「究極の新巻鮭が作りたい」
その思いを胸に、オレは中東へ飛んだ。
やっとの思いで辿りついた、中東のどのあたりに位置するかもよく分からぬ辺境の村。その一帯は植物は育たず、岩がゴロゴロ転がっている砂漠地帯だ。『究極の新巻鮭』のために必要な『究極の塩』はどうやらこの村でとれるらしい。
「すいません、塩ほしいんですけど」
道端で日向ぼっこをしている老人に声をかけてみると、明らかに怪しい風体の東洋人に突然話し掛けられ、戸惑っている様子。
「塩…?」
「はい、塩です」
「塩を手に入れてどうするつもりじゃ?」
「究極の新巻鮭を作るんです」
「量は?」
「1Kg」
老人は口にこそ出さなかったが、その眼差しは明らかにこう語っていた。
「コイツ、イカレテル…」
話を聞いてみると、この地域での『塩』は貴重品で、『金』に匹敵するほどの価値を持つという。塩ひとつまみでひと月生活できるところを、どこから来たとも知れぬよそ者が1Kgよこせとは確かに正気の沙汰ではない。しかし、究極の新巻鮭のためにはどうしてもその塩が必要なのだ。
塩を求めて村をさまようが、他の住人に尋ねても一様に、誰も相手にしてくれない。ここで、村の外れの、枯れてから長い年月が経ったであろう白い地肌がむき出しになった巨木の蔭でしばしの休息。それにしてもなんという立派な枯れ木であることか。かつてはここが豊かな土地であったことを物語っている。
それはさておき、残るは村のリーダーの長老のみ。一休みした後、最後の望みをかけて家を尋ねる。
「どうしても究極の新巻鮭を作りたいんです!」
ここに至った経緯や、新巻鮭にかける情熱を必死に長老に訴えること小一時間。
聞き終えた長老は無言で家の奥に下がり、しばらくして小さな袋を大事そうに持って現れた。
「これだけあれば足りるかね?」
ニヤリと笑い、袋を傾けるとそこからはまばゆいばかりの塩がざらざらと流れ出る。ついに見つけた! これがはじめて目にする究極の塩!! これだけの塩を蓄えるための苦労を考えると気の遠くなるほどの量だが、その量は500gほどで1Kgには満たない量だ。まだ、足りない。
すると、気配を察した村民たちが次から次へと長老の家を訪れ、列をなし、それぞれが持ち寄ったなけなしの塩を鮭の入った発泡スチロールの容器に注いでいく。まるで鮭を塩で埋葬するかのように。
「皆さん、ありがとう!! これで……これで究極の新巻鮭が……」
後はもう言葉にならず、村民達の温かい心に触れ、ただただ涙があふれ出てくるのみだった。(完)
(先日見た夢より)
~~~~~~~~~~
《関連記事》
2008.1.1 初夢 ~寄宿制音楽学校生活
2007.2.20 悪夢 ~ほっかほかバイオリン
その思いを胸に、オレは中東へ飛んだ。
やっとの思いで辿りついた、中東のどのあたりに位置するかもよく分からぬ辺境の村。その一帯は植物は育たず、岩がゴロゴロ転がっている砂漠地帯だ。『究極の新巻鮭』のために必要な『究極の塩』はどうやらこの村でとれるらしい。
「すいません、塩ほしいんですけど」
道端で日向ぼっこをしている老人に声をかけてみると、明らかに怪しい風体の東洋人に突然話し掛けられ、戸惑っている様子。
「塩…?」
「はい、塩です」
「塩を手に入れてどうするつもりじゃ?」
「究極の新巻鮭を作るんです」
「量は?」
「1Kg」
老人は口にこそ出さなかったが、その眼差しは明らかにこう語っていた。
「コイツ、イカレテル…」
話を聞いてみると、この地域での『塩』は貴重品で、『金』に匹敵するほどの価値を持つという。塩ひとつまみでひと月生活できるところを、どこから来たとも知れぬよそ者が1Kgよこせとは確かに正気の沙汰ではない。しかし、究極の新巻鮭のためにはどうしてもその塩が必要なのだ。
塩を求めて村をさまようが、他の住人に尋ねても一様に、誰も相手にしてくれない。ここで、村の外れの、枯れてから長い年月が経ったであろう白い地肌がむき出しになった巨木の蔭でしばしの休息。それにしてもなんという立派な枯れ木であることか。かつてはここが豊かな土地であったことを物語っている。
それはさておき、残るは村のリーダーの長老のみ。一休みした後、最後の望みをかけて家を尋ねる。
「どうしても究極の新巻鮭を作りたいんです!」
ここに至った経緯や、新巻鮭にかける情熱を必死に長老に訴えること小一時間。
聞き終えた長老は無言で家の奥に下がり、しばらくして小さな袋を大事そうに持って現れた。
「これだけあれば足りるかね?」
ニヤリと笑い、袋を傾けるとそこからはまばゆいばかりの塩がざらざらと流れ出る。ついに見つけた! これがはじめて目にする究極の塩!! これだけの塩を蓄えるための苦労を考えると気の遠くなるほどの量だが、その量は500gほどで1Kgには満たない量だ。まだ、足りない。
すると、気配を察した村民たちが次から次へと長老の家を訪れ、列をなし、それぞれが持ち寄ったなけなしの塩を鮭の入った発泡スチロールの容器に注いでいく。まるで鮭を塩で埋葬するかのように。
「皆さん、ありがとう!! これで……これで究極の新巻鮭が……」
後はもう言葉にならず、村民達の温かい心に触れ、ただただ涙があふれ出てくるのみだった。(完)
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