た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

9月のひとり

2005年09月15日 | 習作:市民
 紅茶を入れてから、しばらくその香りをかぐ。
 (あいつには一度はっきりしたことを言わなきゃいかんな)
 洗い物を片付けたばかりの台所に佇んだまま紅茶を一口啜り、カップを手にしたままCDをかける。
 主題のないジャズが流れる。音量を心持ち絞る。
 (人間性の問題だから。あいつにははっきり言ってやらなくちゃ)
 時計の秒針を十二秒数える。そのまま一時間だって数え続けてもいい気分だ。

 私には自由がある。この、秋の夜長のための。

 紅茶を飲み干す。苦い滓(おり)が喉を通る。手早くカップを湯ですすぐ。
 少し自分は寂しいのだと自覚する。
 (あいつは昔もっと素直でいいやつだと思っていたが、でもおれだってそう思われているかもしれないからな!)
 私は台所の窓を開け放った。

 虫の音。くしゃみが出そうなほど涼しく乾燥した空気が頬を撫でた。

 私は目を閉じた。
 あいつにはまたメールでも出そう。人間性について書く必要は、今はない。うん、人間性について人に説教する必要なんて、今も、これからも、当分ないんだ。
 
コメント
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