★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

ひでり狐

2024-09-07 23:59:54 | 文学


そのようすがまったく狐に化かされた者のようでした。何しろ四日の間、着のみ着のままで、湯にもはいらないでいたものですから、顔も着物もまっ黒に汚れてしまっていましたし、社殿の床下からはい出してきたばかりで、頭には蜘蛛の巣までひっかかっていました。
「おや、酒の匂いがしてるよ」と誰かが言いました。
「なるほど、徳兵衛さんは酔っぱらってる。……化かしといて酒を飲ませるたあ、狐も開けてるな」
 一同の者は喜び勇んで、徳兵衛を捕まえて胴上げをして、わいしょわいしょと村の方へ運んでいきました。


――豊島與志雄「ひでり狐」