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「怒つちやいけないよ。君達の時代は君一人が絶叫しなくとも、 。奇蹟のやうに、君の現実的要求よりももつとよい状態で一時にどつとやつて来さうな気さへする。――怒つちやいけませんよ。君が今、一生懸命にさうしたことをしなくとも、もつと静かに、二人の妹さんの運命を見守つて上げる方がどんなにいゝことでないのだらうか。と僕は今、思ふ。僕は両親があつたり妹があつたりすれば、僕は……どうしたか一寸分らないな。」
「…………」
二人は顔を見合はして黙つてしまつた。寂しい。寂びしい。人生の脊髄に触れた淋しさだ。丘はやがて瞳を外らした、そうして複雑な苦しみに堪えてゐるらしかつた。
――島田清次郎「二人の男」