科学英語に強くなる ことばの歴史重視の攻略法, 池辺八洲彦, 講談社ブルーバックス B-861, 1991年
・英単語の成り立ちの歴史的背景を踏まえて英文を理解する方法の紹介。英語の専門家ではなく、理系研究者の視点より。
・英語の例文を挙げ、その日本語訳について丁寧な解説がされており、それを読むとナルホドとは思うのだが、実際それを「さあ、あなたもやってみて下さい」となるとお手上げ。この本を読みこなすだけでも、ある程度の英語の知識を持つ事が前提にあり、私には少々レベルが高く感じました。
・もちろん新書一冊読んだくらいで突然英語に強くなれるはずもなく、ほんのさわり、入口のみのまさに入門書です。
・おそらくは英語ネイティブはいちいち「単語の歴史的背景」を意識して言語を習得し、日常で使っているわけもなく、また、外国語として修得する場合、通常の単語・文法知識に加えて、その履歴情報まで頭に入れるとなると、あまりに大変で、その効果のほどは疑問です。
・『科学英語』と銘打っているものの、実際は科学関連の内容の文献から例文をちょこっと引用してあるくらいで、ほとんど『科学』は関係なし。
・「履歴情報重視の科学英語攻略法は科学英語マスターを目指す学生にとって決して理解不可能でも迂遠なアプローチでもない。それどころか、唯一の正統的英語勉強法ともいっていい、と筆者は確信している。」p.6
・「大学に奉職させていただいている筆者は、多くの先輩に伍して「大学とは "物事は奥の奥まで知らなければ知ったことにならない" ことを学ぶ場所である」という信条を抱いている。」p.6
・「会話はハートでやるものである。ハートの大きい人、ハートの強い人のまわりでは会話も弾む。逆に、ハートの小さな人、ハートの弱い人はどうしても会話は苦手とならざるをえない。」p.27 会話の苦手な私としてはヘコむ記述です。
・「普通の英会話スクールで教えているのは「英会話の英語」であって、「英語による会話の仕方」ではない。(中略)日本語の会話と同様、英会話にも戦略的思考が必要であり、「英会話の英語」を学ぶだけでは現実の会話を円滑に進行させるのに十分でないことを、ぜひわかっていただきたい。」p.27
・「ところが、これまでの外国語教育論では、辞書や文法書等の学習材の質についてはほとんど触れられておらず、あたかも外国語学習者に必要な学習材に不備はないと暗黙に仮定されているかのごとき観さえある。筆者はこの点をわが国における外国語教育論の一大盲点だと考えている。」p.30
・「OEDは英国の世界に誇るべき文化遺産の最たるものである。」p.40
・「1887年ポーランド人医師ザメンホフ(L.L.Zamenhof)によって創られた人工国際語エスペラント語(Esperanto)はなぜ創始者の期待どおりに普及しないのか。理由はいくつかあろうが主なものはエスペラント語に歴史がない故ではなかろうかと筆者は考えている。」p.44
・「また、本章でのちほど述べるように、未来形の助動詞 shall と will の用法上の区別、あるいは、この区別がときにあいまいになるのはなぜか、現在完了形をつくる場合になぜ have が用いられるか、冠詞 the、a、an の用法はなぜ簡単な規則で律し切れない一面を持っているのかなど、英語を学ぶうえで起こってくる数々の疑問の答えは、歴史的事情の中に求めなければならないのである。」p.44
・「ルネサンス時代にフランス語から英語に流入した単語は1万語を少し超え、このうち75%が現在まで生き残っているという(A.C.Baugh and T.Cable,p.178)。」p.55
・「現代英語とは、名詞の文法的性別もなく、屈折(語尾変化のこと)もほとんどなく、他の印欧諸言語にくらべると格段に簡単な文法体系をもっていて、入門しやすく見える一方、語彙が豊富で同義語が多く、単語や慣用的な言いまわしの微妙なニュアンスをつかむのに骨の折れそうな奥行きの深い言語、ということになろうか。ただし、この評価はあくまで印欧諸言語と比較しての相対的な話であることに注意しよう。」p.55
・「言語を運用する問題は最後は必ずこの「文構成」の問題に帰着してくる。言語の本当のむずかしさはここにあるのだ。」p.56
・「英語は、発達過程から次の3期に大別されるのが便利とされている(Bloomfield)。
古英語(Old English, OE) 450~1100年
中英語(Middle English, ME) 1100~1500年
現代英語(Modern English, ModE) 1500年~現在」p.60
・「英語の形成に英語史全体の中できわめて深刻な影響を与えたとされるのが、すでに述べた1066年のノルマン人による英国制服 The Norman Conquest である。」p.70
・「英語が公用語としての地位を追われ、ふたたび復活するまでの450年間に英語に何が起こったのか。これを考えるうえで Smith の説明がたいへんおもしろい。簡単にいうと、言語は学問も教養もない庶民にまかされているとき、もっとも自然な進化を遂げるというのである。 この観点からみると、ヴァイキングによる侵略、ノルマン人の征服は、今日の英語にとって決定的に幸せな出来事だったことになる。屈折変化が激減し、文法上の性が廃止されるという文法の簡単化はこうして起こったというわけである。」p.76
・「さらにラテン語を例にとり、言語の完全標準化はその言語の死滅への道かもしれないという。「文法はよろしく記述的であるべきで処方的であってはならない」とするのは今や定説である。」p.76
・「こうして英語は14世紀に標準語をつくり、16~17世紀に、語彙を発展させ、18~19世紀に文法書と辞書を出現させ、1800年頃まで国際語としての資格を具えるに至ったという(Broomfield)。最初の本格的辞書として有名なジョンソン(Samuel Johnson,1709~1784)の辞書は1755年に出版された。Bloomfieldによると1750年頃の英語は国際舞台ではまだ弱小語であったが、1850年ごろには一国際語となっていたとする。」p.79
・「英文和訳をいつも直訳文で済ましているかぎり、和文英訳も直訳の壁につき当たったまま絶対に上達しない。(中略)こういった点を一向に強調しようとしないのも日本の英語教育の最大のひずみの一つ、と筆者は考えている。」p.119
・「著者が読者にすすめたいのは、Newsweek の日・英両版を買って、対応する記事を確認し、日本語の記事を英訳し、原英文記事と照合してみることである。」p.120
・「本例で学んだ要点を念のためここにメモしておこう。
①長い1文に訳出するよりも2文以上に分けて訳す方が楽な場合が多い。(この逆もありうる!)
②文中の単語の意味を考える場合、その根幹の意味を履歴情報から押さえておくと参考になる場合が多い。
③muddled translaion → muddled thought! 悪訳は誤解を呼ぶ! 良訳を心がけよう!」p.130
・「一般にごちゃごちゃいろんな訳語を覚えるより、根幹の意味を1つ、しっかりと覚え、あとは前後関係と国語力で補うという姿勢で英文に対処する方が、弾力性に富み、また楽しくもあることを、ここで今一度、読者にお教えしておきたい。」p.143
・「現在のところ和英辞典はどれもたいへん不備であって「日本語で引く同義語辞典」くらいに思った方がよい。この事態は改善されるべきであるが、和英辞典の充実はその形態の研究をも含めておそらく国家事業としてやってもよいくらいの大事業のはずだから、早急な改善はのぞむべくもない。」p.161
?こうろんおつばく【甲論乙駁】(甲が論じ乙が反対する意)互いに論じ反駁し合って議論がまとまらないこと。
?きせき【鬼籍】 過去帳。点鬼簿(てんきぼ)。 鬼籍に入る 死んで鬼籍に記入される。死亡する。
《チェック本》
・忍足欣四郎『英語辞典うらおもて』岩波新書 黄180, 1982年
・加島祥造『英語の辞書の話』講談社学術文庫 689, 1985年
・英単語の成り立ちの歴史的背景を踏まえて英文を理解する方法の紹介。英語の専門家ではなく、理系研究者の視点より。
・英語の例文を挙げ、その日本語訳について丁寧な解説がされており、それを読むとナルホドとは思うのだが、実際それを「さあ、あなたもやってみて下さい」となるとお手上げ。この本を読みこなすだけでも、ある程度の英語の知識を持つ事が前提にあり、私には少々レベルが高く感じました。
・もちろん新書一冊読んだくらいで突然英語に強くなれるはずもなく、ほんのさわり、入口のみのまさに入門書です。
・おそらくは英語ネイティブはいちいち「単語の歴史的背景」を意識して言語を習得し、日常で使っているわけもなく、また、外国語として修得する場合、通常の単語・文法知識に加えて、その履歴情報まで頭に入れるとなると、あまりに大変で、その効果のほどは疑問です。
・『科学英語』と銘打っているものの、実際は科学関連の内容の文献から例文をちょこっと引用してあるくらいで、ほとんど『科学』は関係なし。
・「履歴情報重視の科学英語攻略法は科学英語マスターを目指す学生にとって決して理解不可能でも迂遠なアプローチでもない。それどころか、唯一の正統的英語勉強法ともいっていい、と筆者は確信している。」p.6
・「大学に奉職させていただいている筆者は、多くの先輩に伍して「大学とは "物事は奥の奥まで知らなければ知ったことにならない" ことを学ぶ場所である」という信条を抱いている。」p.6
・「会話はハートでやるものである。ハートの大きい人、ハートの強い人のまわりでは会話も弾む。逆に、ハートの小さな人、ハートの弱い人はどうしても会話は苦手とならざるをえない。」p.27 会話の苦手な私としてはヘコむ記述です。
・「普通の英会話スクールで教えているのは「英会話の英語」であって、「英語による会話の仕方」ではない。(中略)日本語の会話と同様、英会話にも戦略的思考が必要であり、「英会話の英語」を学ぶだけでは現実の会話を円滑に進行させるのに十分でないことを、ぜひわかっていただきたい。」p.27
・「ところが、これまでの外国語教育論では、辞書や文法書等の学習材の質についてはほとんど触れられておらず、あたかも外国語学習者に必要な学習材に不備はないと暗黙に仮定されているかのごとき観さえある。筆者はこの点をわが国における外国語教育論の一大盲点だと考えている。」p.30
・「OEDは英国の世界に誇るべき文化遺産の最たるものである。」p.40
・「1887年ポーランド人医師ザメンホフ(L.L.Zamenhof)によって創られた人工国際語エスペラント語(Esperanto)はなぜ創始者の期待どおりに普及しないのか。理由はいくつかあろうが主なものはエスペラント語に歴史がない故ではなかろうかと筆者は考えている。」p.44
・「また、本章でのちほど述べるように、未来形の助動詞 shall と will の用法上の区別、あるいは、この区別がときにあいまいになるのはなぜか、現在完了形をつくる場合になぜ have が用いられるか、冠詞 the、a、an の用法はなぜ簡単な規則で律し切れない一面を持っているのかなど、英語を学ぶうえで起こってくる数々の疑問の答えは、歴史的事情の中に求めなければならないのである。」p.44
・「ルネサンス時代にフランス語から英語に流入した単語は1万語を少し超え、このうち75%が現在まで生き残っているという(A.C.Baugh and T.Cable,p.178)。」p.55
・「現代英語とは、名詞の文法的性別もなく、屈折(語尾変化のこと)もほとんどなく、他の印欧諸言語にくらべると格段に簡単な文法体系をもっていて、入門しやすく見える一方、語彙が豊富で同義語が多く、単語や慣用的な言いまわしの微妙なニュアンスをつかむのに骨の折れそうな奥行きの深い言語、ということになろうか。ただし、この評価はあくまで印欧諸言語と比較しての相対的な話であることに注意しよう。」p.55
・「言語を運用する問題は最後は必ずこの「文構成」の問題に帰着してくる。言語の本当のむずかしさはここにあるのだ。」p.56
・「英語は、発達過程から次の3期に大別されるのが便利とされている(Bloomfield)。
古英語(Old English, OE) 450~1100年
中英語(Middle English, ME) 1100~1500年
現代英語(Modern English, ModE) 1500年~現在」p.60
・「英語の形成に英語史全体の中できわめて深刻な影響を与えたとされるのが、すでに述べた1066年のノルマン人による英国制服 The Norman Conquest である。」p.70
・「英語が公用語としての地位を追われ、ふたたび復活するまでの450年間に英語に何が起こったのか。これを考えるうえで Smith の説明がたいへんおもしろい。簡単にいうと、言語は学問も教養もない庶民にまかされているとき、もっとも自然な進化を遂げるというのである。 この観点からみると、ヴァイキングによる侵略、ノルマン人の征服は、今日の英語にとって決定的に幸せな出来事だったことになる。屈折変化が激減し、文法上の性が廃止されるという文法の簡単化はこうして起こったというわけである。」p.76
・「さらにラテン語を例にとり、言語の完全標準化はその言語の死滅への道かもしれないという。「文法はよろしく記述的であるべきで処方的であってはならない」とするのは今や定説である。」p.76
・「こうして英語は14世紀に標準語をつくり、16~17世紀に、語彙を発展させ、18~19世紀に文法書と辞書を出現させ、1800年頃まで国際語としての資格を具えるに至ったという(Broomfield)。最初の本格的辞書として有名なジョンソン(Samuel Johnson,1709~1784)の辞書は1755年に出版された。Bloomfieldによると1750年頃の英語は国際舞台ではまだ弱小語であったが、1850年ごろには一国際語となっていたとする。」p.79
・「英文和訳をいつも直訳文で済ましているかぎり、和文英訳も直訳の壁につき当たったまま絶対に上達しない。(中略)こういった点を一向に強調しようとしないのも日本の英語教育の最大のひずみの一つ、と筆者は考えている。」p.119
・「著者が読者にすすめたいのは、Newsweek の日・英両版を買って、対応する記事を確認し、日本語の記事を英訳し、原英文記事と照合してみることである。」p.120
・「本例で学んだ要点を念のためここにメモしておこう。
①長い1文に訳出するよりも2文以上に分けて訳す方が楽な場合が多い。(この逆もありうる!)
②文中の単語の意味を考える場合、その根幹の意味を履歴情報から押さえておくと参考になる場合が多い。
③muddled translaion → muddled thought! 悪訳は誤解を呼ぶ! 良訳を心がけよう!」p.130
・「一般にごちゃごちゃいろんな訳語を覚えるより、根幹の意味を1つ、しっかりと覚え、あとは前後関係と国語力で補うという姿勢で英文に対処する方が、弾力性に富み、また楽しくもあることを、ここで今一度、読者にお教えしておきたい。」p.143
・「現在のところ和英辞典はどれもたいへん不備であって「日本語で引く同義語辞典」くらいに思った方がよい。この事態は改善されるべきであるが、和英辞典の充実はその形態の研究をも含めておそらく国家事業としてやってもよいくらいの大事業のはずだから、早急な改善はのぞむべくもない。」p.161
?こうろんおつばく【甲論乙駁】(甲が論じ乙が反対する意)互いに論じ反駁し合って議論がまとまらないこと。
?きせき【鬼籍】 過去帳。点鬼簿(てんきぼ)。 鬼籍に入る 死んで鬼籍に記入される。死亡する。
《チェック本》
・忍足欣四郎『英語辞典うらおもて』岩波新書 黄180, 1982年
・加島祥造『英語の辞書の話』講談社学術文庫 689, 1985年