前回記事の川渡温泉から移動し、今度は中山平温泉へとやってまいりました。地熱資源が豊富であちこちから白い蒸気が立ち上るこのエリアでは、広範囲にわたって中小規模の温泉宿が点在していますが、残念ながら経営に苦しむ施設が多く、暖簾を下ろして廃墟になったり、あるいは完全に更地となってしまった宿もあります。そんな中で、経営者が変わって営業形態を新たにしたお宿が旧「鳴子ラドン温泉」、現「湯吉」です。以前はそば処を要する温泉旅館でしたが、経営者が変わった現在では日帰り温泉施設として生まれ変わりました。
国道から路地に入って坂道を下り、陸羽東線のガードを潜ると、その先では源泉から上がる真っ白な湯気がもうもうと立ち込めていました。この景色は以前の「鳴子ラドン温泉」から変わっていません。唯一変わったことといえば、「東蛇の湯、らどん温泉、藤治朗」と書かれていた看板が、現施設名の新しいものに掛け替えられたことでしょうか。
湯けむり上がる源泉脇の坂を下り、駐車場に車をとめて施設の前へと向かいます。玄関の前には日帰り温泉の幟がはためいていたのですが、その奥にはまだラドン温泉の看板が立っていました。
そういえばこの下には以前「東蛇の湯」もありましたが、かなり前に廃業してしまい、その後更地になって現在もそのままです・・・。
玄関に設置された券売機で料金を支払い、受付のスタッフに券を渡します。さすがに元々旅館でしたから受付前のロビーは広々しており、その奥には寝転がれるスペースが設けられていました。
お風呂は階段を上がって2階へ。
階段を上がってすぐ左手はかつての客室で、いまは時間貸しの個室。一方、右手に折れると浴場がある棟へとつながる渡り廊下です。
その廊下を歩いていると、左手の窓の外に何やら不気味な残骸を見かけました。これはラドン温泉時代の露天風呂の跡ですね。使われなくなった今はすっかり荒れていますが、むしろ私が気になったのはその左右の外壁にぶら下がっている配管類。元客室に設置されていたエアコンの配管なのですが、それらがブラブラと垂れているのです。お金がかかるのは百も承知ですが、見た目が宜しくないので、できれば早めに撤去した方が良いかと思います。
浴場がある棟ではお座敷が開放されており、お風呂上がりのお客さんが横になって休んでいらっしゃいました。
お座敷の片隅にはドライヤーが置かれていました。脱衣室には備え付けが無いので、必要でしたらここで髪を乾かすことになります。なお脱衣室は簡素で狭く、小さい流しと扇風機があるだけで、メインの浴室に付随している脱衣室とは思えません。一応鍵つきのロッカーが設置されていますが、いわゆる居抜き物件ですからこうした備品も古いままであり、半分近くが施錠できない状態でした。
露天風呂が閉鎖された現在、お風呂は男女別の内湯のみですが、浴室はそこそこ広くて天井も高く、屋内ながら明るくてノビノビできる入浴環境です。川側には大きな窓がありますが、窓の外にはロビーがある隣の棟が立ちふさがっているので、残念ながら景色を愉しむことはできず、実質的に大きな明かり採りと化していました。
男湯の場合、入口を入って右手に洗い場が配置されており、シャワー付きカラン3つ並んでいます。一方、その反対側にはかつてラドン浴室だったと思しき空間があるのですが、現在は単なる物置になっており、ガラス戸には目隠しが施されていないので中の物(薬品やアメニティの補充品)が丸見えでした。できればバックヤードの物は客の目に触れない状態にしていただきたいなぁと思うのですが(せっかくの温泉気分が損なわれてしまいます…)。
浴槽はヨットの帆というかナイフの刃というか、片方が直線でもう片方は緩やかなカーブを描いている形状をしています。おそらく10人以上は余裕で入れる容量があり、私の訪問時、湯船は透明でエメラルドグリーン色を帯びるお湯を湛えていました。なお後述するようにこのお湯は日によって姿を変えます。
浴槽縁の直線とカーブが交わるところにオーバーフロー用切り欠けがあるのですが、湯温調整のため投入量を絞っているので、そこから溢れ出るお湯の量はあまり多くありません。でも循環などは行っておらず、れっきとした掛け流しの湯使いです。
湯口からは90℃以上の非常に熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。その湯口には布が被せられ、配管にはトゲトゲとした析出がびっしりこびりついています。温泉配管の隣には加水用の配管がありますが、この日は使われておらず、湯量を絞ることによって湯加減が調整されていました。
線路際で白い湯けむりが上がっている辺りでははっきりとしたイオウ臭が感じられるのですが、感覚がマヒしてしまうためか、湯船に入る時には特に匂いを感じることがありませんでした。とはいえ湯口に鼻を近づけるツーンと鼻孔を刺激するイオウ泉らしい香りをはっきりと嗅ぎ取ることができました。また湯口のお湯をコップに一旦溜め、少し冷ましてからテイスティングしてみますと、茹ですぎたゆで卵のような味や焦げたような味、そして口腔粘膜を痺れさせるような苦味が感じられました。上述のように私の訪問時のお湯はエメラルドグリーンの透明でしたが、寒い日などは白く濁るようです。これもまたイオウ泉らしい特徴です。そして中山平温泉の特徴でもあるヌルヌル感がはっきりと肌に伝わり、入浴中は自分の肌を何度も擦ってヌルヌルツルツルの非常に滑らかな浴感を楽しませていただきました。このヌルヌル感をもたらすと思しき炭酸イオンの含有量68.6mgは、他の温泉ではなかなか見られない驚異的な数値です。
古い温泉旅館の建物を居抜きで日帰り入浴にしたため、どうしても建物の草臥れた部分が目立ってしまいますし、おそらくそれをカバーするだけのマンパワーや余裕も不足しているのかもしれませんが、お湯はとても良いので、ヌルヌル湯が好きな方は入る価値がありそうです。新しく生まれ変わってまだあまり経過していませんから試行錯誤の繰り返しかと思いますが、歴史ある蛇の湯の名が途絶えないよう、是非とも頑張っていただきたいものです。応援しています。
1号地A3号・白須8号泉・6号地G1号泉・6号地G2号泉・6号地G3号井 混合泉
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉 pH9.0 91.1℃ 溶存物質1187.9mg/kg 蒸発残留物939.2mg/kg
Na+:255.7mg(92.90mval%),
Cl-:62.5mg(13.71mval%), HS-:18.3mg, S2O3--:1.3mg, SO4--:132.6mg(21.50mval%), HCO3-:327.8mg(41.82mval%), CO3--:68.6mg(17.83mval%),
H2SiO3:277.9mg, HBO2:18.7mg, H2S:0.8mg,
(平成21年6月8日)
加水あり(源泉が高温のため)
加温・循環・消毒なし
宮城県大崎市鳴子温泉星沼6-1
0229-87-2323
10:00~17:00 火曜定休
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5