国道387号線の東を並行しながら黒川温泉方面と岳の湯温泉方面を短絡する農道「ファームロードwaita」のほぼ中間地点に小さな集落があります。カーナビやネットの地図を見るとその集落には温泉マークがあるのですが、温泉宿があるわけではなく、かといって何か看板が出ているでもなく、そこに浴場があると知らなければ間違いなく通り過ぎてしまう、極めてわかりづらい温泉です。地元民向けの浴場として部外者の目を避けるかのようにひっそりと湯屋が佇んでいるのです。
集落から伸びる一本道より見えるこの風景が目印。ここから伸びるあぜ道を進みます。浴場に関しては何ら案内看板の類もありません。私は秘湯巡りを繰り返しているうちに身についた勘を頼りに、一発で探し当てましたが、事前に何も情報を持たずに出かけると迷うこと必至です(にもかかわらず九州の温泉を紹介するガイド本にもこの温泉は掲載されており、本では詳細な位置説明が一切なされていないので、その本を見ただけでは間違いなく迷うでしょう。どうしてこんな温泉を載せちゃうんだろう…)。
古風でシンプルな造りの無人湯屋ですが、ちゃんと男女別に別れています。玄関入ったところに、浴場の建設にあたって寄進した方々の名前がズラっと並べられており、このお風呂がいかに多くの人によって支えられているかがわかります。脱衣所と浴室の仕切りが無い一体型で、脱衣棚近くにステンレスの料金箱がありますから、そこに100円を入れましょう。男女を仕切るパーテーションはやや低めで、ちょっと背伸びをすれば向こう側が見えてしまいます。浴槽はぱっと見ると1つに見えますが、実際には手前と奥の2つ分かれており、手前の槽は湯船から上はパーテーションで男女が仕切られているものの、湯船自体は男女共用で繋がっています。一方で奥の槽は男女がきっちり別れています。湯口は奥の槽の側にあり、お湯は奥の槽から手前の槽、そしてパーテーション直下にある排水溝へと流れてゆきます。湧いているお湯を手を加えることなくただそのまま浴槽に流しているだけなので、当然源泉掛け流し、湯口での温度が40~1℃くらいなので奥側の槽では程よい湯加減ですが、手前側の槽だとかなりぬるく感じると思います。
お湯は無色透明で弱いタマゴの味に微かな苦味、そして弱い硫黄臭が感じられます。奴留湯温泉に似た質感で、それをぬるくしたようなお湯とでも言いましょうか。ツルスベでもなく、かといってキシキシでもない優しい浴感。ふんわりと香る硫黄の湯の香が心地よく、上述のようにぬるめで、かつ癖の無いマイルドな質感なので、いつまでも長湯していたくなります。実際、私はお湯からなかなか出られず、1時間くらいはお湯に浸かっていたかと思います。後を引いてなかなか出られないのです。湯上りはさっぱり爽快、実に気持ちのよいお湯です。
余計なものは一切ない、ただお湯に浸かるためだけにある湯屋。無人ながらきちんと手入れされており、地元の人に愛されていることがわかります。そのお蔭で気持ちよく入浴できるのですから、管理されている方には心から感謝します。こうした浴場が末永く存在し続けてくれることを願います。
左:入口
右:料金箱まわり
左:綺麗な浴室
右:湯口は真ん中にひとつ、そこから男湯女湯それぞれに分かれて注がれる
硫化水素泉
34.4L/min(この他のデータ掲示なし)
熊本県阿蘇郡の某所(場所の特定は控えさせていただきます)
100円
私の好み:★★★