白山スーパー林道の石川県側の起点である中宮温泉には3軒の旅館が営業していますが、その中でも一軒だけ離れた高台に位置しているお宿「くろゆり荘」にて日帰り入浴してきました。こちらは旧吉野谷村(現白山市)が建てた建物を中宮温泉旅館協同組合が管理運営している公共施設なんだそうです。温泉ファンのブログなどを拝見しておりますと、多くの方は秘湯を守る会会員である「にしやま旅館」を訪れているようですが、物心ついたときから重度の天邪鬼である私は、今回敢えてネット上におけるレポートが少なく、また公共施設ということでやや色眼鏡を通して見られがちなこの「くろゆり荘」を選ばせていただきました。
冒頭からいきなり余談ですが、「昭和のいる・こいる」ののいるさんって、中宮温泉がかつて属していた吉野谷村の出身だったんですね。今回記事を書くにあたっていろいろと調べていたら、初めてその事実を知りました。演芸や落語が好きな私にとっては、当温泉の歴史よりもそちらの事実の方が断然関心度が高いのです。
「くろゆり荘」から中宮温泉中央の駐車場方面を眺めると、駐車場の向こうに1軒の土産物屋と他2軒の旅館が建っているのがわかります。幼い頃から判官贔屓で孤独を求める私は、人気の2軒から離れてポツンと佇む孤高の「くろゆり荘」に親近感を抱かずにはいられません。
駐車場隅の斜面下には温泉が汲める水栓があり、その傍らには寸志箱が括り付けられていました。建物前の駐車場はちょっと狭く、先に2~3台止まっているとかなり窮屈ですので(転回も難しい)、ハンドル裁きに自信の無い人は、坂の下の駐車場に止めちゃったほうがいいかもしれません。
自動ドアの玄関を入ると、いかにも公共施設らしい窓口で作務衣姿の女将が明るく出迎えてくれました。玄関正面のラウンジには縦に長い長火鉢が置かれています。公共施設というので、てっきり無味乾燥とした雰囲気を想像していたのですが、実際に中へお邪魔してみると、全体的な造りこそ昭和の公的物件らしい設計ですが、それを打ち消すように館内にはいろいろなものが展示され、あるいは飾られていて、あたかも民宿のようなアットホームな雰囲気が横溢しており、スタッフの方々の心のぬくもりが伝わってくるようでした。
浴室へ向かう廊下の右手にはお座敷がありますが、こちらは有料の休憩スペースとなっているようです。
昭和56年竣工の建物とあって、どうしても経年による古臭さは否めませんが、さすがに宿泊施設ですから脱衣室は綺麗に維持されています。天井にはかなり古い扇風機が設置されていて、スイッチを入れるとちゃんとグルグル回ってくれます。棚の数は比較的多く用意されていますが、鍵付きは上段の一部しかないのが玉に瑕。
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ(露天は無し)。大きなガラス窓に面した浴室には外の光が燦々と降り注いで、照明要らずの明るい室内です。建物自体は高台に位置しており、窓の外を眺めると下方にスーパー林道の路面や、その向こう側に聳える山々を目にすることができますが、すぐ前に大きな木々が茂っているため梢や葉に視界を遮られ、気持ちよい眺望が得られるわけではありません。
洗い場は浴室に左右に分かれており、混合水栓が計8基、うち5基はシャワー付きです。浴槽は小文字のbを横に倒したような形状で、幅の狭い右側は浅く、広い左側は一般的な深さとなっていました。
男女両浴室を仕切る石積みの壁から小さな石板に囲まれた竹筒の湯口が突き出ており、弧を描きながらドボドボと源泉が湯船へ落とされています。湯口周りには細かな鱗状の温泉析出がコンモリと付着しています。湯口の真下には洗い場の床に向かって斜めに下ろされている樋がくくりつけられているのですが、私の利用時にはこの樋へお湯が流れるようなことはありませんでした。
しかしながら、この樋の内側にも湯口周りと同様に千枚田状の析出がしっかりと現れていましたから、浴槽の清掃時などには湯口のお湯をこの樋へ逃がしているのかもしれませんね。浴槽のお湯は右端の切り欠けから排湯されているのですが、人が湯舟に入ればしっかりとオーバーフローするためか、浴槽の縁は石灰のコーティングにより象牙色に染まり、湯船側は小さな庇のように析出がせり出ていました。また画像に写っているように湯船に接している床は千枚田状態に石灰華がびっしりと現れていました。
胃腸に良い飲めるお湯として有名な中宮温泉ですが、見た目は橙色がかったベージュ色を薄く帯びた笹濁りで、湯口に置かれたコップで実際に飲んでみますと、泉質としては含重曹・食塩泉ながらも、石灰の析出がびっしりこびりついていることからもわかるように重炭酸土類泉的な匂いや味、そして薄い塩味と微苦味、更には微酸味(炭酸由来?)が感じられました。また浴感も典型的な重炭酸土類泉のそれ、つまりキシキシと引っかかる感触でした。
これだけしっかり析出が現れているにもかかわらず、カルシウムイオンが83.1mgしか含まれていないのが意外です。浴室内で見られる千枚田の析出は、当施設がオープンした当初から長年にわたってじっくりと少しずつ積み重ねて出来上がったものなのかもしれませんね。
お風呂は内湯しかありませんが、飲泉可能な良質な源泉を掛け流しで利用できる、とっても気持ちの良いお風呂でした。また公共施設だけあって、宿泊料金は平日が7,250円から、土日は7,800円からと、他のお宿に比べてかなりリーズナブルな設定であるところも高く評価できますね。
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 61.0℃ pH6.8 130L/min(自噴) 溶存物質3.337g/kg 成分総計3.566g/kg
Na+:855.0mg(82.38mval%), Ca++:83.1mg(9.19mval%),
Cl-:1086mg(65.58mval%), HCO3-:846.4mg(29.70mval%),
H2SiO3:209.9mg, CO2:228.3mg,
石川県白山市中宮ク5-32 地図
076-256-7955
日帰り入浴時間10:00~15:00?(ご利用の際に確認願います)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★