★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

這裏の消息

2014-03-09 18:42:48 | 文学
当面の珍事は大に人を動かすが故に深からん。然れども露骨にして含蓄を欠くが故に浅しとも云ひ得べし。一笑にして万斛の涙を蔵するものあり。泣かざれば泣くと思はぬものには此笑は無意義なるやも知るべからず。吾は却つて是等をこそ深きものと思へ。這裏の消息に通じるものはAustenの深さを知るべし。(夏目漱石「文学論」)

今日は、Jane Austen の研究者の最終講義を聞きに行ってきた。漱石も熱中したオースティンであるが、上のよく知られた、彼女を絶賛する箇所についていえば、漱石にしちゃあんまり「深く」はないところではなかろうかと思う。「文学論」の本領はたぶんこういうところじゃない。ただ、漱石がこんなことを言わなければならないと感じたほど、日本の写実の世界は、今も昔も、深くも浅くもないものをやってしまうものなのではなかろうか。いったいこれから何を教育しようとしているのか知らないが、「這裏の消息に通じるもの」だけが、大学に居てほしいと願うこの頃である。