棟梁、小川三夫氏、大いに語るat酒心館文化ホール
江嵜企画代表・Ken
『最後の宮大工』として有名な法隆寺の棟梁、西岡常一氏のただ一人の内弟子。小
川三夫氏の講演会が、神戸酒心館ホールで9月12日午後4時から開かれ、楽しみにし
て出かけた。会場の様子をいつものようにスケッチした。やや体を右に傾け、笑顔を
絶やさず話を続けられた小川棟梁の穏やかな語り口調が強く印象に残った。
「いい仕事、いい道具。いい道具、いい仕事」という言葉から講演は始まった。次
に飛び出した言葉が「こんなところで話をすることは間違いだったと思うが、来た以
上話をしたい」である。「腕」「仕事」で生きて来ましたと言葉を添えられた。
栃木県で生まれ、高校を出た後、昭和39年(1964)奈良に来ました。法隆寺も
1969年に西岡棟梁に弟子入り後、携わった法輪寺も薬師寺もなにもかも知りませんで
したと話は続いた。お話ははじめ1時間あとスライド20分、質疑応答いれて午後6
時までの2時間を堪能した。場所を「酒ばやし」に移しての、お神酒が入っての講師
を迎えての和やかな雰囲気の中での懇親会がまたよかった。神戸酒心館、安福会長の
お計らいで、光栄にも小川棟梁の隣席に恵まれた。
腕は太かったが手は大きくなかった。手は温かく、羽二重餅のように柔らかだっ
た。小川棟梁は、西岡棟梁との思い出の中で「西岡棟梁は、弟子にするという言葉は
ひとこともなかった。作業場の掃除を言いつけられた。作業場では道具に触ることが
できる。その時、自分は弟子にしてもらったのだ」とわかったと講演の中で話され
た。
大工にとって道具は命である。手だけでは木は平らに出来ない。手の先にあるカン
ナを使って木は平らになる。小川棟梁は「測って平らにする。眼で見て平らにする。
二つそろって木は平らになる」と講演で話した。その点を棟梁に質問した。「ひとつ
だけではだめです。両方がそろって木ははじめて平らになります」と力説された。
小川棟梁の弟子は30名ほどおられる。いろいろの人から弟子入りを求められる。10
年続く人は2割いない。某大学卒の人が弟子入りを求めた。「あなたは他にいくらで
も仕事が出来ます」と話した。はじめから器用な人も、はじめなにも出来ないひとも
10年一緒にいると同じになる。それから先、本物になるかならないかが決まると話さ
れた。
小川棟梁は講演の中で「一緒に生活することが大事です。自由にならない。そこで
我慢することが身に付くのです」と話した。なんでも出来る人は身につかない。自分
はこれしかできない人は腕が上り仕事も出来ますと話された。
質疑応答の時に「1300年前、日本は朝鮮や中国から優れた技術を受け入れた。朝鮮
と中国の文化のお蔭だと思いますが棟梁のご意見を聞かせてほしい」と一人が質問し
た。小川棟梁は「中国と朝鮮は1300年前驚くべき高い文化、技術を備えていた。日本
はその後どんどん腕を上げ、今も上げ続けています。反対に中国と朝鮮は、どんどん
下がる一方です。日本人と中国や朝鮮の方との違いはそこにあります」ときっぱり答
えた。
2時間の講演の中身を限られた紙数に書ききれない。すばらしい機会をご用意いた
だいた神戸酒心館、安福会長にひたすら感謝である。(了)