皆さん、初物はお好きですか。
私は普段からさほど初物に特段の関心を持たず、たしかに新米やら新茶はとても美味しいので大好きですが、例えばカツオは初鰹より脂の乗っている戻りガツオの方が断然好きですし、初茄子や初茸などにも興味はありません。そもそも食い意地が人一倍張っているので、初物だろうが何だろうが兎に角美味けりゃ何だって良いのです。丘を歩くダボハゼみたいなもんです。
施設の場合も似たようなもので、若い頃から新規開業のお店や複合施設に関心を持たず、いや若干興味はあるものの、生来のへそ曲りが災いして意図的に関心を持たないようにし、場合によっては口先で貶してみたりしながら、しばらく月日が経ち世間の関心がある程度落ち着いたところで「どれどれ、どんなところか行ってみるか」と重い腰を起こしてようやく訪問するに至ります。温泉の場合も然りで、新規開業やプレオープンなどという言葉にあまり心が躍らず、ある程度時間が経って、湯使いや施設の良し悪し等の情報がネット上で散見されるようになった段階で、タイミングが合えば行こうかな、といった心情になるのです。このため私は新しい温泉施設とあまりご縁が無いのですが、そもそも、普段から情報を得るためのアンテナを張っていないので、新規開業の情報自体が入って来ず、自分からご縁を遠ざけている嫌いすらあるわけです。
前置きが長くなりましたが、こんな面倒臭い性格をしている私が、今回偶然或る温泉の新規開業情報を得て、すぐさま行ってみたくなり、開業の翌週、実際に訪問してまいりました。その温泉とは「アクアイグニス武蔵野温泉」。今年(2021年)6月12日に埼玉県吉川市で開業したばかりです。なぜ普段は新規開業に興味を示さない私が行ってみたくなったのか。なぜ好奇心が天邪鬼に勝ったのか。その理由は「アクアイグニス」だからに他なりません。
以前拙ブログで三重県湯の山温泉の手前に位置する片岡温泉
「アクアイグニス」を取り上げたことがありました。私は旧
片岡温泉の頃からこの温泉が好きで、その後大規模リニューアルを果たして農・食・湯の小洒落たリゾート施設「アクアイグニス」となってからは、お湯は勿論のこと、雰囲気やコンセプトが益々気に入り、中京圏屈指のおすすめ温泉として屡々推奨させていただいています。
その「アクアイグニス」が何と我が関東地方へ進出するというのですから、是非とも自分の目と肌で確かめてみたくなり、開業間もないタイミングで訪問することにしたのです。
場所は「イオンタウン吉川美南」の一角。イオンの一部施設と知って若干の不安を覚えましたが、とにかく行ってみなけりゃ分からない。複数の河川や用水路が縦横に流れ、田んぼや畑の中に倉庫や住宅がモザイク状に点在する、どこまでも真っ平らな荒川利根川の氾濫原を車で走ってゆくと、やがて典型的な新興住宅地に入り「イオンタウン吉川美南」
に到着しました。目的の「アクアイグニス武蔵野温泉」があるのはイオンタウンの東端ですので、駅改札に近い中央の駐車場ではなく、家電量販店などをぐるっと回って東側の駐車場を目指します。
駐車場の建物には大きく「AQUAIGNIS」と表示されているのですが、イオンタウンの駐車場も兼ねているため場内にはたくさんの車が止まっていました。なお私が訪問した6月下旬時点で駐車場は無料だったのですが、7月からは有料となるようです。温泉利用客の割引などについては施設へお問い合わせください。
三重県の「アクアイグニス」では著名パティシエ辻口博啓のパティスリーがありますが、吉川美南ではやはり同氏が手がけるショコラトリーが新設されました。温泉が含まれる棟の1階には上画像のような大きなショコラトリーが幅を利かせており、もしかしたら温泉よりもはるかに目立っているかもしれません。
2階には同ショコラトリーのイートインコーナーが設けられ、多くの方がスイーツとドリンクを楽しみながら寛いでいらっしゃいました。ほとんどのお客さんは同じ棟にある温泉とは無縁かと思われます。
この2階には、他にも複数の店舗が連なっています。上画像はベーカリーで、アクアイグニスに入っているベーカリーと同じ名称です。比較的大きな店舗で、店内で焼き上げている他、イートインスペースも広く確保されています。余談ですが、店舗前に飾られていた開店祝いのお花を見ると、仙台銀行などなぜか宮城県の企業の名前が目立っていたようです。
2階をぐるっと回ったところ、ベーカリーのほか、イタリアンや中華、そして回転寿司の「金沢まいもん寿司」などが入っていることを確認しました。イタリアンのお店「イル・ケェッチァーノ」は三重県の本家「アクアイグニス」と同じである一方、中華料理や「金沢まいもん寿司」は三重県の本家にはありません。温泉棟に入るこうした飲食店は、無論三重県の本家「アクアイグニス」と合わせている面もあるのですが、ただ単に同じ建物で営業しているわけではなく、ちょっとした意図があって温泉棟で営業しているんですね。この点については後述します。
さて、館内をぐるっと回ったのですが、目立つのは飲食関係ばかりで、肝心の温泉の入口がちっとも見つからない。
どこから入れば良いのかしら?
一旦建物から1階屋外へ出てみますと、2階へ上がる屋外エスカレーターの左下に、小さな入口を発見。温泉の存在を示すようなわかりやすい看板が全くないのですが・・・
この小さな入口を入ると、壁にはアクアイグニスのロゴが掲示されていました。どうやらここが温泉入口で間違いないようです。それにしても、なぜ分かりにくい入口にしたのかしら。難解である方が上品で洒落ているという発想なのかしら。
下駄箱のリストバンドに鍵とバーコードが付いており、このリストバンドで入館料金や館内で利用するサービスや物販の精算管理を行います。
まず受付で利用プランやレンタル品使用の有無を申し出ます。後述しますが、浴場内にはサウナが無く、もし利用したい場合は別途料金且つ予約制のミネラルミスト浴(しかも4,000円!!)がその代わりになりますので、どうしても体を蒸したい方は、入館時に受付で利用を申し出る必要があります。私はサウナがあっても無くてもどっちでも良いので、今回ミネラルミスト浴は利用していません。
受付前には物販コーナーがあり、三重県の本家と同じような、小洒落た雑貨や食材等が売られていました。
受付や物販コーナーを抜けると、奥に長い休憩スペースが設けられています。内装コンセプトは三重県の本家に近づけているように思われます。一方、三重県の本家にはビーズクッションがたくさん用意された広い休憩スペースが確保されていますが、さすがにこちらは広くなく、クッションも固めで、大勢が横になれるような感じではありません。
浴場入口は休憩スペースの目の前です。
こちらは館内図。細い線と最小限の文字、ピクトグラムだけで図示されたデザイン性重視の平面図なので、具体的な情報はあまり得られませんが、大体のレイアウトはわかるかと思います。
更衣室には温泉に関する説明プレートが掲示されていました。曰く、この温泉は地下1500mから湧出する天然温泉であり、泉質は「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉」で、冷え性や疲労回復、健康増進に効果があるとのこと。私なりに表現しますと、古東京湾の置き土産ともいうべき化石海水型温泉の典型例であり、黄土色に強く濁る塩辛いお湯で、埼玉県東部や千葉県東葛地域など、荒川や江戸川流域の氾濫原で営業するスーパー銭湯で汲み上げられていることが多いタイプの温泉です。
(画像は公式サイトから拝借)
公式サイトから拝借した上画像は日没後の女湯内湯を撮ったものかと思います。落ち着いた雰囲気の浴場に入ると、まず掛け湯の小さな甕が置かれており、その左右に洗い場が配置されています。男湯の場合は右側に、女湯は左側にそれぞれ長く洗い場が伸びており、シャワー付きカランが計17基(いや、もうちょっとあったかな)ズラリと並んでいます。なお、シャワーの前に置かれているアメニティ類(辻口茶園のシャンプー等)や、白い腰掛・風呂桶などは、三重県の本家「アクアイグニス」で使われているものと同じです。
内湯に設けられている浴槽は、源泉風呂、温泉浴槽、非温泉浴槽の3種類。
非温泉槽は3つの浴槽のうち最も大きく、ややぬるめで透明なお湯が張られています。ここで使われているお湯は、どうやら独特の機器を用いることで真湯に何かしらの効果を与えているらしいのですが、実際に入ってみたところ塩素臭がとても強く、あまり長湯したくなるようなお湯ではありませんでした。
一方、注目すべきは「源泉風呂」。他の浴槽よりちょっと高い位置に設けられた6~7人サイズの浴槽で、その名の通り、源泉から汲み上げられた温泉が掛け流しかそれに近い状態の湯使いで提供されているのです。多少温度調整されているようですが、加水は行われておらず、源泉から湧出した濃くて熱いままの温泉が供給されています。
上述したように、当地のような埼玉県東部で汲み上げられる温泉は、大体が古東京湾の化石海水であり、黄土色に濃く濁り、塩辛くて、メタンガスを伴い金気臭やヨード臭を強く放つという共通点を有します。もっとも、入浴に供される時点でメタンガスは曝気されるのですが、こちらの温泉もまさにその共通する特徴がはっきりと見られ、とても濃厚な食塩泉の濁り湯に入浴できます。ただ、近隣の化石海水型温泉に比べるとやや金気の味や匂いが弱いような気がしました。武蔵野線で吉川美南駅のひとつ隣にある新三郷駅から徒歩圏内にあるご近所の「早稲田温泉めぐみの湯」とほぼ同じタイプと言っても差し支えないでしょう。
窓に面する温泉槽は源泉浴槽より低い位置にあり、非温泉槽の次に大きなもので、源泉浴槽から流れ落ちる温泉を受けつつ、循環したお湯も併用して使っているようでした。そのためか、濁り方やお湯から受けるパワーが源泉風呂より若干マイルドなのですが、それでも十分強食塩泉らしい浴感を得ることができました。
(画像は公式サイトから拝借)
こちらも公式サイトから拝借した画像で、やはり女湯の露天を撮ったものかと思います。露天の主浴槽には屋根が掛かっており、大きなサイズの浴槽に温泉が張られているのですが、こちらはしっかり循環ろ過されており、塩辛いものの透明度が高く、内湯の源泉風呂よりはるかに薄い感じがします。また、露天の主浴槽からちょっと離れたところに寝ころび湯があり、こちらにも温泉が使われているのですが、同じく循環ろ過されて薄められた状態でした。
火山の麓の温泉と異なり、平野部の温泉は化石資源と同様に有限であり、且つ地盤沈下も考慮すべきであるため、無闇に汲み上げずに節約しながら有効活用しなければなりませんから、お湯を循環ろ過させることはやむを得ません。個人的にこの露天で残念なところは、外壁のすぐそばに電柱が立ち電線が架かっている点です。せっかくデザイナーさんが頭を捻って考え上げたおしゃれな露天風呂も、目の前の電線と電柱が艶消ししてしまい、下手すりゃその辺りのスーパー銭湯と大して変わらないんじゃないか、と思わせてしまう気配すら漂っていました。
また、私は全く気にならないのですが、浴場内にサウナが全くない点も、一部の利用者からは残念に思われるところでしょう。上述のように、この施設でサウナ的なものに入りたければ、別料金で予約制のミネラルミスト浴を利用することになりますが、料金がかなり高いため(4,000円)に二の足を踏んでしまうお客さんが多いのではないでしょうか。なお、サウナが無いということは水風呂もありません。パワフルどころか強烈に温まり、肌にべたつきも生じ、場合によっては体力を奪ってしまう強食塩泉ですので、夏季の湯上り時には温泉から水風呂を経由して更衣室へ向かいたいものですが、これができないため、私は温泉浴槽から上がった後に、シャワーで水を浴び続けました。それでもお風呂あがりには若干の疲れを感じましたので、やはりサウナは無くても水風呂は欲しいところです。
なお三重県の本家「アクアイグニス」の温泉(片岡温泉)は体に優しいアルカリ性単純泉。全浴槽でふんだんにかけ流されています。塩辛くて体へ影響が大きい吉川美南の強温泉とは正反対なんですよね。
さて、風呂上がりにお腹が空いたのでお食事をいただくことにしました。上述の休憩スペースの奥に飲食ゾーンが広がっており、同じ棟の2階で営業する「金沢まいもん寿司」の海鮮ものの食事やショコラートのスイーツなどがいただけます。価格帯は一般的なスーパー銭湯の食堂より高いものの、味はかなり良く、私がいただいたサーモンといくらの丼もスーパー銭湯とは思えない味でした(特にネタもさることながら舎利が美味しかったなぁ)。
落ち着く洒落た空間の中でお湯の癒しと食の楽しみを融合させるというコンセプトは、本家「アクアイグニス」にも通じており、これによって近隣の同業他店と差別化を図っていると解釈すべきなのでしょうね。
そんな屁理屈を考えながら呑気にモグモグ食べていたところ、テレビカメラが近寄ってくるではありませんか。どうやら夕方のニュース番組(関東ローカル)でこの温泉施設が取り上げられるとのことで、実際に海鮮丼を頬張っていた私たちに白羽の矢が立ち、食事についてのコメントを求められられたのでした。私は温泉について熱弁を奮ったのですが、テレビ局としては2階の人気レストランと1階のお風呂がつながっている特殊な構造に重きを置いているらしく、食事の質問ばかり繰り返され、結果的に食事を高評価しながらモリモリ食べる食い意地張った中年のオッサンが翌日のテレビ画面に映ったのでした。
入浴料金や館内の各種サービス利用料金は、退館時に一括精算します。出口ゲートの傍には青い光を放つ自動精算機が1台だけ稼働していたのですが、現金しか対応していないとのことで、クレジットカード決済を希望する多くのお客さんは有人カウンターで列をなすはめに。
帰り際、施設の向かいの空き地でたまたま源泉施設と思しきものを見つけました。
おそらくここからお湯が引かれているのでしょう。
そういえば施設名は「アクアイグニス武蔵野温泉」ですが、この場所で武蔵野を名乗るのはちょっと違和感を覚えます。たしかに旧武蔵国のエリア内ですし、目の前を武蔵野線の電車が走っていますが、武蔵野を名乗れる範囲は、北は川越、東はせいぜい荒川流域の千住辺りまでではないかと思います。ま、別に問題なく入浴できるので良いんですけどね。
雰囲気が良く、湯使いもまずまずなのに、入浴料が土日祝で750円、平日650円というようにリーズナブルに設定されている点は大いに評価したいところです。一方、浴場内に無料のサウナが無い点は賛否が分かれるところでしょう。また、まだ開業して間もないためか、他にも色々なところで改良の余地があるように感じられましたが、でもこの手の施設はブラッシュアップしてより良くなってゆくものですから、ハード面・ソフト面とも今後の改善を大いに期待しています。
なお本家の「アクアイグニス」では宿泊できますが、ここでは宿泊不可ですのでご注意を。
(仮称)イオンタウン吉川美南温泉
含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉 44.9℃ pH7.3 393L/min(動力揚湯) 溶存物質22.59g/kg 成分総計22.60g/kg
Na+:7813mg(87.88mval%), Ca++:435.3mg(5.62mval%), Mg++:260.9mg(5.55mval%), Fe++:5.8mg,
Cl-:13520mg(99.23mval%), I-:11.4mg, Br-:27.3mg, HS-:0.1mg, HSO4-:0.1mg, HCO3-:152.2mg(0.65mval%), H2SiO3:53.3mg, HBO2:174.7mg, CO2:12.8mg, H2S:0.1mg,
(平成29年7月4日)
加水無し
消毒あり
加温あり(源泉から100m離れているため温度下降を考慮し昇温機使用)
かけ流し浴槽以外は循環ろ過あり
埼玉県吉川市美南3-25-1
048-973-7900
ホームページ
9:00〜24:00 無休
平日650円、土日祝750円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5