温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

吉田温泉 鹿の湯

2012年01月31日 | 宮崎県

宮崎県えびの市の吉田温泉は、かつては界隈随一の栄華を誇っていたそうですが、1968(昭和43)年に発生したえびの地震によって源泉が枯れてしまい、その後ボーリングを試みるもあえなく失敗。辛うじて残った源泉は湧出量が少なく温度も低下してしまい、その後加久藤盆地で次々に掘削された新しい温泉群に客足を完全に奪われ、いまでは閑古鳥が啼いているかすら疑わしいほど寂れた温泉街へと零落してしまい、現在ではわずかな湯治宿が細々と営業しています。哀愁漂う風景に心惹かれる私は某日、立ち寄り入浴をすべく、この吉田温泉に立ち寄ってみました。

今回取り上げるのは温泉街というか集落の北側に位置する「鹿の湯」さんです。当地では共同浴場を兼ねた2軒の湯治宿があり、一軒はこの「鹿の湯」、もう一軒は「亀の湯」と称しておりまして、動物を冠する名称は地方の温泉地ならではの牧歌的な文化が感じられますが、亀に対するのが鶴ではなく鹿というのが、ちょっと変わっていますよね。いや、私が無知なだけで当地にも鶴が存在するのかもしれません。

鄙びたお宿であることは事前に調べていたので、探しにくいことは覚悟していましたが、メインの通り沿いにあるにもかかわらず、看板が無い上に建物自体が繁った木で姿を半分近く隠していたので、その存在に気付かず道を何度も往復して目の前を通り過ぎてしまいました。朝9時頃、やっとのことで探し当てて訪うと、玄関前では宿のご主人が枝葉の茂った木を剪定している最中。入浴をお願いすると「まだ十分に温まってないけどどうぞ」とお風呂へ案内してくださいました。辺りには煙が立ち込めていましたが、この理由は後述します。


 
宿泊棟の前を覆い隠すように繁る荒れた植栽が物語るように、こちらのお宿は営業していないのではないかと訝しく思えるほど相当草臥れていますが、離れの湯屋は輪をかけてボロボロでした。窓ガラスは破け、壁の羽目板は外れ、入口の戸も外れたまんまですが、それでも決して廃墟ではありません。



先述のように吉田温泉は、えびの地震以降、源泉の温度はガクンと下がり、湧出量も激減してしまったそうです。このため当地では入浴に適するよう源泉を加温しているのですが、重油やガスなどのボイラーや湯沸かし器で加温するのが一般的にもかかわらず、「鹿の湯」ではボイラーを導入せず、粉砕した建築廃材(木材)を炊いて加温しているのです。薪でお湯を沸かす銭湯なら現在でもまだ残っていますが、重油にせよ薪にせよ、燃料を大量に燃やす施設は煙突で煙を上空へ逃がしますが、どういうわけかこちらには煙突がありません。ほとんど焚火状態なのです。このため辺りには朦々と煙が立ち込めていました。


 
外れっぱなしの戸から中へ入ると、そこで構えていたのは、思いっきり煤けて使われたような形跡が感じられない玄関でした。一応料金入れもありますが、そこから人間の躍動は感じられません。壁に掲げられている温泉分析表は昭和36年のものです。東京オリンピックの三年前ですね。浴用の効能として「ヒステリー」という前時代的名称が列挙されていることに驚いてしまいました。

不肖ながら私も鄙びた温泉には百戦錬磨のつもりでしたが、さすがに廃墟然としたこの光景には一瞬たじろぎ、三和土で靴を脱いでよいものか判断に迷いましたが、不安と反比例するように好奇心も高まり、しかもご主人があまりに朗らかにすすめてくれるものですから、この笑顔を信頼して突入を決意することに(ちょっと大袈裟かな)。


 
廃墟のようなこの陋屋で唯一まともに時計の針が動いていそうな空間が脱衣所でした。といってもプラスチックの脱衣籠が場違いに鮮やかな色を放っていたのでそう見えただけなのかもしれません。階段を下りて浴室へ。


 
浴室には浴槽がふたつありましたが、片方は空っぽでした。画像を見ますと扉が斜めに傾いていますが、時空がゆがんでいるわけでも、特殊相対性理論を画像化しているわけでもありません。単に建物が傾いでいるだけです。一応内湯ですが、穴が開いた壁は補修されずにそのままですから、外気が遠慮なく侵入してくるので、ある意味で半露天風呂かもしれません。また浴室の片隅にはゴミが放置されっぱなし。床は温泉成分が付着しっぱなしで磨いたような形跡が無くカピカピに乾いています。やはり普段は使われていないのかな、なんて思ってしまいました。



上がり湯用の湯溜りもありましたが、量が少ないので、今回は浴槽から直接掛け湯しました。


 
浴槽には焚火同然で沸かされているお湯がチョロチョロと注がれています。お湯はやや橙色がかった半透明の薄濁り、弱い金気の味と匂いが感じ取れましたが、加温のみで加水はもちろん循環も行われていない(できるはずもない)にも関わらず、知覚面はやや弱めで、若干鈍っているような感触すらありました。また、朝早く訪れてしまったためか、加温そのものも適温には届いておらず、かなりぬるい状態での湯あみとなってしまいました。外ではものすごい煙なんですが、不完全燃焼なのか熱量が足りてないんですね…。でもご主人が仕事の手を休めて案内してくれたんですから、文句は言えません。

私が訪問してから15分後には地元の方と思しきお爺さんが入ってきて、一緒に入浴。そのお爺さんから上述したような吉田温泉についてのお話をいろいろと伺いました。そしてきっと昔は湯治客で賑わっていたんだろうな、と想像しながら、湯冷めしないよう肩までしっかりお湯に浸かったのであります。このお爺さんのように、こんなお風呂でも愛用なさっている固定客がいるからこそ、ご主人は風呂釜の火を消していないのでしょうね。

入浴させていただいたお礼を申し上げつつ、湯上りにご主人と雑談したところ、曰く40年近く前は都内の某大手企業に勤めていらっしゃり、その時は井の頭線の三鷹台にお住まいだったそうですが、都会の水が合わずにこちらへ戻って、東京よりはるかにゆったり流れる当地で日々を過ごしていらっしゃるそうです。建物の外観に違わずご主人も老荘思想の隠遁者を体現しているかのような風貌でした。吉田温泉はひとつの温泉地の栄枯盛衰がひしひしと伝わってくる哀愁の地です。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩温泉
Na:750.043mg, Ca:129.030mg,
Cl:427.025mg, SO4:423.672mg, HCO3:1512.921mg,
(昭和36年の分析値ですから現在は相当異なっているものと予想されます)

宮崎県えびの市大字昌明寺689  地図
0984-37-1531

入浴可能時間不明
350円
備品類なし

私の好み:★★
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京町温泉郷 京町観光ホテル

2012年01月30日 | 宮崎県

京町温泉郷での湯めぐりに際し、宿泊は「京町観光ホテル」でお世話になることとしました。理由としては、部屋でネットができ、且つ「楽○トラベル」や「じゃ○ん」経由で予約出来る、という単純なものでして、朝食付きで値段は4桁以内、ベッドで寝られて、ついでに温泉のお風呂がついてくれば文句ねぇな、と考えながら探していたらこちらの宿にたどり着きました。あれれ? 条件がちっとも単純ではありませんね。言ってることとやってることがかけ離れているのが私の欠点なんです…。
ま、それはされおき本題へ。国道からちょっと入った路地に面しており、いかにも地方の中小規模旅館らしいファサードです。



こちらはロビーの様子。ガラス窓の向こうは中庭です。受付で対応してくださった方はとっても親切でした。ちなみに宿泊者は、このロビーで朝に無料のコーヒーサービスがいただけます。


 
今回利用したのは禁煙のシングル。地方の宿だから大したことないだろうと期待しないで訪れたのですが、建物こそ古さが隠せないものの、室内はすっかりリノベーションされており、アコモデーションは大手チェーンのビジネスホテル並みかそれ以上であることにビックリ。綺麗な上にそこそこ広く、備品も一通り揃っているので、都市のホテルじゃなきゃダメな方でも気にせず泊まれるでしょう。LAN(有線)も使え、速度も文句なし。部屋にはトイレ・バスもついています。とっても快適に一晩を過ごせました。



さて、お宿ご自慢のお風呂へ向かいましょう。男性浴室は宴会場の前を通り過ぎた先にありました。なお女性風呂は宴会場の手前です。この日は忘年会シーズンだったため、館内は宴会場を利用する多くのお客さんで賑わっていました。ドンチャン騒ぎで盛り上がる大広間をそそくさと通り過ぎて浴室へ。
お風呂も数年前に全面リニューアルされたそうでして、いかにも「改装しました」感が強いものの、さすがに綺麗で清潔感が漲っていました。


 
浴室内はまるでスチームバスのような濃い湯気が立ち込め、数メートル先も見えない状態。従いまして曇って全然見えない画像です。ごめんなさい。洗い場にはシャワー付き混合栓が4基設置され、各ブースは仕切り板でセパレートされているので、隣を気にせず利用できました。


 
浴槽は2分割されており、奥が湯口のお湯を直接受ける槽で、手前側はそこから流れてくるお湯を受けています。そのような構造のために、奥はちょうど良い湯加減ですが、手前側はぬるめでした。湯口の奥には網が被せられており、浮遊物を濾し取っているようです。源泉投入量は多く、しっかりオーバーフローしていました。

お湯は微かに橙色を帯びて靄がかかっているように見えるものの、ザックリ無色透明と表現しても差し支えないような見た目で、その色からも想像できる通りに金気の味と匂いがはっきりと感じられ、お湯がオーバーフローする流路や浴槽の湯面付近(つまりお湯と空気との接触面)などはオレンジ色に着色しています。
また2つの浴槽は槽内の着色にも差があり、湯口から離れている手前側浴槽と比べて湯口のお湯が直接注がれる奥の浴槽は色の染まり具合が強く、その様子は↑の右(下)画像を見ても歴然としていることがわかるかと思います。


 
こちらは露天風呂。内湯~露天風呂間は細く狭い通路を歩くのですが、宿泊した日は南九州なのに霜がおりるほど寒いだったため、この通路を歩く時間がめちゃくちゃ寒かった…。上半身は耐えられるとしても、お風呂という湿った空間であるために、足の裏が氷上を歩いているかのような冷たさでした。ちょっとした修行みたい…。
露天風呂は日本庭園風で、浴槽上には屋根が設けられています。庭師の方が設計したというこのお風呂は、さすがにプロの仕事だけあり、うまい具合に植栽が構成されており、特に赤い楓が良いアクセントになっていました。尤も、ベタといえばベタなんですが、定形美ってそういうものでしょうね、きっと(私は素人なのでよくわかりません)。
お湯の質は内湯と同様ですが、投入量が若干少ないように思われ、実際にお湯の鮮度も内湯よりやや劣るようでしたが、たまたまこの日はそういう湯使いだっただけなのかもしれません。


夜になるとこんな感じ。いい雰囲気でしたよ、寒かったけど。


彩光の湯
単純温泉 53.7℃ pH7.5 150.8L/min(動力揚湯) 溶存物質0.504g/kg 成分総計0.515g/kg
Na:77.1mg(77.19mval%),
HCO3:245.0mg(87.39mval%),

JR吉都線・京町温泉駅より徒歩10分(約600m)
宮崎県えびの市大字向江669  地図
0984-37-1231
ホームページ

立ち寄り入浴8:00~22:00
300円
家族風呂もあるらしい(1時間1000円)
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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京町温泉郷 十兵衛の湯

2012年01月29日 | 宮崎県

これまで連続して京町温泉郷の小規模共同浴場を取り上げてきましたが、今回はちょっと趣向を変えて、万人受けする施設をピックアップしてみます。当地を訪れた12月某日の夜、夕飯をどこで食べようか彷徨していたところ、「十兵衛うどん」の大きな看板が目に入ってきたので、店の暖簾を潜ることにしました。この店には温泉浴場が併設されており、そのお風呂は当地を紹介するガイドブックの類に必ずと言ってよいほど掲載されていたので、なんとなく事前にその存在を知っており、温泉バカの私としては夕食選びの時に及んでも「温泉がある」という特徴に惹かれてしまったわけです。

私は常に「花より団子」という言葉が行動原理となっているのですが(それゆえ脂肪が増加の一途を辿っているのですが)、花よりも団子よりも「湯上りのビール」に勝る快楽はありませんから、この時はまず風呂に入り、その後食事処へ移って飯を食いつつビールをグイっと飲むことにしました。

「十兵衛の湯」の建物前の駐車場には空きがないほど車が止まっていました。各媒体で紹介されているんだから、さぞかし有名で、館内は混んでいるのかもしれない…。混雑を覚悟して中へ入ることに。



駐車場には無料の足湯あり。



玄関の下足場には温泉掘削工事で使われたボーリングピットが展示されていました。最近はこのピットを展示する温泉施設が多いですね。



館内は明るくてとっても綺麗。玄関ホールの券売機で料金を支払い、その傍の受付で券を手渡します。ガチャガチャが置かれているあたりに、ファミリー歓迎という施設側の姿勢が伝わってきます。


 
脱衣室もきれいで使い勝手良好。そして洗面台が3台も用意されていて便利。ロッカーや洗面台など、備品類はピカピカ。



玄関ホールも脱衣所もそんなに広くなかったので、全体的にこじんまりとした施設なのかと想像していたら、浴室がその思い込みを覆す広い空間だったのにはビックリしました。天井も高いので圧迫感はありません。
そういえば、駐車場が混雑していたのに、お風呂は全然空いてるなぁ。どうやら駐車場を埋めていた車は食事処のお客さんだったようです。



浴室の片側にシャワー付き混合栓が8基、そして立って使うシャワーが2基、計10基がズラリと並んでいます。こまめに手入れされているのか洗い場は整然としており、公衆浴場にありがちな雑然とした雰囲気が無く、利用客もその整然とした空気に従順としてしまうのか、みなさん律儀に腰掛や桶をきちんと片づけていました。



主浴槽もついつい泳ぎたくなっちゃうほどの大きさ。お湯は無色透明、ほぼ無味ですが石灰分が多いためか硬水のような固い味、そしてほんの僅かな塩味が感じられます。匂いに関しては、温泉由来の匂いはほとんど無いようでしたが、館内にもきちんと表示されているように塩素消毒の臭いがはっきりしているのはちょっと残念です。浴感はスベスベの中にやや引っかかりが混在するものでした。


 
お湯は消毒されているものの、しっかり放流式の湯使いです。湯口から出てくるお湯はかなり熱いので、下手に触ろうとすると火傷するかも。湯口の岩は石灰成分のこびりつきによって白くコーティングされ、その様はあたかもワタリガニの甲羅を白くしたようにボコボコとしていました。また浴槽の縁も洗い場の床も同様に白く、常時お湯が流れる部分だけは石灰が付着できずに着色されていませんが、それ以外はしっかりと白く覆われていました。画像でもはっきりわかるように、色が着いていない流路と、その周囲との色差は明瞭です。



浴室には他に蒸し風呂と水風呂があり、蒸し風呂好きの私はもちろんこの蒸し風呂も利用させてもらいました。


 
露天風呂は日本庭園風。訪問時は夜8時頃だったので、周囲はすっかり闇の中、ちょっと不気味な画像になっちゃいましたが、けっして怖い場所ではなく、けだし日中は長閑な景色が望めるのではないかと思われる佇まいでした。



こちらの湯口もカニの甲羅の表面みたいにボコボコとした小さな突起が表れていました。また浴槽の湯面付近には石灰の析出により小さな庇のようなものが形成されていました。お湯の特徴は内湯とほぼ同じですが、湯船の表面積が広くて常に外気に触れているためか、湯加減は若干ぬるめでした。長湯するならこちらの方がいいかもしれません。


 
お風呂で体を火照らせて軽くフラフラになった後、隣のお食事処へと場所移動です。こちらはうどん屋としての営業がメインのようなのですが、うどんだけにとどまらず、丼ものやお寿司、ちょっとした割烹など、和食全般を取り扱っている和食ファミレスみたいなお店でした。店内もかなり広くて席数も多数。
私は中学生の時に、新宿紀伊国屋の地下にある飲食店街で営業していた博多うどんの店で九州のうどんの美味さを知り、いまでも博多の名物は「明太子」じゃなくて「うどん」、特に「ごぼ天うどん」あるいは「まるてんうどん」であると信じて止まないのですが、そんな頑固な思い込みを持つ人間ですから、数多あるメニューの中から迷わずうどんをチョイスし、それだけでは物足りないので一緒にちらし寿司が付いてくるセットを注文しました。特別感動するようなものではなく、ごく一般的なちらし寿司とうどんでしたが、出汁がよくとれているおつゆに安心し、おいしくいただきました。お店の混雑から察するに、ハズレがない安定感のあるお店なのでしょうね。一人でも問題なく利用できるので、私のような常時一人旅の人間には助かります。


ガイドブックに取り上げられている点、実用的で設備が整っている点、やや凡庸な内装、放流式とはいえ塩素が入ったお湯、などなど鄙び好きの温泉ファンには触手が伸びないファクターが揃っていますが、使い勝手は良好ですし清潔ですから、泉質よりも雰囲気や実用性を重視する方やファミリーには使いやすいのではないかと思います。また、京町温泉郷は大なり小なりモール系の特徴が見られる泉質ばかりなのに、なぜかここのお湯はモールらしさが全く見られないので、湯めぐりしていてモール系の温泉にちょっと飽きたら、こちらのお湯でアクセントを加えてみるのも面白いかもしれません。
ちなみにこちらでは宿泊もできるそうでして、各客室には露天風呂が付帯しているんだそうです。


ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉 65.5℃ pH7.1 溶存物質5.406g/kg 成分総計5.529g/kg
Na:1126mg, Mg:158.5mg, Ca:168.1mg,
Cl:601.0mg, SO4:1140mg, HCO3:1890mg,
塩素消毒あり

宮崎県えびの市大字向江212-1  地図
0984-37-2799
ホームページ

7:00~23:00
400円
ロッカー有料(10円)、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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京町温泉郷 吹上温泉

2012年01月28日 | 宮崎県
 
鹿児島県との県境に近い県道102号沿いに立地している温泉施設で、宿泊・自炊もできる湯治宿としての側面も有しています。車で県道を走っていたら大きな縦型の看板が目に入ってきたので、立ち寄り入浴してみることにしました。なおここは京町温泉からやや離れた場所にあるため、温泉郷に含めてよいか微妙な場所なのですが、当ブログではとりあえず温泉郷のひとつとしてグルーピングさせていただきます。

余談ですが宮崎県えびの市と鹿児島県湧水町を結ぶ県道102号は、川内川に沿ってその右岸に伸びていますが、全体的に走りやすい道なのに、なぜか県境だけ故意に整備を放置したような狭隘区間となるのが奇怪です。縦割り行政が生んだ弊害なのかもしれません。

閑話休題、県道からちょっと登るアプローチを入ると、広い駐車場の向かいに帳場などがある本棟、その右の離れに湯屋棟が建ち並んでいます。朱色の瓦がとっても印象的。



九州の温泉らしく家族風呂が用意されており、10室利用できるんだそうです。しかもそれらの部屋はパンダやコアラ・ブドウ・イチゴなど、幼稚園のクラスのようなネーミングなんだとか。



私は一人利用なので、今回は家族風呂ではなく、大衆風呂を選びました。大衆風呂は本棟に隣接する別棟となっています。女湯側の入口扉の前に目隠しが建てられているさりげない配慮が素敵です。



宿のお風呂とはいえ、公衆浴場としての色彩が強く、脱衣室にもその雰囲気がたっぷり漂っていました。古風な造りですが、とてもよく手入れされており、気持ち良く使うことができました。



浴室は全面タイル貼り。特に目立った設備やオブジェなどは無く、至って実用的でシンプルですが、洗い場の床は濃い色(紺系)、側壁や天井は淡い色、という配色により、横方向の広がりを感じさせるとともに、安定感のある落ち着いた空間を生み出していますね。もっともこの配色はカラーコーディネートの基本だったりしますが、タイル貼りの公衆浴場は没個性で単調なカラーリングであることが多いので、こうした設計には素直にうれしくなります。


 
洗い場の水栓はシャワー付き混合栓が2基と、スパウトのみの混合栓が基。シャワーのうち1基だけ浴槽脇に離れて設置されていました。お湯の栓を捻ると源泉が出てきます。


 
浴槽は1:2に分割されており、湯口から出てくるお湯は、約半分がすぐ前の小さな槽へ、残りは竹の筧で広い方の浴槽へと運ばれており、これによって湯口一つで両方へお湯が供給されるようになっていました(この他、浴槽内の仕切りにも貫通穴が開いています)。広い槽には水の蛇口があり、また湯面の表面積も広いことから、湯口直下の小浴槽は熱くて、広い方が温度が低いのではないかと想定しましたが、実際には湯口から筧へ流れるお湯の量が多いためか、広い槽の方が熱い湯加減でした。
お湯はほぼ無色透明(タイルのために薄い茶色に見える)で、湯中では褐色の小さな湯の華がチラホラ舞っています。ほろ苦さと油っぽい味を有し、弱モール臭とミシン油のような匂いが感じられました。見た目・味・匂いなど知覚面はいずれも薄めですが、ツルツルスベスベの浴感はしっかりと肌に伝わり、心地よい湯あみが楽しめました。なお気泡の付着などは確認できませんでした。

南九州で吹上温泉といえば南薩の吹上町に湧く「吹上温泉」が思い浮かびますが、オーナーさんの故郷がその吹上町ご出身のため、故郷にちなんで吹上温泉と命名したんだそうです。


単純温泉 57.8℃ pH7.5 117L/min(掘削・動力揚湯) 溶存物質0.854g/kg 成分総計0.876g/kg
Na:154.0mg(67.92mval%), Ca:30.9mg(15.65mval%),
Cl:42.0mg(13.30mval%), HCO3:421.4mg(77.49mval%),
H2SiO3:132.7mg, 遊離CO2:22.0mg

JR吉都線・京町温泉駅より徒歩30分(2.2km)
宮崎県えびの市大字岡松字枯木迫427-2  地図
0984-37-0791

8:30~20:30
250円
備品類なし

私の好み:★★
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亀沢温泉

2012年01月27日 | 宮崎県

宮崎県えびの市の鹿児島県境に近い国道268号線沿いに位置する地味で鄙びた共同浴場です。看板などは立っておらず、自分の存在を一切主張していない控えめな佇まいが、引っ込み思案で日陰者だった学生時代の自分に似た物を感じ、思わずシンパシーを抱いてしまいました。それゆえか、迷うことなく初見にもかかわらず一発で辿りつけました。探すにあたっては、屋根上に飛び出た湯気抜きが唯一の目印といえましょうか。



地域のための共同浴場らしく簡素で質朴な建物。当然ながら無人です。脱衣室の奥の方に、共同管理している会員の名札がぶら下がっている掲示板があり、その下に透明アクリルの料金箱が固定されているので、各自で正直に料金をおさめます。



こちらの温泉は地元紙(宮崎日日新聞)にも取り上げられたことがあるそうでして、その記事が脱衣室内に掲示されていました。地元専用のお風呂は、外来者の利用を禁じているところがありますが、こうした切り抜きが掲示されているのを見つけると、「メディア取材がOKなら外来者の利用も問題ないんだな」という判断材料になり、湯めぐりをする私のような立場の人間はホッとするものです。



お風呂は男女別の浴室が一室ずつ。室内には大きな湯船がひとつ据えられており、脱衣室から浴室へ入った途端、芳醇なモールの香りに包まれます。共同浴場らしく装飾性が一切排除された質実剛健の実用本位な造りです。上がり湯用のカランは無く、水の蛇口が2本あるのみ。



ガッチリとした重厚感のあるモルタルの浴槽は6人サイズ。男女仕切り壁の中央に突き出た湯口からドバドバと源泉が大量投入され、浴槽の縁の切欠けからふんだんに溢れ出ています。無論完全掛け流し。烏龍茶のような褐色透明のお湯は、浴槽の底が見えにくいほど色付きが強いもので、その見た目から容易に想像できるように明瞭なモール泉であり、お湯からは芳しいモール臭が漂い、湯口に置かれたコップで口に含むとウイスキーのような深みのある薫香とほろ苦みが口腔で踊り、鼻へと抜けていきます。泡付きは見られませんでしたが、いかにもモール泉らしい滑らかな肌触りが夢心地であり、ツルツルスベスベな浴感には誰しもがウットリしてしまうこと必至。そして湯上りのさっぱりとした爽快感も極上であります。

やや熱めの湯加減ですが、せっかくの完全掛け流しですし、芳醇なモールの薫りを微塵も損なうことなく全身に纏うことこそ、この温泉が持つ本領を存分に堪能できますので、加水しないで入浴したほうが宜しいかと思います。訪問時は先客1人、後客4人と、なかなかの盛況ぶりでしたが、皆さんご親切に気を使って「熱かったら水で薄めて」と声をかけてくださいましたが、熱いお湯が好きな私は常連さんと同じように水で薄めない熱いお湯で温泉の持つ味を十分に楽しませてもらいました。



浴室内には「入浴心得」が掲示されていました。心得が貼ってある浴場は全国どこにもありますし、体を洗え、洗濯するななど、それぞれの文言も一見すると何ということはありませんが、お湯を汲みとるな、という項目に「但しお産の場合はその限りにあらず」と書かれているのがちょっと目を惹きました。ということは、この温泉を産湯にして産まれた赤ちゃんがいるってことかもしれませんね。



こちらは温泉の有権者総会で議題に上がった問題が箇条書きにされているプレートです。利用者に対して一層のマナーの向上を訴えるものですが、「『湯ぶね』の外側排水溝に『オシッコ』をする子供がいるそうです。特に女湯の方で臭う…との苦情があります」という、直球勝負な表現には驚きました。シャワーを浴びると条件反射で尿意を催す人は多いかと思いますが、その傾向には男女差があるのかもしれませんね。小さな女の子がプールで漏らしちゃうという話もよく聞きますし。


 
入浴しながら常連のお爺さんから聞いた話によれば、この亀沢温泉は「界隈で最も古い温泉」とのこと。湯上り後に湯屋の裏手へ回ってみると、そこには薄く苔むしている「亀澤温泉記念碑」が立っており、大正2年4月16日発見と彫られています。日本では明治中頃から上総掘りによる温泉の源泉掘削が盛んにおこなわれるようになりましたから、もしかしたらそのような時代の流れに乗ってこの温泉も掘削されたのかもしれません。なお上述の日日新聞の記事(切り抜き)によれば、亀沢温泉は発見から2年後の大正4年に開業へこぎつけ、現在では28世帯が交代で管理しているんだそうです。



その隣には御影石に彫られた昭和60年の「亀沢温泉改築記念碑」が。



更にはこれらの石碑群と並ぶように、真新しい貯湯タンクが傍に立っていました。タンクには「設置年月日 施工 平成23年5月28日」と記されており、かなり新しい設備であることがわかります。大正期の発見以降、平成の現在に至るまで地元の方々代々の連綿とした愛情が、この温泉を支えているのですね。鄙びた雰囲気もさることながら、お湯の質が非常に素晴らしい浴場で、地元の方々の愛情もあちこちから伝わってきて、とっても気に入ってしまいました。


単純温泉 pH7.5 52.6℃ 109.9L/min(動力揚湯) 溶存物質0.820g/kg 成分総計0.833g/kg
Na:153.2mg(79.47mval%),
HCO3:461.8mg(94.39mval%),
H2SiO3:150.9mg, 遊離CO2:13.2mg,

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩15分(1.3km)
宮崎県えびの市大字亀沢字野添119  地図
(車は湯屋裏手の公民館前にある空きスペースに駐車可)

9:00~21:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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