人の婚礼によばれる。
軽やかな音を立てるハイヒールと、その上を翻る華やかなドレス、天井で煌めくシャンデリア。若く弾けた笑い声。その雑踏の奥には、椅子に腰かけたまま微動だにしない老人たちがいる。おそらく親族であろう。杖を肩に周りをじろじろ見つめる人がいる。黒い紋付の着物を着て俯いたままの婦人がいる。人生を今日の主人公たちよりずっと長く生きてきて、結婚の重みと軽さと、主人公たちにとって今日を起点に様変わりするであろう過去と未来の意味の深さを、彼らは身をもって知っているのだ。交わされる笑顔と笑顔の合間にも、ふと神妙な面持ちが差すのを、隠すことが出来ない。
そんなことには無頓着に、式は次々と賑やかに進行していく。
建物の外は路肩に雪を残す冬の最中のはずだが、会場内は、ケーキの食べさせ合いやらブーケトスやら余興やらで春の花見のように陽気である。私は同席した会社関係の人たちに熱燗をしつこく注がれ、随分いい気分になった。酔いの回った目でふと新郎新婦の座る正面テーブルに飾られた生花を見やる。生花から目が離せなくなる。
今日の意味を知るのは、ずっと先だから、花は今日も美しく咲く。それでいいのだ。
私は上体を戻し、軽くお辞儀をして、再びお猪口を隣席の人の掲げる銚子の前に差し出す。
婚礼が終わったのは昼下がりであった。
建物を出ると、風が頬を撫でた。
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