ギリギリのところで雫石ではなく盛岡市の領域に含まれている繋温泉。御所湖畔に位置するこの風光明媚な温泉地に対して私は、敷居が高そうな宿や大規模旅館が多くて立ち寄り入浴が難しそうだという先入観を抱いており、付近で湯巡りをしていてもここだけは敬遠することが多かったのですが、地区内の老人福祉施設で手軽に外来入浴ができるという情報を目にしたので、どんなところか実際に行ってみることにしました。
バス停や観光案内所がある一角から温泉街へと進み、数年前に閉館した「ホテル山翠」手前の角を右折すると、すぐに目的地にたどり着くことができました。地域の集会場のようなこじんまりとした建物施設の前の空き地は、特に看板などは立っていませんが、施設利用者のための駐車場のようです。
どこでも温泉地は苦境に立たされていますが、ご多分に漏れず繋温泉も青色吐息であり、温泉地をグルっとまわってみたら、営業を諦めた廃旅館の哀れな姿が次々に目に入ってきました。
隣接する入江児童公園には真ん中に「和」と彫られた区画整理事業完成記念碑が据え付けられています。繋温泉の目の前には御所ダムの湖(御所湖)が岩手山の姿を水面に移しながら静かに水を湛えていますが、ダムの建設および湛水に伴って水没する集落の集団移転は、後背に控える繋温泉の区画整理と一体化する形で事業が行われ、碑にはその事業の経緯や概要などが刻まれていました。水没世帯に対する補償交渉は難航を極めたそうでして、だからこそ「和」という一文字が重い意味を持っているのかもしれません。繋温泉が他の温泉地のようにゴチャゴチャせず、整然とした区画割になっているのは、この事業のおかげなのですね。もっとも、このために温泉地なんだか住宅地なんだかよくわからない街並みになっているような印象を受けるのですが…(個人的な感想ですよ)。
ダム水没と温泉地という関係ですと、関東人の私としては川原湯(八ツ場)をつい連想してしまいます。当地と川原湯は似て非なる関係だと思いますが、移転後の川原湯にはもうちょっと風情のあるまちづくりを期待したいものだなぁ、と廃業した繋温泉の旅館を見ながらふと呟いてしまいました。
さて館内に入って受付窓口で直接料金を支払います。係員のおじさん曰く「お風呂には何にもないですけど、いいですか?」とのこと。おじさんの言うとおり、ここはちっとも温泉施設らしくありませんが、それもそのはず、あくまで温泉浴場は従属的なものであって、施設の本来の目的は老人福祉なのですから、あたかも公営の診察所の如き無機質で殺風景な雰囲気で満たされているのは、至極当然なのかもしれません。温泉風情を求めちゃいけないわけです。
脱衣所も至ってシンプルで、壁にくくりつけられた棚があるだけです。しかも狭いため、同時に2人が着替えたら、それ以上の客が入る余地はないでしょう。
こじんまりとした浴室には3人サイズで縁が御影石の浴槽がひとつと洗い場があるだけで、やはり装飾性は無くシンプルです。室内は全面タイル貼りで、床にはウインナーを輪切りにしたようなタイルが敷き詰められていました。この手の施設って、お手入れがあまり十分でなかったりしますが、失礼ながら、意外にも綺麗でよく手入れされており、快適に利用することができました。浴槽の縁の切り欠けからはふんだんにお湯がオーバーフローしており、小さいお風呂ながらも贅沢に温泉を使っていることがわかります。
洗い場には押しバネ式のオートストップ水栓(お湯と水のセット)が計4人分設置されており、お湯は源泉使用なのか矢鱈に熱く、不意な接触による火傷を防止するために給湯の配管にはラッキングが被せられていました。
壁から突き出た源泉用の配管は短いホースに接続されており、ホースから縦に取り付けられているティーズの配管を経由してから湯船へと落とされています。お湯はかなり熱くて、湯船に浮いているフロート式の温度計は44℃を指していたのですが、この熱さに耐えかねた先客の爺さんが眉間に皺を寄せながら水道の蛇口を全開にしていました。
お湯は無色透明で特に湯の華のようなものは見られませんでしたが、ふんわりと硫黄の匂いが湯面から漂い、口に含むと硫黄らしい味も確認できました。浴感に関してはツルスベでも引っかかりでもなく、掴みどころがないごくごく普通のお湯といった感じです。
今回訪問した木曜日の午後1時頃には3人の先客(いずれもお爺さん)がいらっしゃり、その後からも2人ほどやってきて、狭いお風呂の中は昼間からとっても賑やかでした。近所の老人の憩いの場というこの施設本来の目的はちゃんと果たされているようです。尤も、外来者にとって、こんな小さなお風呂で500円も取られるのは、ちょっと腑に落ちませんが、旅館と違って営業時間帯が広く、誰でも気兼ねなく利用できるわけですから、繋温泉のお湯を手軽に体験できる有益な施設であることには間違いありませんね。とても良いお湯でした。
つなぎ温泉混合泉の湯(至光の湯、新瑞光の湯の混合泉)
単純硫黄泉 65.3℃ pH9.1 溶存物質0.5926g/kg 成分総計0.5926g/kg
Na+:163.3mg(90.91mval%),
Cl-:105.7mg(36.43mval%), HS-:1.1mg(0.37mval%), SO4-:200.8mg(51.10mval%), S2O3--:2.4mg(0.49mval%),
H2SiO3:68.7mg, H2S:0.0mg,
盛岡駅前or盛岡バスセンターより岩手県交通バスのつなぎ温泉・鶯宿温泉・ほっとゆだ駅方面行でつなぎ温泉下車、徒歩2~3分(盛岡駅前から約30分・620円)
盛岡市繋字舘市100番地10 地図
019-689-2901
6:00~21:30
500円
備品類なし(入浴道具販売も無し)
私の好み:★★