N病院待合室風景
江嵜企画代表・Ken
目の定期健診のためN病院を4ヶ月振りに訪れた。前回検診の時N先生から次回からはK先生に代わるという話は聞いてはいたが診察を受けるまではどんな方だろうかと不安である。
この病院の受付は朝8時半である。診察を受けるのは眼科であるが整形と隣り合わせなので眼科の患者と整形の患者が相席で座っている。
スケッチをはじめたら整形の受付に本当に小柄で銀髪の老女がなんと淡いピンクで薄く縦じまのはいったドレスにおしゃれなバックを小脇に抱えて目の前に現れた。待合室の空気がぱっと明るく感じた。
右のイスにはこれまたオレンジをベースに朝顔をあしらった模様のハットを頭に帽子とそれと色併せしたスーツのご婦人が座っているのに気付いた。病院の待合室は正直絵にならないことが多いがこの日は違った。絵心を大いに刺激された。
こういう日は待ち時間が短く感じるから不思議である。
N病院とは 網膜はく離の手術を当時眼科部長のI先生に大変お世話になった。N先生が退官されたあと、A先生、T先生、N先生と担当医がつぎつぎ変わった。ここ5~6年は回転のピッチが早いような感じがする。
診察室からK先生が マイクで名前を呼ばれたので入った。名刺代わりですがと前置きしてK先生の名前を入れて あらかじめサインして持参した拙著「ユニークに乾杯」をお渡しした。丁寧にきちっと礼を言われたことにまず感心した。
網膜はく離はひとつ間違えば失明する。左から右と年数を置いて網膜が剥離した。原因はいまだ不明である。両目ともI先生のお世話になった。
「ひどい状態の眼底でよく見えてますね。これは神様のご加護以外ありませんよと先代のN先生に言われておりました」と、こちらから口火をきった。
K先生いわく「見事に中心部分が残っています。ぎりぎりです。よく治療されています。視力もよく出ています。心配ありません。」とにこにこしながら答えてくださった。
K先生にあらかじめ断ったうえで、「先生はどうして医者になられたのか。なぜ眼科医を選ばれたのか」とあつかましくお尋ねした。
「少女時代耳の病気をわずらった。その時医者になりたいと子供心に思った。眼科を選んだのは子供のときに目をぶつける事故に遭った。そのとき眼科になろうと決めました。」と話された。
診察の結果、眼底の様子をコンピューターに手際よく描き込まれた。誠実にして聡明、若きチャーミングレディーに恵まれ、11月の次の診察が待ち遠しくなった次第である。(了)