温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

指宿温泉 民宿たかよし

2016年12月27日 | 鹿児島県

前回記事では指宿温泉「いぶすき元湯温泉」でひとっ風呂浴びたことを述べましたが、その晩は同じ指宿の湯の浜温泉街の入口付近にある「民宿たかよし」でお世話になりました。某大手宿泊予約サイトで温泉宿を探していたら、駅から近くて安いという好条件に惹かれてこちらのお宿を予約したのですが、実際に泊まってみたら、そうした好条件以上に魅力的だったのです。


 
玄関を訪うとお婆ちゃんが笑顔で温かく迎え入れてくださいました。玄関ホールには海外から訪れたお客さんの寄せ書きがたくさん並べられていたのですが、皆さんもきっとお婆ちゃんの笑顔に心をギュッと掴まれたのでしょう。


●客室や食事など
 
今回の客室は2階の和室6畳。朝食付きで税込5000円以下でしたので、ある程度のことは覚悟していたのですが、そんな心配を抱いていたことが失礼に思えるほど室内は綺麗。テレビ・エアコンなどは備わっており、Wifiも使えます。


 
廊下には共用の冷蔵庫や電子レンジが置かれていました。流し台やトイレなど水回りも共用のものを使います。



上述したように朝食付きのプランでしたので、朝食はお宿でいただきました。民宿ですからてっきり家庭的な献立を想像していましたが、目の前に出されたのは高級旅館顔負けの立派な和定食。メインのお魚は、枕崎の名産であるカツオです。とっても美味しかったですよ。
後述する温泉に入れ、しかもこの朝食をいただけて税込5000円以下なんですから、コストパフォーマンス抜群です。恐れ入りました。


●浴場(大)

宿のお風呂は1階の廊下に2室並んでおり、いずれも貸切で使用します。奥は大きな浴室、手前は小さな浴室です。予約制ではないので、利用したい時に亜いている方、もしくはお好みに合う方を使うことになります。なお入浴可能時間は15:00〜22:00、そして6:00〜9:00です。
まずは奥の大きな浴室から入ってみましょう。利用の際は、浴室出入口の脇にぶら下がっている札を裏返して、入浴中である旨を他客に知らせます。


 

脱衣室にはシャンプー類のセットが用意されており、棚には客用のタオルが積まれていました。客室からタオルを持参する必要がないので助かります。


 
総タイル貼りの浴室には、2人サイズの浴槽と2基のシャワーが取り付けられている洗い場が配置されていました。民家のお風呂をひと回り大きくしたような実用的な浴室です。なおシャワーから出てくるお湯は真湯です。


 
温泉は蛇口から落とされているのですが、湯元から供給されてくるお湯の温度が高いため、浴槽へ落とされるお湯の量はチョロチョロ程度に抑えられており、さらに窓を開けることによって自然冷却が促されていました。その甲斐あってか、湯船のお湯は適温がキープされており、私が湯船に入るとお湯が豪快にザバーッと溢れ出ていきました(でも湯嵩の回復には時間を要しました)。放流式の湯使いです。
使用源泉は四郷湯泉源。その名のように、元々は4つの集落が共同管理して使っていた源泉だったらしく、その歴史は昭和12年まで遡れるんだとか。吐出口の周りには白い温泉成分がこびりついており、浴槽まわりはうっすらと茶色に染まっています。湯船のお湯はボンヤリとした貝汁濁りを呈しており、湯口のお湯をテイスティングしてみると、とてもしょっぱくて苦汁味を伴っていました。また朝一番のお風呂では、湯面から芒硝のような匂いがわずかに漂っていました。なお、館内表示によれば加水しているとのことですが、湯量を絞ることによって加水を抑えており、そのおかげで比較的濃い状態が保たれているかと思います。


●浴室(小)
 
続いて手前側の小さな浴室へ。こちらの脱衣室は着替えるのが精一杯な程度のスペースしかないのですが、室内は綺麗にお手入れされており、棚にはタオルがきちんと積まれていますので、使い勝手に支障はありません。


 
三角形の浴槽が据えられた浴室はとてもコンパクト。一般家庭のお風呂をお借りしたような雰囲気ですが、私のような一人客にとっては、こちらの方がフィットして落ち着きます。



浴槽も一人サイズ。大きな浴室と同じく、浴槽まわりは茶色に薄く染まり、温泉専用の蛇口には白い温泉成分が付着しており、その蛇口から熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。浴槽のキャパが小さな分、こちらのお風呂の方が湯嵩の回復が若干早いように思われます。お湯に浸かるとツルツルスベスベの浴感がはっきりと肌に伝わり、その滑らかさが気持ち良くなって、湯中では何度も自分の肌をさすってしまいました。濃い食塩泉ですから、湯上がりはとてもよく火照り、浴衣がビッショリになるほど発汗し、長時間に及んで温浴効果が続きました。

できれば明るい時間帯に当地へ着いてゆっくり湯巡りしたかったのですが、この時はタイトなスケジュールだったため、前回記事の公衆浴場と今回記事の民宿の計2湯のみとなってしまいました。でもそんな無念さをすっかり取り返してくれるような、ハートウォーミング且つコストパフォーマンス良好なお宿でした。


四郷湯泉源
ナトリウム-塩化物温泉 78.8℃ pH7.3 溶存物質13990mg/kg 成分総計14000mg/kg
Na+:4250mg(77.33mval%), Mg++:175.3mg(6.03mval%), Ca++:641.5mg(13.39mval%),
Cl-:7695mg(95.13mval%), SO4--:432.0mg, HCO3-:101.0mg,
H2SiO3:366.0mg, HBO2:26.6mg,
(平成14年2月15日)
加水あり(入浴に適した温度にするため)

JR指宿枕崎線・指宿駅より徒歩12分(約1km)
鹿児島県指宿市湯の浜5-1-1  地図
0993-22-5982

宿泊のみ(日帰り入浴はおそらく不可)

私の好み:★★★
コメント (2)
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指宿温泉 いぶすき元湯温泉

2016年12月25日 | 鹿児島県

2016年6月某日に鹿児島県屈指の温泉地である指宿で一晩を過ごしたのですが、その際に泊まったお宿は次回取り上げるとして、その前にちょこっと湯浴みした公衆浴場「いぶすき元湯温泉」について今回記事で取り上げさせていただきます。閉館時間直前に訪れたため、暗い画像ばかりで申し訳ないのですが、あしからずご了承ください。なお、拙ブログでは以前に指宿温泉の自炊宿「温泉宿元湯」を取り上げており、今回の公衆浴場と同じく元湯を名乗っていますが、お宿と公衆浴場は隣接していながら別個の施設ですので、誤解なきよう。
温泉地の中央に位置するこちらの浴場は、建物自体は比較的新しいのですが、歴史ある温泉地としての矜持を示すためか、伝統的な湯屋の様式に則って建てられているようです。番台で湯銭を支払ってカーテンを開けると、いきなり脱衣室へ突っ込むような造りになっていました。


 
ウッディーな浴室はそこはかとない重厚感と大人数を収容できる広さを有しており、歴史ある温泉地の元湯を名乗るに相応しい貫禄が伝わってきます。男湯の場合は、右手に2つの浴槽が並び、左手に洗い場が配置されていました。


 
窓枠には角材の枕が並べられていました。湯船の縁に置いて寝湯のような感じで使うのでしょうか。
洗い場の端には上がり湯も設けられていました。


 

洗い場にはお湯と水の水栓ペアが5組並んで取り付けられています。お湯・水ともにシャワーは無くスパウトのみなのですが、お湯に関しては要注意。といいますのも、お湯のコックを開けると70℃以上ある源泉そのままのお湯が吐出されるのです。浴場内には「熱湯注意」と書かれた張り紙が掲示されていますが、そんな注意に気づかずいきなりお湯を出して火傷しそうになったマヌケな客がいたことは、ここだけの秘密です(つまり私のことですが…)。


 
2つの浴槽を跨ぐような形で石積みの温泉投入口が設置されています。その石積みの上にはお湯と水の配管が下りていて、いずれにもバルブが取り付けられており、客が任意で開閉できるようになっていました。洗い場に激アツのお湯を供給していた配管はこちらにも伸びていますので、お湯のバルブを全開にしちゃうと、湯船が熱湯地獄になってしまいます。そこで、通常お湯のコックは締められており、客が「もうちょっと熱い方が良いな」と感じた時だけ開けるようにしてありました。つまり溜め湯式に近い湯使いと言って良いでしょう。お湯や水を投入すれば、その分だけ浴槽縁の切り欠けより湯船のお湯が溢れ出てゆきます。



2つの浴槽はいずれも(目測で)1.8m×3m弱の長方形ですが、湯加減の設定が異なっています。脱衣室側の浴槽はぬる湯で、通常は40〜42℃設定のようですが、先客が水で思いっきり薄めた後だったのか、私が訪れた時はそれよりもかなり下回る湯加減でした。また加水の影響なのか、お湯自体も若干の濁りが発生していました。



一方、窓側の浴槽はあつ湯で42〜43℃設定。ぬる湯よりも透明度が高く、入り応えのある湯加減でしたので、私は始終こちらばかりに浸かっておりました。お湯自体はほぼ無色透明ですが、綺麗に澄み切っているわけではなく、僅かに霞が掛かっているように見えます。また、浴槽の縁や湯口まわりはやや茶色を帯びたベージュ色に染まっており、そうしたところからもお湯の濃さがビジュアル的に伝わってきます。

お湯を口に含むととてもしょっぱく、苦汁のような味も少々混じっています。湯船のお湯はトロトロしており、肌にはツルスベと引っかかりが混在して伝わってきました。泉質名こそナトリウム-塩化物温泉、つまり食塩泉ですが、これはミリバル%の数値で決められる温泉法の規定に従ったものに過ぎず、この温泉では他の物質も多く含まれており、相対的に文言として表に現れてこないだけで、特にマグネシウムイオンやカルシウムイオンなどは絶対量としてはかなり多く、苦汁の味やベージュ色の析出はその証左と言えるでしょう。
しょっぱいお湯ですから非常に火照り、湯上がり後はしばらく汗が止まらず、まるで体内に熱源が埋め込まれたかのように長時間にわたってホコホコが持続しました。


摺ヶ浜50号・51号・76号及び111号(混合利用)
ナトリウム-塩化物温泉 73.0℃ pH8.1 溶存物質13.27g/kg 成分総計13.28g/kg
Na+:4279mg(79.67mval%), Mg++:139.4mg(4.91mval%), Ca++:542.4mg(11.59mval%),
Cl-:7171mg(94.56mval%), Br-:26.2mg, HCO3-:139.2mg, SO4--:427.1mg(4.16mval%), S2O3--:0.4mg,
H2SiO3:193.4mg, HBO2:26.5mg, CO2:10.4mg,
(平成24年7月5日)

JR指宿枕崎線・指宿駅から徒歩15分強(約1.5km)
鹿児島県指宿市湯の浜5-19-25  地図
0993-24-2701

12:00~22:00(受付21:30まで) 月曜定休
300円
備品類なし

私の好み:★★
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吉松駅の立ち売り駅弁と吉都線乗り潰し

2016年12月23日 | 鹿児島県
※今回記事に温泉は登場しません。あしからず。

前々回および前回記事で取り上げた高原町の「湯之元温泉」をチェックアウトした後は、東京へ帰るために鹿児島空港に向かいたかったのですが、単純に空港へ行くだけでは芸がないので、昔ながらの旅情を楽しむべく、ちょっと寄り道することにしました。

●吉都線を乗りつぶす
 
まずはレンタカーで都城まで向かい、市内で車を返却してから、路線バスで都城駅へ。


 
この時乗った列車は都城10:18発の吉都線、吉松経由隼人行きです。都城を出てから吉都線の終点吉松を経由し、そこから肥薩線に乗り入れて、日豊本線と合流する隼人駅まで走る各駅停車のローカル列車です。隼人駅やその隣の国分駅からは鹿児島空港行きの路線バスが発着していますので、この列車の終点でバスへ乗り換えようという算段です。都城から隼人(もしくは国分)へ列車で行くなら、日豊本線を利用した方がはるかに早いのですが、なぜ今回は思いっきり遠回りとなる吉都線ルートを選んだのかは、当記事の本題に関わることですので、詳しくはまた後ほど。


 
JR九州による「KAGOSHIMA by ROLA」キャンペーンの中吊りが掲示されている車内ですが、車両自体はローラが生まれるずっと前の国鉄時代に製造されたキハ47(改造されて現在はキハ147に改番)とキハ40の2両編成。天井の扇風機にはいまだにJNRのロゴが残っていました。でもね、古くたってちゃんと走れるんだよ、へぇエンジン変えてるんだ、よくわかんなーい、うん、いい感じー。



午前10時すぎという時間帯だからか、乗客は1両につき数名程度というガラガラ状態のまま都城を出発。数少ないお客さんの中には、スーツ姿で書類を広げる3人グループがいたのですが、地元で仕事する人は車で行動するでしょうから、おそらく遠く離れた地方から出張でやってきたのでしょう。たしかに、地元で生活する人にとって吉都線のような不便なローカル線は学生か老人しか使わない前近代的なインフラに過ぎず、鉄道会社にとっても赤字を膨らませる負の遺産なのかもしれませんが、私のような旅行者をはじめ、他地域から仕事などで訪れる人にとっては、国鉄だろうがJRであろうが、どれだけ時代が変わっても貴重な交通手段であることに違いありません。
ロートル車両のローカル列車は、霧島の山稜を遠くに眺めながら長閑な田園風景の中を走っていきます。線路はえびの高原へ向かって緩やかな上り勾配が続きます。


 
前回記事の「湯之元温泉」最寄駅である高原駅で反対方向の列車と交換(行き違い)。ここまで来ると霧島連山がかなり近くまで迫ってきますね。進行方向の正面に山が聳える高原駅のホームはとてもフォトジェニックです。


 
車窓に広がる高原の畑を眺めていると、徐々に市街地が近づき…


 
小林市の玄関口となる小林駅に到着しました。ここでスーツの3人を含む乗客のほとんどが降車してしまい、2両編成の列車には私など片手に収まる程度の客が残るばかりとなりました。なるほど、吉都線の廃止が常に取り沙汰されるのも宜なるかな。ついさっき「貴重な交通手段であることに違いありません」と偉そうに見得を切ってみたものの、この状況を目の当たりにして自信を喪失し、前言撤回したくなっちゃいました。ズブの素人が下手に意見するものではありませんね。ちなみにJR九州の路線の中では、輸送密度(1日1km当たりの平均輸送量)が最低なんだとか。


 
小林を出るとウネウネと小さなカーブが続き、身をよじるようにして坂道を登ると、更に標高が上がって車窓に山林が迫ってくるようになりました。


 
樹林の連続を抜けると再び視界が広がり、えびの高原の田園地帯を快走。窓から入ってくる風が気持ち良いので、麗らかな空気を体に吸収すべく深呼吸をしたら、タイミング悪く家畜小屋から漂う臭いを思いっきり吸い込んでしまい、ゲホゲホと噎せ返してしまいました。きっと私の日頃の行いが悪いから、こういう目に遭ったのでしょう。
以前拙ブログで取り上げた「鶴丸温泉」が目の前にある鶴丸駅を出た後は・・・


 
やはり以前取り上げた「前田温泉」を見下ろし、その直後に川内川を渡って・・・


●いまや珍しい立ち売り 吉松駅の駅弁
 
定刻通りの11:46に吉松駅へ到着しました。吉都線はここまで。吉松から先は肥薩線に乗り入れます。発車は11:59ですので、13分間この駅で停車します。
私が日豊本線ではなく、大幅に遠回りとなる吉都線経由にした理由は、この駅にありました。


 
本題からちょっと逸れますが、私が訪れたのは今年(2016年)5月の中旬。同年4月に発生した熊本の震災により肥薩線はしばらく運休していましたが、私が旅をしたちょっと前に復旧し、これに伴い肥薩線の観光列車も運転を再開したのでした。吉松駅ではその観光列車「しんぺい」の出発式が挙行されている真っ最中。地元テレビ局も取材に駆けつけ、普段は静かな駅構内もこの時ばかりは賑やかに盛り上がり、地元の観光ボランティアの皆さんが熊本の復興を応援していました。


 
ところが、観光列車「しんぺい」が発車した後は、潮が引くかのようにみなさんサーっと一斉に立ち去り、駅構内はあっという間にいつもの静寂さを取り戻したのでした。ひと気のない閑散としたホームには、ディーゼル車のエンジン音が響くばかり。左(上)画像には2つの列車が写っていますが、右側は私が乗ってきた隼人行、一方の左側は逆方向の都城行です。

この吉松駅から出発する吉都線都城方面は1日10〜11本、肥薩線は隼人方面が15本、人吉方面に至っては5本しか運転されませんが、運行上の要衝であることに違いなく、その証として、ホームの上には行先表示板(通称「サボ」)を入れる棚が設置されていました。鉄道車両の側面に表示される行先は、いまではLEDが主流であり、ひと昔はロールタイプの幕が多かったわけですが、さらに時代を遡ると、車体に横長の行先表示板をぶら下げたり枠に差し込んだりしていました。さすがに関東地方では一部の中小私鉄を除いて見られなくなりましたが、九州でもとりわけ鹿児島や宮崎界隈ではいまでも現役であり、列車が終着駅に到着すると、係員が素早い手付きで行先表示板を差し替えて、折り返し運転に備えます。ホームにこの棚があるということは、この駅を起点(もしくは終点)として運転される列車が多いという意味なんですね。



さて、本題へ戻りましょう。私が吉松駅に立ち寄りたかったのは、ホームにある売店で扱っているものを買いたかったからです。1日平均乗降客数が250人にも満たない小さな駅にもかかわらず、ホーム上に売店があるだなんて奇跡的なのですが、この駅ではもっと珍しいことがいまだに残っているのです。


 
その今時珍しいこととは、駅弁の立ち売りです。かつて特急列車が停まるような主要駅では、当たり前のようにホームなど駅構内で駅弁の立ち売りが見られましたが、在来線から特急が消えるに従って売り子の姿も全国から消えて行き、いまだに残っているのは、東武の下今市、特急「ひだ」が停まる美濃太田、かしわめしで有名な鹿児島本線の折尾、SLなど観光列車が発着する肥薩線の人吉、そしてこの吉松駅ぐらいでしょうか。このほか、数年前に私は新潟県の直江津駅で立ち売りのおじさんから駅弁を買いましたが、在来線が第三セクター化された今でも残っているのでしょうか。

上に挙げた5〜6駅のうち、吉松を除く各駅はそこそこの乗降(もしくは乗換)の客がいたり、あるいは地域の拠点駅だったりするのですが、この吉松駅に至っては、たしかに列車運行上の拠点であり且つ鹿児島県湧水町の中心地であるものの、上述のように1日あたりの運行本数は非常に少なく、乗降客は250人以下であり、付近にこれといった観光名所があるわけでもないので、駅弁の需要なんてたかが知れています。いや、昔は賑わっていたかもしれませんが、いまこの駅に接続する両路線は、JR九州の輸送密度ワースト1(吉都線)とブービー賞(肥薩線)という惨憺たる有り様です。にもかかわらず、昔からいまに至るまで頑固に駅弁の立ち売りを守り抜いているのです(一時期は休止したこともあったようですが)。その素晴らしい心意気に私は心を打たれ、ぜひ立ち売りから駅弁を買いたかったのでした。
とはいえ、いつも駅弁を販売しているとは限りませんので、私は都城駅で列車に乗る前にあらかじめ電話で予約を入れて、確実に入手できるよう手配しておきました。私が列車を降りると、肩から木箱を担ぐ昔ながらのスタイルでお爺さんがやってきて、笑顔で温かい駅弁を手渡してくださいました。なんて勇ましい姿なんでしょう!


 
吉松駅の駅弁は一種類のみ。その名も「御弁当」。実に潔いですね。金650円也。紐を解いて包みを開くと、650円の駅弁とは思えないほど具沢山にビックリ! 所謂幕の内であり、卵焼き・里芋・つくね・煮物(糸こんにゃく・蓮根・にんじん・大根など)・揚げ物・豚バラ焼などが、どれも一口サイズながらギッシリと詰め込まれているのです。まさに小さな宝石箱。温かいお弁当は作りたての証。650円ひとつのために調製してくれたお弁当屋さんに感謝です。定刻の11:59に列車は吉松を発車。窓を開けて風を受けながら、お爺さんがオマケでくれた缶コーヒーを片手に、このお弁当を美味しくいただきました。



お弁当の包み紙は持ち帰りました。上画像がその包み紙です。吉松温泉や京町温泉、そして肥薩線のスイッチバックや霧島連山といった周辺の山々など、周囲の観光名所を地図上にあしらったとてもレトロなデザインですが、昔からこの包み紙を使っているのではなく、少なくとも10年ほど前は違う意匠だったようです。昔から連綿と続いているように思われますが、実はその時々に応じて姿形を変えているのかもしれませんね。
参考までにお弁当の注文(予約)先を載せさせていただきます。
 駅弁たまり 電話0995-75-2046
 注文時には乗車する列車(何時にどの駅を出て何時に吉松駅へ到着するか)、お弁当の個数、名前などを伝えると良いかと思います。そして、釣り銭なきよう必ず小銭を用意しておきましょう!


 
吉松から肥薩線に乗り入れた列車は、いまや観光名所になった嘉例川駅など各駅を丁寧に一つ一つ停まりながら南下し・・・


 
定刻12:51に終着の隼人駅へ到着しました。水戸岡チックなデザインに改修された駅舎の上には、島津の丸十が大きく掲げられています。江戸時代には島津家の支配を受けていたとはいえ、隼人や国分といった現在の霧島市一帯は、かつて大隈に属していました。よく考えれば、肥薩線とはいうものの、起点の八代(肥後)から終点の隼人(大隈)まで薩摩を全く擦りもしない不思議な路線なのであります。でも地理通りに肥大線にしちゃうと、男性乗客の前立腺に変調をきたしそうなので、いまのままで良いのかもしれませんね。



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吉松温泉ビジネスホテル

2016年12月14日 | 鹿児島県
 
川内川中流域の加久藤盆地は、私が大好きなモール泉の宝庫です。今回はそんな温泉の中から、のどかな田園風景が広がる湧水町吉松エリアの「吉松温泉ビジネスホテル」で立ち寄り入浴してまいりました。こちらの施設は国道に面しており、ここを通れば路傍に立つ看板が目に入ってくるため、以前から存在は知っていたのですが、語弊を承知で正直に申し上げれば、その独特な外観および佇まいゆえ、廃業寸前の連れ込み宿ではないのかと勘違いしておりました。しかし、湯巡りに際して当地の温泉を調べていたところ、こちらのお湯を好評価なさっている温泉ファンの方が多いことを知り、己の不勉強を深く恥じた次第です。こういうところにこそ名泉があるんですね。



敷地内では用途に応じて建物が数棟に分かれています。こちらは宿泊棟。各部屋にはお風呂があり、ちゃんと温泉が引かれているんだとか。ビジネスホテルというより商人宿と表現したくなる風情であり、あるいは湯治宿と言っても大過ないかもしれません。


 
国道との出入口付近には倉庫のような小屋があり、そのシャッターの下から温泉を汲み上げるポンプが姿を覗かせていました。


 
湯気抜きを戴く鄙びたこの建物は湯小屋。以前は「岩の湯」という札が下げられていたようですが、私の訪問時(2016年5月)には外されていました。画像を見ますと浴室らしき出入口が複数並んでいますが、いずれも家族風呂であり、立ち寄り入浴の場合はこちらを利用します。もちろん宿泊客も利用可能。


 
湯小屋の正面にある受付で料金を支払います。いや、受付前のベンチでお喋りしている老夫婦に湯銭を支払う、と表現した方が正しいかな。


 
分析書は見当たらず、唯一確認できたデータらしきものは、浴室入口の右手に立て掛けられていた上画像の古い手書きプレートのみです。そこに記されていた泉質名は「含ヒ素-ナトリウム-炭酸水素塩泉」。含ヒ素緑礬泉なら聞いたことがありますが、含ヒ素の重曹泉なんて初めて聞きました。このプレートはいつ作成されたのでしょう。私の不勉強なのかもしれませんが、もし本当にヒ素が多い温泉ならば、迂闊に飲泉できませんね。
私の訪問時、左側の広い浴室は使用中であったため、今回は右側の狭い浴室を使うように指示されました。本当に着替えるのが精一杯の狭い脱衣室を抜けて浴室へ。


 
浴室も家庭のお風呂をひと回り大きくしたような感じのスペースしかなく、まさに家族風呂といった造りです。床タイルは所々が剥がれており、建物としても相当古そうです。湯水がかかりやすい下半分はタイル貼りですが、上半分は目に鮮やかなパステルブルーに塗装されており、そんな色の使い方に、民家のお風呂では味わえない非日常性を見出せるかと思います。
後述する浴槽の左側にはシャワー付きカランが1基設置されており、コックを捻ると源泉のお湯が出てきました。このカランは浴槽への投入口を兼ねており、スパウトの先をぐるっと回して浴槽へ向けることにより、湯船にお湯を足すことができます。


 
浴槽は2〜3人サイズのコンクリ造。上述のように洗い場のカランが湯口を兼ねているため、投入量は自分の好みに加減できます(もちろん加水も可能)。とはいえ、カランの吐出口で50℃以上あるため、出しっぱなしにすると熱くて入れません。私は自分の入浴時のみお湯を全開にしてドバドバ出し、それ以外はキチッと締めておきました。なお湯使いは溜め湯式ですが、お湯を出せば放流式になりますから、お湯を投入した分だけ、しっかりとオーバーフローしていきます。
浴槽に張られているお湯は、まるでコーヒーのような深い琥珀色を有しており、その濃い色合いゆえ、浴槽の底が見えません。いわゆる黒湯状態です。


 
手桶にお湯を汲んだ様子が左(上)画像です。わずかこれだけの量でもお湯の色がはっきりとわかります。私の利用時におけるカラン吐出温度は50.8℃で、pH=8.38でした。湯面からは芳醇なモール臭が香っているのですが、密閉空間で匂いが篭るためか、その香りは油性インクを彷彿とさせるほど濃い状態で浴室内に充満していました。また、お湯をテイスティングしてみると、清涼感を伴うビターテイストが口の中に広がりました。
湯中ではニュルニュルを伴うツルツルスベスベ浴感が強く、滑らかなフィーリングがあまりに気持ち良いため、入浴中は何度も自分の肌をさすってしまいました。なお泡つきは見られません。上述のように私は入浴中にお湯のコックを全開にして熱いお湯をドバドバ出し、お湯の入れ替えを兼ねて湯船からお湯を豪快に溢れ出させたのですが、多少の時間出しっぱなしにしてもそれほど熱くはならず、むしろお湯がフレッシュになって、より一層温泉の持つ滑らかなフィーリングを楽しむことができました。湯船から出るのが躊躇われるほど極上のツルスベ浴感を堪能できる名湯でした。


ナトリウム-炭酸水素塩温泉(※) 60.6℃ pH7.6 蒸発残留物822mg
(相当古いデータと思われるので、あくまで参考程度に)
(※)現地の掲示通りに表記すると、含ヒ素-ナトリウム-炭酸水素塩泉です

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩10分弱(約700m)
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸335-8  地図
0995-75-3390

7:00~22:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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栗野岳温泉 南洲館

2016年12月12日 | 鹿児島県
 
温泉ファンから支持を集める栗野岳温泉「南洲館」。言わずもがなですが、南洲とは西郷隆盛の雅号であり、西郷どんは明治初期にこの温泉で一ヶ月間滞在し、体を癒していたんだそうです。



構内の道標に従って帳場へ向かい、日帰り入浴の料金を支払いました。場内には「竹の湯」「桜湯」「蒸し風呂」そして宿泊者用のお風呂があり、日帰り入浴の場合は3つの浴場を利用することができますが、利用する浴場数によって料金が異なり、1ヶ所だけなら300円、2ヶ所は550円、3ヶ所は700円とのこと。今回私は550円支払って2ヶ所巡ることにしました。


●竹の湯
 
まずは「竹の湯」へ入ってみることに。敷地内の奥へ進んだ先で、木々に抱かれるように渋い湯小屋が建っており、その傍らには「浴場落成紀念碑」と彫られた古い石碑が立てられていました。



まるで田舎の共同浴場のような鄙び感たっぷりの質素な湯小屋ですが、浴室は貫禄ある石造りで、見るからに古くて湯治場風情が強く残っており、石碑で祝われた落成から相当の年月が経っているかと思われます。


 
上家は木造ですが、壁には切り出し石材が積み上げられています。今、このようなスタイルで湯小屋を建てたら、結構な費用を要するかと思われます。古い建物だからこそ得られる重厚感なのでしょう。


 
浴槽の裏手には温泉の打たせ湯が1本、そして真水が溜められている小さな槽が1つ、設けられていました。


 
浴槽は1.8m×2mほどの大きさで、角はRを描いています。浴槽の縁には木の枕が置かれていましたが、これは湯船に浸かりながら使うものなのか、はたまたトド寝用なのか。
「竹の湯」の特徴は、この石造りの浴槽に張られたグレーに濃く濁る泥湯ですね。石積みの塀の上からお湯が絶え間なく落とされているこのお湯は、ゴム的な匂いと火山の噴気孔的な匂いがミックスされたような硫化水素臭を漂わせており、口に含むと頬っぺたの内側がキュンと収斂するような酸味を有しています。でも加水されているためか、酸味はマイルドであり、群馬県の草津温泉や大分県の塚原温泉みたいに肌を刺激するような感覚はありません。


 
ケロリン桶で湯船のお湯を掬ってみました(画像左or上)。まさに泥湯という感じ。でも実際のお湯はドロドロしているわけではなく、湯船に浸かると少々のマッドな感覚がある他は、むしろツルスベの方が勝っているような感じでした。浴槽の底には湯泥が沈殿していましたので、桶で底部をグイッと浚ってみたのですが(画像右or下)、湯泥は湯船の中で撹拌されているためか、あまり掬い取ることができず、上澄みを流したら、画像に写っているようにちょっとしか残りませんでした。このため湯泥を肌に塗ってパックするようなことは難しいですね。でも湯船に浸かっているだけで十分湯泥は肌に馴染んでくれるので、お湯の濃厚さを実感することができました。


●桜湯
 
続いて「桜湯」へ。各浴場はそれぞれ別棟ですので、浴場間を移動する場合は一旦服に着替えることとなります。共同浴場然としていた「竹の湯」とは対照的に、こちらの浴場は正面玄関近くのわかりやすい場所にある立派な建物。このお宿における主浴場としての役割を担っているものと思われます。


 
板の間の脱衣室を抜けて浴室へ。引き戸を開けた瞬間、硫黄臭が鼻を突いてきました。「竹の湯」より遥かに広い室内の中央に四角い浴槽がひとつ据えられています。壁には水道の蛇口が2〜3ヶ所設置されており、蛇口の金具は硫化して青黒く変色しているのですが、水栓の劣化が進んでいるためか、あるいは元から止めているのか、水が出るのは1ヶ所だけで、しかもチョロチョロ程度でした。なおシャワーなどはありません。足元は切り出し石材が敷かれており、老舗旅館らしい風格と重厚感を漂わせています。側壁の下部にはルーバーが取り付けられていますが、これは硫化水素ガス対策かと思われます。



梁がむき出しの天井はとても高く、その頂点は湯気抜きになっていました。


 
浴槽は総石材作り。大きさは目測で1.8m×2mほどでしょうか。何か神々しいものを感じる不思議な形状の湯口からは、お湯が静かに落とされており、そのお湯が張られる湯船は少々のオリーブグリーンを帯びる白濁を呈していました。湯口や湯面からは、噴気孔から放たれるような刺激を伴う硫化水素臭が強くと香り、軟式テニスボールのようなゴム臭も混在していました。口に含むと決して強くはないもののはっきりとした酸味があり、その酸味によって口腔の粘膜が収斂しました。湯中ではツルスベ浴感があり、「竹の湯」のような湯泥はあまり見られませんので(その代わり、底には砂利のようなものが沈殿していました)、泥湯のような癖のあるお湯が苦手な方にはこちらの方が入りやすいですね。


●八幡地獄

「桜湯」の裏手には「南洲翁遊猟之地」と刻まれた石碑が立っており、その後ろに外来入浴で利用できるもう一つの浴場「蒸し風呂」があるのですが、今回「蒸し風呂」は利用しておりません。


 
「蒸し風呂」の左手には階段が伸びており、その階段を登ってトレイルを進み森へ入ってゆくと、やがて視界が開けてガレ場になりました。「南洲館」の各浴場にお湯を供給している八幡地獄に到着です。


 
栗野岳の山腹に広がる地獄の随所から、白い湯気が朦々と上がっており、硫化水素臭を漂わせていました。トレイルの足元では温泉が湧出しているところもありました。案内文によれば、この地獄は2ヘクタールもの広さがあるんだとか。


 
トレイルは大きな湯沼の手前で行き止まり。どこかで野湯ができそうですが、理性を働かせて自制しました。それにしても、ものすごい噴気です。栗野岳のパワーに圧倒されました。


(竹の湯)
栗野岳1号
酸性・含鉄(Ⅱ・Ⅲ)-アンモニア-硫酸塩温泉 90.0℃ pH2.2 溶存物質2295.9mg/kg, 成分総計2296.1mg/kg
H+:6.3mg(21.76mval%), Na+:15.8mg, NH4+:188.0mg(36.29mval%), Mg++:28.6mg, Ca++:38.4mg, Al+++:46.6mg(18.04mval%), Fe++:46.2mg,
Cl-:5.0mg, HSO4-:264.9mg, SO4--:1259.7mg(90.13mval%),
H2SiO3:379.9mg, H2SO4:4.2mg, H2S:0.2mg,
(平成19年9月25日)
加水あり(強酸性のため)

(桜の湯)
栗野岳4号
酸性単純硫黄温泉 61.2℃ pH2.8 溶存物質283.8mg/kg, 成分総計286.2mg/kg
H+:1.6mg(47.16mval%), Na+:5.4mg, NH4+:3.1mg, Mg++:3.9mg, Ca++:9.8mg(14.53mval%), Al+++:3.7mg(12.22mval%), Fe++:2.0mg,
Cl-:5.8mg, HSO4-:8.0mg, SO4--:149.2mg(92.65mval%),
H2SiO3:87.3mg, H2S:2.3mg,
(平成19年9月25日)
加水あり(温度調整のため)

JR肥薩線・栗野駅より湧水町ふるさとバスの東回りもしくは観光回り(土日祝や春夏冬休みに運行)で「栗野岳温泉」下車すぐ
(時刻は湧水町公式サイトにてご確認ください)
鹿児島県姶良郡湧水町木場6357  地図
0995-74-3511
ホームページ

日帰り入浴9:00〜20:00
1ヶ所だけなら300円、2ヶ所は550円、3ヶ所は700円
桜湯に石鹸およびドライヤーあり、他備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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