温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

常総市 天然温泉 きぬの湯

2021年03月18日 | 茨城県
前回記事では千葉県東葛地区で新規開業した南柏天然温泉「すみれ」を取り上げましたが、今回は更に常磐線を北上し、取手で関東鉄道常総線に乗り換えて、旧水海道市(現常総市)の「天然温泉きぬの湯」を訪ねます。関東地方には山間部や平野部を問わず多くの温泉が存在し、かけ流しを謳う温泉も少なくありませんが、茨城県だけは例外的に温泉資源が乏しく、あっても低温の温泉か冷鉱泉であり、温泉だけを目的にして旅程を立てると、どうしても茨城県をスルーしてしまいがちです。

このような茨城県の中でも自家源泉かけ流しの湯使いを実現している非常に珍しい温泉スーパー銭湯が、今回紹介する「天然温泉きぬの湯」です。私は十数年前に一度利用したことがあるのですが、その後日本のみならず世界を含めて2千以上の温泉を訪ねてゆくうち、その時の記憶が完全に消えてしまい、どのようなお風呂でいかなるお湯であったか、全くわからない状態になってしまったので、今回久しぶりに再訪問することにしました。

浴場が位置しているのは常総ニュータウンの「内守谷町きぬの里」地区。常総ニュータウンとは、首都圏の人口増により郊外各地で乱開発が行われていた昭和40年代に、行政が主導で宅地整備を行うべく、当時の日本住宅公団により行われた大規模な郊外宅地開発であり、「内守谷町きぬの里」もその一角に含まれます。地名に含まれる「きぬ」とは近くを流れる鬼怒川を指しているんだとか。この付近の地図を見ますと道路割りが整然とされており、現地に行けば瀟洒な戸建て住宅が規則正しく建ち並んでいるのですが、失われた20年、いや30年を経て人口減が進み都心回帰の流れが強まる中、果たして都心から相当距離がある常総ニュータウンに未来はあるのでしょうか。


そんな私の余計な心配はともかく、いかにも郊外住宅地然とした街並みの中に平屋の大きな施設が建っています。幹線道路沿いに大きな看板が立っているので、迷うこともないでしょう。広い敷地内には複数の建物があり、上画像はご当地産品など各種食材や雑貨を販売する物産館です。


第一駐車場を挟んで物産館の向かいに建つのが貸切風呂・家族風呂専門の「きぬの湯別荘」。こちらのお風呂も全て温泉使用なのですが、今回は利用していませんので記事にしておりません。あしからず。


表通りと反対側の、第2・第3駐車場側の路地に構える門(上画像)がどうやら正面入口のようです。


門の脇には温泉分析表の看板が掲出されていました。
温泉の質に自信があるのでしょう。


下足箱の鍵は100円リターン式。受付で下足箱の鍵を差し出し、入浴料金を支払いますと、引き換えに精算用リストバンドや薄くて小さなフェイスタオルを受け取ります(タオルはもらえます)。スタッフの方はみなさん常に笑顔で丁寧に対応なさっているため心象はすこぶる良好。その受付カウンターの真ん中には「日本源泉かけ流し温泉協会」の札が立てかけられていました。関係する第三者にかけ流しの湯使いを認めてもらっているんだということを誇らしげに示しているようです。たしかに茨城県でかけ流せる高温泉といえば、千葉県境付近に位置するここ「きぬの湯」か、奥久慈の袋田温泉の一部、あるいは福島県境付近の五浦か平潟港ぐらいですので、胸を張りたくなる気持ちもわかります。なお札には「会員の宿」と記されていますが、この施設で宿泊することはできないはずです。

なお受付がある1階には、他にマッサージコーナー、食事処、そして浴場が設けられており、2階にはソファーが並ぶ休憩ルームとなっています。


1階奥に掛かる暖簾をくぐって浴場へ。


脱衣室の入口に掛けられた扁額にも「源泉かけ流し」と揮毫されています。それほど掛け流しであることを積極的にアピールしたいのかと思いますが、その熱情が果たしてどれだけ利用客に伝わるのでしょうか。
脱衣室は広くて綺麗に維持されています。私が利用した時もスタッフの方がこまめに見回りにきていました。ロッカーは2段のスチール製で、リストバンドの番号と関係なく任意の場所を使えます。洗面台も広く、ドライヤーも3〜4台用意されているので、使い勝手も良好。洗面台付近にはPanasonic製マッサージチェアが2台設置されていました。

さて、脱衣室から先は撮影禁止なので、公式サイトから画像を拝借させていただきます。


内湯は明るくゆったりした造りで開放的です。足元にお湯が流されている出入口を進んで浴場内へ踏み込んでゆくと、まず入口のそばに3種類のサウナが並んでいます。左側は中温の塩サウナで、通路を浅んだ右側はメディテーションサウナと称するものと一般的な高温サウナです。複数種類のサウナがあるので、温泉好きのみならずサウナ愛好家の方にも喜ばれるでしょう。

サウナゾーンの次は洗い場と各浴槽群が続いています。洗い場にはシャワー付きカランが計35ほど並んでおり、私の訪問時にはコロナ対策として、隣客との距離を確保するため、腰掛や桶がカラン1つおきに置かれていました。洗い場の反対側(通路の左側)には井戸水を沸かした電気風呂やジェットバス等が配置され、淡い場と背中合わせの通路右側には井戸水放流式の「きぬの湧水」と称する水風呂、そして温泉かけ流し「美肌の湯」と並んでいます(上画像)。内湯唯一の温泉浴槽である「美肌の湯」は8人近く入れそうな檜造りですが、コロナ対策のため定員が4~5人と定められていました。なお浴槽内は滑りやすいので要注意。湯口から比較的ぬるめのお湯が投入されており、体への負担を気にせずゆっくり湯浴みできます。


露天ゾーンにも複数の浴槽が設けられていますが、こちらはすべて温泉使用。男湯の場合は左側から反時計回りに、「茶碗の湯」が2つ、「御影の湯」、「炭酸きぬの泉」、「樽の湯」、そして中央に「四季の湯」と配置されています。

「四季の湯」(上画像)は3分割されており、湯口がある最奥は「ヤセがまんの湯」と名付けられ、循環湯とともに新鮮源泉をブレンドしたやや熱めのお湯が投入されています。岩の湯口は赤茶色に染まり、少々ながら塩化土類泉のような析出も付着していました。浴槽はちょっと深い造りで入り応えがあり、肩までしっかり熱いお湯に浸かれます。そのひとつ左側は適温で深さも一般的。さらに左側は浅くてぬるく、ステップからお湯がオーバーフローしています。


「茶碗の湯」はいわゆる壺湯で、信楽焼の色違いが二つ並んでいます。かけ流しの湯使いです。


「御影の湯」大きな御影石を刳り貫いた浴槽で2人サイズ。この浴槽は深さや刳り貫き具合(浴槽内の曲線の感じ)が私に合っていたのでとても気に入りました。こちらもかけ流しの湯使いですが、「茶碗の湯」より湯船の表面積が広いためか、若干湯加減もぬるめだったような気がします。


「炭酸きぬの泉」は檜造りの浴槽で、こちらもコロナ対策として定員が4人と決められていましたが、その制限が無ければ6人は入れそうな容量があります。こちらは循環した温泉に炭酸ガスを溶かし込んでおり、ぬるい湯加減と炭酸ガスの気持ちよさで、私はついつい微睡んでしまいました。


「樽の湯」は文字通り大きな樽で2人は余裕、詰めれば3人は入れるでしょう。かけ流しの湯使いですが、湯船の表面積が大きいため、他のかけ流し浴槽より若干ぬるめでした。それゆえこの湯船に入る方は皆さん長湯になる傾向があり、かく言う私も15分は浸かり続けていたかと思います。

こちらの施設では、地下980mと地下1260mの2本の源泉から毎分349リットルの温泉を汲み上げて各浴槽へ供給しています。分析表によれば湧出温度は40℃であり、内湯・露天とも温泉をかけ流している各浴槽には、「源泉かけ流しのため低めの37℃」という旨が案内されていたのですが、実際の各湯口から出てくる温泉は明らかに40℃以上あったので、多少加温されているのか、あるいは湧出温度が上がっているのかどちらかでしょう。なお私の体感で各浴槽の湯加減をお伝えしますと、「茶碗の湯」や「御影の湯」は40℃前後、「樽の湯」や内湯「美肌の湯」は37~8℃だったような気がします(あまりアテにしないでくださいね)。

かけ流している浴槽のお湯は淡い緑色を帯びつつ山吹色に少々濁っており、端的に表現すればPETボトルの緑茶みたいな色合いです。なお濁り方としては各浴槽の底面が霞んで見える程度で、強い濁りを呈しているわけではありません。口に含むとしょっぱく、少々の苦みや出汁味も含まれています。また磯の香や微かな鉱物油臭が感じられます(少々の消毒臭もあり)。湯中ではツルスベの滑らかな浴感と少々の引っ掛かりが拮抗しながら肌に伝わってきます。湯口や湯面まわりには赤茶けた色がこびりついている他、塩化土類泉に見られるような小さく凸凹した析出も付着していました。大雑把に分類すれば化石海水型の温泉と言えるのでしょうけど、しかしながらかなり個性的でもあり、個人的には化石海水型にモール泉的な特徴を少々混ぜたようなお湯と表現したいところです。
同じ常磐沿線の千葉県東葛地区や埼玉県東部にも化石海水型の温泉は点在していますが、古東京湾に由来するこれらの温泉は非常に塩辛くて金気が強い一方、香取海の置き土産と思われる「きぬの湯」は甘塩且つ全体的にマイルドで、明らかに性格が異なっているように思われます。マイルドとはいえ、塩分が多いことには違いなく、またぬるめの湯加減ゆえに長湯してしまいがちなので、決して熱くないのに力強く温まり、しっかり火照ります。
バラエティ豊かな浴槽で源泉かけ流しの良質な温泉に浸かれる、大変クオリティの高い施設です。


きぬの湯・きぬの湯2号源泉の混合泉
ナトリウム-塩化物温泉 40.5℃ pH7.9 きぬの湯229L/min・きぬの湯2号源泉120L/min 溶存物質3.756g/kg
Na+:1122.0mg(81.37mval%), Ca++:164.0mg(13.64mval%),
Cl-:1876.0mg(88.38mval), Br-:6.2mg, I-:2.8mg, HCO3-:387.9mg(10.62mval%),
H2SiO3:75.1mg, HBO2:36.4mg,

茨城県常総市内守谷町きぬの里1-5-6
0297-20-3751
ホームページ

9:00〜23:00(最終受付22:00) 水曜定休(祝日・ゴールデンウィーク・お盆・年末年始は営業)
平日1400円、土休日1500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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五浦温泉 五浦観光ホテル別館 大観荘

2018年07月14日 | 茨城県
全国津々浦々の温泉を取り上げている拙ブログですが、まだ茨城県は未掲載でしたので、今回取り上げさせていただきます。温泉天国の日本にあって、茨城県は温泉資源に乏しいエリアですが、探せばなかなか良い温泉に巡り会えるんですよね。


 
岡倉天心ゆかりの地である茨城県最北部の北茨城市五浦には、風光明媚な景色を眺めながら湯あみできる素敵な温泉宿があります。今回はそのお宿で日帰り入浴を楽しんでまいりました。拙ブログでは初登場ですが、私個人としては2回目の訪問です。立派な松に囲まれた堂々たる構えの建物を目にして「日帰り入浴客は門前払いされないのか」と不安になりますが、私の訪問時は快く受け付けてくださいました。それどころか、フロントで湯銭を支払うと、引き換えに手渡されるレシートと一緒に、敷地内のレストランで使える割引券もくれました。どうやら日帰り入浴も積極的に受け入れているようです。


 
お風呂は本館ではなく離れにあります。フロントの左側にある専用の出入口へ向かい、スリッパに履き替えて靴はビニール袋に入れて自分で持ち、渡り廊下をひたすら歩いて浴舎へ向かいます。途中でトンネルみたいな箇所を通過。切り立った海岸崖の地形に位置していることを実感します。


 
 
通路の突き当りが浴場の建物です。ドアを開けて中に入ると浴場専用のカウンターがあり、そこにいるスタッフの方に、フロントで湯銭と引き換えにもらったレシートを提示します。この建物に入った正面には海を臨む休憩室があり、飲料自販機のほか水のサービスも用意されていました。この休憩室を挟んで右が女湯、左が男湯です。


 
広くてきれいな脱衣室は、洗面台の数が多く、またドライヤー専用の台と鏡もあって、使い勝手良好です。


 
海側に大きなガラス窓が設けられている浴室は、その窓から陽光がたっぷり降り注ぎ、明るくきれいで快適です。室内には温泉から放たれているハロゲン系の匂い(臭素やヨード)が漂っており、鼻孔をツンと刺激してくれます。窓の下には後述する大きな浴槽が据えられている他、手前側には洗い場が配置されており、シャワー付き混合水栓がL字型に10基並んでおいました。なおシャワーから出るお湯は真湯です。


 
浴槽も窓に沿ってL字形。寸法は失念しましたが、20人以上余裕で入れそうなキャパを有しています。左奥の湯口より温泉が投入され、右手前の湯尻からオーバーフローしています。湯加減は適温。窓越しの景色を眺めながらの湯あみはとても気持ち良く、いつまでも浸かっていたくなりました。


 
 
続いて露天風呂へ。露天には2つの岩風呂があります。
手前側はの浴槽は東屋に覆われており、後述する左奥のお風呂と比べると、ちょっと深め(一般的な深さ)で、キャパは10人サイズといったところ。岩組みの湯口から温泉が投入されており、内湯側の切り欠けから溝へ向かって溢れ出ていました。オーバーフローする量が多く、まるで小川のようです。


 
 
一方、左奥の露天は東屋が小さく、ほどんど屋根掛けが無い状態で、入浴中は陽光を頭上から浴びる感じです。それゆえ開放感があり、目の前に入り込んでいる入り江と松、そしてその向こうに広がる太平洋を一望しながら湯浴みが楽しめます。
大きな露天風呂より若干浅めの造りで、サイズも5~6人とひと回り小さくなっていました。
屋根掛けされていない分、外気の影響を受けやすくなるのか、お湯の投入は左奥の岩組みから落とされているほか、手前側からも同時に注がれており、複数投入によって温度均衡を図っているようでした。なお私の訪問時、こらの浴槽はちょっと熱めの湯加減でした。

こちらのお湯は、見た目が濃い黄色の透明で、オロナミンCのような色合いと表現するとわかりやすいかもしれません。お湯を口に含むとしょっぱく、苦汁の味も感じられ、鼻をツンと刺激するような臭素臭やヨード臭が香ってきます。お湯に浸かるとツルスベの中に引っかかりがある浴感が得られ、とてもよく温まりますが、迂闊に長湯をすると体が火照りますので、特に夏季の入浴は逆上せないよう注意しましょう。各浴槽とも掛け流しの湯使いを実践しているのが素晴らしいですね。高温泉不毛の地である茨城県で掛け流しの温泉は大変貴重です。



露天からは岩と松の景勝や入り江、その彼方に広がる太平洋を一望できます。心をの中を無にしてこの景色をぼんやり眺めているだけでも気が晴れます。しかも高台というロケーションであり、かつ綺麗に整備されているので大変気持ちが良い。前回訪問時は震災直後で一部仮設だったのですが、現在は当時の影響を全く感じさせない完全体。素晴らしい湯浴みを堪能させていただきました。


五浦観光ホテル1号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 68.8℃ pH8.1 湧出量測定不能(掘削動力揚湯) 溶存物質11.70g/kg 成分総計11.70g/kg
Na+:2696mg(61.35mval%), Ca++:1412mg(36.85mval%), NH4+:11.2mg, Sr++:19.6mg,
Cl-:7309mg(99.42mval%), Br-:24.0mg, I-:7.7mg, HS-:0.1mg, SO4--:13.8mg, HCO3-:12.1mg,CO3--:7.4mg,
H2SiO3:57.5mg, HBO2:59.2mg,
(平成29年12月14日)
加水加温循環消毒なし

茨城県北茨城市大津町722
0293-46-1111
ホームページ

日帰り入浴時間 11:00~15:00, 18:00~21:00(いずれの時間帯も最終受付は終了の30分前)
1000円(詳しくは公式サイトでご確認ください)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (4)
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