T君の「ポンレベック」は、相変わらず冷蔵庫で「良
い」香りではなく匂いでもなく、臭いを発している。
近いのは、矢張り納豆かな。
昔のぼっとん便所も、これに近い臭いだったような気
がする。
更にそれが、微かにアンモニア臭を発すると、当時の
小学校のトイレを思い出す。
「ポンレベック」から「失われた時を求めて」。
「マドレーヌ」と「ポンレベック」では、匂いにおい
ては大きく違うが、語感から受ける印象はそんなに違
わない。
そして、その匂いによって子供時代を思い出すという
ことに関しても同じ。
しかし大きく違うのは、その場所。
方や、子供の頃の母親との幸福なひと時、こちらはア
ンモニア臭が漂う小学校の便所。
えらい違いだ。
甘美さの一かけらもない。
そう言えば、当時の便所はコンクリートの床でいつも
濡れていた。
そんなところを、下手をすると裸足で歩いていた。
今考えても、気持ち悪い。
子供は、恐いもの知らずというか不潔知らずなのだ。
特に当時の子供は。
そんなことではなかった。
今回、T君の「ポンレベック」に合せ、こちらもチ
ーズを注文したのだ。
それが「スティルトン」だ(実はもう一品「オッソー
イラティ」も頼んだのだが)。
イギリスの青カビチーズ。
一応世界三大青カビチーズの一つだ。
イギリスにも美味しいものがある、と認識したきっか
けを与えてくれたものだ、と言いたいところだが、他
には今のところ見つからないので、例外的に美味しい
ものということにする。
実は、青カビチーズの中で一番好きなのがこの「スティ
ルトン」で、特に「Mature」と表示された熟成タイプ
が好きなのだ。
今回もその「Mature」を頼んだ。
相変わらず、好みの味だが、どうしても考えてしまう。
イギリス人がどうしてこんな味を作り出したのかと。
彼らの嗜好にあっているのだったら、もう少し他の食
べ物にも美味しいものがあって良いはずなのだが。
単に、他のものを知らないからか?
しかし、スコーンにはこのチーズ、合わなくもないか?
確か、「スティルトン」にジャムかなんかを合せる食
べ方があったような。
そういう食べ方は、如何にもイギリス的だ。
と、断定するのも、ステレオタイプの典型的な見方と
言う気もするし。
要するに、イギリスに関しては今のところ、ステレオタ
イプの見方が強く、それを壊すような新たな経験知識
がないということなのだ。
この先もあまり期待は出来ないが。