(2023年6月訪問)
車で出かけることが多いとはいえ、たまには列車に揺られて旅をしながら長閑な車窓を眺めたくなるもの。そんな衝動に駆られた私は、某日みちのくへ出かけて、石巻線普通列車の窓枠に頬杖をつきながらのんびりとした旅時間を過ごしていました。列車は終点の女川駅に到着です。
震災の被害を受けた女川駅は復興事業により場所が内陸へ200メートルほど移動すると共に、坂茂氏の設計により鉄骨造3階建に木造屋根を載せた形で建て替えられました。左右に広がる大きな屋根はウミネコが羽ばたく様子をイメージしているんだとか。
今回はこの駅舎内にある温泉施設「ゆぽっぽ」を訪ねます。日本全国に駅前温泉は数あれど、駅ナカ温泉はかなり稀少ですよね。
なお「ゆぽっぽ」は震災の前にもあり、当時は駅舎に隣接する形で営業していました。震災前に訪ねた「ゆぽっぽ」に関しては拙ブログで取り上げたことがないので、当記事の後半で触れます。震災後の新しい「ゆぽっぽ」を利用するのは今回が初めてです。
後述するように震災前の旧「ゆぽっぽ」には足湯がありましたが、現在の新しい施設にもちゃんと足湯があるんですね。
さて改札や出札の目の前にある入口から中へ入り、靴を魚形のキーホルダーがついた下駄箱へ収め、その鍵と券売機で買った入浴券を受付に差し出しますと、引き換えにロッカーキーが渡されます。お風呂は物販コーナーを抜けて階段を上がった先の2階です。
この建物を設計した坂茂氏といえば、紙管のシェルターなど、紙からできた素材を建材にしたシェルターや仮設住宅を世界各地で作り、難民の救済や災害支援に取り組む建築家として有名。この建物でも踊り場のベンチや天井には坂茂氏らしくボール紙のロールが用いられています。
踊り場ベンチの脇には家族風呂が1部屋設けられており、貸切で入浴することが可能です。また、ベンチと家族風呂の間には、発災3日後に出された石巻日日新聞の手書き壁新聞(実物)が保存掲示されており、津波によりあらゆるものが失われた中で避難者たちに情報を伝えようとする記者たちの熱意が伝わってきます。
階段を上がったところの休憩室は、天井が高くて窓も大きいため、明るく広々としてスタイリッシュ。
休憩室の脇を通り、駅通路の真上を通って浴場へ。
脱衣所内の内装は白色と木目で統一されており、明るくて使い勝手良好です。
(浴室内の画像は公式サイトより借用)
お風呂は内湯のみで露天はありません。天井は木材を井桁に組んで緩く撓ませることによりドーム状となっており、窓からの採光と相まって高く明るく気持ち良い入浴空間を生み出しています。壁は白いタイルが用いられており、奥には青い鹿の絵(当地が牡鹿郡だから?)、手前側には青い富士山のような絵がそれぞれ描かれています。男女両浴室を仕切る塀の上部には、後述する震災以前の旧ゆぽっぽを記録した写真が並べられています。洗い場は浴室の左右に分かれて配置されており、シャワー付きカランが計10個取り付けられています。浴槽は2つあり、手前側のオーバルを半分にしたような青い豆タイルの浴槽には真湯が張られていました。
(浴室内の画像は公式サイトより借用)
一方、奥にある四角いタイル張りの浴槽が温泉浴槽。その大きさは目測で奥4m✕幅3.5m程かと思われます。浴槽に張られた温泉はやや黄色みがかっている透明で、塩味と苦汁味がしっかりと得られ、消毒臭もはっきりと感じられます。この浴槽の洗い場側にあるステンレス製の湯口から鉱泉が投入されている他、浴槽内からも投入しており、これによって浴槽内の湯加減が均一になるよう図られているようです。源泉の湧出温度は25.3℃ですので、温泉法の規定によりギリギリのところで鉱泉ではなく温泉を名乗れるラインをクリアしていますが、この温度のまま入れるはずもなく、また湧出量も少ないことが推測されますので、浴用に際しては加温循環消毒が行われています。泉質名には「含硫黄」の文字が含まれ、分析表によれば総硫黄が3.1mgも含まれていますので、おそらく源泉湧出時にはかなりはっきりとした硫黄臭が嗅ぎ取れるはずですが、加温や循環などを経る中で硫黄はすっかり飛んでしまい、湯船で硫黄らしさを感じることはできません。またpH9.0とアルカリ性に傾いている上、炭酸イオンが9.6mgも含まれているのでツルツル滑らかな浴感なのかと思いきや、実際に肩まで湯船に浸かってみると寧ろキシキシと引っかかる浴感が強く、これはカルシウムイオンを1589.0mgも有しているためではないかと思われます。ま、小難しいことはともかく、硫黄が多かったりしょっぱかったりと、内湾性の化石海水温泉にありがちな特徴を有しており、港町女川ならではの温泉と言えるでしょう。綺麗且つ快適な浴場で旅の汗を流す気持ち良さは大変ありがたく、この場所に再び温泉施設を設けてくれた女川の関係者の方々には感謝です。
さてお風呂上がりに、駅前から海に向かってまっすぐ伸びる商店街「シーパルピア女川」でお土産や・・・
ランチのお寿司を購入。安くて美味い!
ついでにホタテの浜焼きをその場で食べ・・・
震災遺構「女川交番」を見学。横倒しになった建物を見て津波の脅威を知り・・・
そして女川の美しい海を眺め、再び女川駅から石巻線の列車に乗り込んだのでした。
【以下、2008年8月撮影】
拙ブログでは取り上げてこなかった震災前の「ゆぽっぽ」も、ここで簡単にご紹介します。
上画像は2008年8月に撮影した女川駅です。
同じタイミングで撮影した旧「ゆぽっぽ」。現在は駅の建物に内包されていますが、当時は駅舎に隣接する形で別棟となっていました。そして施設の前には足湯も設けられていました。
浴室内部の様子。お風呂は檜風呂と岩風呂があり、男女日替わりで使い分けられ、この時は檜風呂に男湯の暖簾がかかっていました。当時もお風呂は内湯のみ。主浴槽の前には大きなテレビが設けられ、この時のお客さんは湯浴みしながらバラエティー番組を見ていました。主浴槽のほか、サウナなどもあったはずです。
また画像には残していませんが、館内には信号機があり、石巻線の出発時刻が迫ると信号が青から黄色にかわり、出発直前になると赤が点灯する、という面白い試みが実施されていました。
館内にはちゃんとした休憩室があるほか、石巻線のホームに面した場所には本物の鉄道車両キハ40を改築した休憩所も用意されていました。当時の私のメモによれば、車内ではカラオケができる、と書かれています。ただ車内の画像が残っていないので、車内がどのようになっていたかは分かりません。
以前の私は「温泉かけ流し原理主義」に囚われていたのでこの旧「ゆぽっぽ」を取り上げてこなかったのですが、最近はそのような呪縛から解放されていますので、今回新しい「ゆぽっぽ」を取り上げる機会に旧「ゆぽっぽ」の画像も掲載させていただくことにしました。
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉 25.3℃ pH9.0 溶存物質7925.3mg/kg 成分総計7925.3mg/kg
Na+:1448.0mg,(43.87mval%), Ca++:1589.0mg(5523mval%),
Cl-:4671.0mg(97.74mval%), Br-:16.5mg, HS-:1.4mg, S2O3--:1.7mg, CO3--:9.6mg,
H2SiO3:21.0mg,
(令和5年2月13日)
加水無し
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
塩素系薬剤使用(衛生管理のため)
フィルター設置(水酸化鉄緩和のため)
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宮城県牡鹿郡女川町女川2-3-2
0225-50-2683
ホームページ
9:00~21:00(最終受付20:30)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5