温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

肘折温泉 つたや金兵衛

2014年05月31日 | 山形県
 
肘折温泉のお宿では、複数の建物を旅館部門と湯治宿部門で分け、その用途によって施設名称も区分しているところがありますが、「つたや」さんもそうした宿の一つであり、旅館である「肘折つたやホテル」と湯治宿の「つたや金兵衛」という2つの顔を使い分けているのですが、今回は後者の「つたや金兵衛」で立ち寄り入浴させていただくことにしました。湯治宿らしく外観は思いっきり古風な佇まいですね。


 
上がり框の脇に貼られてる大きな滝と新緑の写真が印象的な玄関。建物は古いものの廊下等よく磨かれておりピカピカに光沢を放っています。さて入浴をお願いすべくその玄関で声をかけたのですが、何度叫んでも一向に誰かが現れる気配がありません。そこで帳場のインターホンを押してみたところ、スピーカー越しに応答があり、それからしばらくしてスタッフの方が息を切らせながらやってきました。どうやら裏手のホテルの方からわざわざ来てくださったみたいです。お仕事とはいえ、わずか数百円の立ち寄り入浴のためご足労くださって申し訳ありません。そんな心境で丁重にスタッフの方に挨拶した後、磨き上げられた廊下を進んで浴室へと向かいました。


 
廊下の突き当たりが脱衣室の入口。お風呂ですら当然男女別に分かれているわけですが、ドア上の札に「男子脱衣室」「女子脱衣室」というように、浴室ではなく脱衣室という言葉が用いられていることが、こちらのお風呂の特徴を良く示しているんですね。ちなみに脱衣室内は括り付けの棚があるばかりで、至って簡素です。


 
男女で分かれていた脱衣室の先はひとつの浴室に収斂されます。つまり混浴だったんですね。実は私もこのお風呂に入るまでそのことを知らず、入室してお風呂の構造を把握してから「えっ、マジか!?」と驚いた次第です。私は男のくせに混浴が苦手なのでして(ノビノビできませんからね)、お風呂の構造を理解してからは俄然落ち着きを失ったのですが、幸いこの時は私の他に利用客がいなかったため、結果的には一人でゆっくり独占することができました。
金気と土気の匂いがふんわり漂う浴室内には2つの浴槽が据えられていますが、古い造りゆえか水道の蛇口以外のシャワー等はありません(その代わりミラー等は取り付けられていました)。


 
2つある浴槽のうち、女性脱衣室側にある大きな浴槽は7~8人ほど同時に入れそうな容量があり、浴槽手前に鎮座してる巨大な岩の上にお湯が落とされ、そこから浴槽へと注がれています。岩の上に落とされた直後のお湯は熱いのですが、湯船では43~4℃前後の湯加減となっていましたので、岩に落としてワンクッション入れることにより、お湯を冷ましているのかもしれません(同時に加水も行われているようです)。湯船に満たされているお湯は赤みを帯びた黄土色に濁っており、肘折らしい金気や土気がしっかりと感じられました。館内表示によれば、組合2号泉と組合3・4号源泉、そして松屋1号源泉を混合しているとのこと。


 

一方、男性脱衣室側にある小さな四角形の浴槽は、容量としては5~6人で、大理石を彫って創られた龍の湯口が壁からせりでていますが、この龍は現在お休み中のようでして、その傍らから突き出ている2本の筒よりお湯が注がれていました。2本の筒でも、左側からは熱いお湯が、右側からはぬるいお湯が、それぞれ吐出されており、左側の熱いお湯からは昆布茶味とともに土類味や金気味そして炭酸系の味が、右側のぬるいお湯からは強い土気と明瞭な炭酸味が感じられました。おそらく熱いお湯は組合源泉の混合、ぬるいお湯は自家源泉である松屋1号だろうと思われます。この2本を混合する塩梅が宜しく、湯船では丁度良い湯加減が保たれていました。また湯中ではキシキシ感とスベスベ感が混在しており、湯上がりには粗熱がサッと抜けて程良い温まりが持続しました。

肘折のお宿ではどうしても組合源泉を使うお宿が多くなるわけですが、そんな中にあってこちらのお風呂では、組合源泉と自家源泉の2つを一つの浴室で味わえるのですから、まさに一挙両得ですね。また館内では湯使いに関する細かな情報開示が行われており、お湯に対するお宿の誠実さも伝わってきました。


組合2・3・4号源泉、松屋1号源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 pH7.2 貯湯槽65.3℃(組合2号:85.1℃・組合3号:75.6℃・組合4号:65.5℃・松屋1号:29.5℃) 蒸発残留物2587mg/kg 溶存物質2998g/kg
Na+:752.0mg, Mg++:23.8mg, Ca++:75.1mg, Fe++:1.2mg,
Cl-:896.8mg, Br-:1.9mg, I-:0.3mg, SO4--:208.4mg, HCO3-:782.7mg,
H2SiO3:137.3mg, HBO2:50.3mg, CO2:185.1mg,

混浴浴槽「宝泉」(小):松屋1号を使用(季節により組合2号および組合3・4号を混合)、熱交換による加温あり、加水なし(但し組合2号使用時は10~30%の山水が含まれる)。
混浴浴槽「宝泉」(大):組合2号および組合3・4号・松屋1号を貯湯槽で混合、加温なし、組合2号泉に対して山水10~30%を加水(温度調整のため)、

(所在地・電話などは「つたや肘折ホテル」のものです)
山形県最上郡大蔵村肘折温泉504
0233-76-2321
ホームページ

日帰り入浴可能時間要問い合わせ
300円
シャンプー類あり、他備品見当たらず

私の好み:★★
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肘折温泉 三春屋旅館 後編(2つのお風呂)

2014年05月30日 | 山形県
前回記事「肘折温泉 三春屋旅館 前編」の続編です。

今回泊まった肘折温泉の「三春屋旅館」には源泉が異なる2つの浴室があり、源泉のみならずお風呂の造り自体にも個性がありますので、一晩のうちに双方へ入って、それぞれのお風呂を楽しみました。


●滝の湯
 
旅館の階段を上がった3階の最奥にある浴室が「滝の湯」。長期滞在客を受けいれる湯治宿らしく、浴室入口には洗濯機や乾燥機が設置されていました。


 
浴室は一つしか無いため、利用の際は男性か女性のどちらか片方の浴室となり、女性が利用する際は「女性入浴中」の札を表に立てかけておいて、男性をシャットアウトします。脱衣室は無駄に広くガランとしており、飾りッ気も何もなくて殺風景です。


 
窓が一つしか無くて薄暗い浴室はかなり年季が入っており、壁面に貼られている地味な青系のタイルが余計に渋い空気感を醸し出しています。床は長年に及ぶお湯の溢れ出しによって、独特の波状造形を伴いながら茶色やアイボリーに染まっていました。
古いお風呂だからか、加水用のホース以外にカランらしきものはありませんが、その代わりに湯口の傍には上がり湯用の枡が置かれています。


 
湯船は5~6人サイズで、実用本位の造りながら浴槽内にはコテコテに成分がこびりついており、共同浴場を思わせる円熟の湯船は、決して客に媚びることなく静かにお湯を湛えています。なおお湯は底から立ち上がっているオーバーフロー管より排湯されており、人が湯船に浸かると縁からも溢れ出ていきます。


 
お湯は上述の上がり湯枡の他、岩のオブジェらしきところからも注がれており、その岩の流路は赤茶色に染まっていました。こちらで使われているお湯は組合源泉の混合泉でして、近隣の他旅館にも同じお湯が引かれている肘折温泉標準タイプなのですが、赤茶色に濁っているものの他のお宿で見られるような黄金色の濁りは少なくて透明度があり、塩気もやや少ない代わりに金気が強く、土類感は組合源泉を使う他のお宿と同等といった感じでした。同じ源泉でも、湯使い等によってお風呂で得られるフィーリングがちょっと異なるのでしょうね。


●三春屋源泉のお風呂

温泉ファンが高く評価しているのが、玄関入ってすぐ左手にある三春屋源泉のお風呂です。その名の通り、こちらのお宿の自家源泉に入れるお風呂であります。


 
こちらの脱衣室も妙に広く、一人で着替えているとそのスペースを持て余し、大人げなく無駄に動きまわってしまいました。奥の方にはかつてタイルの洗面台だったと思しき跡があり、洗面台内部に当たる部分は化粧板で塞がれ、その上にドライヤーがポツンと置かれていました。



こちらの浴室も一室しか無いため、女性が利用する場合には表に「女性入浴中」の札を立てかけておいて、殿方をシャットアウトします。


 
温泉街のメインルートに面している浴室は、地表面より若干低い位置に設けられており、重厚感のある切り出し石材が多用され、床に近い側壁をよく見るとこの浴室の施工に関与したと思しき愛知県岡崎市の石材店の名前が彫られていました。出羽三山が傍に聳える羽前の湯治場で、三州岡崎の地名を目にするとは意外です。


 
湯船はほぼ正方形で、4~5人サイズといったところ。角は美しいRを描いており、槽内のステップも綺麗な形をしています。オーバーフローが流れる箇所は、まるで鍍金されたかのように(元の石材の色がわからないほど)赤銅色に染まっていました。


 
自家源泉のお湯は岩の下を貫いているパイプより注がれており、岩の上から湧水も落とされているのですが、この加水の塩梅が絶妙で、湯船では42~3℃という最高な湯加減がキープされていました。また湯船がやや深い造りなので、肩までじっくり浸かることができました。

槽内こそ赤茶色に染まっていますが、お湯は組合源泉よりも透明度が高く、ほんのり緑色を帯びた暗いオレンジ色の笹濁りといった感じ。組合源泉と比べると遊離炭酸ガスの量が圧倒的に多く(組合源泉の約4.5倍)、湯口のお湯を口にすると薄い昆布茶味や金気味の他、炭酸味が明瞭に口腔内に広がっていきました。また湯船の中ではその影響と思われる泡付きも見られました。

組合源泉よりも優しいフィーリングと明瞭な炭酸パワーのおかげで、一度入ったら出られなくなるほど癖になる浴感が素晴らしく、湯浴み中の浴感もさることながら、湯上がりにはサラサラ感やシットリ感が共存し、いつまでもポカポカとした温浴効果が持続しました。なるほど皆さんが高く評価するのも頷けます。リーズナブルである上に自家源泉の素晴らしいお湯に浸かれちゃうという、言うことなしのブリリアントなお宿でありました。


組合2・3・4号源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 64.6℃(2号:85.1℃、3号:75.6℃、4号:65.5℃) pH7.3 蒸発残留物3053mg/kg 溶存物質3586mg/kg
Na+:944.1mg, Mg++:28.6mg, Ca++:88.6mg, Fe++:1.1mg,
Cl-:1066mg, Br-:2.5mg, I-:0.3mg, SO4--:242.2mg, HCO3-:920.8mg,
H2SiO3:148.0mg, HBO2:61.3mg, CO2:181.2mg,
(平成22年7月2日)

三春屋源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 51.3℃ pH6.2 掘削自噴(量不明) 溶存物質2545mg/kg 成分総計3341mg/kg
Na+:627.1mg(79.69mval%), Mg++:19.9mg, Ca++:79.3mg(11.57mval%), Fe++:1.6mg,
Cl-:643.9mg(53.78mval%), Br-:1.3mg, I-:0.6mg, SO4--:156.0mg(9.62mval%), HCO3-:751.6mg(36.48mval%),
H2SiO3:187.8mg, HBO2:31.7mg, CO2:795.5mg,
(平成15年10月31日)

山形県最上郡大蔵村南山497
0233-76-2036
ホームページ

日帰り入浴時間および料金は要問い合わせ
ドライヤーあり、他備品類なし

私の好み:★★★
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肘折温泉 三春屋旅館 前編(冬の肘折希望大橋・部屋と食事)

2014年05月29日 | 山形県
●雪の肘折希望大橋

2012年に山形県大蔵村の肘折温泉で発生した土砂崩れは、温泉街へアクセスするメインルートを崩壊させたため、肘折温泉へ向かうには狭隘路を迂回せざるをえず、そのルートは慣れない人にとっては不安感を抱かせるものであったため、旅館によってはお客さんの安全を考慮して泣く泣く予約を断っていたところもあったようですが、その後メインルートの復旧が急ピッチで進められた結果、土砂崩れが発生した箇所をループ状の高架橋でかわしてゆくルートが確立され、同年12月には仮橋梁が開通、2013年11月30日に本開通となりました。私が前回肘折を訪問した2012年の12月下旬には、雪の最中だというのに多くの作業員を動員して工事が行われていましたが(拙ブログでも2013年1月24日付で記事にしております)、ちょうど訪問した日に県知事によって「肘折希望(のぞみ)大橋」という新しい橋の名前が発表され、その数日後には仮開通に至りました。冬の肘折の魅力にハマッてしまった私は今年(2014年)の冬も当地へ出かけることにしたのですが、せっかくですから自分の車で新しい橋を走って、本開通したアクセス路がどのようなものであるのか、体験してみることにしました。

 
まずは「肘折希望大橋」の全景を見てみましょう。従来は山の斜面を急カーブを伴いながら長い坂道で登っていましたが、新しいルートではループによってグルグル回りながら高さを稼いでいます。


 
では実際に走行してみましょう。最上地方の中心である新庄市街から国道458号線で大蔵村をどんどん南下していきます。村の中心部を抜けると雪の深さが一気に増し、道路の両側には除雪によってできあがった雪の壁が高く聳え立っていました。


 
肘折のトンネルを抜けると、その先の国道458号寒河江方面は冬季通行止区間となりますので、その手前を右折して肘折温泉があるカルデラへと下りてゆきます。



道は間もなく希望大橋につながるのですが、さすがに日本屈指の豪雪地帯だけあって、道路両側に聳える雪の壁はとてつもなく高く、実際に私の車と比較してみますと、上画像のような感じになりました。それでも温泉街を支える生命線であり、且つ路線バスが通る道でもありますから、道路はしっかり除雪されており、幅員も確保され、何ら不自由なくスムーズに走行することができました。


 
雪の掘割のような区間を抜けると、いつのまにやら希望大橋の上に差し掛かっていました。道なりにグルグルと回りながら下ってゆきます。


 
橋の真ん中では除雪の真っ最中。こうした作業のおかげで無事に通行できるんですね。関係者の皆さん、ありがとうございます。ちなみに橋を横から見ますと、ラーメン構造であることがよくわかります。


 
何ら不安を感じること無く、安全に希望大橋を下りきりました。上画像は下りきったところから橋を見上げている様子です。


 
橋の取り付きからそのまま坂を下って温泉街に到着しました。私の車はSUVのくせにFF車でして、当初は橋の勾配が気にかかり、凍結時等はどうなることやら心配だったのですが(特に橋は凍結しやすいですからね)、実際に走ってみますと勾配はかなり緩やかになっており、こまめな除雪のおかげもあって、事前の不安は杞憂に終わり、怖い思いをすることなく通行できました(ここに限らず、路線バスが通るような道でしたら、そんなにビビる必要は無いんでしょうけど)。なお温泉街はしっかり融雪されています。


●三春屋旅館 お部屋と食事

さて今回の宿泊先は温泉街の中央に位置する「三春屋旅館」です。前回肘折を訪れた際に宿泊した「若松屋村井六助」(前編後編)の真向かいにあり、外観こそいかにも肘折の湯治宿らしい渋い佇まいなのですが、温泉ファンからは高い評価を得ているお宿なのであります。


 
帳場にはジャズのCDがズラリと並べられており、私の訪問時にはその中の一枚がプレーヤーにかけられ、大人な雰囲気のサックスがスピーカーから響いていました。また館内廊下には沢山の蔵書が本棚に収められていました。


 
今回通された客室は2階の角部屋で10畳の和室です。湯治宿らしく年季が入っていますが、綺麗に手入れされており、居心地は一般的な旅館と較べても全く遜色ありません。それどころか、館内にはWi-Fiが飛んでいますので、PCやスマホを持参すればお部屋でネットが使えます。


 
今回は2食付きのプランでお願いしました。夕食・朝食とも部屋出しです。
まずは夕食から。生ビール(別料金)とともにいただきました。


 
中央に威風堂々と構えているのは、山形名物の芋煮鍋です。醤油に砂糖を入れたすき焼き風の汁に牛肉と里芋、そして長ネギ・ナメコ・千切りこんにゃくを入れて煮込んだもので、これが実に美味。砂糖が濃厚な味わいを生み出しているスープには牛の脂が溶け込んでより奥深い味となっており、トロットロのサトイモとの相性が抜群。余ったスープをご飯にかけても最高でして、お櫃のご飯はあっという間に空になってしまいました。


 
小鉢は膾とゼンマイの煮物。



朝食は味噌汁やおひたしといった「和」と、焼きハムやマカロニサラダといった「洋」が一つの盆に仲良くセッティングされている和洋折衷の献立で、見た目の彩りもさることながら栄養のバランスも良く、一日のスタートを気持ちよく踏み出せるお食事でした。

単に腹いっぱい食えるだけじゃなく、その飯がめちゃくちゃ美味いというのが素晴らしいじゃありませんか。こんな盛り沢山なお食事がついて、しかも後編で述べる2つの掛け流しの温泉にも入リ放題。1泊2食でなんと6,450円(2014年1月時点)なんですよ。驚くべきコストパフォーマンスです。

後編ではお風呂について見てまいります。

後編につづく
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羽根沢温泉 共同浴場 2014年冬再訪

2014年05月28日 | 山形県
 
久しぶりに羽根沢温泉へやって来たのですから、温泉ファンから熱い支持を集める共同浴場へ数年ぶりに再入浴してみることにしました。共同浴場は多目的集会所の1階です。なお拙ブログの立ち上げ初期にもこの共同浴場について取り上げております(こちらをご参照あれ)。


 

久しぶりに再訪してみると、以前と比べて若干物々しい雰囲気に変貌していました。具体的には、入口周りには監視カメラが取り付けられており、近づくとセンサーが反応してチャイムが鳴り、続いてピコンピコンとサイン音が鳴り響きました。そして料金入れには某大手警備会社のシールが貼られていました。この共同浴場は無人施設でありますが、それが仇になって無銭入浴が相次いだのかもしれませんね。


 
脱衣室は以前と同様に棚と鏡と腰掛けしかない簡素な造りのままでした。壁の張り紙によれば、保健所から飲泉を控えるよう指導されたらしく、浴室の湯口に置かれていたコップは撤去されちゃったようですが、そんな指導なんかどこ吹く風と言わんばかりに、先客のお爺さんは焼酎用の大きなPETボトルを2本持ち込み、お湯を汲んで持ち帰っていました(当浴場の利用規則によればポリタンク20リットルまで持ち帰り可能です)。


 
浴室には湯気が立ち込めていたため、見難い画像になってしまい恐縮です。一応浴室には高い位置に窓があって自由に開閉できるのですが、窓を開けると屋外の重い寒気が入り込んで余計に曇ってしまい、これ以上はどうにもなりませんでした。
浴室内も以前訪問時の記憶と殆ど変わっておらず、白く塗られたモルタルの壁に、アイボリー系の床タイル、そして縁が黒い御影石で容量が3~4人の浴槽といった室内構成は以前のままでした。

浴室内には洗い場としてのシャワーやカラン等は無く、洗体だろうが洗髪だろうが桶で湯船からお湯を汲むことになるのですが、そんな室内にあって唯一の水栓が「飲料水」と書かれたオートストップ水栓であり、傍にはコップがぶら下がっていますので、文字通りに入浴中に水分補給をするためのものなのでしょう。羽根沢のしょっぱいお湯は、火照りやすくて汗が止まらなくなりすから、この水栓は入浴者、とりわけこの浴場に多い高齢者にとっては重要な設備ですね。


 
ニュルニュル感を伴う羽根沢のお湯のため、浴槽内はとても滑りやすく、入浴の際にお尻を底へ付けようとしたら、バランスを崩してお尻をツルンと滑べらせ、溺れそうになってしまいました。泳ぎには自信のある私でも、不意をつく水難には太刀打ちできずに大慌てしてしまったのですが、幸いにしてこの時は他にお客さんがおらず、マヌケな醜態を晒さずに済みました。こういう時って、痛さや苦しさよりも、羞恥心のほうが優先されてしまうものですね。余談はさておき、お湯はタイルが貼られた蓋を被せている湯だまりから投入されており、湯加減は体感で44℃前後とやや熱めでした。


 
塩ビの湯口先には黄色いネットが被せられていますが、ネットの目が粗いためか、湯船の中ではとろろ昆布のような形状の、茶色を帯びた灰色の湯の華がたくさん浮遊しており、桶でお湯を汲んだら湯の華も容易にキャッチすることができました。湯口傍には犯行声明のような不気味なカタカタで「パイプ サワルナ」と書かれているのですが、パイプが外れやすかったりするのでしょうか。

お湯は若干黄色を帯びているようにも見えますが、実際はほとんど無色透明であり、お湯から放たれるアブラ臭が浴室内に充満しています。羽根沢温泉は大正時代に油田を見つけようと試掘している時に発見されたもので、その経緯を踏まえますとアブラ臭が強いのは当然といえるでしょう。保健所の指導に従って飲泉こそしませんでしたが、湯口のお湯を口に含んでみますと、塩辛さと薄い出汁味、そして焦げたような苦味と重曹的な清涼感を伴うほろ苦みが感じられました。また、さきほど底でお尻を滑らたことを述べましたが、本当にニュルニュルとしたローションのような滑らかさが強く発揮されており、湯中で肌を擦ると、擦った方の腕がその勢いのままどこかへ飛んでいってしまいそうになるほど、ツルッツルな感触が楽しめました。美肌の湯であるとも言えそうです。

とても気持ち良い浴感や芳しいアブラ臭のために、いつまでも長湯していたくなるのですが、温泉に含まれる食塩の影響で、数分もしないうちに体がお湯に負け、ボディーブローを食らった後のように疲労感がジワジワと効いてきます。このため長湯したくても体が音を上げてしまい、短時間で湯船から出ざるを得なくなるのですが、でも既に浴感の虜になっているため、数分のインターバルを開けた後に再び湯船に戻り、でも長湯はできないからすぐに上がる・・・今回の私はこの一連の動作を繰り返していました。
湯上がりも火照りが続いて発汗も止まりませんでしたが、一旦汗が引くと、今度は重曹パワーが発揮されるのか、粗熱が抜けて爽快感すら覚え、しばらくは適度な保温効果と清涼感が共存し続けてくれました。何ともありがたいお湯であります。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 47.2℃ pH8.4 蒸発残留物2957mg/kg 溶存物質3848mg/kg
Na+:1204mg,
Cl-:915.5mg, Br-:2.4mg, I-:0.6mg, HS-:1.9mg, HCO3-:1636mg, CO3--:31.1mg,
H2SiO3:26.5mg,

山形県最上郡鮭川村大字中渡3260  地図

4月~9月:8:00~18:00 10月~3月:8:00~17:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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羽根沢温泉 松葉荘

2014年05月27日 | 山形県
 
前回に続いて今回も山形県のアブラ臭漂う温泉を訪問します。といっても今回目指す場所は、前回の舟唄温泉からは遠く離れた、最上地方の鮭川村に湧く羽根沢温泉です。訪った日は冬のまっただ中で、何もかもが深い雪にすっかり埋もれていましたが、たとえ過疎と高齢化の著しい村であっても、村にとっての生命線である県道は除雪されており、おかげさまで普段は関東しか知らない我が愛車も難なく通行することができました。


 
羽根沢温泉に到着です。こちらを訪れるのは久しぶりでして、小さな温泉街の鄙びた雰囲気は相変わらずなのですが、むしろ雪が鄙びた部分を包み隠してくれているようにも見えます。


 
今回は旅館「松葉荘」で立ち寄り入浴することにしました。建物の看板には旅館名の頭に「別館」という語句が付いていますが、現在本館に当たるものは無く、この別館のみですので、お宿のホームページ等では別館を省いて、本館や別館の区別無しに「松葉荘」と称しています。従いまして、拙ブログでもこれに倣って「別館」の文字を省いて取り上げることにします。
観葉植物の緑が印象的なロビーで入浴をお願いしますと、ご主人が快く受け入れてくださいました。


 
玄関から伸びる廊下をまっすぐ進み、途中で右へ直角に折れて更に進んでゆきます。廊下に飾られている桶には東北民謡のCDが収められていました。温泉と民謡って親和性ありますもんね。


 
廊下のステップを数段下った突き当たりに浴室があり、男女両浴室の間に挟まれる形で洗面台が1つ設けられていました。ドライヤーも備え付けられています。



脱衣室は2畳くらいしかなく、腰掛けにプラ籠が置かれているだけの、旅館というより共同浴場を彷彿とさせる、極めてシンプルなレイアウトです。室内には換気扇が無いため、浴室の戸をきちんと閉めてほしい旨が印字されたテプラが2枚も貼られていました。


 
羽根沢らしいアブラ臭が漂う浴室もこぢんまりしており、一見するとごく普通の実用的なお風呂に思えるのですが、随所に無機的なそっけなさを払拭する工夫が施されており、たとえば、浴槽こそタイル貼りですが、その周りにはスノコが敷かれて、木材ならではの温もりと柔和な空気感を醸し出していますし、脱衣室の引き戸から浴槽まで間には切り出し石が並べられ、さりげない重厚感をもたらしていました。


 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基取り付けられており、ボディーソープ類も完備されています。視線を窓際へ転じると、おもちゃのアヒル2体と共にお風呂用玩具が置かれており、アットホームな空気感を漂わせていました。


 
四角い浴槽は5~6人サイズ、全面的にタイル貼りで、縁には白色、槽内は水色が採用されていますが、お湯のオーバーフローが流れる手前側は茶色く染まっていました。湯船をよく見ますと、湯面より上は男女両浴室がきちんと仕切られていますが、浴槽は女湯と一体になっており、仕切りの下から手を伸ばせば、槽内で男女が握手することもできそうです。
無色透明な湯船のお湯の中では、とろろ昆布を千切ったような灰色の大きい湯の華が浮遊していました。画像のように手桶で容易くすくい取ることができちゃいます。


 
岩の湯口は男女両浴室共通で、一つの湯口から双方へお湯を分けており、その流路では白い湯の華がユラユラ揺れています。湯口に置かれているコップで飲泉してみますと、ちょっと辛めの塩味や苦味が感じられ、明瞭なアブラ臭が鼻へと抜けていきました。分析表を見ますと、硫化水素イオンが1.9mgと記されていたのですが、(チオ硫酸イオンでも遊離硫化水素でも構わないので)あと0.1mgあれば硫黄泉を名乗れますから、実に惜しいデータと言えそうです。

湯船に浸かるとニュルニュル感を伴うツルスベ浴感が実に心地よく、湯船から上がってもスベスベ感は持続しました(湯船の底も滑りやすい状態でした)。湯面からは中毒性のあるアブラ臭が香り、湯船では丁度良い湯加減、しかもコンフォータブルな浴感が体を包んでくれるので、ついつい長湯したくなるのですが、温泉に含まれる濃い目の食塩がボディーブローのように効いてきますので、やがて体がお湯に負けてヘロヘロになってしまい、気づけば這々の体で湯船から上がっていました。実にパワフルなお湯です。
もちろん湯使いは放流式。お湯の鮮度感も良好です。お風呂から上がって雪の屋外に出てもしばらくは湯冷めせず、いつまでもポカポカとした温かさが持続しました。小さなお風呂であると侮るなかれ、良泉を堪能できる味わい深い浴場でした。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉
47.2℃ pH8.4 蒸発残留物2957mg/kg 溶存物質3848mg/kg
Na+:1204mg,
Cl-:915.5mg, Br-:2.4mg, I-:0.6mg, HS-:1.9mg, HCO3-:1636mg, CO3--:31.1mg,
H2SiO3:26.5mg,

山形県最上郡鮭川村大字中渡1314-2  地図
0233-55-2539
ホームページ

日帰り入浴時間不明
300円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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