麻婆豆腐の本当に辛いのを食べさせる店がある。五反田の駅前に堂々とある。一口食べると唐辛子の味噌か何か得体の知れない黒くざりざりしたものが舌を強烈に刺激する。もう耐えられない、と思う。水を一杯口に含み、また麻婆豆腐を一匙掬う。この辛さは冗談か、レシピで何かとんでもない間違いを犯したのではないかと疑う。水を口に含み、額の汗を拭き、また麻婆豆腐に匙を入れる。さすがに体に悪いのではないか、口から火を噴くのではないか、もう既に体のどこか背中の方から棘が生えてきてはいないか、済みません水のお変わりをお願いします。こうしていろんな内心の葛藤を覚えながら、結局全部食べてしまう。
店を出て電車に乗り、吊革広告にうつろな目を向ける頃、ひょっとしてあの辛さには奥深いものがあったのではないかと思うようになる。そうして一週間後、また五反田の駅に降りて、かの店の自動ドアの前に、やや戸惑い気味に立つ自分を発見するのである。
店を出て電車に乗り、吊革広告にうつろな目を向ける頃、ひょっとしてあの辛さには奥深いものがあったのではないかと思うようになる。そうして一週間後、また五反田の駅に降りて、かの店の自動ドアの前に、やや戸惑い気味に立つ自分を発見するのである。