霧島市の旧牧園町上中津川地区にある共同浴場を目指し、レンタカーを走らせて地区内の某所へやってまいりました。その浴場には自身の存在を知らせる看板類が一切無いので、あらかじめ存在を知らないと見つけることができません。事前の情報によれば、川沿いに湯小屋が建っているらしいのですが・・・。
とある橋の上から集落を眺めていると、周囲の民家に潜むような感じで、屋根に湯気抜きを戴く建物を見つけました。
付近の路肩に車を止め、歩いて丹色屋根の建物へとやってまいりました。間違いなくこれが温泉浴場ですね。
湯小屋の近くでは小さな水車が回っていました。実用的には見えませんから、集落を飾るために設置されたのかもしれません。
湯小屋の右手には小さな祠が祀られており、その裏手に源泉井と思しき構造物がありました。いまから入るお風呂には、ここで湧いた温泉が注がれているのかな。
温泉名が記された扁額が掲げられている玄関を潜って内部へお邪魔します。玄関ホールの壁には、寄付者の札がたくさん提っていました。この浴場は多くの方々から愛されているんですね。
寄付者の名札の下には、かつての共同浴場を写したセピア色の写真が飾られていました。旧施設時代のプリミティヴな浴場にも入ってみたかったなぁ。
この共同浴場は無人で、お風呂はきちんと男女別に分かれています。フローリングの脱衣室は清掃がよく行き届いており、無人とは思えないほど綺麗です。室内に料金箱が取り付けられていますので、私もこちらへ100円玉を2枚投入しました。なお都度の支払いをする必要が無い地域住民の方は、室内に括り付けられている札入れに利用証を入れて入浴するようです。
管理が行き届いた脱衣室からもわかるように、この共同浴場を管理なさっている方は几帳面な性格でいらっしゃるらしく、そんな一面が垣間見えるのが、館内に張り出されている様々な掲示物です。たとえば、その中のひとつが湧出量の推移。平成2年から毎年10月に計測した湧出量が数値と棒グラフで示されています。これによれば、平成5年から12年にかけて湧出量が減ったものの、翌13年から急激な回復を見せ、その後は多少の増減を繰り返しつつも、全体的には年々増加の傾向にあることがわかります。急激な減少は地震が原因であり、お湯がほとんど枯れてしまったため、源泉を掘り直して湧出量を回復させたんだそうです。わざわざこうした数値を明示してくれる共同浴場なんて滅多にお目にかかれません。
この他、湯銭箱に納められた収入の推移も明らかにされていました。こちらには平成19年度から23年度の計5年にわたって男女別に集計した年間収入が表示されており、この5年間のおける年間平均収入は約10万円とのこと。湯銭は一人200円ですから、年間500人、一日1〜2人の外来客が利用していることになります。10万とはいえ、浴場の維持管理にはそれをはるかに上回るコストを要しますから、やっぱり地元や有志の方々による支援が重要になってくるのでしょう。
浴室はシンプルで装飾性がなく、実用的な浴槽と洗い場があるだけで、洗い場と言っても水道の蛇口が3つあるにすぎないのですが、共同浴場にしては広い空間が確保されており、浴槽も二つ設けられていました。ただ、左側の浴槽は空っぽで、右側だけにお湯が張られていました。なお浴室の床は水はけを良くするため、中央部が山形に盛り上がっていました。
実用本位の浴場らしく、浴室内には風呂道具置き場が取り付けられていました。こうした小さな配慮にも管理なさっている方のお人柄が表れているようです。室内で思わず笑ってしまったのが「洗わない お尻は危険」と書かれた張り紙。言わずもがなですが、入浴中に体を洗っているとどこからともなく巨漢プロレスラーがやってきてヒップアタックを仕掛けてくるのではなく、悪い菌類が繁殖するので浴槽の中でお湯を洗ってくれるな、ということなのでしょうね。
お湯が張られている右側の浴槽は(目測で)2.5m×2mの四角形で、7〜8人は同時に入れそうなキャパを有しています。ほんのり赤みを帯びた潮汁的な濁りを呈しており、43.8℃というちょっと熱めの湯加減でした。湯船を満たしたお湯は縁の切り欠けよりふんだんに溢れ出ていました。
トゲトゲに覆われた湯口から吐出される温泉の温度は45.8℃。この湯口には加水用のバルブもあるのですが、加水など一切することなく自然冷却で43〜44℃に落ち着いていましたので、この時は加水せずそのままの状態で入浴させていただきました。お湯を口に含むと、赤錆系の金気感、甘味を伴う石膏感、清涼感を有するほろ苦味、そして弱い炭酸味が感じられ、弱い金気臭と土気臭が嗅ぎとれました。湯中ではギシギシと引っかかる浴感があり、毛穴の一つ一つに砥粉が入り込んでくるような感覚が得られ、そして全身に毛布が掛けられているようなホールド感に包まれます。湯上がりのホコホコ感も長い時間にわたって持続します。味や匂い、そして浴感などその全ての特徴は、重炭酸土類泉(あるいは塩化土類泉)の典型例と言って良く、妙見や塩浸など新川渓谷温泉郷の各温泉地と同じような部類に属する温泉だと思われます。
わかりにくい場所にありながら外来者にもオープンで、しかも広くて管理の行き届いた環境のもと、自家源泉の温泉がしっかり掛け流されているのですから、温泉ファンにとって利用価値が高い共同浴場と言えるでしょう。
ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 50.5℃ pH6.1 54L/min(自然湧出) 溶存物質1.557g/kg 成分総計2.077g/kg
Na+:167.3mg(41.96mval%), Mg++:54.7mg(25.94mval%), Ca++:94.3mg(27.15mval%),
Cl-:126.2mg(20.90mval%), SO4--:94.0mg, HCO3-:701.3mg(67.47mval%),
H2SiO3:259.5mg, HBO2:27.1mg, CO2:520.8mg,
(平成21年8月21日)
鹿児島県霧島市牧園町上中津川(場所の特定は控えさせていただきます)
7:30〜22:00
200円
備品類なし
私の好み:★★★