結婚式で素敵な出会いをするには。
そもそも素敵な出会いをした二人に便乗しようという都合のよさがある。しかも女は普段着ることのない豪奢なドレスに身を包み、男も三段階くらい地位を詐称したような立派なスーツに身を固めている。当然ながらその成功率は高い。
新郎新婦の高校時代の共通の友人として、同じテーブルに座った二人は、乾杯のシャンパンのときからすでに互いを意識している。
(なんて綺麗になったんだ)と男は隣席の女の方を盗み見ながら心に思う。(昔はバカ口空けて笑い転げる奴だったのに)
(シュウ君、格好良くなってる)と女も独りごちる。(高校時代なんて、ゴボウみたいな顔してたはずだけど)
「このパテ、美味しいね」
「ほんと。添え物のズッキーニもとても上手に味付けしてある」
「ダイスケ、幸せそうだなあ」
「二人の付き合い長いもん。今日のミヨッペ、とっても綺麗」
君も、グリーンのドレスが似合っててとてもとても素敵だよ、と男は隣の女に言いたい。口に出せないけど、新婦のミヨッペよりよっぽど素敵だ。本当はパテもそんなに美味しくないし、君の褒めたズッキーニなんて手も付けてないけど、でも、でも、この華やかな式場で、肩の露わなドレスを着た君とコース料理を食べているだけで、何だか変な気分になってきたんだ。新郎と新婦すらもうどうだっていい。ねえ、この後どこかで・・・。
どうして私ばかりじろじろ見るの。やだ、恥ずかしい。と、女は頬を微かに赤らめる。私・・・私、普段はトレーナー着て介護の仕事してるんだけど、そんな姿見たらシュウ君、幻滅するかな。そんなことないよね。シュウ君だって普段はたぶんゴボウみたいな格好で働いてるんでしょ? でも、私たち高校時代から気が合ってたもんね。シュウ君のお嫁さんかあ・・・ありね。それもありだわ。
友人席で二人が勝手に盛り上がっているところへ、アナウンスが響く。
「では、新婦から新郎へ、一生美味しいものを作って上げると言う意味を込めて、特大のスプーンでケーキを食べさせてあげてください。はい、みなさんは、『あーん』の唱和をお願いします!」
口の周りをホイップクリームだらけにして、おまけに何度もむせながら、必死でケーキを頬張る新郎を目の当たりにし、男は青ざめる。
「俺、あれだけはしたくないな」
女も笑顔を強張らせて、小声で相槌を打つ。
「そうね」
この瞬間、男女二人は結婚というものに対する出来過ぎた幻想を若干改めるとともに、先ほどよりはずっと冷めた目で人生計画というものを見つめ直す。
まあこういう障害がところどころ生じるけども、それらを乗り越えれば、素敵な出会いになること請け合いです。