(もちろん他のお客さんが入っているときは空くまで待たねばなりませんが)。日帰り入浴の場合は4室のうち1室しか使ってはならず、しかも1時間の制限まで設けられているため、すべての浴室をゆっくり制覇するなら宿泊するのがいいのです。
各室で投入されているお湯は同じ源泉が用いられているのですが、浴槽の構造が部屋によって微妙に異なるためか、お湯も部屋によって若干違うように感じられるのが面白いところです。
各浴室は廊下に沿ってまっすぐ並んでいるので、ここでは一番奥をAとして、奥から手前へ順々に取り上げていきます。
なお各室共通の特徴としては、
・浴槽がポツンと一つあるだけの質素な造り。キャパシティは浴室によるが2~3人。
・創業した明治時代からそのままの姿を残しているので、かなり年季が入っている。
・各室ともカランあり(シャワー無し)。ただしお湯の栓を開け、給湯器が立ち上がってから暫くしないとお湯は出ない。
・源泉温度がぬるいため、浴槽には熱いお湯を入れる栓があり、これで湯温を調整する。
などが挙げられますので、それを念頭に置いた上で、各浴室のお風呂について述べさせていただきます。
・A(一番奥)
浴槽は厚さ1~2cmの木板造り。何らの装飾は無い。洗い場はカルシウムの析出で見事な千枚田状態。鉄分の付着により赤茶色に染まっている。お湯は薄い赤茶色の笹濁りで、濁っているものの底は見える。
口腔内にジュワっと刺戟を与える明瞭な炭酸味+出汁味+塩味+金気味。出汁のいい香り+金気の匂い+油のような匂い(タマゴ臭に似て非なるもの)。湯口に鼻を近づけると炭酸ガスに咽て咳き込んでしまった。
湯面に油の薄い膜が浮く。食塩泉だが、金気やカルシウム分のためにギシギシとした浴感。赤茶色の細かな浮遊物が湯中で沢山舞っており、体に付着する。この浮遊物はコンディションによって状態が異なるらしく、夜に入ったときには浮遊物としてしっかり目視できたが、朝にはまとまって固形化せず、コロイド状になって細かく分散していた。
また炭酸ガスの気泡もびっしり付着し、特に湯口から落ちてくるお湯に直接腕を当てると、大粒の泡で覆われてしまう。
・B(奥から2番目)
Aと同じく四角形の浴槽。一見するとコンクリ造のようだが、実はAと同じく桧の板であり、コンモリとした析出に覆われているため木の肌がすっかり隠れてしまっているのである。味・匂い・泡つきはAと同様。浮遊物はあまり見られず、コロイド上の微細な粒子が湯中を舞っていた。洗い場の千枚田状態は、4室の中ではこのBが一番立派。お湯に足を入れた途端、泡がはじけて肌にプチプチと刺激を与える。
・C(奥から3番目)
一番小さな浴槽で、一人サイズ。対角線上に体を入れれば足を伸ばせる。2人も入れないことはないが、かなり窮屈だろう。丸みを帯びた浴槽で、槽のまわりには排水のための溝が彫ってあるため、オーバーフローしたお湯は洗い場へ流れていきにくい。このため洗い場には千枚田が形成されず、元々の模様が残されている。
・D(最も手前)
4室の中で最も大きな浴槽。大人2人は余裕、更に子供も1人は入れそう。人が浴槽に入ってお湯がオーバーフローすると、洗い場はちょっとした洪水状態になる。ということは洗い場の千枚田もかなり凄い。他の浴槽に比べて油っぽさやタマゴ感が若干強めかもしれない。気泡の着き方も多い。湯口からはお湯と共に微弱な風が出ており、これを意識的に吸うと咽てしまう。おそらく炭酸ガス濃度が高いのだろう。カランは2基設置。
---------------------
いずれにしてもとにかく濃いお湯で、ミカンを食べたわけじゃないのに、お湯に入っているうちに爪の間が黄色くなっちゃいました。
また人体の不感温度に近いぬる湯なので、いつまでも長湯でき、じっくりとお湯を堪能することができるのです。炭酸ガスの温浴効果でぬるくても体の芯からポカポカします。
歓楽的要素は一切無く、宿の周りも何にも無い。ただひたすらお湯に浸かるためだけのお宿。でもお風呂のあちらこちらから歴史を感じることができ、昔ながらの湯治ってこんな風なんだろうなと、温泉の歴史を追体験することができました。静謐の中でじっくりお湯に専念できる、素晴らしいお宿でした。
ナトリウム-塩化物温泉 37.8℃ pH6.0 30.8L/min(自噴) 溶存物質6.59g/kg 成分総計7.35g/kg
(遊離二酸化炭素759.0mg/kg)
島根県大田市三瓶町小屋原1014-1 地図
(↑地図では小屋原温泉以北の県道286号線が太く描かれていますが、これはとんでもない嘘。実際には地元の人ですら敬遠するほど狭隘で険しい道ですので、南側の池田集落方面からアプローチすることをおすすめします)
0854-83-2101
日帰り入浴9:00~19:00
500円/1時間
ボディーソープあり、他の備品類は無し
私の好み:★★★