今回から群馬県北毛の温泉を巡ります。河岸段丘の街である沼田から北東へ伸びる国道120号線は沿道にレジャー向けの施設や名勝が続く県内屈指の観光ロードであり、温泉だけでも老神温泉をはじめ、白沢高原・南郷温泉しゃくなげの湯・片品温泉・白根温泉など多くの名泉が沿道やその周辺に点在しています。今回はそんな沿道エリアのいで湯のひとつ「幡谷温泉 ささの湯」を取り上げます。国道沿いに看板が立っているので、それに従って国道から県道64号線へ逸れ、片品川へ向かって坂を下ってゆくと、やがて民家のような渋い外観の当施設へ到着します。自己主張が控えめな施設なので、駐車場に車を停めた瞬間、あまりに静かな玄関周りを目にして「営業しているのか」と不安になりましたが、玄関の引き戸を開けると中から「いらっしゃいませ」という声が聞こえてきたので、ここに至ってようやく入浴できることを確信できました。なおこちらでは日帰り入浴の他、素泊まりのみですが宿泊営業も行っているんだとか。
玄関左手の受付カウンターで湯銭を納め、外観から受ける印象通りに家庭的な雰囲気が漂う館内を進んで浴室へと向かいます。館内の壁には「源泉100%」や「循環しておりません」などお湯の質を誇らしげにアピールする張り紙が掲示されていました。
冬に訪問したため、浴室内は湯気で曇っており、鮮明な記録ができませんでした。あしからずご了承ください。
東北の田舎にある公衆浴場みたいな素朴な佇まいの脱衣室を抜けて内湯へ。尾瀬の水芭蕉と至仏山を描いたと思しき大きなタイル絵が印象的な浴室には、主浴槽がひとつ、そして絵の下に配置された洗い場にはシャワー付きカランが6基一列に並んでいます(この他、ちょっと離れた場所にも、立って使うシャワーが1基あります)。なお私の訪問時にはシャワーの勢いが弱かったのですが、いつもなのか、あるいはこの日だけの現象だったのかは不明。
主浴槽は(目測で)2.5m×4m弱。湯口から温泉が滔々と注がれており、浴槽の隅から惜しげもなくオーバーフローしています。洗い場の上には尾瀬の風景がタイルで描かれていましたが、浴槽側の壁には尾瀬の花々がタイル一枚一枚に描かれ、それらが市松状にはめ込まれていました。
浴槽に張られたお湯は無色透明ですが、浴槽内の材質の影響でやや翠色に見えます。湯口に置かれたコップで飲泉してみますと、ほぼ無味無臭ながら、時折有機肥料のような香ばしい香りが僅かに漂ってきます。湯船に体を沈めると、全身がスルスルスベスベの滑らかな浴感に包まれます。総じて癖のないあっさりとしたお湯です。
浴室の奥にあるドアから屋外へ出てみましょう。川を臨む岸の上に日本庭園風の露天風呂が設けられており、視線が高いので景色の抜けが良く、気持ちの良いロケーションです。石材を多用した石庭風の中に岩風呂が据えられています。
大きな石樋の湯口から温泉が浴槽へ注がれています。浴槽の大きさに対する投入量は決して少なくないのですが、私が利用したのは冬の日中。陽が出ているとはいえまだ寒く、吐出される時点で既に適温のお湯は、外気に晒されて忽ち冷めてしまい、湯船ではかなりぬるくなっていました。しかも湯嵩が浅いので入り応えも弱く、素敵なロケーションで開放的な露天入浴を楽しめるような状況ではありませんでした。この日はたまたまそんな状態だったのか、あるいは、いつも冬は実質的に使えないような状態にしてしまうのか、そのあたりの事情はよくわかりません。湧出時の泉温が41.5℃ですから、加温しないでかけ流すと、冬季はどうしても湯温が下がってしまうのでしょう
でも春から秋にかけては、きっと爽快な湯あみが楽しめるものと思われます。
お湯の知覚的特徴が弱いために掴みどころにかけますが、アッサリ&サラサラのお湯をご希望の方には向いている軽やかな温泉です。掛け流しである点も嬉しいですね。週末なのにお客さんの数がまばらで空いていたのが少々不安ですが、それゆえのんびり湯浴みできる穴場的な存在と言えるかもしれません。
幡谷温泉
単純温泉 41.5℃ pH8.3 蒸発残留物0.50g/kg 成分総計0.75g/kg
Na+:186mg, Ca++*5.16g, F-16.3mg, Cl-:13.6mg, HCO3-:415mg,
H2SiO3:39.9mg, CO2:46.3mg,
(平成8年1月19日)
群馬県利根郡片品村幡谷535 地図
0278-58-3630
月水金15:00~20:00、火木13:00~20:00、土日祝11:00~20:00
630円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★