温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

飯坂温泉 松島屋旅館

2018年06月27日 | 福島県
 
2018年春の某日、私用で東北へ向かった私は、その日の晩を飯坂温泉で過ごすことにしました。まずは飯坂電車の新しい顔「1000系」(東急のお下がりを改造した車両)に乗車して、終点の飯坂温泉駅へ。
駅からその日の宿へ直接向かっても良かったのですが、つい寄り道癖の虫が疼いてしまったので、チェックインする前に別の宿へ立ち寄って、日帰り入浴を楽しむことにしました。


 
その晩に立ち寄ったのは、駅から比較的近い場所にある「松島屋旅館」です。駅前の橋を渡ってすぐ左折した先にあり、摺上川左岸の川岸に位置しています。駅前の橋の上から上流に向かって川を眺めると、両岸に少々古い鉄筋コンクリート造りの旅館が、まるでカミソリ堤防のように屹立して切り立った渓谷のような独特な景観を生み出していますが、右側に建ち並ぶ建物で、橋から数えて3つ目がこちらのお宿です。
私が当地に到着したのは、夜の帳が下りた頃。既にその日の日帰り入浴営業を終えているお宿が多かったのですが、こちらはちょっと遅い時間でも快く受け付けてくださいました。その代り、入浴のみの利用にもかかわらず宿帳への記入を求められるのが不思議なところ。何か特別な事情でもあるのでしょうか。フロントの方の説明を聞きながら、指示に従って素直に記帳し、エレベータでお風呂のある1階へ下ります。ん? 1階へ下りる? 川岸の切り立った地形に建つこちらのお宿は地形に即した構造になっており、浴場は川面に近い1階に設けられているのに対し、玄関は川岸の高い位置に敷かれた道路に面するため4階に設けられているのです。お宿の玄関が4階にあるという点もまた不思議です。


 
お宿の不思議な事柄に興味を抱きながらエレベータを下りると、まず左前方に貸切風呂の暖簾が目に入ってくるのですが、今回は利用しませんのでパス。エレベータを下りて右手に進むと、前方に大浴場を示す白い暖簾がさがっていました。


 
浴場の出入口前には畳が敷かれ、小さな休憩スペースが用意されていました。湯上がり後、一息つきたいときに便利ですね。それでは紺の暖簾を潜ってお風呂へお邪魔しましょう。



更衣室は古いながらも、コストを抑えつつ修繕して使い勝手を改善したような感じになっていて、明るく綺麗な室内は、まずまずの使い勝手でした。室内の壁には「当館は100%源泉」と書かれており、お湯の良さをアピールしていると同時に、熱ければホースの水を加えてほしい旨も記載されていました。飯坂のお湯はとっても熱いですから、源泉そのままでは入れないこともあるのでしょう。


 
訪問日は冷え込んでいたため、浴室内が湯気で曇っていました。見にくい画像で申し訳ございません。お風呂は男女別の内湯が一室。窓ガラスの向こう側では、すぐ下を摺上川が流れています。窓を開けると、滔々とした川の流れが目の前に現れるのですが、対岸の道路や宿、共同浴場「波来湯」などからこちらが丸見えになってしまいますから、窓は全開にしない方が良いでしょう。尤も、窓は曇りガラスになっているため、外から中が見えてしまうようなことはありませんが、お風呂から外の景色を眺めることもできませんので、あしからず。
温泉由来の石膏臭が漂う浴室内。床には大理石のような石材が採用され、見た目がちょっと豪華です(でもちょっと滑りやすいかな)。室内には浴槽が2つ設けられています。詳しくは後程。


 
洗い場は2手に分かれており、計5基のシャワー付きカランが設置されています。


 
2つある浴槽のうち、窓から離れた奥に据えられている四角い浴槽は、目測で1m×2.5mの3人サイズ。投入量をやや絞っているように見え、その影響か、入りやすい湯加減に調整されていました。


 
一方、窓に近い真ん丸い浴槽は、直径約2.5mで、中央に立つ塔の上に大きな球体の石が載り、その頂点から熱いお湯が落とされていました。フロントでお風呂の説明を受けている時に「丸い方のお風呂は熱いですよ」と案内して下さったのですが、たしかに四角い浴槽より若干熱く、私の体感で43℃前後だったように記憶しています。とはいえ、普段はもっと熱いらしく、後から入ってきた連泊中のお客さん曰く「昨日はかなり熱かった」とのことですから、私の利用時は前に入ったお客さんが水で薄めてしまった後だったのかもしれません。とはいえ、なかなか良い湯でしたよ。お湯自体もしっかりかけ流されています。浴槽内に敷かれた十和田石の感触も良好でした。

飯坂温泉では、多くの施設で集中管理している混合源泉を引いていますが、こちらのお宿に引かれているのは若竹分湯槽のお湯なんだそうです。見た目は無色透明、お湯からは石膏の味と匂い、そして弱い芒硝感が伝わり、湯船に浸かるとサラっとした軽やかな感触の中に硫酸塩泉らしい引っかかりが混じる奥深い浴感が得られます。そしてお湯が肌の皺一本一本に染み込み、しっとりと馴染んでくれます。お風呂上がりは、お肌モチモチ、全身ポカポカ。幸せな気分になれました。
飯坂のお湯をしっかり掛け流しで楽しめる、なかなか良いお風呂でした。


若竹分湯槽
アルカリ性単純温泉 60.2℃ pH8.7 湧出量記載なし(動力揚湯) 溶存物質0.7894g/kg 成分総計0.7894g/kg
Na+:198.6mg(84.05mval%), Ca++:30.1mg(14.59mval%),
Cl-:93.8mg(25.00mval%), OH-:0.1mg, SO4--:321.1mg(63.11mval%), HCO3-:55.0mg(8.49mval%), CO3--:3.0mg,
H2SiO3:74.8mg,
(平成23年12月9日)
加水加温循環消毒なし

福島交通飯坂線・飯坂温泉駅より徒歩3分(約200m)
福島県福島市飯坂町湯野字切湯ノ上14番地  地図
024-542-3155
ホームページ

日帰り入浴14:00~20:30
600円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品帳場預かり

私の好み:★★+0.5


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

塩原 あかつきの湯

2018年06月23日 | 栃木県
 
那須連山の麓に広がる塩原のなだらかな高原の開墾地。その一角にちょっとした木立が茂っています。路傍に立つ看板に従いながらその木立を目指すと、今回の目的地である日帰り温泉施設「塩原あかつきの湯」に辿り着きます。数年前に何の気なしで立ち寄ったら、お湯の良さに感動した記憶があるので、その感動をもう一度味わうべく、今年(2018年)早春の某日、訪ねてみることにしました。


 
平屋ですが比較的大きな建物。土地に余裕があるのか150台収容可能な駐車場があります。緩いアーチを描く屋根が掛かった玄関には、レストランのみの入館も可能との案内が掲示されていました。
下足箱のロッカーでは100円玉を要するので、予め小銭を用意しておくと便利でしょう。玄関の券売機で湯銭を支払い、フロントにその券を差し出します。フロントのまわりには休憩コーナーや上画像のような物販コーナーが連なっていました。



館内には温泉のお風呂がある男女両浴室の他、水着着用で歩行浴や水中運動などを行うバーデゾーンもあるのですが、今回はお風呂のみの利用です。
脱衣室に設置されているロッカーは木目調。足元もフローリング調の床材。白い壁と木目が組み合わさった室内は明るくて使いやすく、エアコンも設置されているので、快適に着替えることができました。ただし、ロッカーの施錠には100円玉が必要です。つまりこちらの施設を利用する際には、一人につき下足箱やロッカーの施錠で100円玉を計2枚用意しておく必要があるわけです。


 
広くて天井が高く、しかも大きな窓から外光がたっぷり降り注ぐ浴室は、室内でありながら明るく開放的。床や浴槽には緑色凝灰岩質の石材を採用しており、肌に触れた時の感触が良好です。非日常の入浴環境を楽しめます。
浴室の窓と反対側に洗い場が設けられており、シャワー付きカランが9基並んでいます。シャワーから吐出されるお湯は温泉でした。湯量豊富な源泉なのですね。


 
主浴槽は(目測で)3m×6mという大きなサイズ。子供だったらつい泳ぎたくなってしまうでしょう。奥の隅っこに設けられた湯口からは、直に触れないほど熱いお湯が浴槽へ注がれていました。浴槽の容量に対して投入量がやや少ないような印象を受けたのですが、源泉温度が高い温泉を加水しないで供給するため、湯量を絞っているのでしょう。



浴室の一角にはこのような3人用の寝湯も設けられていました。もちろんこちらにも温泉が用いられています。この他、サウナや水風呂など、お父さんたちが大好きな冷温浴設備もしっかり揃っています。



高原の爽やかな空気の元で湯あみできる露天風呂。岩風呂や壁などは和の趣きですが、庭の佇まいや植栽は洋風の感があり、牧歌的且つ和洋折衷と表現したくなる独特の雰囲気です。でも決して奇を衒っているわけではなく、静かで落ち着いていますから、お湯で寛ぐに相応しい清々しさを実感できる環境です。


 
露天の岩風呂はおおよそ2.5m×4mといったサイズで、並べた岩をモルタルで固めることにより浴槽にしています。この岩が良い塩梅で組まれている(並べられている)おかげで、腰を掛けたり、あるいは枕にしたりと、好みの姿勢で入浴することできました。また浴槽にもたれ掛りながら真ん中の島に足を載せると、ちょうど良い感じで仰向けに入浴することもできました。
内湯同様、湯口からは触ると火傷しそうなほど熱いお湯が供給されているのですが、露天の場合は外気の影響を考慮しなければならないためか、内湯よりも源泉投入量が多く、それによってちょうど良い湯加減が維持されていました。

こちらで使われている源泉は、重曹泉型のアルカリ性単純泉。日本の温泉では珍しく、塩化物イオンが8.2mgと極めて少なく、その代わり、重曹や炭酸イオンなどツルツル感をもたらす成分が比較的多く含まれています。お湯の色は淡い茶褐色。ほのかなモール泉的風味と重曹的なほろ苦み、木材のような芳ばしい香り、そして僅かながらミシン油のような匂いが感じ取れました。
私が利用したのは夕方だったため、残念ながら湯の花の存在や泡付きなどは目視確認できませんでした。でも肌にしっとりと馴染みつつ全身をマイルドに包み込み、そして肌表面がツルツルになる、優しい浴感のお湯であったことに間違いはありません。湯中で思わず何度も自分の肌を擦ってしまいました。また重曹の効果により、湯上がり後はさっぱり爽やかです。

塩原の温泉と言えば、箒川沿いに沿って軒を連ねる塩原温泉の各温泉地を思い浮かべますが、そこからちょっと離れたこうした温泉も素晴らしいものがありますね。再訪して良かったと心から思える良質なお湯でした。


塩原日の出温泉
アルカリ性単純温泉 68.4℃ pH9.2 250.0L/min(動力揚湯) 溶存物質0.866g/kg 成分総計0.867g/kg
Na+:231.5mg(95.05mval%), Fe++:1.8mg,
F-:24.3mg, Ci-:8.2mg, HS-:0.4mg, SO4--:41.2mg, HCO3-:439.6mg(67.17mval%), CO3--:27.2mg(8.46mval%),
H2SiO3:79.4mg,
(平成16年5月11日)
気温の高い場合のみ加水することあり

栃木県那須塩原市関谷1689-1
0287-35-2711
ホームページ

10:00~22:00(受付21:00まで)、第3水曜定休
平日800円(17時から600円)、土休日1000円(17時から800円)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

塩原元湯温泉 ゑびすや

2018年06月20日 | 栃木県
 

塩原元湯には3つの個性的なお宿がそれぞれ独自源泉を有しており、それぞれが温泉ファンから高い評価を得ていますが、先日久しぶりに「ゑびすや」へ伺うことにしました。拙ブログでは初登場ですが、私個人としては約10年ぶりです。今回は日帰り入浴での利用です。塩原最古とされる「梶原の湯」源泉を所有するこちらのお宿や温泉については、既に多くの温泉愛好家によって語りつくされているので、いまさら私が感想などを申し上げたところで、その全てが蛇足になってしまうでしょう。このため今回の記事では、簡潔にご紹介させていただきますので、詳しいことにお知りになりたければ、お手数ですが検索して他のサイトをご覧ください。


 
帳場で湯銭を納め、帳場左手の裏側に伸びる廊下を進んで浴室へ向かいます。その途中には大正時代の売薬免許状が掲示されていました。こちらの「梶原の湯」は胃腸の湯として有名ですが、当時は温泉のお湯で薬を作っていたんですね。


 
廊下の突き当たりにある共用洗面台の左手に階段があるので、これで下のフロアへ。なおドライヤーはこの共用洗面台に備え付けられています。硫化水素が多い温泉ですから、お風呂と近い場所に電化製品を置くと、すぐダメになってしまうのでしょう。


 
階段を下りきると紺と紅の暖簾がお出迎え。その奥には新設された飲泉場があり、胃腸に効くとされる「梶原の湯」を飲泉できます。実際に口にしてみたところ、口腔の粘膜が痺れるような苦味とイオウ味、そして鼻孔をツンと刺激する硫化水素の匂いがはっきりと感じられました。胃腸に良いとのことですが、この苦味から推測するに、胃酸過多の方に向いているのかもしれません。


 
暖簾を潜って更衣室に入り、硫化により真っ黒に変色した洗面台の水栓を見てイオウの強さを視覚的に実感しながら、ドアを開けて浴室へお邪魔します。こちらのお宿には女性専用のお風呂、そして男女混浴のお風呂があり、男性は否応なく混浴のお風呂を利用することになります。昔ながらの湯治場風情が色濃く残る木造の浴室。訪問時は湯気が篭っていたため、見にくい画像で恐縮です。室内には源泉が異なる2つの浴槽、そして洗い場が設けられています。

 
 
2つある浴槽のうち、壁際に位置する台形を逆さにしたような形状の浴槽には、塩原唯一の間欠泉とされる「八幡の湯」源泉が注がれています。お湯は樋から投入されているのですが、その樋が突き出ている穴の隙間から奥の屋外を覗くと、樋の根元にコンクリの枡が設けられていて、その上でお湯が勢いよく迸っていました。正確に言うと、5~6分毎に枡のお湯が迸り、その数秒後に間欠泉が噴き上がります。そして上がったお湯が樋を伝って浴槽へ流れ落ちるわけです。湯加減は43℃前後とやや熱め。翠色を少々帯びた灰白色に濁り、飲泉所で口にした「梶原の湯」のように、口を痺れさせる苦味や硫化水素の強い風味が感じられるのですが、総じて「梶原の湯」よりもマイルドであるような気がします。

一方、中央に据えられたの4~5人サイズの四角い浴槽は、お宿ご自慢の「梶原の湯」。浴槽縁に設けられた木枡の湯口よりお湯が注がれています。グレーを帯びつつ綺麗に白濁したお湯からは、刺激を伴う強いイオウの湯の香が漂い、その匂いは湯気とともに室内に充満していました。分析書によれば湧出温度は40.8℃であり、浴槽では37~8℃という長湯仕様のぬる湯となっているため、こちらの湯船に浸かる方は、皆さん悉く瞑目しながら長湯し、じっくり静かに塩原の古湯と対峙していました。もちろん私もそんな人間の一人です。

久しぶりに再訪しましたが、やはり塩原元湯の個性的なお湯は最高であると改めて実感しました。いずれ宿泊して、もっとじっくりゆっくり湯浴みしたいと思っております。


梶原の湯
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型) 40.8℃ pH6.5 17.4L/min(動力揚湯) 溶存物質3.221g/kg 成分総計3.878g/kg 
Na+:735.5mg(74.31mval%), Ca++:155.0mg(17.97mval%), Mg++:26.9mg(5.13mval%),
Cl-:910.2mg(49.12mval%), HS-:21.2mg, SO4--:71.1mg, HCO3-:1490.1mg(46.73mval%), Br-:1.8mg,
H2SiO3:138.0mg, HBO2:136.8mg, CO2:314.0mg, H2S:30.1mg,
(平成28年2月22日)

弘法の湯
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型) 52.8℃ pH6.9 14.6L/min(掘削自噴) 溶存物質3.221g/kg 成分総計3.878g/kg 
Na+:964.1mg(78.69mval%), Ca++:155.0mg(14.51mval%), Mg++:25.6mg(3.96mval%),
Cl-:706.3mg(47.02mval%), HS-:11.0mg, SO4--:75.4mg, HCO3-:1250.4mg(48.37mval%), Br-:1.5mg,
H2SiO3:112.7mg, HBO2:102.9mg, CO2:620.5mg, H2S:37.0mg,
(平成28年2月22日)

栃木県那須塩原市湯本塩原153
0287-32-3221
ホームページ

日帰り入浴10:00~14:30(受付14:00まで)、木曜定休
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

上塩原温泉 河童の湯

2018年06月16日 | 栃木県
マニアという偏屈で天邪鬼な生き物は、世間の評価とは逆の志向を好む傾向にあり、温泉に限って見るならば、寛ぎ・広い・綺麗・ゆったり・豪華などといった世間一般が求める価値観を鼻で嗤うかのように、鄙び・不便・狭隘・
といったものを追及して意気揚々となり、そんな不可解な態度を不意に露呈することで世間から眉を顰められ、あるいは嘲笑の対象になったりして、益々卑屈な日陰者としての性格を強くしてゆくわけです。拙ブログはその悪しき典型例であり、己の恥を全裸状態で日々公開し居丈高になり、その後ふと我に返ってその無見識を後悔しているのですが、一度性根にマニアとしての病根が宿ってしまうと、なかなか払拭することができず、どんなところへ出かけてもマニアとしての欲求を満たそうと必死になり哀れな姿を曝け出してしまいます。

栃木県塩原温泉は首都圏に属し、東京から近いこともあって、いわゆる一般的なニーズを求めるお客さんやそれに応えようとする施設が主流です。ということは、上述のような温泉マニアが喜びそうな鄙び系の施設は決して多くなく、あっても一般供用されていない場合が多いのですが、探せば温泉地内の各所に点在しているので、私も訪問の度についつい悪しき癖を発露させ、メジャーな施設には見向きもせずに、あちこちを徘徊してしまいます。

前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのはマニアの間では有名でありながら、一般のお客さんにはほとんど知られていない温泉である上塩原の「河童の湯」です。


 
その場所は、国道から塩原元湯へ向かう一本道の途中。右手の路傍にすっぽん料理店の存在を示す古びた看板が立っているのですが、よく見ると「秘湯 河童の湯」と書かれており、それによって温泉浴場の存在がわかります。看板の後ろの建物はすっぽんの飼育場かしら?


 

アプローチの短い坂道を上がると、正面に母屋、右手に納屋、そして左手にすっぽん料理店「河童」が、コの字を描くように建ち並んでいます。今回の「河童の湯」はこのすっぽん料理店に付帯しているお風呂であり、お食事(一人4300円。2018年3月現在)を注文すれば無料で入浴できるのですが、注文せずとも湯銭を支払えば入浴のみの利用が可能です。今回私はお食事をいただかないでお風呂のみ入らせていただくことにしました。まずはお店の暖簾を潜り、湯銭を納めます。


 
そして一旦お店を出て、右隣に建つ湯小屋「河童の湯」へ向かいます。


 
湯小屋の中にはお風呂が2室あり、左右シンメトリになっています。それぞれ貸切で使うため、先客がいる場合は待たねばなりません。幸い、私の訪問時には両方とも空いていたので、特に理由はないのですが右側のお風呂に入ってみました。なお左右各浴室(更衣スペース)の出入口にはドアや鍵などありませんから、下足の有無や気配などで、使えるか否かを確認することになります。
脱衣室は棚と籠、そして洗面台が一つあるばかり。至ってシンプルです。まるで東北や九州の僻地にある共同浴場みたい。


 
浴室は家族風呂を思わせる小ぢんまりとした造り。長年使い込まれているのか、かなり年季が入っているので、空間のサイズや古く鄙びた感じなど、好き嫌いが分かれるかもしれません。なお私が訪問した日はまだ肌寒かったため、湯気が篭っていました。室内には後述する浴槽がひとつ据えられ、壁に洗い場が配置されています。


 
小さいお風呂でありながら、採用されている材質からは重厚感が伝わってきます。具体的には、室内の床や浴槽の底には切り出し石材が、浴槽側面には不規則に切断された石板が貼られています。温泉に対する施工主の情熱が感じられました。
そんな浴槽は2~3人サイズ。まさに家族風呂の大きさです。浴槽の隅に組まれた石の上から温泉が落とされており、浴槽縁からしっかり溢れ出ています。実にちょうど良い湯加減に思わずホッコリ。完全掛け流しの湯使いかと思われます。お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、やや重曹らしい感覚が得られます。分析表によれば炭酸水素イオンやメタケイ酸など、いわゆる美人の湯と称されるような温泉に多いツルスベ感をもたらす成分が多く含まれていますが、かと言ってそれほど強い滑らかな浴感が得られるわけではありません。表現が難しいのですが、湯船に入ると温泉成分による滑らかなベールが肌を優しく包み込んでくれ、その上でツルスベ浴感がベールを通して伝わってくるような感じです。総じて癖の少ないアッサリとしたお湯であり、比較的お湯の主張もマイルドなのですが、にもかかわらず本物の温泉ならではのパワーを有しており、湯上がりは大変よく温まります。なかなかの実力派です。

いわゆる一般的な温泉に対するニーズとは逆ベクトルを示す渋い佇まいの温泉浴舎ですが、鄙びた風情や地方の湯小屋的佇まいが好きな方にはもってこいの雰囲気であり、お風呂に小細工が無いため、放流式の湯使いであるのも嬉しいところ。一人250円で貸し切れるのもありがたいですね。
というわけで冒頭に申し上げたようなマニアや、そんなマニアの志向を理解できる方にはもってこいの、穴場的なお風呂でした。本来は、すっぽん料理について感想を申し上げるべきお店ですが、今回はお風呂のみの言及とさせていただきました。


畑カッパ・上塩9
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 56.8℃ pH7.3 341.5L/min(掘削自噴) 溶存物質1.735g/kg 成分総計1.782g/kg
Na+:454.2mg(90.89mval%), Ca++:18.6mg,
Cl-:394.0mg(50.45mval%), S2O3--:0.2mg, SO4--:69.9mg, HCO3-:573.8mg(42.70mval%),
H2SiO3:153.7mg, HBO2:40.4mg, CO2:46.8mg,
(平成3年1月7日)

栃木県那須塩原市上塩原238
0287-32-2364

入浴可能時間不明
250円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西那須温泉 大鷹の湯

2018年06月13日 | 栃木県
 
今回から連続して栃木県塩原方面の温泉を取り上げます。今回は東北道西那須野塩原インターから程近い温泉旅館である西那須温泉「大鷹の湯」です(※)。今年(2018年)春の某日に日帰り入浴で伺いました。県道に面して建つデカい構えの門を潜って敷地の中に入り、私道をしばらく進むと、右手に大きな提灯が下げられた玄関が目に入ってきます。敷地内にはいくつもの建物が並んでいますが、どうやらこちらが本館のようです。
(※)温泉名について、施設案内などでは「西那須温泉」と表記されていますが、温泉分析書では「西那須野温泉」と「野」の字が入っており、どちらを正とすべきか判断に迷いますが、ここでは施設側の案内に従い前者で統一します(ただし、記事後半の分析書抄出箇所のみ、分析書記載の通りに転記します)。



大きな門から玄関へ至る私道の右側には、塩原電車開拓1号なる物体を発見。何かと思って後日調べてみたら、かつて塩原の地には軽便鉄道が走っていたらしく、どうやら当時のトロッコを模して、重機かなにかの車体を改造して20 ~30年ほど前に作られたようです。

さて、左右に吊られた大きな提灯の玄関から館内に入り、すぐ左手にある帳場で湯銭を支払います。そして玄関右側の日帰り入浴専用下足箱に靴を収め、勝手口のような出入口から隣接する別棟へと移動します。



別棟との間には、宿泊者専用「鷹見の湯」へ向かう入り口を発見。高見と鷹見をかけているのかな? 今回は日帰り入浴ですので、残念ながら利用していません。


 
浴室へ向かう廊下にはお水のサービスがありました。いや、単なる水ではなく「御神水」なんだとか。
なお脱衣所は決して広くないものの、比較的綺麗で使いやすい環境が整えられていました。室内にはエアコンも設置されていますから、暑さ寒さで着替えるときに苦労することも無さそうです。後述する内湯と露天風呂を行き来するには、一旦この脱衣室を通らなければならないため、その動線上にはマットが敷かれていました。


 
私が訪れた日はまだ冬のような寒い日でしたので、浴室内は湯気で曇っており、それゆえ見づらい画像になってしまいました。ごめんなさい。横に長い窓の下に縦長の大きな浴槽が据えられており、室内ながら明るくて広々とした入浴環境が生み出されています。


 
浴槽の向かいには洗い場が配置され、シャワー付きカラン6基が一列に並んでいます。シャワーから出るお湯は温泉でした。湯量豊富なんですね。


 
 
木組みの湯口から温泉が滔々と注がれ、湯尻の切り欠けを中心に縁などからも惜しげもなくふんだんにオーバーフローしています。浴槽の縁には緑色凝灰岩の石材が採用され、色合いとともに優しい感触をもたらしていました。
湯加減は41℃前後。実に入りやすく体にやさしい温度であり、肩まで浸かった私は、つい微睡んでしまいました。


 
一旦脱衣室を経由して露天風呂へ。建物と裏山の間に挟まれているためあまり開放的ではなく、景色もいまひとつですが、隣に錦鯉が泳ぐ池を設えたり岩や庭木をうまく配置したりと、日本庭園風に設えることにより、温泉宿らしい落ち着きのある風情が演出されていました。
岩の湯口から落とされるお湯は内湯と同じものです。湯加減を維持するためか、私の訪問日は内湯よりも投入量が多く、それゆえ外気に負けることなく、しっかりと42℃近い湯温が保たれていました。
露天は全体をモルタルで固められた岩風呂で、底面にオーバーフロー管の穴が開いていますから、浴槽の上よりお湯が溢れてることはありません。もっとも、モルタルの仕切りを挟んだ向こう側の池では錦鯉が悠然と泳いでいますから、お湯が池へジャバジャバ落ちてしまうち、鯉が湯浴みするはめになってしまうのかもしれませんね。なおこの露天風呂は3人サイズというコンパクトなものですから、混雑時には様子を窺いつつ空いたタイミングを見計らって入りましょう。

お湯は山吹色を思わせる褐色を帯びた透明で、湯中ではチラホラとこげ茶色の湯の花が浮遊しています。お湯からはミシン油のような鉱物油臭が漂い、少々の清涼感を伴うほろ苦さが感じられます。重曹とメタケイ酸が多いため、湯船に入ると全身がツルツルスベスベの大変滑らかな浴感に包まれ、まるでローションの中に浸かっているかのような感覚に抱かれます。いわゆる美人の湯と言われるタイプのお湯ですね。なお湯中での泡付きは確認できませんでした。内湯・露天ともに完全掛け流しの湯使いを実現しているところが素晴らしい。上述のように、内湯は41℃前後、露天は42℃前後でしたが、露天の場合は湯量を多くすることで湯加減を維持しているため、私の感覚では露天風呂のお湯の方が、よりフレッシュに感じられました。
西那須野塩原インター界隈には、こちらの他に千本松牧場内の「千本松温泉」や山麓の高原地帯にある「あかつきの湯」などがありますが、いずれもこの「大鷹の湯」と同じように重曹が多く含まれ鉱物油系の芳香を放つ淡い褐色のツルスベ湯ですから、この一帯には同じような系統の湯脈や地下水盆があるのかもしれませんね。
くだらぬ屁理屈はともかく、このお湯の浴感はお世辞抜きで極上。しかも重曹のお蔭で湯上がりはサッパリ爽快。湯船から出ようと思っても、後ろ髪を引かれて出られなくなってしまうほど、気持ちの良い夢心地のお湯でした。


 
ちなみに別棟にはお風呂付きのお部屋があるんだとか。またそれとは別に貸切風呂も用意されているんだそうです。ともかく湯量が豊富なので、いろんなお風呂が作れちゃうんですね。


 
駐車場の奥にある小屋は豊富な湯量を汲み上げる源泉施設。中からポンプの音が響いており、余剰分と思しきお湯が塩ビのパイプから小屋外の黄色いタンクへ注がれています。このタンクを覗いてみると、中に溜められた温泉から実に芳しい香りが放たれていました。個人的には、この汲み上げたばかりのお湯にも入ってみたいなぁ。


西那須野温泉 大鷹の湯
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 59.1℃ pH8.4 300L/min(動力揚湯) 溶存物質1.131g/kg 成分総計1.132g/kg
Na+:323.3mg(97.93mval%),
F-:12.7mg, Cl-:284.6mg(56.13mval%), HS-:0.3mg, SO4--:62.3mg, HCO3-:231.4mg(26.52mval%), CO3--:15.1mg,  
H2SiO3:156.1mg, HBO2:36.2mg,
(平成24年9月28日)
加水加温循環消毒なし

栃木県那須塩原市井口548-350
0287-36-6802
ホームページ

日帰り入浴 昼10:00~14:00(受付13:00まで)、夜18:00~21:00(受付20:00)、夜の日帰りは多客時などお休み。週末連休もお休み。
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする