〔松隈洋先生の授業〕
散歩のつもりのツアー参加者であるわたし。先生はつぶやいた。「(参加者が)建築を専門にやっている人なのかどうなのか分からないから何を話していいか分からないなぁ」と。(ご、ごめんなさい。ど素人で・・・)
「この鎌倉近代美術館を設計したのは坂倉準三というル・コルビュジェの弟子にあたる人です。主眼として風景に違和感をあたえない外観、緑や風や光を建物内部に取り込むこと、そして、その内部をぐるりと廻った時に得られる景色の変貌・空間の変化ということを基調にしたようです。中庭を見下ろしたり池を眺めたりするときの外部との展開に、風や光の通る空間設計の意図が感じられます。
細部にわたり劣化(錆)を防ぐ配慮が為されています。建物自体が浮いているように設計されているのは絵画作品への湿気対策でもあり、下は彫刻作品というのも理に適っています。
特筆すべきは、平家池に張り出すように造られたピロティで、池の水が反射して天板に揺れ動く影はよくご存知の事と思います。」
(この揺れる影/光に出会うと軽い眩暈を感じる。・・・儚さをもって過去への郷愁に誘われ、心に甘い迷いが生じる不思議。)
「鎌倉別館は、前川國男を師とする大高正人の設計によるものです。連続するボールド屋根がそのまま展示場の天井になっており、そのコンクリートの表面は、はつる(削る)ことにより、ある種の表情を見せています。軽快な印象の鎌倉館に対し、別館は重厚感のある落ち着いた外観であり、外壁の打ち込みタイルは師である前川國男の開発した物を使用しています。」
確かに時代が求める雰囲気というものがある。軽快、モダンは戦後の強い憧れであり、重厚感は高度成長期を過ぎバブル崩壊の憂き目に抗した誇りが潜在しているようにも感じる。世間の風潮もまた建築とは無関係ではないのかもしれない。
それにしても古都鎌倉である景観への配慮、自然や歴史への畏怖・畏敬を抜きにしては、できなかった仕事である。
自然界に垂直な線は存在しない。このこと一つ考えても、建築というものは自然への挑戦であることが判る。風景への気配りは、あえて換言すれば、折り合いをつけるということでもある。
建築は、人間の英知や有効な手段を駆使し人の領域を自然の中にお借りする、という仕事だと言えなくもない。しかし、宇宙へ飛ぶ時代である。超近代的な人の眼を剝く建物が出現する昨今、鎌倉における建築作法は原点ではないかと思う。
松隈洋先生、水沢勉館長、長門佐季先生、橋先生ありがとうございました。長島先生には、お世話になりました。
散歩のつもりのツアー参加者であるわたし。先生はつぶやいた。「(参加者が)建築を専門にやっている人なのかどうなのか分からないから何を話していいか分からないなぁ」と。(ご、ごめんなさい。ど素人で・・・)
「この鎌倉近代美術館を設計したのは坂倉準三というル・コルビュジェの弟子にあたる人です。主眼として風景に違和感をあたえない外観、緑や風や光を建物内部に取り込むこと、そして、その内部をぐるりと廻った時に得られる景色の変貌・空間の変化ということを基調にしたようです。中庭を見下ろしたり池を眺めたりするときの外部との展開に、風や光の通る空間設計の意図が感じられます。
細部にわたり劣化(錆)を防ぐ配慮が為されています。建物自体が浮いているように設計されているのは絵画作品への湿気対策でもあり、下は彫刻作品というのも理に適っています。
特筆すべきは、平家池に張り出すように造られたピロティで、池の水が反射して天板に揺れ動く影はよくご存知の事と思います。」
(この揺れる影/光に出会うと軽い眩暈を感じる。・・・儚さをもって過去への郷愁に誘われ、心に甘い迷いが生じる不思議。)
「鎌倉別館は、前川國男を師とする大高正人の設計によるものです。連続するボールド屋根がそのまま展示場の天井になっており、そのコンクリートの表面は、はつる(削る)ことにより、ある種の表情を見せています。軽快な印象の鎌倉館に対し、別館は重厚感のある落ち着いた外観であり、外壁の打ち込みタイルは師である前川國男の開発した物を使用しています。」
確かに時代が求める雰囲気というものがある。軽快、モダンは戦後の強い憧れであり、重厚感は高度成長期を過ぎバブル崩壊の憂き目に抗した誇りが潜在しているようにも感じる。世間の風潮もまた建築とは無関係ではないのかもしれない。
それにしても古都鎌倉である景観への配慮、自然や歴史への畏怖・畏敬を抜きにしては、できなかった仕事である。
自然界に垂直な線は存在しない。このこと一つ考えても、建築というものは自然への挑戦であることが判る。風景への気配りは、あえて換言すれば、折り合いをつけるということでもある。
建築は、人間の英知や有効な手段を駆使し人の領域を自然の中にお借りする、という仕事だと言えなくもない。しかし、宇宙へ飛ぶ時代である。超近代的な人の眼を剝く建物が出現する昨今、鎌倉における建築作法は原点ではないかと思う。
松隈洋先生、水沢勉館長、長門佐季先生、橋先生ありがとうございました。長島先生には、お世話になりました。