温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

伊豆山温泉 走り湯

2011年11月30日 | 静岡県
静岡県熱海市の伊豆山温泉に関して、前回記事「偕楽園」や前々回「浜浴場」では、当ブログをご覧の皆さんが伊豆山の「走り湯」が何たるか知っていることを前提に文章を書いてしまいましたが、当然ながらご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、今回は画像を中心にして「走り湯」を簡単に取り上げてみます。
既にご存じの方には新鮮味が全くない内容ですので、あしからず。

「走り湯」とは伊豆山温泉で最も古い源泉で、横穴式の洞窟からまるでお湯が勢いよく走っているように迸って湧出している様からその名がつけられたそうです。その洞窟は無料で見学することができますので、まずは現地へ行ってみましょう。

 
伊豆山神社からまっすぐ海へ向かって転がり落ちるように伸びている階段参道を下っていきます。周囲の建物の塀には温泉配湯用のパイプが露出して這わされています。温泉の配湯管って普通は外から見えないように工夫して敷設するものですが、蔓が壁を這うように何本も露出している光景は、日本ではなく台湾の温泉街を連想させます。


下りきると、「中田屋」の手前に小高い櫓のようなものがあります。

 
「走り湯」源泉を使用した足湯でした。無料で利用できますが、そんなに大きなものではなく、詰めあって3~4人が限度でしょうか。なお利用時間は4月1日~9月30日が9:00~17:00、10月1日~3月31日が9:00~16:00となっています。


足湯は海に向かって座るように作られています。相模湾を眺めながらの足湯を楽しめば、あっという間に時が過ぎてしまいそうですね。

 
神社の斜前に鎮座するのが走り湯神社。小さな社ですが、後述するように歴史はかなり古いのです。


見上げると「偕楽園」の展望大浴場が真上に見えます。

 
神社の右手にまわって「中田屋」裏手を進むと、崖の下で口を開けているのが「走り湯」です(地図)。
傍らには走り湯や神社の縁起に関して記された石碑が立てられています。簡潔にまとめられていますので、面倒くさがらずにぜひご一読を。


 
洞窟の中へ入ってみましょう。忽ちもの凄い熱気の蒸気に包まれ、あたかもミストサウナのような状態。右側の置かれた樋の中を源泉が流れています。


振り返るとこんな感じ。


短い洞窟の奥には温泉成分の析出でゴテゴテした枡のようなものがあり…

 
その中を覗くと、すごい勢いで気泡とともに熱湯が迸って湧出しています。

 
さらに奥には「もと湧出口」なるものがありますが、湯気がすごくて鳥居しか確認できません。

さて、この「走り湯」ですが、残念ながら自然に噴出しているわけではありません。

簡単に伊豆山温泉の歴史をおおまかに書き綴ってみますと…
伊豆山温泉のシンボルというべき「走り湯」が発見されたのは養老年間といいますから、奈良時代まで遡っちゃう、日本屈指の古い温泉なのであります。このため伊予の道後や摂津の有馬と並んで日本三大古泉のひとつに数えられています。尤も、道後や有馬と比べちゃうと伊豆山はかなりマイナーなので、かわりに岩代(福島県)のいわき湯本(いわゆる三函(さはこ)の湯)を入れる場合もありますが、三大云々はさておき、とにかく古いことには変わりなく、しかも横穴式の源泉は日本唯一とされますから、こんな珍しい温泉を昔の人が崇め奉らないわけがありません。古くから霊湯として珍重され、伊豆山神社(権現)とリンクされて信仰の対象となり、源頼朝は源平合戦の挙兵前からこの権現を深く信奉し、北条政子や源実朝もこれに倣って伊豆山権現を参詣したといわれています。その後も当地は温泉地として繁栄しましたが、徳川家康が熱海に入浴し、三代家光以降に熱海の湯が「御汲湯」として幕府へ献上されるようになってから、伊豆山は徐々に斜陽化しはじめ、明治以降はその傾向が顕著になり、すっかり熱海に繁栄を奪われて今に至っています。「走り湯」に限定してみても、高度経済成長期に観光開発ラッシュの波に呑まれて源泉掘削が盛んに行われた結果、東京オリンピックが行われた昭和39年に走り湯源泉はとうとう枯渇してしまいました。

つまり、現在「走り湯」は自噴しておらず、洞窟の奥で音を轟かせながら噴出していたお湯は、別源泉から動力で揚げたものを、観光のため人工的に放出して往古の様子を再現しているのであります。


震災および原発事故以降は「計画停電に伴い走り湯洞窟に温泉が遅れない事がございます」と書かれた張り紙が、洞窟入口に掲示されるようになりました。動力で「走り湯」を噴出させているのですから、停電したらお湯が止まっちゃうのは当然ですが、まさか人工的にお湯を「走らせている」なんてご存じない方が圧倒的多数かと思いますので、このような説明を掲示せざるを得ないわけですね。関係者の方々としても、こんな手の内を明かすような掲示はしたくないでしょうから、忸怩たる思いだったのではないかとお察しします。



熱海界隈で同様に人工的に噴出させているものといえば、↑画像の大湯間欠泉(地図)がありますね。最近は私の運が悪いのか、訪問しても噴出している光景にお目にかかれないのですが…。間欠泉が自噴しなくなった理由は源泉井の乱掘削とは関係ありませんが、走り湯にせよ、大湯間欠泉にせよ、人為的とわかっていながらそれらの噴出を眺めると、わざとらしい演出に虚しくなる一方、かつての姿を再現させて観光名所にしたいと願う関係者の熱い気持ちも理解でき、その両方に挟まれてなんだか複雑な心境に置かれてしまいます。何事も知らぬが仏なのかもしれません。
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伊豆山温泉 偕楽園

2011年11月29日 | 静岡県
 
伊豆山温泉観光協会のホームページによると、当地の旅館のうち単純な(食事などを要しない)日帰り入浴を受け付けているのは「偕楽園」「中田屋」「ラビスタ熱海」「ハートピア熱海」の4軒です(2011年秋現在)。この中で今回は、伊豆山温泉のシンボル「走り湯」の真上、かつ前回紹介した「浜浴場」の真下に位置する「偕楽園」を、日帰り入浴で利用したときの様子を書いてみます。


 
外観は地味で特に目を惹くような特徴もないので、てっきりごく普通の旅館なのかと思いきや、玄関に入ってみたら本格的な和風旅館ならではの風格のある重厚な趣きに圧倒されそうになりました。箱根や伊豆界隈において、この手の旅館で日帰り入浴を申し出ると、大抵の場合は邪険に扱われてしまいますが、こちらは良い意味で予想を裏切ってくれまして、女将をはじめ、フロントの職員さんなど、皆さん実に丁寧に愛想よく接客してくださいました。料金を支払ってタオルを受け取り、貴重品を帳場に預けて、いざお風呂へ。


 
こちらのお風呂は(1)展望大浴場(内湯)と、(2)小内湯&露天風呂の2つに分かれており、午後8時を境にして男女入れ替え制になっています。浴室入口は3つに分岐しており、右が(2)の小内湯&露天、階段を下りてゆく真ん中が(1)の展望内湯、左が休憩スペースです。
訪問時、男湯の暖簾は(1)の内湯展望大浴場の方に掛かっていたので、そちらを利用しました。露天に入れないのはちょっと残念ですが、後述するように、実は源泉にこだわる温泉ファンとしてはこの内湯展望大浴場の方が面白いのであります。従って私個人としては願ったり叶ったりでした。


 
旅館のお風呂の割に脱衣室はこじんまりしており、造りも古さが隠せませんが、さすがに手入れが行き届いておりとても綺麗です。
窓の外には相模湾が一望。当然ですが初島もはっきり見えますね。脱衣室はあくまでお風呂への中継地点であるという副次的役割と、外からの視線を遮断するという実用的な目的のため、窓が小さくて外が見えないところが殆どですが、これだけ見晴らしの良い脱衣室は珍しいのでは。


 
浴室も海に向かって全面ガラス張りの爽快な造りです。一部のジャロジーを除いてガラスが嵌め殺しなので、海風に当たりながら湯あみできないのが残念ですが、この浴室は断崖の上に位置していますから、安全上致し方ありません。浴槽は2つあり、手前側が「走り湯」、奥が「逢初の湯」と称されており、それぞれ泉質が全く異なる別源泉が用いられています。1回で2度おいしいのがこの展望大浴場の魅力でして、上述でこのお風呂が面白いと申し上げたのはこの点であります。
浴室に入って浴槽廻りをパっと見ただけでも、「走り湯」のお湯が触れる手前側の浴槽や洗い場は全体的に黒ずんでおり、一方「逢初の湯」側は全体的に赤茶色に染まっているのがわかります。これだけでも双方の源泉が全然別質であることが明白です。


 
洗い場のカランは8基あり、いずれもシャワー付き混合栓。カランの並びの一番奥には打たせ湯と思しき設備がありますが、現在では使用されていないようです。



まずは手前の「走り湯」から。前回取り上げた「浜浴場」は走り湯神社から50mほど離れた第2走り湯源泉を引いていましたが、こちらは正真正銘の「走り湯」源泉を使用。第二走り湯のような薄い黄色は見られず無色透明ながら、完全に澄んではおらず、微かにボヤボヤと黒く霞んでいるように見えます。また走り湯ならではの強烈なニガリ味と強い鹹味が感じられます。
館内表示によれば加水循環しているそうですが、お湯の質感からは手が加えられているような気配があまり感じられず、浴槽隅から少量ずつオーバーフローしているものの、浴槽内で吸引が作動している様子も見当たらないので、いずれも軽程度に抑えられているのではないかと思います。なにしろ濃いお湯ですから長湯できず、無理してじっくり浸かってしまうと、朦朧としてしまうこと必至でしょう。


 
その隣りが先述のように走り湯と全く異なる泉質の「逢初の湯」で、この源泉は旅館より1km程山を登った般若院の傍にあり、1962(昭和37)年に掘削されたんだそうです。
ごく薄く橙色を帯びた透明で、明瞭な芒硝味に弱い苦み、そして金気っぽい味を有しており、更には樹脂のような表現するのに難しい複雑な匂いと味も感じられました。お湯そのものはトロトロしており、硫酸塩泉的なキシキシ浴感もはっきり体感できました。
こちらも加水・循環が行われているようですが、訪問時は湯口からの投入量が少なく、若干鈍り気味でした。この湯使いに関しては、時間や利用状況によって調整されているのかと思われます。


相模湾を一望できるお風呂は、たとえ内湯とはいえ気持ち良いものですね。加水循環されているとのことですが、実際にはあまりそれを感じさせないお湯でした。しかも2つの全然違う源泉が同時に入浴できるのですから、景色とお湯の両面で楽しめる一挙両得のお風呂と言えそうです。スタッフの方の接客にも温かいものを感じました。ちなみに今回利用できなかった小内湯や露天風呂では第二走り湯源泉を引湯しているんだそうです。



内湯展望風呂「走り湯」:伊豆山1号泉(走り湯)
カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉 68.8℃ pH7.6 成分総計12.31g/kg
Na:1389.0mg, Ca:2946.0mg, Cl:6869mg, SO4:865.4mg,
加水・循環あり、加温・消毒なし

内湯展望風呂「逢初の湯」:伊豆山63号泉
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 70.3℃ pH8.3 成分総計1.726g/kg
Na:237.5mg, Ca:242.6mg, Cl:238.5mg, SO4:820.2mg,
加水・循環あり、加温・消毒なし


熱海駅より東海バスの伊豆山(or湯河原)行で逢初橋下車、徒歩3分。あるいは熱海駅から徒歩15~20分(約1.5km)
静岡県熱海市伊豆山583
0557-80-2111
ホームページ

13:00~20:00
800円(タオル付)
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は帳場預かり

私の好み:★★
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伊豆山温泉 浜浴場

2011年11月28日 | 静岡県
 
師走も近づき肌寒い季節となってきました。寒くなると恋しくなる物の代表格は鍋や炬燵でしょうが、世間一般と感覚に乖離が見られる私の場合は、まず「濃い食塩泉」が思い浮かんでしまいます。夏に入ると、汗は引かない、体はベタつく、等々デメリットが目立つ濃い食塩泉も、厳冬期に入浴すればまるで懐炉を体内に埋め込んだかのごとく体の芯から温まり、しかもなかなか湯冷めしないので、まさに寒さ知らずの冬向きな温泉と言えます。今回はその極端な例をひとつ。

熱海から湯河原寄りへちょっと離れたところにある伊豆山温泉は、熱海とは一線を画す独特のお湯と風情があって、私はしばしば訪れて当地の雰囲気を楽しんでおります。以前当地は般若院浴場という温泉ファン絶賛の温泉共同浴場があって私も2度ほどお世話になりましたが、惜しいことに6年前に廃止され、現在当地の共同浴場は「浜浴場」が唯一となっているようです。伊豆山神社の階段参道の下部に位置するこの浴場は、地域の公民館と一体化された古い鉄筋造で、いかにも伊豆山らしく急な傾斜地にへばりつくように建てられており、地域住民にこよなく愛されている憩いの場であります。

建物直下の空き地が駐車場ですが、スペースが狭くて限られている上、伊豆山は急傾斜の狭い坂ばかりで他に駐車できるような場所もないため(ビーチラインの側道にちょこっと停められますが)、私が当地を訪れる際には電車・バスを利用するようにしています。


 
昭和の銭湯情緒が強く漂う館内。番台のおばちゃん(時によってはおじちゃん)に直接料金を支払います。とはいえ、私が訪問する時は大抵おばちゃんが表で地元の方とお喋りしていることが多いので、番台で支払った機会はあまりありません。常連が多く現金払いの客はあまりいないようですから、お釣りの準備が少ないことが多いようです(実体験に基づく)。このため外来の方はあらかじめ小銭を用意しておくことをおすすめします。
脱衣室内の、大きく番号がふられた木のロッカー(脱衣棚と表現すべきでしょうか)がいい味出していますね。同じ伊豆の「宇佐美ヘルスセンター」を思い出してしまいます。



(↑画像クリックで拡大)
古い静岡県内公衆浴場の脱衣所でよく見られる「入浴者心得」。この掲示はそんなに古い物ではないかと思いますが、「衞」や「洗はない」など、なぜが文字が一部が旧字体だったり昔の送り仮名だったりするんですよね。細かいことですが、見るたびに気になって仕方ありません。


 
浴室は男女別の内湯が一室ずつ。浴室内は総タイル貼りで、2分割された浴槽が据えられています。洗い場のカランは、お湯が押しバネ式で水は蛇口、計6組用意されています。


 
二分された浴槽の左側は加水された「ぬるま湯」で、右側は源泉ダイレクト。湯口のパイプは錆びついてデコボコになった表面の上からペンキを塗ってゴテゴテになっており、相当年季が入っていそうです。源泉の熱いお湯を湯船の上辺で滞留させないよう、パイプから出たお湯は塩ビの筒で底まで送っています。
湯船の湯加減は常連さんによって各自の好みに調整されているようですが、源泉ダイレクト槽はともかく、「ぬるま湯」については日によってコンディションが異なり、本当にぬるくなっている日もあれば、右側と大して変わらない時もありました。ダイレクト槽といっても入れないような熱さではなく、東京都内の銭湯のような湯加減でして(都内の銭湯は熱い!)、むしろ私は熱い浴槽の方が好きです。

お湯は伊豆山の名所「走り湯」前に鎮座する走り湯神社より50mほどの場所に1963(昭和38)年掘削された第二走り湯源泉を引いています。ほぼ無色透明ながら、うっすら黄色っぽい靄がかかったような濁りを帯びており、出汁のような匂いに磯の香りが混ざり、強いニガリの味に塩味が混在する所謂「にがじょっぱい」味で、苦みがとにかく特徴的ですから、この温泉を精製したら効率よく苦汁が取れそうな予感がします。そして味覚以上に主張の強いのが浴感でして、入浴中は食塩泉的なツルスベ感とともにカルシウム由来のギシギシ感が混在しているのですが、ちょっと入浴するだけで強烈に火照り、湯上りも延々と火照りが持続します。上がり湯に真湯を掛けないと、体がベトつくこと必至。このため寒い冬ですと外套要らずでいつまでもポカポカですが、夏は体力を奪われてたちまちヘロヘロ、夏に訪問すると、手ぬぐいで汗を拭いながら番台の前のベンチでぐったりうなだれている常連さんの姿を必ず目にします。季節に応じて入浴方法を工夫することが求められる、或る意味で玄人向けの温泉かもしれません。

個人的な見解としては、泉質といい 設備面といい、観光のついでに寄るような浴場ではないように思いますが、それだからこそ、泉質重視の我々としては魅力に惹かれてしまうのですよね。寒い冬はこちらのような濃い温泉に入ってしっかり体を温めてみるのもいいかもしれません。


第2走り湯
カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉 71.0℃ pH7.6 成分総計9242.1mg
Na:1170.0mg, Ca:2140mg, Cl:4858.0mg, SO4:853.2mg

熱海駅より東海バスの伊豆山(or湯河原)行で逢初橋or伊豆山中央下車、徒歩1~2分。あるいは熱海駅から徒歩15~20分(約1.5km)
静岡県熱海市伊豆山浜579-37  地図
0557-80-0210
伊豆山温泉観光協会ホームページ

14:30~21:30 木曜定休
350円
備品類なし

私の好み:★★★
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川原湯温泉 王湯

2011年11月27日 | 群馬県
※この記事の「王湯」は旧施設であり、現存していません。
現在は移転先で新たな施設として営業しています。



群馬県吾妻の川原湯温泉は、私が温泉巡りを始めた初期に鄙びた温泉の魅力を教えてくれたところであり、温泉について方向性を見失い原点帰りをしたいときには必ずここへ戻ってくるようにしています。
近年ではダムに沈む温泉としてその名を知られるようになり、政権交代時の八ツ場ダム騒動でも脚光を浴び、その後も着実に工事は進んで、つい先日は私が愛する「笹湯」が終焉の時を迎えてしまいました。
同じく川原湯の共同浴場である「王湯」は正面に掲げてある源氏の「笹竜胆」の紋が誇らしげな当地のランドマーク的存在であり、「笹湯」と異なり観光客の利用も多かった施設ですが、まだ営業を続けているものの、周囲の建物は次々に取り壊されており、温泉街の移転とともにこの浴場もいずれは新施設へと生まれ変わり、現在の風情ある姿は過去帳入りしてしまうのでしょうね。


 
受付右手の廊下から伸びる渡り廊下を進んで、突き当りの階段を下ると露天風呂。梢の向こうに吾妻川の渓谷や川原畑集落一帯を眺望でき、観光客の皆さんはまずこちらを利用する傾向にあるようですね。尤も景色と言っても、ダム工事が進捗中の現在では、移転が済んで更地になった温泉街跡と伐採された木々が荒涼とした姿を晒しているばかりですが…。
こちらには新湯源泉が引かれているらしく、析出がビッシリこびりついたパイプからアツアツのお湯が湯船へと注がれ、このままでは熱すぎますからカランで加水して薄めて利用しています。主観的な感想ですが、この露天風呂はお湯の質感やお風呂の使い勝手、そして狭苦しい雰囲気などなど、私のストライクゾーンから外れてしまうような要素が多く、また後述する内湯と露天との行き来には一旦着替える必要があり、私は断然内湯が好きなので、「王湯」を訪れても露天に入る機会は少なめです。



露天風呂への通路から途中で右に分かれる階段を下りて玄関へ戻る方向へ曲がると内湯。


ちなみに露天風呂への渡り廊下には「元湯」源泉があって、自噴するお湯によって濛々と湯気が上がる様子を観察することができますが、いずれこれもダムの底に沈んでしまうのかしら。そのために新湯源泉をわざわざ掘削したわけですし…。


 
浴室を見下ろすような作りの脱衣室。傾斜地に建てているからこその構造なんでしょう。

 
浴室には石造りの浴槽がひとつ。手前側の切り欠けから排湯されており、当然ながら放流式の湯使い。
室内には川原湯温泉ならではの、タマゴが焦げたようなアブラのような香ばしい香りが充満しており、思わずクンクンと鼻を鳴らしてしまいます。この匂いを嗅ぐと「あぁ俺は川原湯にいるんだ」と実感でき、幸せな気分に満たされます。この匂いがあるからこそ、私は露天より内湯の方が好きなのかもしれません。

 
湯口は3つあり、石の枡から出ているお湯は焦げたようなタマゴの味と匂いが明瞭、パイプ湯口のお湯からはタマゴというより焦げたゴムのような匂いにほろ苦さとタマゴ味が感じられます。また両方に共通する特徴としては、石膏味と匂い、そして微かな塩味を有していることが挙げられるでしょう。パイプの湯口には石膏析出がビッシリ、石枡の右側湯口にはネットが被せてあります。湯中には微細な白い湯の華がたくさん浮遊。硫酸塩の影響か、かなり引っかかりのあるキシキシとした浴感。外観は透明ですが澄み切ってはおらず、薄らと白い靄がかかっているように見えます。
ここに限らず川原湯のお湯はどこでも熱湯が投入されていますが、湯船のお湯をしばらく掻き混ぜないとすぐに湯船の上の方が熱くなってしまいますから、経験則で申し上げると、いきなり湯船へ足を入れず、面倒でもその都度軽く攪拌させてから入浴したほうがよろしいかと思います。でもこのピリっとする熱さが不思議な中毒性を持っており、熱いお湯に全身浴すれば、心身ともに冴えわたること間違いなし。


 
浴室内には地元民専用の入口があり、外来客の利用可能時間帯以外(特に夕方6時以降)はここから出入りするわけですね。

 
内湯浴槽の傍にも桟敷のような第二の脱衣スペースがありますが、位置関係から考えるに、これはおそらく地元専用入口から入ってきた利用者に配慮されたスペースなのでしょうね。もちろん誰でも利用可。
窓から外を眺めると、立ち退いた後の建物基礎やむきだしになった土、伐採された木々がむなしい姿を晒すばかりの、荒涼とした光景が…。ここへ初めて入浴したときには既に工事が始まっており、訪れるたびに、歯が欠けてゆくが如く徐々に建物が減ってゆくのを目にしてきました。いまでは地域住民がダム建設を推進し、生活拠点の移転はもはや山場を越えたといってもよさそうです。移転先でも浴場が設けられるという話を聞いております。リニューアルして良かったと思えるような、すばらしい浴場を目指していただきたいものですね。それまでの間は、現在のお風呂で元湯をじっくり堪能することにします。


混合泉(元の湯と新湯)
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 71.6℃ pH7.1 湧出量不明(元の湯:自然湧出、新湯:掘削自噴) 溶存物質1.95g/kg 成分総計1.96g/kg
Na:289mg(43.69mval%), Ca:321mg(55.62mval), Cl:576mg(55.56mval%), SO4:584mg(41.62mval%),HS:1.2mg(0.12mval%), 遊離H2S:1.0mg

JR吾妻線・川原湯温泉駅より徒歩15分(約1km)
群馬県吾妻郡長野原町大字川原湯字上打越乙290  地図
0279-83-2591(川原湯温泉観光協会)
川原湯温泉観光協会ホームページ

10:00~18:00(受付17:40まで)
300円
有料ロッカー(100円)あり、他の備品類なし

私の好み:★★★
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滝ノ上温泉 滝峡荘

2011年11月26日 | 岩手県
初冬の今時期に、冬季休業の施設を取り上げて申し訳ありません。



岩手県雫石町の滝ノ上温泉や鳥越の滝一帯は日本屈指の地熱地帯で、あちこちから大地の力を感じさせる白い噴気が上がっており、また最奥部には地熱発電所としては東日本最大である葛根田地熱発電所(見学不可)も稼働していたりして、地熱ファンのアドレナリンまで大噴出してしまう興奮の光景が広がっているわけですが、にもかかわらず、滝ノ上温泉には宿泊施設が実質的に3軒しか無く、日帰り入浴もこのいずれかでお願いすることになります。
今回はその3軒の中でもっとも素朴な「滝峡荘」を取り上げてみます。川の右岸の県道沿いにある他2軒と異なり、この「滝峡荘」だけは川の左岸に位置しているため、橋で対岸へ渡ります。烏帽子岳や三ツ石山への登山拠点にもなっていて、建物は周囲の景色の中にすっかり溶け込んでおり、宿というより山小屋と表現すべき施設ですね。そんな風情を求めて、滝ノ上では敢えてこちらを選ぶ方も多いのではないでしょうか。私もそんな人間の一人です。


 
玄関を入って声をかけると、小窓を開けてご主人が対応してくれます。表札をよく見ると「元国民宿舎」と書かれていますが、あくまで「元」なんですね。ま、この宿を訪れるようなお客さんは、そんな肩書きなんて気にしないでしょう。また扁額には「日本一のラジウム温泉」と記されており、ラジウム温浴の効能を強調していますが、そのあたりに関して詮索するのはやめておきます(^^)


廊下を進んだ左側にはこのような大広間が。建物全体が下界とは一線を画すような、いかにも山小屋らし風情に包まれていました。


こちらの宿の特徴の一つは、呼び鈴やインターホンなどの代わりに、板と小槌が随所にぶら下がっていること。急用などでご主人を呼び出すときにはこれを乱打して音を鳴らすわけですね。


浴室は内湯のみ2室あり、どうやら男女入れ替え制のようでして、私はいままで2度訪問していますが、前回は手前側、先日は奥の浴室に男湯の暖簾がかかっていました。
まずは奥側(川側)の浴室から。脱衣所は2人入ればいっぱいになってしまうこじんまりとしたものでした。

 
トタン葺きの屋根以外は総木造の、いかにも山奥の小屋のお風呂らしいお風呂で、余計なものが無く、実によい雰囲気ですね。後背の源泉地で集められた源泉は、浴槽の脇に這わされたパイプを通って一旦小さな枡に落とされてから浴槽へと注がれています。その枡には温度計が突っ込んであり、目盛は50℃を指していましたが、湯船では43℃くらいまで下がっており、加水することなく入浴することができました。

浴槽は4人サイズの長方形。お湯は僅かに白く霞んでいるように見えますが、ほぼ無色透明で、薄い茶色の浮遊物がたくさん湯中を舞っており、弱い砂消しゴムのような匂いと味、そして石膏のような匂いと味、更には微かな酸味とほろ苦さが感じられます。湯加減こそ熱めですが、お湯自体はとても柔らかく、肌にしっとりと馴染む優しい浴感です。


お湯はもちろん掛け流し。排水は床に空けられた穴から真下へ落ちてゆきます。尾籠な譬えで恐縮ですが、まるで昔の列車の垂れ流しトイレのようです。


浴室内にも呼び出し板が。熱いお湯ですから、急にのぼせてフラフラになっちゃったお客さんに遭遇したら、これをガンガン叩いて緊急を知らせばいいわけだな…。

 
浴室の隅っこには掛け湯用の枡が置かれています。浴室内にはカランが無いので、これで掛け湯したり体を洗ったりするのですが、浴槽と違ってこちらはそんなに熱くありませんでした。


窓の外には鳥越の滝の上流部にあたる葛根田川の渓流や滝ノ上温泉の小さな河原が広がり、山肌ではあちこちで白い噴気が上がっています。紅葉は終盤を迎えていました。


 
次に手前側(山側)浴室の様子。室内空間も浴槽も、こちらは奥側(川側)の浴室より一回り小さめ。細い筧からお湯がふんだんに落とされており、しっかり掛け流されています。浴槽が小さいからか、こちらではあまり湯温が低下せず、かなり加水してようやく入浴できる湯加減となりました。


もちろんこちらの浴室にも掛け湯用の枡が。この画像でも一目瞭然ですが、やっぱり手前側(山側)の浴室は全体的に小さめですね。

ふんわり硫化水素らしさを主張しつつも、全体的には非常に優しく柔らかいお湯。このような繊細なお湯は、こちらの山宿のように、余計なものが一切ない質素なお風呂で味わうのが一番です。お湯の良さに集中できますからね。また浴室が総木造なのでお湯が有する自然性に同化できるような気がします。いままでこちらには日帰り入浴でしか利用したことが無いのですが、素泊まりのみの設定ながら宿泊もできますから、今度は食材を持ち込んで宿泊してみようかしら。


滝峡荘 ラジウムの湯
単純硫黄泉(硫化水素型) 68.3℃ pH3.9 湧出量測定不可(自然湧出・4ヶ所混合) 溶存物質0.0850g/kg 成分総計0.1088g/kg
Na:2.8mg(13.64mval%), Ca:9.8mg(55.68mval%), SO4:43.5mg(92.78mval%), 遊離H2S:4.1mg

岩手県雫石町長山東葛根田国有林176ホ
019-676-2175(長谷川さん)
ホームページ

8:00~18:30 冬季(11月下旬~4月)休業
400円
ボディーソープあり、他の備品類なし

私の好み:★★★



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