★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

三十五度超えました

2016-07-03 20:49:02 | 文学


「ロボットの霊魂だ。」
 と、ロボットが、答えた。二人の脚は、苦痛に、曲っていた。震えて、指は折れるように歪んでいた。顔は、真赤になって、眼球の中に血が滲んできていた。暫くすると、夫人の鼻穴から、血が流れ出して、眼が飛出すように、大きく剥いて、突出てきた。男も、微かに、呻くだけになった。
 人々が、馳けつけた時、カーテンが微かに揺れているだけであった。召使は、
「奥さん。」
 と、いったが、そのまま、遠慮して、暫く、二人で、眼を見合せていた。ぽとぽと液体の滴る音がした。そして、暫くすると、ゴトッと、機械の止まるような音がした。夫人の脚が、化粧し、彩色されたまま、色が変って、カーテンの下から垂れているのを見て、二人が、カーテンを開けた時、夫人は、眼からも、口からも、血を噴出していた。そして、ロボットは、二人の上にかぶさっていた。

――直木三十五「ロボットとベットの重量」