電信柱が寒い風にあたってピーピーと泣いておりました。
黒い雲が来て、
「何を泣いているのだえ」
「寒いからさ。お前のような雲が来るから寒いのだ。こちらへ来ないでくれ」
「おれが悪いのじゃない。風がわるいのだ。おれは風につれられて来るのだから」
「おれは黒いものが大嫌いだ。この間も鴉がとまって、アホーアホーとおれを笑った」
「それじゃこれはどうだ」
と言ううちに白い雪をチラチラと降らしました。
電柱はだまってしまいました。
――夢野久作「電信柱と黒雲」
塔は時計から上に猶七十尺も高く聳えて居る。夜などに此の塔を見ると、大きな化物の立った様に見え、爾して其の時計が丁度「一つ目」の様に輝いて居る。昼見ても随分物凄い有様だ。而し此の塔が幽霊塔と名の有るのは外部の物凄い為で無くて、内部に様々の幽霊が出ると言い伝えられて居る為で有る。
――黒岩涙香「幽霊塔」