新竹県や桃園県から北横公路で山を越えて台湾北東部の宜蘭県大同郷へやってきた私は、翌日も大同郷で温泉めぐりをしたかったため、同エリアで宿泊したいと考えておりました。当地への訪問に際して前夜にホテルでパソコンを開いていろいろ探していたのですが、あまり有名な観光地ではないためか、私のハートをギュっと掴んでくれるような、温泉に入れて安くて綺麗な宿の情報にはなかなか出会えません。そんな中で、比較的ホームページの構成がちゃんとしており、しかも民宿としては一般的な料金設定である「櫻花温泉」がGoogleの検索結果としてリストアップされてきたので、前々回取り上げた「鳩之湯温泉」を出発した後はここを目指して車を走らせました。
この界隈の観光地のひとつである「清水地熱」から比較的近い幹線道路の台7丙線沿いに、桜をイメージしてると思しきピンク色の楕円の看板が立っており、迷わずすんなりと辿り着くことができました。
周辺は氾濫原の荒野と畑しかない、本当に何もない寂しい田舎です。
砂利敷きの駐車場の傍らには受付小屋があり、声をかけると裏手の方からサモ・ハン・キンポーにメガネをかけさせたような容貌の色黒のおばさんが登場。当初私を見たおばさんは日帰り入浴の利用かと勘違いしたらしく、私の稚拙な言葉もあってなかなか話が噛み合いませんでしたが、筆談を進めて「住宿」と書いたところでようやくオバサンは私の希望を理解してくれたらしく、まずは部屋を見てから決めてちょうだい、とのことで、実際のお部屋を見せてもらうことにしました。
受付には公的機関が出している温泉標識が掲示されており、私は部屋云々よりもここがちゃんとした温泉を使っていることを確認できて安心しました。
敷地内には幾棟もの小屋が建てられているほか、キャンプ場も併設されています。
客室が3つ連なっている長屋的な宿泊棟もありますが…
オバサンは「観星小屋」と称された、客室ひとつひとつが独立しているコテージへと案内してくれました。
コテージは六角形をしており、内部はフローリングで清潔感がありとても綺麗です。建てられてからまだあまり年月が経っていないのでしょう。室内には液晶テレビもドライヤーもエアコンも、そして洗面台も、ひと通りの設備がちゃんと揃っています。既に布団が敷かれており、いつでも寝られる状態でした。1泊1500元という料金はこの手の宿にしては標準的かやや高めですが、清潔感は問題ありませんし設備も整っていたので、オバサンにここでの宿泊を即決し、受付へ戻って料金を支払いました。
なお「観星小屋」という名前の通り、瓦葺きの屋根の一部にはガラス窓が嵌められており、寝転んで天井を見上げると夜空も見えるような造りになっているのですが、この窓が小さい上に土埃を被っているため、実際にはほとんど見えませんでした。ま、星空を眺めるなら外に出た方が遥かに良いですけどね。
この小屋で奇特なのがトイレです。玄関を入ってすぐ左には、上にいろんな荷物が置けそうな木の台があるのですが、実はこの台には蝶番が付けられていて蓋のようになっており、開けてみると何とトイレが現れました。客室とトイレを隔てるのはこの木の蓋のみでして、客室とトイレは隔絶されることなく一体となっているわけです。つまりここで用を足せば臭いが室内へ放出されることになります。また、私は一人で利用しましたから他人の目線は気になりませんでしたが、もし二人で部屋を利用するとなれば、用を足している姿を同室の人に遮蔽が無い状態で完全に見られてしまうわけですから、排泄の度にこの上ない羞恥プレイを味わうこととなります。ラブホテルなどでは客室とシャワールームがガラスで隔てられているだけお部屋もよく見かけますが、ここはガラスすら無いんですから、エロを通り越して変態の域に達していますね。
このキッチュなトイレが却って私には面白く映り、今回の宿泊を決める要素のひとつにもなったのですが、とはいえ、排泄後の残り香が(たとえ自分の体内で発せられたものであっても)室内に漂うことが精神的に耐えられなかったので、このトイレを使ったのはチェックアウト直前のみにし、それ以外の時間は屋外にあるキャンプ利用者用の共用トイレを使用しました。
客室にはお風呂やシャワーは無いため、貸切風呂を利用することになります。オバサンに「泡湯したい」と声をかけたところ「宿泊中に無料で利用できるのは1回だけ」とシビアな返答が…。ま、何度も入って楽しむようなお風呂じゃないので問題ないのですが、1回だけは厳しすぎないかなぁ…。
お風呂は利用者の人数に合わせていくつかのタイプがあるのですが、今回使わせてもらったのは「雙人SPA池」という浴室で、入浴のみですと500元も要する施設です。随分強気な料金設定ですね(なお一番小さなお風呂は200元です)。
さすがに高い料金の浴室だけあって、室内は広くてゆとりがあり、紺と白のタイルが市松模様になって貼られています。浴槽は大小に分かれており、小さな方は水風呂として利用します。大きな浴槽の脇にはお湯や水のコック、そして打たせ湯のスイッチなどがまとめられている操作パネルがあります
客室のトイレには驚かされましたが、このお風呂にあるトイレも意味不明。浴槽とシャワー水栓の間に洋式便器が埋め込まれているのですが、何故かこの便器は幼稚園に設置されているような子供向きの小さなものであり、大人にとっては的が小さすぎてとても使えたもんじゃありません。しかも便座の高さまで埋まっているため、子供であっても便座の上に座ることはできず、和式のようにして便器の上にしゃがんで跨る他ありません。何のためにこの便器を埋め込んだのでしょう? 客室といいお風呂といい、この「櫻花温泉」はトイレの奇抜が売りなのでしょうか。
また入口側にはタイル貼りの何もない台が広がっていて、ほとんどデッドスペースと化しているのですが、吉原や堀ノ内の特殊店舗じゃあるまいし、何のためにこの空間が確保されているのか、さっぱり意味がわかりません。敢えてナンセンスな設備を盛り込むことで、ユニークさをアピールしているのかしら。
空っぽの浴槽にお湯を溜めるべく、操作パネルのお湯のコックを全開にすると、はじめのうちは槽内にある3つの湯口からお湯が吐き出されるのですが(画像左(上))、ある程度まで嵩が増えると手前側の口径の大きな湯口は吐出が自動的に止まり、残りの2つ(画像に写っている槽内の2つの白い口)によって引き続き投入が行われます(画像右(下))。
その2つの湯口は打たせ湯の吸い込み口を兼ねており、湯口の上までお湯が満たされた状態で打たせ湯のスイッチを押すと、湯口は吸込口に切り替わって、コーナーに立っているパイプから首が飛んでいきそうなほど強烈な勢いでお湯が吐き出されます。
湯口から出てくるお湯はそのままで入れてしまう温度だったので、水で薄めることなく100%温泉の状態で入浴することができました。利用の度にお湯を張り替えますので、溜め湯とはいえ新鮮なお湯が楽しめるわけですね。お湯は薄っすらと黄色に微濁しており、弱い重曹味や微かな塩味が感じられたものの、ほぼ無味無臭といって良いかと思います。さすがに重曹が主成分の温泉だけあってツルスベ感は良好ですが、特別強いわけでもなく、台湾ではごく普通に出会える温泉の浴感です。
コテージには設備がひと通り揃っていますし、室内状態も綺麗で良いのですが、せっかくの広いお風呂は一回しか使えませんし、料金設定もちょっと高めであるのが気になるところです。また施設のホームページには食堂も併設されているような内容が紹介されていましたが、実際には営業していなかったので(季節営業なのか?)、私は車に乗って付近の数キロ先の三星という街へ出かけて夕食を摂るはめになりました。怪我の功名というべきか、この三星で入った食堂が大当たりだったので結果的には良かったのですが、付近にはお店が殆ど無いため、こちらへ泊まると食事の面でも多少苦労します。ただ界隈の温泉群から近い立地でありますから、車で移動するのでしたら、宿泊先の選択肢の一つとしてこちらを含めるのも一考かと思います。不思議なトイレを体験して話のネタにしても良いですしね。
碳酸氫鹽泉(炭酸水素塩泉) pH7.7 43.1~50.2℃
碳酸氫根離子(炭酸水素イオン)2332~2503mg/L, 総溶解固体量2289~2311mg/L
宜蘭県大同郷復興村泰雅一路73号 地図
03-9894539
ホームページ
平日9:00~22:00、週末9:00~23:00
雙人池200元(休日250元)/40分
雙人SPA池:500元/60分
私の好み:★+0.5