た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

都会では鼻毛が伸びるという

2004年10月15日 | Weblog
 都会では鼻毛が伸びるという俗説があり、私はつい最近まで、まるで本気に取り合わなかった。その説を紹介してくれた友人がいかにもはったりをかましそうな関西人だったせいかも知れない。しかし東京に出て一年余り、私は自分の鼻毛が梅雨をたっぷり浴びた芝生のように猛然と伸び始めたのに気づかずにはいられなかった。
 ニ三日鏡を真剣に見ていないと、人に会ったときに「まあちょっとあなた鼻の下にひげが生えてますよほほほ」と笑われる恥辱を味わいかねない。空気が汚いと鼻毛が伸びるのは本当らしい。何とけなげな自衛本能ではないか。しかしけなげはけなげとして、天才バカボンのように(確かあいつはそうだった)鼻毛を黒々と見せて人に会うのはさすがにいただけない。まったく間抜け面である。いかんいかん。
 私は鼻毛を気にかけるようになった。それはそれで困ったことも出始めた。私はふと気が緩んだときに、鼻毛まで気を緩ませて遠慮会釈もなく鼻腔から顔を覗かせてないかと鼻に手を当て、あまつさえは伸びかけた鼻毛をやっぱりお前伸びてきやがったのかこいつめ、とつまんで引っ張る癖がつき始めたのである。これはこれで非常に恐いことである。
 人が向こうから歩いてくる。女の人である。きれいな人である。いかん、ひょっとして自分は鼻毛がちょび出ているんじゃないかと鼻に指を入れる。きれいな女の人がそんな私の仕種を見て、眉をひそめて口に手を当てる。
 いかんいかん。

コメント
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