……こないだは……アソコに…… 2014-08-21 22:06:07 | 文学 しゃがんでいた父親は、いつの間にか闇の中に仁王立ちになっていた。両手をふところに突込んだまま、チエ子の顔を穴のあくほど睨みつけていた。 チエ子はそれを見上げながら、今にも泣き出しそうに眼をパチパチさした。そうして、云いわけをするかのようにモジモジと、小さな指をさし上げた。 「……こないだは……アソコに……お父さまのお顔があったのよ……」 ――夢野久作「人の顔」