温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

みやざき郷温泉

2020年08月28日 | 大分県

大分県で温泉が多い街といえばまず別府や湯布院を思い浮かべますが、県庁所在地である大分市だって街のあちこちに温泉浴場がある温泉都市なのです。今回取り上げるのは、ロードサイド店舗が建ち並ぶ国道10号線から細い路地を入った先に位置する「みやざき郷温泉」です。車一台通るのがやっとな感じの狭隘な路地を進み、看板に従って角を曲がって更に奥へ向かうと・・・


路地の右手に上画像のような小さい木造湯屋が建っています。湯屋の前には駐車場があり、3~4台は止められるスペースがあったように記憶しています(もう少し狭かったかな)。また駐車場の片隅にはに源泉があり、揚湯ポンプの音を辺りに響かせています。この音を耳にして「ここで汲み上げたお湯に今から入るんだ」とワクワクしちゃうのは温泉マニアゆえの性でしょうか。
こちらの施設は2015年にオープンした比較的新しい温泉。事前に調べた情報だとこの湯屋は無人であり、100円玉3枚を機械に投入して出入口のドアを開ける(開錠)するとのことでしたが、訪問時には玄関前の受付小屋にスタッフの方(オーナーのご家族?)がいらっしゃり、入館しようとする私にスタンプカードをすすめてくださいました(でも旅の身ですから丁重にお断りしました)。


男女別の入口から中へ上がってすぐのところにある檜造りの脱衣室はこぢんまりしていますが、扇風機・ドライヤー・松竹錠付きロッカーと、狭いながらもありと備品類は充実しています。お客さんに対するオーナーさんの温かい心遣いが伝わってくるようです。


建物の外観から想像できるように浴室もかなりコンパクト。タイル張りの室内は3人も入ればいっぱいになってしまいます。まるで民宿のお風呂みたい。洗い場にはシャワーが2つ並んでおり、カランからはボイラーの沸かし湯が吐出されます。入浴料金300円という安さにもかかわらず、こちらの洗い場にはちゃんとボディーソープが備え付けられているのですから感心してしまいます。脱衣室の備品同様にオーナーさんの気持ちが表れているのでしょう。


浴槽は石板張りの2人サイズ。上述の源泉で汲み上げられたお湯は、塩ビの先から浴槽へ投入されており、私が湯船に入るとお湯は勢いよくザバーっと豪快に洗い場の床へと溢れ出てゆきました。実に贅沢な感覚です。小細工は一切ない完全かけ流しの湯使いです。湯口の先には異物を漉し取るための布が巻き付けられていますが、それでも湯舟の中には褐色の浮遊物ちらほら舞っていました。適温のお湯は淡い黄色の透明で、塩味がある一方、匂いはあまり嗅ぎ取れません。分析表によれば食塩と重曹がこの温泉の主成分ですが、炭酸イオンが37.8mgと多く含まれているため、ツルスベ感の強い滑らかな浴感が大変印象的です。

小さい湯屋ながらも随所からオーナーさんの温かい心遣いが伝わってきますし、且つお風呂では完全かけ流しの素晴らしいお湯に浸かれるという、実に素晴らしい温泉浴場でした。観光地とは無縁の住宅地ですし、その上わかりにくい立地ですから、利用客は地元住民の方がメインかと思いますが、もし界隈を訪ねることがありましたら、お立ち寄りになってください。おすすめです。


ナトリウム-塩化物温泉 43.0℃ pH8.5 湧出量測定せず(750m掘削動力揚湯) 溶存物質2.760g/kg 成分総計2.760g/kg
Na+:879.0mg(95.29mval%), Ca++:15.6mg,
Cl-:833.0mg(59.74mval%), Br-:2.0mg, HCO3-:886.0mg(36.91mval%), CO3--:37.8mg,
H2SiO3:69.2mg, HBO2:16.5mg,
(平成27年3月25日)

大分県大分市大字宮崎1042
097-569-2040

14:00~22:00 休業日不明
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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大在温泉 ビジネスホテルニューおおざい(公衆浴場)

2020年08月21日 | 大分県

大分市東部の大在駅周辺へやってきました。豊後水道を臨むこのエリアには住宅地が広がっているほか、沿岸部は臨海工業地帯となっている一方、特段これといった観光名所は無いため、私のような県外の観光客が物見遊山で来るような場所ではありません。しかしながら、このような場所でも温泉が湧いているのが温泉県を自称する大分県のすごいところ。このエリアで今回私が訪ねたのは「ビジネスホテル ニューおおざい」です。その名の通りビジネスホテルなのですが、公衆浴場も併設しており、かけ流しの温泉に入れるらしいので、公衆浴場を利用すべく足を運んでみました。


ホテルと公衆浴場の玄関は別になっています。上画像に写っている温泉マークの玄関が公衆浴場用。
玄関に設置されている券売機で料金を支払い、発券されたチケットをカウンターに差し出します。このカウンターはホテルのフロントを兼ねているようでしたが、訪問時、受付のおばちゃんは常連さんとのお話に夢中で、私の来訪には気づいていないようでした。お喋りの邪魔をするのは忍びなかったので、声を掛けずに券を出してそのまま浴場へ移ってしまったのですが、果たしてそれで大丈夫だったのかしら。

築年数がかなり経っている建物らしく、外観もさることながら、脱衣室は輪をかけて草臥れています。とはいえ及び腰になるような状況ではなく、棚と洗面台があるだけのシンプルな室内ですので、さっさと着替えて浴室へ移動しちゃえば特に気になることはないでしょう。


当然ながら浴室も古さが露わで天井も低く、しかも窓外のすぐ目の前には隣家の壁が立ちはだかっているため、圧迫感は否めません。一方、浴室内にはサウナがあり、水風呂も用意されていますので、苦悶の表情を浮かべながら汗を流したいマゾなお父さん達にはうれしい設備と言えましょう。


洗い場は島のようになっていてシャワー付きカランが計4つ取り付けられています。


シャワーから出てくるお湯は温泉ですよ。なお備え付けのボディーソープやシャンプーはありませんので、あらかじめ用意しておきましょう。


浴槽は石造りで10人は入れそうな大きさを有しています。浴槽のお湯は薄い黄色を帯びながら微濁しており、浴槽まわりは温泉成分の付着によりアイボリー色に染まっていました。湯加減は適温。浴槽縁からしっかりオーバーフローしています。


岩組みの湯口から温泉が落とされており、その周りはトゲトゲした析出で覆われていました。大分市内の温泉はモール泉かそれに近いタイプのお湯が多いのですが、市街から離れた沿岸部だからか、こちらのお湯は毛色が全く異なる海水由来の泉質です。湯口のお湯をテイスティングしてみますと、しっかりとした塩味の上に少々の苦汁味も確認でき、またアブラ臭が少々感じられました。しょっぱいお湯ですので、入浴後はパワフルに火照ります。

観光とは縁遠い場所ですので、わざわざ旅行の際に立ち寄るような温泉ではないような気もしますが、とてもリーズナブルに宿泊できるようですから、安く泊まってかけ流しの温泉にも入りたいのでしたらこちらの利用を検討してみるのも良いかもしれません。


ナトリウム-塩化物温泉 47.1℃ pH8.0 湧出量不明(動力揚湯) 溶存物質4.552g/kg 成分総計4.554g/kg
Na+:1493mg(92.96mval%), NH4+:1.6mg, Mg++:2.9mg, Ca++:23.6mg,
Cl-:1951mg(81.68mval%), Br-:1.8mg, HCO3-:747.2mg(18.18mval%),
H2SiO3:164.1mg, HBO2:33.5mg,
(2019年8月1日)

大分県大分市大在北1-4-7
097-522-4181
ホームページ

公衆浴場11:00~23:00
300円
ドライヤーあり、他備品類無し

私の好み:★★
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大分市内 天然町温泉

2020年08月14日 | 大分県
九州をはじめ各地に甚大を被害をもたらした令和2年7月豪雨で被害に遭われた方々に衷心よりお見舞い申し上げます。罹災者の方々に一日も早く日常が戻ることをお祈り申し上げます。
COVID-19の感染が一刻も早く鎮まることを祈念すると同時に、再び九州各地で楽しく旅ができる日が早く来るようにという願いも込めまして、拙ブログでは今回から九州の温泉を取り上げてまいります。なお今回以降で取り上げる九州の各温泉は、2019年12月に訪問致しました。まだ数ヶ月しか経過していませんが、当時と変わらぬ場所もあれば、様子が全く異なってしまった箇所もあるかと存じます。その点につきましては何卒ご了承くださいませ。



大分市近郊の住宅地にやってまいりました。周囲には住宅地が広がり、幹線道路に沿ってロードサイド店舗が立ち並ぶ典型的な近郊市街地です。決して観光目的で立ち寄るような場所ではありません。
画像には大きなマンションが写っていますが、画像中央に小さく写っている幟をよく見てみますと・・・


裏返っていますが「天然町温泉」と赤い文字で記されていることがわかります。もちろん、マンションで温泉に入れるわけではありません。ではどこに行けば良いのかと言うと・・・


駐車場の一番奥に小さな湯屋が建てられているのでした。マンションの奥に建てられている湯屋なので、マンションの住民専用や地元民向けの浴場なのかと思いきや、私のような余所者を含め誰でも利用できる一般的な温泉共同浴場です。


温泉巡りを趣味としている方なら、この小さな湯屋を見て察することができるでしょうけど、こちらの浴場は管理人が常駐しない無人の施設です。利用の際にはドア横に設置されているコインタイマーに100円玉を3枚投入して開錠させます。このタイマーが開錠してくれる時間は僅か10秒。ボヤボヤしているとすぐ閉まってお金を無駄にしてしまいますので、100円玉を入れたらすぐにノブに手を掛けてドアを開けましょう。
脱衣室は綺麗に清掃されており、また扇風機やエアコンなどの設備も整っていて、無人なのに備品類が充実しています。


浴室はシンプルな造りで、壁には木材町の樹脂製壁材、床にはお手入れのしやすい樹脂製床材が採用されています。イニシャルコスト優先で作られたと思しきこうした造りは、場所こそ全然違いますが、群馬県吾妻地方の八ッ場ダム周辺に設けられた各所の仮設温泉浴場を彷彿とさせます。男湯の場合、入って右側に洗い場が配置され、シャワー付きカランが3つ並んでいます。シャワーから出てくるお湯は水道の沸かし湯です(湯屋の裏にボイラーがあります)。なお洗い場に石鹸やシャンプー類の備え付けはありません。利用の際は必ず持参しましょう。

浴槽は(目測で)1.8m×2.4mの4人サイズ。簡素なモルタル造りながら縁に石材が用いされており、温泉らしいワンポイントになっています。温泉は塩ビ管から投入されており、浴槽縁の切り欠けよりしっかり溢れ出ています。純然たるかけ流しの湯使いです。


お湯は赤みが強い紅茶色を呈しており、湯中ではベージュの浮遊物が比較的目立っています。湯口のお湯を手に取って口に含んでみますと重曹のほろ苦味が感じられ、インクのような鉱物臭と燻したような香りが鼻へ抜けていきました。大分市内にはモール泉系の温泉が多くみられますが、こちらもその典型例と言えるでしょう。
分析表を見ますと炭酸イオンが多く含まれており、その影響なのか湯船に浸かると全身がツルスベの滑らかな浴感に包まれます。その一方で食塩も含まれているため、しっかり温まります。ツルスベ滑らかと温浴効果を兼ね備えた、実に良いお湯です。常連さんにお話を伺ったところ、こちらのお湯は日によって湯加減が上下するそうですが、タイミングが良かったのか、私の訪問時は非常に心地よい温度が維持されていました。

気兼ねなく良い温泉へ入れる浴場ゆえ、私の利用時も次々にお客さんがやってきました。住宅地の中で小さく佇む知る人ぞ知る素敵な温泉共同浴場です。


天然温泉
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 51.9℃ pH8.9 湧出量測定せず(掘削800m動力揚湯) 溶存物質10.34g/kg 成分総計1.034g/kg
Na+:257.0mg(90.60mval%),
Cl-:160.0mg(37.55mval%), OH-:0.1mg, HS-:0.8mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:339.0mg(46.29mval%), CO3-::35.4mg,
H2SiO3:181.0mg,
(平成26年10月20日)

大分県大分市明野北5-1681-77

6:30~10:00、12:00~22:00
300円
ドライヤーあり、石鹸類・ロッカーなし

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
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秩父 明ヶ指のたまご水

2020年08月09日 | 東京都・埼玉県・千葉県
前回に引き続き埼玉県秩父を巡ります。
前回記事でも申し上げましたように、秩父には日本の温泉法で規定されているような温泉(湧出温度25℃以上)がほとんど無いのですが、冷鉱泉ならたくさんあり、しかも燻し銀の個性派が揃っています。冷鉱泉は古くから人々に活用されており、その代表的なものが「秩父七湯」と呼ばれていたことは前回記事でご紹介した通りです。秩父に湧く冷鉱泉の特徴には、アルカリ性・ヌルヌルした感触・硫黄感(タマゴのような風味)といったことが挙げられ、この3点すべてが揃っている鉱泉もあれば、ただ単に冷たいだけの鉱泉もあり、まさに十人十色といった様相です。拙ブログで取り上げたことのある「新木鉱泉」や前回取り上げた「千鹿谷鉱泉」は3点の特徴が揃った魅力的な鉱泉であり、むしろそれが事前にわかっていたからこそ私がわざわざ足を運んだのでした。

さてこうした秩父の鉱泉の多くは、以前から民用や商用で利用されたり、あるいは使われていたものの廃業により過去帳入りしてしまったりと、現状についても様々なのですが、現在でも山の中で使われることなく湧出し続ける鉱泉が存在しており、しかもその鉱泉は「たまご水」と呼ばれる硫黄風味の強いものらしいので、硫黄泉が大好きな私としては是非とも直接自分の五感で触れてみたく、実際に行ってみることにしました。


まずは秩父鉄道の電車(東急のお下がり)に乗って・・・


武州中川駅で下車。


目指す鉱泉は「明ヶ指(みょうがさす)のたまご水」という名前なんだとか。
駅前の観光案内図でその場所を確認していざ出発。国道140号線を西へ向かってテクテク歩き、安谷橋の手前で左折して踏切を渡り、昌福寺というお寺を目指します。


昌福寺付近で道が分岐します(上画像の地点)。熊出没注意、発砲注意など、物騒な看板を横目に、昼猶暗くジメジメした陰気な山道を進んでいきます。なおここから先は目立った分岐点は無いといって差し支えありません。道なりに歩いていけばよいでしょう。


鬱蒼とした針葉樹林の中を未舗装の林道が伸びています。車同士が行違うことのできる幅員が全くない離合不能な狭隘路で、脱輪したら谷へ落ちそうな危なっかしい道です。この道を自分の車で走ろうとは思いません。額から噴き出る汗を拭いながら、駅から歩いて正解だと確信しました。
途中で小さな石仏が一体鎮座していたものの、上記の分岐点を過ぎた後は辺りに人家が一切見られないため、この山道はてっきり山林管理用の林道なのかと思い込んでいたのですが・・


視界が開けたかと思うと、なんと沿道に民家が数軒建っているではありませんか。しかもその先には薬師堂まであるのです。


薬師堂の先にはキャンプ場の跡地が広がっていました。ということは、かつてはレジャー客もあの道を行き来していたのですね。

生活とは無縁な針葉樹林の管理用林道かと信じ込んでいた道の先には、このような集落が存在していたのです。ということは、私が歩いてきた未舗装の狭隘な一本道が、この集落に住む人々の生活を支えているわけですね。なぜこのような山の中で暮らしているのか、林業関係者の集落なのか・・・。それにしても、食料品の買い物や病院の行き来に不自由しないのだろうか、悪天候の日は道が不通になったりしないのか、などなど都市に暮らす私は余計な心配をしてしまったのですが、住めば都というように、この地に根を下ろして長年生活なさっている方々にとっては寧ろ里へ下りるよりこの山の中で暮らした方が良いのかもしれません。
「たまご水」へたどり着く前に鉱泉とは全く関係のないことに驚き、ちょっとしたカルチャーショックに面食らってしまったのですが、気を取り直して再び歩き出します。


キャンプ場跡地に先には沢を越える小さな橋が架かっており、その先にも白い建物が建っています。繰り返しになりますが、あの狭い未舗装の先にこのような建物群があるとは想像だにしませんでした。


人家を通り過ぎ、更に先へ進むと、ついに轍が消えました。ここから川へ下ります。


清涼な空気に満ちた安谷川の渓流。実に清々しく、流れる水も非常に清冽です。


この渓流の岸に、目指す「明ヶ指の卵水」がありました。
武州中川駅からここまで徒歩約35分の道のりでした。


山から湧き出る鉱泉のたまご水は、黒いパイプを通じて、地中に埋められたドラム缶へ注がれています。
この鉱泉は安谷川沿いに走る南北方向の断層から湧出していると考えられています。


丸い缶の中にキーンと冷たい冷鉱泉が溜まっています。鉱泉の見た目は無色透明なのですが、ドラム管の内側には硫黄の白い湯の華がたくさん付着しており、ユラユラと優雅に揺れていました。冷たい鉱泉なのに湯の華という表現は矛盾しているのですが、ま、この点については目を瞑っていただくとして、温泉マニアとしてはこうした硫黄泉ならではの現象に思わず興奮し、ついついドラム缶ごと抱きしめて頬擦りしたくなっちゃいました。


管から出てくる冷たい鉱泉を手に取って口に含んでみたところ、はっきりとしたタマゴ臭とタマゴ味が感じられました。まさに名前の通りのタマゴ水です。また、鉱泉を腕に塗って擦ってみたところ、強いニュルニュル感もしっかりと伝わりました。アルカリ性で、かつ重炭酸イオンや炭酸イオン等を多く含んでいるのでしょう。この鉱泉に入浴できたら良いなぁ・・・なんて夢想しながら、飽きることなく何度も何度もタマゴ感を五感で楽しませていただきました。

無色透明で硫黄感を有し、とても滑らかな感触を有するこうした鉱泉は、秩父の他の場所でも見られますが、湧き出た鉱泉がそのままの姿でみられる箇所は少ないので、この「明ヶ指のたまご水」は非常に貴重な場所と言えるでしょう。

なお当地で入浴することはできません。
またこの鉱泉の飲用についても安全性が担保されていないため、なるべくやめましょう。


たまたま持っていた空きPETボトルに鉱泉を詰めて持ち帰りました。その日の晩はしっかりとタマゴ臭が嗅ぎ取れたものの、翌日にはすっかり匂いが消失しており、ただの水と化していました。鉱泉や温泉の硫黄感って本当に繊細であり、かつ鮮度感も重要なのです。たまご水を持ち帰ることで、改めて鉱泉や温泉を扱う難しさを実感しました。

森林浴をしながら手軽に行けるこのタマゴ水は、秩父の豊かな自然、特に地質学的な魅力や不思議を楽しめるポイントでもあります。関心がある方は是非お出かけになってはいかがでしょうか。


場所の目安:秩父市荒川上田野2568(車でのアクセスは不可)。
紹介ページ(秩父ジオパークのサイト内)

入場料などの設定なし。
いつでも訪問可能。

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秩父 千鹿谷鉱泉 惜別入浴

2020年08月04日 | 東京都・埼玉県・千葉県
埼玉県秩父地方に(湧出温度が25℃以上の)温泉は湧出していませんが、冷鉱泉ならば随所にあり、中でも秩父七湯とよばれる歴史ある鉱泉は、既に江戸時代にはその名が知られていたそうです。拙ブログは鉱泉が不得手なため、いままで取り上げたことのある七湯は「新木鉱泉」だけですが、七湯の一つである「千鹿谷鉱泉」が今年の夏を以て閉鎖・解体されてしまうという情報を小耳に挟んだので、惜別入浴するべく伺いました。


錆び切った看板が立つ角から、車一台しか走れない狭隘な林道「千鹿谷線」を進んでゆくと・・・


歴史ある鉱泉の一軒宿「千鹿谷鉱泉」にたどり着きました。長年にわたって客を迎えいれてきましたが、ご主人が昨年お亡くなりになったことに伴い宿の営業も取りやめ、この夏に解体されることになったそうです。鬱蒼とした山の緑に飲み込まれんばかりの宿の建物は、この上なく草臥れ切っており、もう十分に役割を果たし切った感が伝わってきます。


「でんわ でんぽう」の看板が昭和のノスタルジーを感じさせてくれますね。


(画像一部加工済)
関係者の方には大変失礼な表現ですが、ほとんど廃墟然とした建物の様子におののきながら、玄関の引き戸に手をかけ横にスライドさせます。三和土に足を踏み入れて声を掛けても何の反応も無かったので、館内にはどなたもいらっしゃらなかったようですが、上がり框にはスリッパが綺麗に並べられており、訪問者のための帳面が用意されていました。また帳面の脇には「建物の解体につき7月13日(月)~8月22日(土)までお風呂を解放(ママ)致します。ご利用ください。AM8:~PM7: 令和2年7月 館主」と書かれたお知らせが文鎮で押さえられていました。どうやら解体までの約一か月は、誰でも入浴できるよう開放してくださっているようでした。


まだ営業していたころは、玄関左手にあるこの戸棚の小さな引き出しに入浴料700円をセルフで納めていたようです(釣銭もセルフなんですね)。
今回の訪問時は開放提供されていたため、これを使う必要は無かったのですが、後述するようにお風呂はきちんと清掃され、しっかりお湯も沸かされており、一か月の開放期間内だけでも 維持管理に相当の手間や費用がかかるものと思われますので、気持ちとして幾許かを引き出しに納めさせていただきました。


誰しも日本史の教科書で学習する明治の自由民権運動のひとつ「秩父事件」。この歴史ある鉱泉宿もその舞台になったらしく、この宿で秘密会議が催されたんだそうです。山奥のひっそりとした立地が、密談に最適だったのかもしれませんね。
館内にはこのことが筆書きのメモで説明されており、そのメモをイノシシの剥製がジッと見つめていました。


秩父鉄道の電車内に掲出されていたと思しき広告です。宿を訪れた多くの方はこのフォトジェニックな広告を撮影なさっているようですが、私も惹かれてついカメラを向けてしまいました。実に良い味を出しています。


イノシシの剥製の奥が男湯。


浴室もかなり年季が入っており、いまにも崩れそうな気配すら漂っていますが、それでもきちんと清掃されています。館主の方のご苦労に頭が下がります。
レトロなタイル張りの浴室。床にはスノコが敷かれていますが、部分的に撓んでおり、今にも踏み抜いてしまいそうな感じ。気を付けながら利用させていただきます。浴槽には保温用の蓋がかぶせられていますので、自分が入るのに必要な分を取り外しますと・・・


このような湯船が現れました。無人状態ながらちゃんとお手入れされており、しかもお風呂の湯加減もちょうど良いのです。実にありがたいお風呂です。


石積みの湯口から加温されたお湯が勢いよく出ています。冷鉱泉ですから当然加温されており、循環装置も稼働しています。電気が使え、しかも加温や循環の各装置まで運転させているのですから、さすがに手ぶらで入る気持ちになれず、帰りに料金入れへ寸志を納めたのでした。
お湯は無色透明で無臭ですが、肩まで湯船に浸かると全身にヌルヌルスベスベの浴感が伝わってきます。


もっとすごいのがカランの水。こちらは冷鉱泉が冷たいまま吐出されるのですが、湯船以上にニュルニュルしている上、ほのかなタマゴ風味も感じられます。秩父の冷鉱泉には「たまご水」と称されるような、硫化水素イオンなどの硫黄分を多く含む鉱泉が点在しており、硫黄の温泉が好きな私でも興奮できちゃう実に面白い鉱泉なのです。
館内に分析表は見当たらなかったので、明確なことは申し上げられませんが、おそらくアルカリ性で、かつ炭酸水素イオンや炭酸イオン、そして硫化水素イオンが多いのでしょう。湯船も良いのですが、蒸し暑い陽気でヒンヤリした感覚を全身で楽しみたかったので、ついつい冷たい鉱泉をそのまま頭からかぶって、全身でニュルニュル感とタマゴ感を堪能させていただきました。

閉館に伴う開放は8月下旬で終了し、その後宿の建物は解体されます。実に味わい深い佇まいで、しかも泉質的にも魅力的なこの歴史あるお宿が終止符を打ってしまうのは非常に残念ですが、未確定ながら、数年後には営業再開の予定があるんだそうです。秘境の一軒宿「千鹿谷鉱泉」がどのように生まれ変わるのか、いまから楽しみです。再興を心からお祈りしております。
コロナの感染云々でなかなか外出しにくい社会情勢ではありますが、皆様にて感染対策をしっかり講じたうえで、期限までに足を運んでみてはいかがでしょうか。


泉質名不明(分析表確認できず)

埼玉県秩父市上吉田2148

訪問可能時間などは本文をご参照ください。

私の好み:★★★
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