続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『恋人たち』

2015-05-07 06:45:29 | 美術ノート
 頭部を布で覆った男女のキス、不気味である。
 壁と天井のみの室内空間、天井が低いのか男女の背が高いのか・・・よほど下からのアングルなのか、しかし視点は男女の高さに等しいと思われる。この設定は圧迫感や閉塞感を醸しだしている。
 ぴったり身体を寄せているにもかかわらず、表情が隠蔽されているためか、ひどく儀礼的であり、まるで演じているかのような不自然さが漂う。
 二人の関係の内実が見えない。頭部(顔)を隠すことでお互いの心理までが隠蔽されている。《愛の欠如》を疑わせるこのキスは、仮面というより、幻影とのキスである。相手の本質を見抜けないままの衝動。

 二作目だという、やはり『恋人たち』と題された作品を観ると、背景は屋外であり、緑の繁る向こうには海が見える。ただ、水平であるはずの水平線に、男と女の背後では差異がある。男の背景に描かれた水平線は女の背景に描かれた水平線より低いのである。これは、存在の絶対条件を外している。

 頭部(顔)を被ったままのキス、あるいは顔を寄せ合うポーズ。

 二枚の『恋人たち』、男女はそれぞれ相手に心も身体も寄せている。ごく自然な恋人たちである。にもかかわらず、覆面をして描かれていることで、真偽を疑わざるを得ない不思議。
《本当は・・・心の底は》という懐疑。
 覆面さえ外せば、少なくとも問題は生じない。
 しかし、問題が生じるように描き、製作している。

 愛し合う二人に覆面という仕掛けを試みる。ただそれだけで、《愛の存在と不在》というテーマが浮上する。
 
 人生の花である恋愛にブーケを贈らずして、覆面で正体を懐疑的に見せるという作意。マグリットの冷徹なまなざしの所以である。
(写真は国立新美術館『マグリット展』図録より)

『冬のスケッチ』103。

2015-05-07 06:37:49 | 宮沢賢治
        ※線路
  汽車のあかるき窓を見れば
  こゝろつめたくうらめしく
  そらよりみぞれ降り来る。
        ※
  まことのさちきみにあれど
  このゆゑになやむ。
        ※
  きみがまことのたましを


☆千(たくさん)露(あらわれる)鬼(死者)の赦(罪や過ちを許し)を、捜(さがし求める)ことを兼ねた講(はなし)の記である。

『城』1957。

2015-05-07 06:23:57 | カフカ覚書
でも、実際には、あなたがハンスと話していらっしゃるのを聞いてからは、すべてが一変してしまいました。あなたは、ほんとうになに食わぬ顔で切りだして、あの子の家庭の事情をはじめ、あれやこれやのことをおたずねになりました。


☆でも、実際には、あなたが新しい国と話しているのを聞いてからは、死は変わりました。どんな方法で罪がないことを問いただしたのでしょう。