笛森志穂!────私は人知れず嘆息した。やはり、彼女は雪音の肉親であった。笛森志穂。初めて耳にするその名は、教会の荘厳な鐘の音のように私の心に鳴り響いた。私は、私はほとんど狂喜した。なぜ狂喜するのかわからない。いやわかる。笛森雪音は、こういう形で生きていたのだ! 彼女の血、美しさの残像はこういう形で現在するのだ! seinしているのだ。da seinしているのだ。Das Wesen des Daseins liegt in seiner Existenz! 何を言っているのだ。ああ私が死んですぐに成仏できなかったのは、まさにこの眼前の現し身、栗色の髪を振り乱すうら若き乙女に巡り合うためだったとは言えないか?
彼女は警部の圧倒的な握力に対しまだ身をもがいていた。
「あなた誰?」
「警察の者です」
「私を逮捕しに来たの?」
私と対面したときと同じことを言っている。
鷲鼻の五岐警部は満足げに笑った。生きている者は笑うことができる。「逮捕などしません。だから言ったでしょう、あなたが車道に飛び出すのを留めただけです。私の仕事を増やさないようにね。それはそうと、お聞きしたいことがあります。署まで同行願えますか」
「それって・・・」
咄嗟に逃げ道を探ろうとしたか、それとも、そもそも何から逃げてきたかを思い出したか。笛森志穂は掴まれた腕越しに背後を振り返った。
そこには私がいる。
雪音に生き写しの二重まぶたの目は、再び私を捉えた。もしこのとき警部が油断していたら、突発的に身を退いた彼女は彼の手を振りほどくことに成功しただろう。
笛森志穂は完全に取り乱した。
(つづく)
彼女は警部の圧倒的な握力に対しまだ身をもがいていた。
「あなた誰?」
「警察の者です」
「私を逮捕しに来たの?」
私と対面したときと同じことを言っている。
鷲鼻の五岐警部は満足げに笑った。生きている者は笑うことができる。「逮捕などしません。だから言ったでしょう、あなたが車道に飛び出すのを留めただけです。私の仕事を増やさないようにね。それはそうと、お聞きしたいことがあります。署まで同行願えますか」
「それって・・・」
咄嗟に逃げ道を探ろうとしたか、それとも、そもそも何から逃げてきたかを思い出したか。笛森志穂は掴まれた腕越しに背後を振り返った。
そこには私がいる。
雪音に生き写しの二重まぶたの目は、再び私を捉えた。もしこのとき警部が油断していたら、突発的に身を退いた彼女は彼の手を振りほどくことに成功しただろう。
笛森志穂は完全に取り乱した。
(つづく)