石川県小松市周辺には温泉浴場がいくつか点在していますが、今回はそれらの中でも年季の入った渋い佇まいが温泉ファンの心を惹きつけて止まない温泉銭湯「今江温泉元湯」へ行ってまいりました。木場潟の水が日本海へと注ぐ前川の畔に位置しており、入口は多くの車が往来する県道11号線に面しています。前川はかつて水運が盛んで頻繁に舟が行き来していたそうですから、今江温泉は過去と現在の主要交通がクロスする場所に立地しているんですね。
なおこの浴場の目の前には「今江」バス停が立っていますので、時間さえ合えば小松駅(あるいは粟津駅)から路線バスを使ったアクセスも容易なのですが、今回私はレンタサイクル(※)を利用して、界隈の街並みを眺めながら現地へと向かいました。なお駅前から「今江温泉元湯」まで、寄り道せずに走ったところ約10分で辿りつけました。
(※)小松市のレンタサイクルについては「カブッキータウンこまつ」内の専用ページをご参照ください。小松駅前の「こまつ芸術劇場うらら」が貸出・返却場所です。なお利用の際には申請書に必要事項を記入の上、身分証明書の提示が求められます。
北陸本線開通後は水運が廃れてしまったものの、昭和30年頃までは農家が舟で川を行き来していたらしく、近年では水郷の風致を活かすべく、和船の体験乗船などの活動も行われているんだそうです。浴場の前にはとても古い石垣護岸と船着場が残されているのですが、ここには藩政期に「前川船番所」が設けられ、領内侵入や逃亡、そして武器や食糧の流出を厳しく取り締まっていたんだそうです。
浴場入口の右側並びには休憩所の入口が別箇に設けられていました。銭湯入口と同じような造りで、両方共ノッペラボウで地味ですから、注意しないと間違ってしまいそうです。なお室内にはカラオケも用意されているんだとか。宴会等で使われるのかな?
休憩所棟の更に右手には駐車場があるのですが、その一角には水色の大きなポリ盥が据えられており、その傍に佇む観音様の下から温泉が注がれていました。ポリ盥の周りには腰掛けが置かれていますので、簡易的な足湯として設けられたのでしょうね。
月並みな表現で恥ずかしいのですが、使い古された表現を使えば、数十年来、時計の針が止まっているかのような館内はまさに昭和の銭湯であり、最新鋭の映画CGでも決して再現できないこの渋い風情には非常にシビれます。年号が平成に変わって26年も経った今日まで、よくぞこの姿を保ち続けながら現役でいてくれました。
このような回転式の傘立ては、かつて私も子供の頃に目にしましたが、今では殆ど目にすることがなく、下足場に置かれていたこれを見て、懐かしさのあまり、つい写真を撮ってしまいました。また番台近くの壁には、表面に錆が浮いている石鹸の自動販売機と思しき金属製の小さな箱がくくりつけられていました。おそらく所定の硬貨を投入すると、ピタゴラスイッチ的な動作によって石鹸が取出口へポトリと落ちる極めてアナログな装置だったのでしょう。さすがに今では使えないようでして、単なるタオル置きに成り下がっていました。
昔懐かしい木板扉のロッカーにはひとつひとつに番号がふられており、その上下には常連さんの風呂道具がズラリと並んでいて、モノトーンな棚をカラフルに彩っていました。多くの常連さんによってこの銭湯は支えられているんですね。
ロッカーの左隣には、これまた懐かしい子供向けメダルゲームが2台並んでいるではありませんか。2台うちスロットマシーンの料金は100円ですが、「スペースライナー」と称する右側の古い機械は何と10円! 今でも動くのかわかりませんが、確かに私が子供の頃は、この手のものは大抵10円で楽しめました。幼き頃に商店街で母に10円をねだった記憶が蘇ります。
天井に吊り下げられている「不老長寿湯」の扁額。
脱衣棚の上には年月を経て茶色く変色した「ききめ」が掲示されています。
浴室も昭和の銭湯らしい佇まいであり、番台や脱衣場で抱くレトロな期待を裏切りません。経年劣化によってタイルの至るところに補修された跡があり、色や模様がバラバラだったりデコボコになっていたりするのですが、天井や壁上部に塗られたコバルトブルーの塗装が目に鮮やかな室内は、天井に突き出た湯気抜きが明かり取りを兼ねているためとても明るく、男女両浴室の仕切りには部分的にガラスブロックが用いられているので、塀が立ちはだかることによって生まれがちな閉塞感も軽減されていました。
浴室に入ってすぐ右側にはサウナがあり、左側にはステンレス製浴槽の水風呂が据え付けられているのですが、サウナは午後1時から使用可能となるらしく、私が訪問したお昼前には利用できませんでした。水風呂と並んで浴室左側には洗い場のカラン8基が一列に並んでおり、そこに貼り付けられた横長の鏡には、地元商店の広告が入っていました。なお水栓から吐出されるお湯には源泉が引かれているようです。
そして浴室の一番奥には、ポトスの蔓が這っている岩の飾りや石灯籠と並んで、2人サイズの電気風呂が据えられています。この部分だけサンルーフになっており、岩や石灯籠で飾られているということは、もしかしたら露天風呂的な空間をイメージしているのかもしれませんね。
浴室中央の主浴槽は二等分されており、それぞれ4人サイズで、脱衣室側(上画像の右側)では泡風呂装置が騒々しく稼働しており、その勢いによって浴槽縁よりサウナの方へ向かってお湯が少しずつ溢れ出ていました。一方、奥側(上画像の左側)は純粋な温泉のみの浴槽であり、泡風呂より若干深い造りになっていて、男女仕切りの下の部分は反対側(即ち女湯)と一体になっていました。
床の一部には、浴槽に向かって泳ぐ2匹の鯉が埋め込まれていました。昔の職人さんのさり気ない遊び心なんでしょうね。風流です。
ちょっと深めの奥側浴槽には「源泉」と記された湯口が突き出ており、そこからお湯がドボドボと絶え間なく落とされていました。湯口の上に掲示されている説明によれば、観音様の恵みによって与えられたこの温泉は、地下630メートルより50℃のお湯が毎分400リットル噴出しており、ゆっくり入浴すれば万病に効き、慢性の胃腸病や便秘には飲泉が良い、とのことです。胃腸が虚弱な私としては是非観音様のお恵みにあやかりたく、備え付けのコップで口にしてみますと、甘塩味と弱ニガリ味、そして弱芒硝味が感じられ、匂いに関してはほぼ無臭でした。お湯の色合いは無色透明であり、湯中では食塩泉的なツルスベ浴感が得られましたが、それと同時に弱いながらキシキシ浴感も存在しており、両者せめぎ合いつつもツルスベの方が遥かに優勢でした。
源泉の湯口から奥側浴槽へ落とされたお湯は、2つの浴槽を隔てる仕切りにあけられた穴を通って泡風呂浴槽へと向かい、その縁からオーバーフローしているのですが、湯使いに関しては純然たる掛け流しなのか、はたまた循環装置が使用されているのか、そのあたりの状況ははっきりと把握できませんでした。ただ源泉100%のお湯が直接投入されていることに間違いありません。湯上がり後は汗がなかなか引かず、少々のベタつきもありましたが、とてもよく温まり、いつまでもその温浴効果が持続しました。寒さの厳しい北陸の冬の心強い味方です。
この時はなかなか汗が止まらなかったのですが、せっかくレンタサイクルを利用しているのだから、風光明媚なところでクールダウンしようと考え、お風呂から出た後に木場潟へ向かい(所要約10分)、静かな湖水越しに白山連峰を眺めながら、湖畔のベンチでゆっくり体の火照りをとりました。自転車はこのようにフレキシブルな行動ができるので良いですね。
今江温泉1号源泉
ナトリウム-塩化物温泉 44.5℃ pH7.7 392L/min(動力揚湯) 溶存物質4.950g/kg 成分総計5.005g/kg
Na+:1517mg(81.58mval%), Ca++:257.4mg(15.87mval%),
Cl-:2464mg(87.00mval%), Br-:9.4mg, SO4--:443.2mg(11.55mval%), HCO3-:59.2mg(1.21mval%),
H2SiO3:68.8mg, HBO2:89.5mg, CO2:55.2mg,
JR北陸本線・小松駅から小松バスの粟津A線・佐美線・矢田線で「今江」バス停下車すぐ
石川県小松市今江町7丁目205 地図
0761-21-4126
6:00~22:00 毎月16日定休(日曜の場合は翌日)
420円
ロッカー・ドライヤーあり、石鹸やタオルなど販売あり
私の好み:★★