★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

温泉の駅の狐は大きく

2024-09-08 23:30:31 | 文学


 こんな調子で、半蔵は『童蒙入学門』や『論語』なぞを読ませに村の子供らを誘い誘いした。その時になっても彼は無知な百姓の子供を相手にして、教えて倦むことを知らなかった。普通教育の義務年限も定められずにあるころで、村には読み書きすることのきらいな少年も多く、彼の周囲はまだまだ多くの迷信にみたされていた。どうかするとにわかに顔色も青ざめ、口から泡を出す子供なぞがあると、それが幼いものの病気とは見られずに、狐のついた証拠だと村の人から騒がれるくらいの時だ。

――「夜明け前」