温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

野沢温泉 麻釜の湯

2023年09月25日 | 長野県

(2022年6月)
今回から連続で、温泉ファンにはお馴染みの野沢温泉に点在する共同浴場を取り上げます。既にご存知の方も多いかと思いますので、いつもより文量を少なめに致します。
まずは「麻釜(おがま)の湯」から。その名の通り麻釜からお湯を引いている浴場ですね。
それでは早速おじゃまします。


更衣ゾーンと入浴ゾーンの間に仕切りが無い一体型の構造。
男女別の浴室に湯船がひとつずつ設けられ、それぞれに麻釜から引かれた熱い温泉が注がれています。
入浴の際、あまりに熱すぎたら水を入れることになりますが、下手に加水すると普段からこちらに入っている地元の方に失礼ですので、多少熱い程度でしたら我慢して入っちゃいましょう。


お湯は無色透明で、溶きタマゴのような白い湯の花が浮遊しています。
湯口のお湯を口に含んでみますと、軟式テニスボールのような硫黄風味が感じられました。
ツルスベ感を伴う滑らかで気持ち良いお湯です。
言わずもがな放流式の湯使いです。


「麻釜の湯」から坂をちょっと上がると、野沢温泉名物の「麻釜」に到着です。


このブログをご覧の方には申し上げるまでもありませんが、「麻釜」は野沢温泉に数ある源泉の一つであり、源泉から湧き出たほぼ熱湯状態の温泉が5つの湯だまりを作っています。湯溜まりによって温度が異なり、あけび細工に使われたり、当地の台所として食材のボイルに使われたりしています。
上画像は「丸釜」。いまでこそ四角い形状ですが、以前は名前の通りに丸かったそうです。


こちらでは温泉たまごを作っていますね。


この「大釜」は2つの湧出口を有し、90℃以上にもなるんだとか。


丸釜・茹釜・竹伸し釜・下釜・御嶽の湯混合
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 77.0℃ pH8.8 湧出量記載なし 溶存物質1.059g/kg 成分総計1.059g/kg
Na+:203.7mg(65.87mval%), Ca++:87.0mg(32.27mval%),
Cl-:86.5mg(17.02mval%), OH-:0.1mg, HS-:5.2mg, SO4--:529.0mg(76.78mval%), CO3--:15.0mg,
H2SiO3:104.1mg,
(平成26年11月5日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

6:00~23:00
無料(気持ちを入口横の賽銭箱へ)
貴重品用ロッカーあり、その備品類無し

私の好み:★★★
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百合居温泉

2023年09月17日 | 長野県

(2022年6月訪問)
鄙びた温泉浴場が好きなファンから評価が高い信州の百合居温泉を取り上げます。
プレハブ造の簡素な湯小屋はなんとご当地(栄村)の村営の施設なんだとか。こんな渋い施設を公営にしちゃう栄村、すばらしいですね。上画像では入口の右横に地元のご老人がここまで乗ってきたと思しきセニアカーが写っていますが・・・


目の前には長閑な田園風景が広がっており、ご老人が乗ったセニアカーがのんびり移動する光景がぴったり似合います。


建物の脇には貯湯タンクが設置されていますね。


さて、周囲の長閑な環境に心がほっこりしたところで、中へお邪魔します。
出入口を入って左側にはロッカーがありますので、貴重品はこちらへ預けましょう。


こちらは無人施設です。受付の方はいらっしゃいませんので、入浴料は出入口付近に置かれている小型の券売機で購入します。何事も値上げが続く昨今ですが、なんと200円という大変ありがたい料金設定です。
なお脱衣室内には扇風機が取り付けられている他、当地は豪雪地帯ですから、冬にはオイルヒーターがつけられるようです。


無人施設とはいえ、管理人の方が定期的に見回りに来るらしく、こちらのローカルルールとして、脱衣室で服を脱いだら、入浴券に名前を書き(ペンは券売機の傍にあります)、自分の荷物の上へ券を見えるように置くことになっています。平和な空気に覆われている長閑な浴場ですが、過去には何かあったんでしょうね。


シンプルイズベストの浴室。余計な装飾どころか余計な設備もほとんどありません。仮設じゃないのに仮設感たっぷりのこの雰囲気にマニア心はイチコロです。浴槽の大きさは(目測で)2✕4メートル。上屋はプレハブですが、床と浴槽はモルタルで、その上にグレーの防水塗料を塗っています。防水塗装ってことは滑りやすいのでちょっと注意。


浴室の左右に洗い場があり、それぞれシャワーがひとつずつ。石鹸などの備え付けはありませんので、事前に用意して持参しましょう。


先程見ました浴舎横の貯湯タンクにつながっている耐熱塩ビ管から、加温された源泉が浴槽へ投入されています。浴槽内の女湯側には穴があいており、男女両浴槽でお湯が行き来しているようです。訪問時には浴槽からのオーバーフローが見られなかったのですが、もしかしたら男湯のお湯はこの穴を通じて女湯側から排出されていたのかもしれません。

お湯は無色透明ですが、湯中では茶色い埃みたいな湯の華が浮遊しています。湯口のお湯を口にしたところ、味はあまりないのですが、そのかわり湯面でアブラ臭がしっかりと香ってきました。また、湯中ではアルカリ性単純泉にありがちなツルスベの滑らか浴感ではなく、どちらかと言えばやや引っかかるような浴感が肌に伝わってきました。

上述の券売機付近に長野県温泉協会フォーマットの湯使い説明が掲示されており、それによればこの温泉の泉質は「ナトリウム-塩化物泉」と表記されているのですが、同じく館内に掲示されている令和2年の資料では「アルカリ性単純泉」となっており、ここ数年で泉質が変わってしまったか、あるいは泉質名が付けられる溶存物質量1000mg前後を上下しやすい温泉なのかもしれません。ただ残念ながら分析表は掲示されていなかったので、詳しいことはわかりません。

なんだかんだで入り心地の良いお湯であり、タイミングよく他のお客さんが来ず独り占めできたので、ついつい長湯してしまいました。渋い佇まい、周辺の雰囲気、そしてアブラ臭漂うお湯という、マニア心をくすぐる三拍子が揃った素敵なお風呂でした。


アルカリ性単純温泉 27.6℃ 
(分析表見当たらず)
(令和2年9月28日)

長野県下水内郡栄村大字堺1226-1
問い合わせ先:栄村役場商工観光課 0269-87-2702

5月~10月(夏季)→14:00~19:30
11月~4月(冬季)→14]00~19:00
日曜定休
200円
ロッカーあり、石鹸類・ドライヤーなし

私の好み:★★★

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温泉関連書籍 おすすめの2冊

2023年09月13日 | その他
久しぶりに温泉に関連する書籍を取り上げます。

温泉に関する情報をネットから入手することが主流になって久しいものですが、とはいえ今でも書籍は重要な情報源です。
玉石混淆のネット情報と違い、情報が整理されている、わかりやすくまとめられて編集されている、そして編集者など複数の人の目がフィルターになっている、など多くのメリットがあり、そして何より著者の思いが文面から伝わってくるので、その思いにつられて記事で紹介されている場所へ行ってみたくなるのが大きな魅力です。
今回は直近1年の間に刊行された温泉関連書籍の中から、私が特にレコメンドしたい2冊を取り上げます。


温泉百名山
 著:飯出敏夫
 2022年10月
 集英社インターナショナル



刊行から1年が経とうとするタイミングで紹介するのはちょっと遅いように思いますが、でも秋の登山シーズンを控えた今だからこそあえてご紹介させていただきます。
登山を趣味とする方の中には日本百名山の制覇を目指す方も多いかと思いますが、根っからのへそ曲がりである私は、登る山を決める際に敢えて日本百名山を避けたくなってしまいます。天邪鬼な性格もさることながら、深田久弥の『日本百名山』も読まず妄信的に百名山を有難がって目指す世間の風潮に納得がいかないのです。山の好みは人それぞれなのですから、登山家一人一人に自分なりの名山があっても良いのではないかと私は常々考えているのですが、とはいえ、恥ずかしながらそこまで多くの山を登っているわけでもないので、多くの山の中から一定の基準を以て選り好むという崇高なこともできません。
そんな中で昨年10月に刊行された飯出敏夫さんの『温泉百名山』は、温泉と登山の両方を好む私にとって我が意を得たりと言わんばかりの著作であり、ページをめくる手が止まらなくなるほど大変興味深い内容でした。

日本の山と温泉は切っても切れない関係にある、と言いたいところですが、山があるからと言って決して温泉が湧いている訳ではなく、温泉の有無は火山活動や地質などいろんな条件によって左右されてしまいます。奥羽山脈や北アルプスのように温泉資源が豊富な山域もあれば、日高山脈や南アルプスのように、温泉資源が決して多くない山域もあるので、私のように「下山後は必ず温泉マニアとしても納得できる温泉に入りたい」と考えると、目指す山域に偏りが生まれ、結果的に日本百名山とは無関係な山行になるわけです。

そんな中、この『温泉百名山』は温泉と登山の達人である飯出敏夫さんが、「品格」「歴史」「個性」という深田久弥の百名山選定基準を援用しながら、麓や山腹に名湯が湧く名山を日本全国から100座選び、しかもご自身が選んだ100座全ての頂上をご自身で登って、その記録を一冊にまとめ上げたもの。しかも著者は悪性リンパ腫や膝関節症などの病に幾度も侵されながら、病気を乗り越えて自分の足で山の頂に立っているのですから、只々驚くしかありません。単に名山名湯を選定しているだけでなく、山と温泉を愛する飯出氏の生き様に感銘を受ける一冊です。仕事で疲れて週末ダラダラと過ごしてしまう私は、その精力的な動きに「すげぇ!」と尊崇の念を抱くと共に感銘を受けるばかりでした。

今回の著書では深田久弥『日本百名山』と同じく、一座一座の山や温泉についてそれほど文章量が多いわけではないのですが、簡にして要を得るというべきか、的確で無駄のない筆致なので、著者が実際に現地で感じたであろう景色や空気、そしてお湯の感触が如実に伝わってきます。また実際にその山を登ったことがある方なら、ご自身の山行や下山後に疲れを癒した温泉の気持ち良さを追体験できるでしょう。余計な表現が削ぎ落されているからこそ、想像を膨らませ、記憶を蘇らせることができるのかと思います。
このため、登山と温泉のガイド本として活用するのはもとより、新たな切り口による山選びの指南書として、あるいは紀行文や風土記のような読み物として捉えると、より面白みや有用性が感じられるのではないかと思います。日本には様々な百名山がありますが、この温泉百名山もアウトドアを趣味とする方々にとってのひとつのメルクマール的な存在として末永く在り続けていくことを、著者のファンの一人として願っています。

ちなみに現在、著者は早くも第二段として『続・温泉百名山』の選定に取り掛かっていらっしゃいます。この続編では登山初心者や高齢者でも登れるような山とその麓の温泉を中心に選定してゆく予定とのことで、具体的には今作であまり取り上げられなかった九州方面の山や、それほど高いとは言えないような箱根方面の山など、明らかに今作とは異なるターゲットを既に登っていらっしゃいます。詳しくはインスタをご覧ください。
https://www.instagram.com/oncolle_iiyu/


ほぼ本邦初紹介!世界の絶景温泉
 著:鈴木浩大
 2023年6月
 みらいパブリッシング



拙ブログで以前ご紹介した鈴木浩大さんの著書『湯けむり台湾紀行』(まどか出版、2007年・現在絶版)は、私が台湾の温泉に深くはまってゆく契機となった名著であり、「台湾にはマニア心をくすぐる蠱惑的な温泉がこんなにあるのか」と感心しながら、私が台湾を旅行する際には文字通りバイブル代わりとしてこの本を常に携行していました。数えきれないほど読み返してきたので、今ではページの隅がヨレヨレになり、製本がバラバラになってしまいそうな状態になっているほどです。

卓越した調査力と探査力、そして行動力を兼ね備えた旅の達人である鈴木さんが、今度は世界を舞台にして、これまたマニアックな温泉本を世に出してくださいました。その名も『ほぼ本邦初紹介!世界の絶景温泉』。「ほぼ」という副詞をタイトルに含める謙虚さに著者のジェントルな人柄が表れているような気もしますが、それはさておき、ビジュアルガイドシリーズというシリーズ名が示す通り、温泉マニアだったら間違いなく惹きつけられるグラビアが多く、著作の中で紹介されている温泉の全てに行きたくなって体が疼いてしまうこと必至。しかも「ほぼ本邦初紹介」の文言に偽りなく、著書の中で紹介されている温泉の多くは、日本語のウエブサイトではほとんど取り上げられていません。どうしてこんな温泉があるという情報を得たのだろうか・・・不思議で仕方ありません。私にとっては正に神の領域です。
著者が実際に入浴して紹介している温泉は、南北アメリカ、極東アジア、東南アジア、南アジア、中東、小アジア、欧州、アフリカというように新旧の大陸を股に掛けており、しかも単に取り上げるだけでなく、「析出物」「景観」「噴泉・気泡湯」「濁り湯」「変わり種」という温泉マニア視点で章立てされている点が読み物として面白いところ。分かる人にはわかる分類方法ですね。

私はたまに「海外にも温泉ってあるんですか」「日本こそ温泉大国ですよね」という質問を受けます。井の中の蛙大海を知らずと言ってしまうと語弊がありますが、日本のみならず、地球上の各地で星の数ほどの温泉がそこここで湧出しており、それぞれの地域にそれぞれの温泉文化が息づいています。日本の場合は毎日湯船に入る習慣が高度経済成長期以降に根付き、そこに古くからある温泉文化が混ざり、団体旅行ブームなども相俟って、温泉と庶民が非常に密接に結びつくようになったわけですが、文化や生活、そして観光や資本に組み込まれてしまった温泉が多い日本と比べ、海外の温泉はワイルドで手付かずのものが多くあり、それゆえ景観面でも泉質面でも良好な状態が保たれており、大地の恵みをダイレクトに受けられるという意味では、むしろ日本より海外の方が良い場合も多々あるように思っています。もちろん日本には素晴らしい温泉が余多あり、その中には大変ワイルドで到達困難な野湯などもあって、RPGをプレイするかのように野湯や地元民向け温泉浴場を訪ね歩く強者もいらっしゃるわけですが。でも海外旅行の醍醐味のひとつであるカルチャーギャップを体験したり、日本にない風土や景色に抱かれたりしながらワイルドな温泉を入浴するとその感動もひとしおであり、日本の温泉では決して味わえない強烈な想い出が残るのです。

拙ブログを以前からご覧くださっている方はお気づきかと思いますが、私もまさにそうした魅力を求めて海外の温泉へ出かけており、世界各地の温泉に魅了され続けてきました。そんな私にとって鈴木さんの新刊は目の前に応現した新たなバイブル。コロナ禍で海外旅行が一時的に難しくなり、その問題が去った後も円安という現実的問題が立ちはだかって、なかなか海外には行きにくい状況ですが、今回の著書を読んで、やっぱり海外に出かけなきゃ、という思いを新たにしたのでした。ということで、台湾に続いてこれからも私は鈴木さんが通った轍を追いかけてゆくのでしょう。

ちなみに鈴木さんはブログも執筆なさっています。
ぜひご覧になってください。
ブログ「世界の絶景温泉」


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舘山寺温泉 旅館ふじや(後編 お風呂)

2023年09月04日 | 静岡県
前回記事の続編です。


さてお腹を満たした後はお風呂に入りましょう。お宿には2つの浴室があり、右の浴室には紺の、左の浴室には紅の暖簾が掛けられているのですが、特に男女で分けているわけではなく、女将さん曰く空いていればどちらを使っても構わないとのことでしたので、両方入ってみることにしました。まずは右側のお風呂から。


お宿のお風呂とはいえ、家庭のそれと同じかやや大きい程度で、かなりコンパクトなつくりです。でもこのコンパクトさが実は重要なのかもしれない、と後で気づくのでした。どういう意味なのかは後述します。
なお(話が前後しますが)更衣室にはエアコンが設置されているので、夏の湯上がりのクールダウンも、冬のヒートショック対策も問題ないかと思います。


洗い場にはシャワー2つあるので、夫婦や家族での利用も大丈夫。


湯船は1人ならゆとりがあり、詰めれば2人も入れそうな大きさです。

特筆すべきは湯船に張られたお湯の色です。黄金色を帯びて底が見えないほど濁っており、しかも金気の匂いが漂っているのです。
前回記事で申し上げましたように、舘山寺温泉では各施設が同じ源泉を分け合って引いており、他の旅館や施設で入れるお湯は無色透明でほぼ無味無臭(もしくは薄く塩味)であることが多いのです。拙ブログで記事にする予定はありませんが、実際に私が当地で数カ所の他施設を利用しお風呂に入ったところ、一部を除いてどこも無色透明無味無臭のお湯でした。このため、事情を知らない人が舘山寺温泉に入ると、無色透明無味無臭の特徴が少ない温泉なのだな、と勘違いしてしまうでしょう。でも実際にはこんな色を帯びた濁り湯であり、しかも金気を含んで非常に塩辛いのです。


湯口には専用の水栓あり、開けると温泉を含む熱いお湯が出てきます。「温泉を含む」という回りくどい表現をしたのは理由があって、こちらのお宿では供給される熱くない源泉に熱い沸かし湯(白湯)を足すことで、循環消毒しない放流式の湯使いを実現させているのです。舘山寺温泉で放流式の湯使いを実践している施設は極めて珍しいのではないでしょうか(もしかしたらここだけ?)。

毎分66.6L/minしか湧出しない源泉を20軒近い各施設で分け合っているのですから、どうしても供給量が少なく、しかも湧出温度が30℃未満ですので加温する必要もあります。この源泉を放流式にして且つあまり薄めない状態で湯船へ注ぐため、湯船を小さくし、且つ加温した白湯を混ぜることで、湯加減とお湯のクオリティの両立を図っているものと推測します。つまりお風呂が小さいのは必然なのかもしれませんね。

私が湯船に入るとお湯が勢いよくザバーっと音を轟かせて溢れ出し、洗い場が洪水状態になってしまいました。なんと贅沢な湯あみでしょう。お湯は塩辛くて苦汁味があり、金気味もかなり強く、湯面からは金気臭と磯の香り、肥料臭、そしてほのかに焦げたような匂いが漂ってきます。もしかしたらアブラ臭も含まれていたかもしれません。私個人の感覚で匂いを表現しますと、津軽平野に湧出する化石海水性の温泉の匂いに金気を混ぜたよう感じ、といったところでしょうか。湯船のお湯は赤みを帯びた黄土色に濁り、その透明度は50〜60センチでしょうか。湯中では食塩的なツルスベの滑らか浴感と土類泉的な引っかかる感触が混在して肌に伝わってきます。塩辛いお湯ですのでパワフルに温まり、湯上がりには汗がなかなか止まりませんでした。

なお湯使いに関しては、ネット上の口コミに書かれている「源泉掛け流し」という表現を、こちらのお宿の女将が懸命に訂正しようとしており、その姿勢が実に誠実だと僭越ながら感心しました。たしかに源泉掛け流しではなく、貯め湯式と放流式の併用です。掛け流しと言えば、絶え間なく惜しみなく源泉のお湯が注がれ使い捨てられており、一旦貯めたり加温した白湯を足すことも無いわけですから、厳密に言えばこちらのお宿の湯使いを掛け流しと表現するのは無理があるのかもしれません。でも掛け流しについての明確な定義が定まっていない現状で、いくらなんでも…と閉口したくなるような湯使いをしている施設ですら「掛け流し」を標榜していることも多々ありますので、舘山寺温泉で最も源泉に近い状態のお湯に入れるこちらのお宿のお湯を掛け流しと評価したくなるお客さんの気持ちもよくわかります。


こちらは紅色の暖簾が下がっている左側のお風呂です。右側のお風呂とは窓の位置が違うだけで、あまり相違点はありません。敢えて相違点を挙げるならば、赤い暖簾が下がっているこちらの浴室の脱衣室が若干広いような気がします。


当然ながら湯口から出てくるお湯も同じ。


湯船もほぼ同じサイズだったかと思います。右側も左側も浴室には特に相違点が無いので、敢えて両方に入らなくても、どちらか片方に入れば十分でしょう。

なお、舘山寺温泉の日帰り入浴施設「華咲の湯」には循環かけ流し併用の露天風呂があって、そこでは黄土色を帯びたお湯に入ることができますが、貯め湯式とはいえ循環されていないかけ流しのお湯に入れるのは、おそらくこのお宿だけかと思います(他にあったらごめんなさい)。


余談ですが、宿泊中にちょっと気になったのがこの館内の避難経路図。2つあるお風呂は元々男性用と女性用で使い分けていたようですが、上述のように現在はそのような使い方をしていません。このためこの図では「男」「女」の文字を消しているのですが、なぜか「性」の字を残しているため「 性浴室」という表記になっており、捉えようによっては変な意味になってしまいそうで、思わず笑ってしまいました。決して吉原や堀之内のお風呂という意味ではありません。

なおこちらのお宿では立ち寄り入浴を受け入れていません。宿泊のみです。ネットで予約しようとすると2人利用からのプランが表示されますが、お宿に直接連絡すれば、1人客の場合でも割増料金で宿泊が可能です(実際に私もそのような料金で宿泊しました)。


ちなみに、これが舘山寺温泉の源泉施設。温泉街からちょっと離れた丘の上にあり、畑に囲まれた観光とは無縁の場所です。舘山寺温泉ではこれまで何度も源泉を掘っては枯れ掘っては枯れ、を繰り返してきたので、この源泉もいつまで維持できることやら。


舘山寺7号
ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩温泉 29.0℃ pH7.8 66.6L/min(動力揚湯) 溶存物質22.62g/kg 成分総計22.65g/kg
Na+:5590mg(61.73mval%), Mg++:131.7mg, Ca++:2751mg(34.85mval%), Fe++:5.3mg,
Cl-:13920mg(99.78mval%), Br-:17.1mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, HCO3-:38.7mg,
H2SiO3:20.9mg, HBO2:47.4mg,

静岡県浜松市西区舘山寺町2268
053-487-0204
ホームページ

宿泊のみ(日帰り入浴なし)

私の好み:★★★
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舘山寺温泉 旅館ふじや(前編 お部屋・お食事)

2023年09月01日 | 静岡県

(2022年9月訪問)
日本には温泉地が星の数ほどありますが、比較的有名にもかかわらず温泉ファンからの評判が芳しくない温泉地もいくつか存在します。静岡県西部の舘山寺温泉はその典型と言えるでしょう(関係者の皆様、名指しして申し訳ございません)。ファシリティもサービスも良いのに温泉ファンが納得しない理由は、正直申し上げればお湯の質に難があるからです。舘山寺温泉は風光明媚な浜名湖畔に比較的規模の大きな旅館や日帰り入浴施設が約20軒も営業しており、それぞれが大きな浴室と広い浴槽を擁しているのですが、にもかかわらず2つしかない源泉のお湯をこの約20軒で分け合っており、源泉の湧出量はわずか毎分66.6リットル。ということは1軒当たりの配湯量が相当少なくなり、その一方でそれぞれが広い浴槽を有しているのですから、かけ流しなんて夢のまた夢。ほぼ全ての施設で加温加水循環を行い、温泉のお風呂と言いつつも元々の源泉の姿はほとんど消えてなくなっているのが実情なのです。温泉ファンは津々浦々の温泉を巡ってそのお湯の質や個性を楽しむことに関心がありますから、残念ながらこのように個性を失ってしまった温泉には興味を示さないのです。

しかし、そんな固定概念や思い込みを覆してくれるお宿に出会いましたので、今回記事にしてご紹介させていただきます。そのお宿は「旅館ふじや」。規模の大きな旅館が多い舘山寺温泉では珍しい家族経営の民宿みたいな小さなお宿です。結論から申し上げますと、このお宿はお湯が良い! どんなお湯だったのかを含めてレポート致します。


こちらのお宿は浜名湖の湖岸に位置しています。上画像は湖畔の砂浜から撮ったもので、夕陽を受けて宿全体が赤く染まっていますね。6室ある客室全てから浜名湖に沈む夕陽が望めます。


一方、こちらは客室の窓から外を眺めた様子。
こんな感じで浜名湖は客室の目の前なのです。


目の前の砂浜は湖水浴場「サンビーチ」。
風がない日は全く波が立たず非常に静か。


お部屋は8畳に広縁がついた和室。Wifiが完備されているほか換気機能付きの新しいエアコンも取り付けられています。なお洗面台やトイレなどの水回りは共用で、冷蔵庫や金庫はありません。


夕飯は別室にていただきます。海産物を中心とした献立で、刺身、酢の物、茶碗蒸し、自家漬けの西京焼、ローストビーフ、天ぷらなどいずれも美味。なお汁物は赤だしでした。


浜名湖と言えばウナギですよね! メインディッシュとしてウナギのかば焼きが提供されました。言わずもがなの美味しさに頬が落ちてしまいました。
この他、食後のデザートとして梨が出されました。浜名湖界隈は梨の産地でもあるんですね。甘くてジューシーで大変美味でしたよ。


こちらは朝食。夕飯と同じお部屋に移動していただきます。シラスなどご当地らしい食材を取り入れながら、野菜や魚・肉・植物性タンパク質などバランスがとれた献立で、こちらも美味しくいただきました。

肝心のお風呂については次回記事で取り上げます。

次回に続く。

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