前回記事(前編)の続編です。
一般的な旅館ですと大浴場にあたる「黒湯」のほか、館内には4つの浴室があるのですが、それぞれは迷路のように複雑に入り組む廊下の先にあるため、しっかり探索しないと全てをコンプリートできないでしょう。館内の東側は旅館部となっており、そこには女湯の「ラムネ風呂」と男湯の「ひょうたん風呂」があるのですが、さすがに私が女湯へ入るわけにはいかないので、今回は「ひょうたん風呂」だけを取り上げます。なお「ラムネ風呂」も「ひょうたん風呂」も「玉の湯」という同じ源泉を引いているので、お湯にはあまり違いがないはずです(泡付きが違うという話を聞きますが・・・)。
●ひょうたん風呂
廊下の奥に取り付けられた、まるで牢屋のような鉄格子の扉の先が「ひょうたん風呂」。
狭くてシンプルな脱衣室はまるで共同浴場みたい。出入口には「底がぬるいのでかき混ぜてお入りください」と案内されていましたので、そのことを念頭においてお風呂へ入ることに。
あくまで私の主観ですが、「ひょうたん風呂」の浴室は、館内にあるお風呂の中で最も明るく落ち着いて利用できる環境が保たれているような気がします。室内には東鳴子温泉らしいアブラ臭が漂っていました。
浴槽を真上から見ると、名前の通り瓢箪に見えますね。湯船のお湯は鼈甲のような濃い黄色を呈しながら淡く濁り、湯中では灰や黒の湯の華が浮遊しています。湯口からトポトポ注がれるお湯をテイスティングしてみると、焦げたような苦みのほか、金気やタマゴ味が少々含まれ、先述したアブラ臭のほか、モール泉のような風味も感じられました。出入口で案内されていたように、はじめのうちは湯船の上下で温度にムラがあったため、しっかりかき混ぜてから入ったのですが、その結果湯船の温度は41℃前後の長湯仕様で落ち着きました。この湯加減は、高友旅館に複数あるお風呂の中ではぬるい方かと思われます。湯中では弱いツルスベ浴感が得られ、少々のひっかかりも混在しているのですが、以前私が入った時に確認できた泡つきは、今回はほとんど見られませんでした。コンディションによって泡つきの多寡に違いがあるのかもしれませんね。
●紅葉風呂
続いては私が泊まった湯治棟(52年館)へ戻り、棟内にあるお風呂へ入ることに。
なお、ここから先のお風呂は、拙ブログの
以前の記事では取り上げておりません。
家族風呂として使える「紅葉風呂」は、自炊棟のコインランドリーや電子レンジ、そしてゴミ捨て場などがある一角に出入口があるのですが、明らかに洗濯機やゴミのポリバケツの方が目立っているため、注意しないとお風呂の存在に気づかないかもしれません。ポリバケツと温泉のドアが同じ空間にある旅館って、他ではなかなか見られませんね。この不思議な混在が怪しい予感をさせてくれるように、ドアを開けて中に入ると、薄暗くて壁紙が剥がれている脱衣室は、日中でもお化けが出そうなほど不気味です。
塗装の剥がれや壁の黒ずみが目立つ浴室も全体的にくすんで不気味。何を以って紅葉を名乗っているのか、さっぱりわかりません。昔は紅葉を連想させる何かがあったのかもしれませんから、私は必死に頭の中で紅葉の景色を思い浮かべながら湯浴みすることにしました。
お湯は岩の湯壷経由で注がれており、浴槽手前側の穴より排湯されているのですが、源泉そのままの状態であるため非常に熱く、オーバーフローが流れる床も熱くて、まともに歩くことができません。しっかり湯もみしても湯加減は落ち着かなかったため、加水させてもらうことにしたのですが、加水した分、浴槽から溢れ出るお湯の量が増えてしまい、排水が追いつかず、浴室の床全体が数センチ近く水没してしまいました。そこで、まずは排水できるまで加水を止め、ある程度排水が捌けたら加水を再開するというサイクルを繰り返し、結構な手間を経てからようやく湯船に入ることができました。
こちらで使われているお湯は、黒湯(大浴場)のプール風呂と同じ「顕の湯」源泉。温度が下がって鮮度感に不安を覚える「プール風呂」では白い微濁を呈していましたが、熱いまま供給されているこちらでは無色で透明度が高く、湯中では白い糸状の湯の華がユラユラしていました。同じ源泉でもお湯の鮮度が全然違い、「紅葉風呂」の方がはるかに良好です。お湯からはタマゴ感を伴うアブラ臭が放たれ、ほのかな甘みを有する石膏系の味覚が感じられました。湯中ではツルスベの滑らかな浴感が得られます。加水を最小限に留めたため、一般的な適温よりもかなり熱い状態で入ったのですが、それゆえ風呂上がりの私の体は全身赤くなり、なんと自分が紅葉のようになっていたのでした。ここに至ってようやく浴室名の意味に納得。
●家族風呂
この旅館に複数ある浴室のうち、最も見つけにくいのが、この家族風呂でしょう。帳場前の階段を上がり、暗くて狭いお化け屋敷のような廊下をすすんで、階段を下った先にポツンと一室の小さな浴室が設けられています。
特に館内表示や案内などがない隠し風呂のような存在ですが、ちゃんと保健所の許可を得ている立派なお風呂なのであります。
浴室内には薄っすらとアブラ臭が香っています。コンパクトで地味なお風呂ですが、シャワーがひとつ取り付けられており、シャンプー類も備え付けられていました。
お湯は湯壷を経由し、緩やかな曲線を描く石造りの浴槽へ注がれています。私が入室した時には湯口のバルブが閉められていたのですが、それを開けて投入量を増やしたら、短時間でちょうど良い湯加減になってくれました。
このお風呂で印象的なのは、床で帯状に付着している真っ白な湯の華です。湯壷から床へ溢れ出るお湯によって、大量の湯の華が発生しており、その流路に純白で綺麗な湯の華がユラユラと揺れていました。このお風呂の利用頻度が高ければ、ここまで綺麗に且つ大量にこびりつくことは無いでしょう。このお風呂に張られているお湯は「鷲の湯」源泉といい、おそらく他のお風呂では使われていないかと思われます。貝汁のように僅かな褐色の濁りを呈し、少々のタマゴ味、焦げたような味、ほろ苦み、弱い金気味が感じられました。湯中では滑らかなツルスベ浴に包まれ、湯上がりの粗熱の抜けも良く、重曹泉の長所がよく現れていました。
こちらのお宿は以前から温泉マニアからお湯に対する評価が高い宿として知られていますが、旅館内で実践する湯めぐりの面白さと、東鳴子温泉に湧くお湯の多様性を、今回宿泊することで改めて認識させていただきました。
【ひょうたん風呂・ラムネ風呂】
玉の湯
ナトリウム-炭酸水素塩泉 49.3℃ pH6.5 溶存物質1191.4mg/kg 蒸発残留物803.4mg/kg
Na+:234.3mg(83.52mval%),
Cl-:37.6mg(8.72mval%), HCO3-:659.2mg(88.82mval%),
H2SiO3:188.4mg, CO2:360.3mg,
(平成21年10月2日分析)
加水加温循環消毒なし
【紅葉風呂】
顕の湯
ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉 74.6℃ pH6.8 溶存物質2252.6mg/kg 蒸発残留物1461mg/kg
Na+:375.7mg(64.76mval%), Mg++:34.1mg(11.14mval%), Ca++:105.8mg(20.93mval%),
Cl-:104.3mg(11.00mval%), SO4--:222.6mg(17.32mval%), HCO3-:1166.9mg(71.53mval%),
H2SiO3:228.1mg, CO2:385.3mg,
(平成21年10月2日分析)
加水加温循環消毒なし
【家族風呂】
鷲の湯
ナトリウム-炭酸水素塩温泉 47.8℃ pH6.5 溶存物質1197.2mg/kg 蒸発残留物795.4mg/kg
Na+:199.7mg(75.37mval%), Ca++:29.3mg(12.66mval%),
Cl-:17.0mg(4.20mval%), HS-:0.2mg, S2O3--:0.1mg, HCO3-:661.7mg(94.76mval%),
H2SiO3:250.1mg, CO2:400.5mg, H2S:0.6mg,
(平成21年10月2日)
陸羽東線・鳴子御殿湯駅より徒歩2〜3分(250m)
宮城県大崎市鳴子温泉鷲ノ巣18
地図
0229-83-3170
ホームページ
日帰り入浴10:00~16:00
500円(
鳴子湯めぐりチケット2枚)
備品類なし
私の好み:★★+0.5